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第3章 注目を浴びる『処方』
3.7 ハヤトの記者会見
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ハヤトは、国会で自分が問題になった点についてどうするか考えたが、なかなか難しいことは判っている。家を買った問題は、ワールド・ジュエリー(WJ)はハヤトが持ち帰った宝石を異世界から持ち込んだと発表したがっているのだし、税金問題も税務庁と話がついているのならWJから金をもらって買ったという発表には支障がない。
しかし、問題は“まもる君”の存在と、ハヤトの帰還に関係があるとほのめかせている点であり、ハヤトもまもる君の存在は便利だと思っているので、これを駄目にしたくはない。しかし、ハヤトの帰還、その後魔法を教え始めたこと、まもる君の登場などのタイミングを考えると誰でも何か関係があると思うのは当然だろう。
であるから、ハヤトは魔法関連のことでマスコミには露出したくなかったのであるし、防衛省・政府関係者からも止められている。実際のところ、ハヤトとしてはまもる君が隠れ蓑になってはいるが、彼のみがミサイルを撃墜するほどの魔法を使えるのは重荷になっている。
それは、そのためにいつも自衛隊から連絡がつくようにしなければならないため、自由な時間が取れないのは非常にうっとうしい点が大きい。KT国に関しては、あのきちがいじみた政権が崩壊して、なんと日本人ハーフの指導者の穏健な体制になったため、KT国からの核ミサイルの脅威は去ったと言っていいだろう。
だが、まだ中国が残っている。中国は、相変わらず南シナ海の人工島の軍事基地化に励んでいるし、ポンコツ空母の他に新造空母2隻の建造を進めているし、インド洋の内海化も進めている。その経済的な発表は全く信用ならないというが、中国は日本よりGDPが5割くらいは高いのは間違いないだろうし、独裁の共産党政権がその国内経済を好きなように動かせるのも、日本のような自由主義の国にはできないことを平気でやれる点も有利である。
戦争は自由主義の国より、簡単に指導者が物事を決めて動かせる独裁の共産党政権が絶対に有利なのだ。しかも、一方でその権力のおこぼれにあずかって富むものとそうでないもの、そしてその権力による土地の取り上げなどの横暴が余りに広がり、その不満のため、暴動の多発に示されるように社会が極めて不安定になってきていることも事実である。
そういう時に、権力者が取る常套手段が、敵を作り、争いを起こすことである。そういう意味では、教育で反感を叩きこんで、なおかつおかしな憲法を持っているため安全な相手、『日本』が恰好のターゲットになるのだ。確かに、その能力が実証されたはずのまもる君の存在は、中国にとっては痛手であろう。
中国が、対外的に傍若無人の態度をとるのは、その核ミサイルシステムがあってのことであることは間違いない。その意味では、かれらは、まもる君の存在によって日本に対して核ミサイルという、確実に日本に大打撃を与えられる最強の手段を失ったに等しいのだ。
しかし、防衛省は、必ずしも中国は完全に彼らの核が封じられたとは考えていないだろうと見ている。これは、発射してそれなりの距離を飛ぶ核ミサイルは迎撃されるだろうが、近海から潜水艦から発射されるミサイルは難しいと考えているのではないかと言うことだ。
しかし、自衛隊側は、中国の潜水艦については、現状ですでに日本の領海付近を航行する潜水艦は全部その行動はモニターできているので余り恐れていないが、中国はそう考えてはいないということだ。従って、依然として中国から日本に対して何らかの軍事行動を起こしてくることは十分考えられる。
さて、ハヤトは、野党のいちゃもんについて防衛大臣と話し合うことになった。
防衛省の大臣室に付属の会議スペースである、朝霞駐屯地から天野陸将補、野島防衛事務次官等が同席している。「今日の話のご趣旨は、二宮さんに対して、立民党の宮城加奈子議員から質問があった件ですね?」
西村大臣が挨拶の後切り出して、ハヤトそれに応じる。
「そうです。私はいいのですが、私が怪しげな人間と言うことで家族に迷惑をかけるのが嫌なんです。実際のところは、異世界ラーナラ式でやらしてもらえるなら訳はないのですよ。私が少し本気で『威圧』を掛ければ、垂れ流し状態で気死しますから、二度とちょっかいを出そうとは思わないでしょう。人前でやれば、社会的に死にますよね」
皆それを聞いて慌てるが、天野が慌てて止める。
「ハ、ハヤト君。それは過激すぎだろう」
彼は他の人と違って、ハヤトに実際にそれが出来ることを知っているのだ。
「うん、ちょっと日本でそれをやるのはまずいかなとは思っているので、あえて言ったわけですが。ちょっとあのオバサンが、ああいう風に偉そうに言うのにカチンと来ているのですよ」
ハヤトがそう答えるが、野島次官が天野に確認し、天野が答える。
「この二宮さんは、実際に今言ったことが出来るのですか?」
「ええ、私ではありませんが、部下が駐屯地で実際に試してもらったのですよ。軽くだったらしいですが、生きた心地がしなかったそうです」
「それは、見てみたいなあ。あの宮城議員がそうなるの。いや、いかん、いかん。それは過激すぎです」
西村大臣が、その光景を想像して悩まし気な顔をしていたが慌てて取り消す。
そこで、ハヤトが続ける。
「それで、まあ、皆さんの言う過激な方法を取らないとして、あの質問に関しては、家を買った云々は待って帰った財宝の処分の税務的な処置は、税務庁と話が付きましたので説明は可能です。そこで問題は、まもる君の話ですよね。それと、どういう形で説明するかということです」
「たしか、その財宝をワールド・ジュエリー(WJ)という会社に預けた形にして、売れた都度支払いを受けるということでしたよね。それは、よほど大きな金額になるのですか?」
部下から話を聞いていた野島次官が聞く。
「ええ、形はその通りで、私の方も受け取るための会社を設立しました。どうも、地球では取れない宝石も含まれていますから、宝石と金、殆ど宝石ですが3千億円位になるようですね。私たちが受け取るのは、税を引いたその一部です」
ハヤトは、そのほかに宝石等の売却に関して決まった内容を説明する。
「わかりました。そういうことなら、家を買われた話は問題ないですね。また、WJが異世界の宝石ということで売ろうということになると、その金額が巨額になるのは判りますので、大きな資産を持たれることなったと知れるのはやむを得ないですね。ただ、金額についてはプライバシーということで、あまり表に出さない方がいいでしょう。
それこそ、当面騒ぎになって、ご家族に迷惑がかかる可能性があります。これは、私どもの方から説明するより、二宮さんの方からマスコミなりを選んで説明されるのがよろしいかと思います」
野島次官がそう言って、ハヤトが「わかりました。具体的な方法について後で相談します」と応じるのを聞いて話を続ける。
「問題は、まもる君との関係です。大臣、なにかご意見はございますか?」
「うん、これは国から一方的に二宮さんにお願いするしかないことなので、誠に申し訳ない話だ。現在、ミサイル防衛システムは鋭意進めているが、ほぼ完全に機能する域まで達するのはいつになるか解らない状態です。また、我々はKT国の脅威は去ったと判断しているが、中国の経済の停滞に伴って暴動というか内乱がどんどんひどくなっており、やはり、見込み通り、国民の目をそらすほどの相手となると我が国に近く仕掛けている可能性が強い。
中国はKT国に比べるとずっと整っているミサイルシステムを構築しています。従って、これが片付くまでは、どうしても二宮さんの全面的な協力が必要です。また、二宮さんのみならず、御家族の安全までを考え、またアメリカを始め対外関係を考えると、自由に動ける二宮さんという存在でなく、まもる君というダミーは必要です。従って、宮城議員のこの件の質問には正直には答えられません」
西村大臣がハヤトを向いて最初は申し訳なさそうに、最後は野島次官にきっぱり言う。
「わかりました。私もそう思っていました。では、結論ははっきりしていますね。二宮さんは『知らない』でいいと思います。時期の一致については偶然です、ということです。二宮さんが何らかの形で絡んでいると怪しまれはするでしょうが、どっちにしても証拠はないわけです。
二宮さんが魔法能力として1000㎞を越える距離のミサイルを撃墜することが出来ると信じるより、不可解な装置によって撃墜すると言う方が普通は信じやすいと思いますよ。後はどういう形で発表するかですが、二宮さんは何かお考えですか?」
野島次官は大臣に応え、さらに聞いてくるのに、ハヤトが応じる。
「とりあえずは、こちらの防衛省にセットしてもらって、記者会見ですか、それを開いてそこで説明しましょう。しかし、どうもマスコミの質問というか、わざと怒らせるようなことを言う人がいますが、ああいう連中にまともに相手はしたくないのですがねえ」
「うーん。思う通りでいいんじゃないでしょうか。二宮さんは一応臨時職員ですが、こちらからお願いしているわけで、財産もあります。その立場に気兼ねする必要もなく遠慮なく反論してください」
野島次官が返すのに、ハヤトは話を続ける。
「それと、実は、異世界ラーナラからの召還とそこでの出来事というか行動については手記を書いたのです。これは、いま知り合いを通じて、出版しようと準備している所です」
それに対して、天野陸将補が口を出す。
「私も読ませて頂きましたが、素晴らしく面白い本というか手記です。最近はやりのラノベですか、私も少し読みましたが、内容的には似たものもあるようですが、事実であるという重みがあります。あれは、間違いなく出版すれば売れると思いますよ」
「うん、手記と言う形で本にするのはいいかも知れないな。しかし、その本に、二宮さんの例の能力を示唆するような内容はないでしょうか?」
西村大臣が懸念して言うのに、ハヤトは答える。
「ええ、その点は意識しましたので、マップと探知機能はごく限定的にまた他のものが使ったというように書いてあります」
その夕刻、防衛省で野島次官と天野陸将補が立ち会って、記者会見が開かれた。事務方の開会の挨拶の後、ハヤトが異世界からの帰還、魔法能力の処方を始めたこと、また土産に持ち帰った金と宝石をワールドジュエリーに預けて、それの対価をぼちぼち受け取っていること、その税務上の処置は済んであること、さらに自衛隊の駐屯地に居る事情、加えてまもる君とは何も関係ないことを説明した。
「そういうことで、私を”者“呼ばわりする失礼なオバサンが、国会で僕がなにか国から後ろ暗い金を受け取ったように決めつけていました。皆さんは、そうでないことをこれで納得して頂けましたか?」
ハヤトはそう言うのに、30人ほど来た記者やカメラマンのうち半分ほどの記者は笑うが、かれらが納得するわけもなく様々な質問が出た。結局記者たちもハヤトが、異世界に行って帰って来たということについては、信じざるを得ないと言う態度であり、その真偽についての話は出なかった。重要な問答を以下に挙げる。
問:魔法能力を身につけるとどの程度体力と知力が上がるのか
答:自衛隊での18歳から30歳までの100人の測定では、処方の前後において、平均で体力は100m走にて、平均12秒7が9秒8、知力と言う意味ではある知能指数テストで平均102から145になった。
実際のところ、これが、一番驚嘆された。当たり前である、体力に優れた自衛隊員としても100m走の平均が世界記録並み、さらに平均という知能指数は天才と呼ばれるレベルに近い。その回答により、天野陸将補にデータの開示が求められ、野島次官の了解のもと後刻駐屯地の記者会見で発表して配布することでとりあえず収まった。
実はこの種のデータは、学校等で処方をする中ではデータを発表しないことにしていたため、いろんな憶測と断片的なデータはあるが統計的なデータはなかったのだ。これは中学生・高校生の児童が対象というためで、文科省の指導によるものだ。
その回答による騒ぎのなかで、ハヤトの家に係る問題は大きな問題とならないと見られたが、実際は大きな関心を呼んだ。
問:ワールド・ジュエリー(WJ)に預けたという金と宝石の量は?
答:金が約20kg、宝石が少々、WJに聞いてほしい
これも大騒ぎになった。金20kgと言えば、グラム5000円として1億円の大金である。
問:その宝石の少々と言う量とその値打ちは?
答:1kg以上はあったが値打ちは知らないし答えない(5kgでも1㎏以上には違いない)
宝石が1kg?そんなとんでもない量が、ということになった。
問:税金はどうしたのか
答:正確には知らないのでWJに聞いて欲しいが、税務庁とは話が付いたと聞いている。
税務庁と話をするほどの額のものか。しかし、まあ、家を買えるのは判る。
さらに質問は、まもる君にうつる。
問:あなたはまもる君と関係ないと言ったが、時期が符合しすぎている。関係あるだろう?
野島次官からの答:防衛省か承知しているが、実際に関係ないし、何処から誰からと言う点は防衛機密に当たるので公表できない
問:なんでそんな魔法という貴重な能力を見返りなく他に与えたのか?
答:私は異世界から帰って余計日本が好きになった。また愛する両親と妹が住む国でもある。魔法能力は人にとって非常に有用なものだから、それを人々に分け与えてその日本に貢献したかった。また、せっかく人々が持っている隠れた能力を開放することで別のよりよい時代が始まる可能性を考えた
問:この能力による知力の増強の可能性には当初気が付かなかったようだが
答:自分では自覚はしていたものの、異世界ラーナラでは意識されていなかったので私の場合は移転による特殊なケースと思っていた
問:この能力の悪用も考えられるが
答:それは無論あり得る。しかし、それは現在の状態でも一緒だが、それに対しては多数の善良な人々によって解決出来る
しかし、悪意のある質問もあった。
問:あなたの能力は極めて高いらしいが、そんな能力があれば人を従えること、また組織またはそれこそ国を乗っ取ることも出来るだろう?
答:出来るかもしれない。でも、なんでそんな面倒くさいことをしなくちゃならない?俺はラーナラで国一つ位は作れたけど、帰って来た。
立民党の宮城議員は、オバサン扱いされた記者会見の放送を見て怒ったが、週刊Fも黙らせた、魔法能力の処方を受けた者達の党及び自分の事務所への怒りの電話及びインターネットを受けて党も本人も黙ってしまった。
これは、資金の不正流用はないことが明らかになったこと、また、まもる君関係は、それが防衛のみの存在でもあり、日本にとってあまりにも重要であるため野党議員と言えども触るべきでないという判断も働いたのだ。
しかし、問題は“まもる君”の存在と、ハヤトの帰還に関係があるとほのめかせている点であり、ハヤトもまもる君の存在は便利だと思っているので、これを駄目にしたくはない。しかし、ハヤトの帰還、その後魔法を教え始めたこと、まもる君の登場などのタイミングを考えると誰でも何か関係があると思うのは当然だろう。
であるから、ハヤトは魔法関連のことでマスコミには露出したくなかったのであるし、防衛省・政府関係者からも止められている。実際のところ、ハヤトとしてはまもる君が隠れ蓑になってはいるが、彼のみがミサイルを撃墜するほどの魔法を使えるのは重荷になっている。
それは、そのためにいつも自衛隊から連絡がつくようにしなければならないため、自由な時間が取れないのは非常にうっとうしい点が大きい。KT国に関しては、あのきちがいじみた政権が崩壊して、なんと日本人ハーフの指導者の穏健な体制になったため、KT国からの核ミサイルの脅威は去ったと言っていいだろう。
だが、まだ中国が残っている。中国は、相変わらず南シナ海の人工島の軍事基地化に励んでいるし、ポンコツ空母の他に新造空母2隻の建造を進めているし、インド洋の内海化も進めている。その経済的な発表は全く信用ならないというが、中国は日本よりGDPが5割くらいは高いのは間違いないだろうし、独裁の共産党政権がその国内経済を好きなように動かせるのも、日本のような自由主義の国にはできないことを平気でやれる点も有利である。
戦争は自由主義の国より、簡単に指導者が物事を決めて動かせる独裁の共産党政権が絶対に有利なのだ。しかも、一方でその権力のおこぼれにあずかって富むものとそうでないもの、そしてその権力による土地の取り上げなどの横暴が余りに広がり、その不満のため、暴動の多発に示されるように社会が極めて不安定になってきていることも事実である。
そういう時に、権力者が取る常套手段が、敵を作り、争いを起こすことである。そういう意味では、教育で反感を叩きこんで、なおかつおかしな憲法を持っているため安全な相手、『日本』が恰好のターゲットになるのだ。確かに、その能力が実証されたはずのまもる君の存在は、中国にとっては痛手であろう。
中国が、対外的に傍若無人の態度をとるのは、その核ミサイルシステムがあってのことであることは間違いない。その意味では、かれらは、まもる君の存在によって日本に対して核ミサイルという、確実に日本に大打撃を与えられる最強の手段を失ったに等しいのだ。
しかし、防衛省は、必ずしも中国は完全に彼らの核が封じられたとは考えていないだろうと見ている。これは、発射してそれなりの距離を飛ぶ核ミサイルは迎撃されるだろうが、近海から潜水艦から発射されるミサイルは難しいと考えているのではないかと言うことだ。
しかし、自衛隊側は、中国の潜水艦については、現状ですでに日本の領海付近を航行する潜水艦は全部その行動はモニターできているので余り恐れていないが、中国はそう考えてはいないということだ。従って、依然として中国から日本に対して何らかの軍事行動を起こしてくることは十分考えられる。
さて、ハヤトは、野党のいちゃもんについて防衛大臣と話し合うことになった。
防衛省の大臣室に付属の会議スペースである、朝霞駐屯地から天野陸将補、野島防衛事務次官等が同席している。「今日の話のご趣旨は、二宮さんに対して、立民党の宮城加奈子議員から質問があった件ですね?」
西村大臣が挨拶の後切り出して、ハヤトそれに応じる。
「そうです。私はいいのですが、私が怪しげな人間と言うことで家族に迷惑をかけるのが嫌なんです。実際のところは、異世界ラーナラ式でやらしてもらえるなら訳はないのですよ。私が少し本気で『威圧』を掛ければ、垂れ流し状態で気死しますから、二度とちょっかいを出そうとは思わないでしょう。人前でやれば、社会的に死にますよね」
皆それを聞いて慌てるが、天野が慌てて止める。
「ハ、ハヤト君。それは過激すぎだろう」
彼は他の人と違って、ハヤトに実際にそれが出来ることを知っているのだ。
「うん、ちょっと日本でそれをやるのはまずいかなとは思っているので、あえて言ったわけですが。ちょっとあのオバサンが、ああいう風に偉そうに言うのにカチンと来ているのですよ」
ハヤトがそう答えるが、野島次官が天野に確認し、天野が答える。
「この二宮さんは、実際に今言ったことが出来るのですか?」
「ええ、私ではありませんが、部下が駐屯地で実際に試してもらったのですよ。軽くだったらしいですが、生きた心地がしなかったそうです」
「それは、見てみたいなあ。あの宮城議員がそうなるの。いや、いかん、いかん。それは過激すぎです」
西村大臣が、その光景を想像して悩まし気な顔をしていたが慌てて取り消す。
そこで、ハヤトが続ける。
「それで、まあ、皆さんの言う過激な方法を取らないとして、あの質問に関しては、家を買った云々は待って帰った財宝の処分の税務的な処置は、税務庁と話が付きましたので説明は可能です。そこで問題は、まもる君の話ですよね。それと、どういう形で説明するかということです」
「たしか、その財宝をワールド・ジュエリー(WJ)という会社に預けた形にして、売れた都度支払いを受けるということでしたよね。それは、よほど大きな金額になるのですか?」
部下から話を聞いていた野島次官が聞く。
「ええ、形はその通りで、私の方も受け取るための会社を設立しました。どうも、地球では取れない宝石も含まれていますから、宝石と金、殆ど宝石ですが3千億円位になるようですね。私たちが受け取るのは、税を引いたその一部です」
ハヤトは、そのほかに宝石等の売却に関して決まった内容を説明する。
「わかりました。そういうことなら、家を買われた話は問題ないですね。また、WJが異世界の宝石ということで売ろうということになると、その金額が巨額になるのは判りますので、大きな資産を持たれることなったと知れるのはやむを得ないですね。ただ、金額についてはプライバシーということで、あまり表に出さない方がいいでしょう。
それこそ、当面騒ぎになって、ご家族に迷惑がかかる可能性があります。これは、私どもの方から説明するより、二宮さんの方からマスコミなりを選んで説明されるのがよろしいかと思います」
野島次官がそう言って、ハヤトが「わかりました。具体的な方法について後で相談します」と応じるのを聞いて話を続ける。
「問題は、まもる君との関係です。大臣、なにかご意見はございますか?」
「うん、これは国から一方的に二宮さんにお願いするしかないことなので、誠に申し訳ない話だ。現在、ミサイル防衛システムは鋭意進めているが、ほぼ完全に機能する域まで達するのはいつになるか解らない状態です。また、我々はKT国の脅威は去ったと判断しているが、中国の経済の停滞に伴って暴動というか内乱がどんどんひどくなっており、やはり、見込み通り、国民の目をそらすほどの相手となると我が国に近く仕掛けている可能性が強い。
中国はKT国に比べるとずっと整っているミサイルシステムを構築しています。従って、これが片付くまでは、どうしても二宮さんの全面的な協力が必要です。また、二宮さんのみならず、御家族の安全までを考え、またアメリカを始め対外関係を考えると、自由に動ける二宮さんという存在でなく、まもる君というダミーは必要です。従って、宮城議員のこの件の質問には正直には答えられません」
西村大臣がハヤトを向いて最初は申し訳なさそうに、最後は野島次官にきっぱり言う。
「わかりました。私もそう思っていました。では、結論ははっきりしていますね。二宮さんは『知らない』でいいと思います。時期の一致については偶然です、ということです。二宮さんが何らかの形で絡んでいると怪しまれはするでしょうが、どっちにしても証拠はないわけです。
二宮さんが魔法能力として1000㎞を越える距離のミサイルを撃墜することが出来ると信じるより、不可解な装置によって撃墜すると言う方が普通は信じやすいと思いますよ。後はどういう形で発表するかですが、二宮さんは何かお考えですか?」
野島次官は大臣に応え、さらに聞いてくるのに、ハヤトが応じる。
「とりあえずは、こちらの防衛省にセットしてもらって、記者会見ですか、それを開いてそこで説明しましょう。しかし、どうもマスコミの質問というか、わざと怒らせるようなことを言う人がいますが、ああいう連中にまともに相手はしたくないのですがねえ」
「うーん。思う通りでいいんじゃないでしょうか。二宮さんは一応臨時職員ですが、こちらからお願いしているわけで、財産もあります。その立場に気兼ねする必要もなく遠慮なく反論してください」
野島次官が返すのに、ハヤトは話を続ける。
「それと、実は、異世界ラーナラからの召還とそこでの出来事というか行動については手記を書いたのです。これは、いま知り合いを通じて、出版しようと準備している所です」
それに対して、天野陸将補が口を出す。
「私も読ませて頂きましたが、素晴らしく面白い本というか手記です。最近はやりのラノベですか、私も少し読みましたが、内容的には似たものもあるようですが、事実であるという重みがあります。あれは、間違いなく出版すれば売れると思いますよ」
「うん、手記と言う形で本にするのはいいかも知れないな。しかし、その本に、二宮さんの例の能力を示唆するような内容はないでしょうか?」
西村大臣が懸念して言うのに、ハヤトは答える。
「ええ、その点は意識しましたので、マップと探知機能はごく限定的にまた他のものが使ったというように書いてあります」
その夕刻、防衛省で野島次官と天野陸将補が立ち会って、記者会見が開かれた。事務方の開会の挨拶の後、ハヤトが異世界からの帰還、魔法能力の処方を始めたこと、また土産に持ち帰った金と宝石をワールドジュエリーに預けて、それの対価をぼちぼち受け取っていること、その税務上の処置は済んであること、さらに自衛隊の駐屯地に居る事情、加えてまもる君とは何も関係ないことを説明した。
「そういうことで、私を”者“呼ばわりする失礼なオバサンが、国会で僕がなにか国から後ろ暗い金を受け取ったように決めつけていました。皆さんは、そうでないことをこれで納得して頂けましたか?」
ハヤトはそう言うのに、30人ほど来た記者やカメラマンのうち半分ほどの記者は笑うが、かれらが納得するわけもなく様々な質問が出た。結局記者たちもハヤトが、異世界に行って帰って来たということについては、信じざるを得ないと言う態度であり、その真偽についての話は出なかった。重要な問答を以下に挙げる。
問:魔法能力を身につけるとどの程度体力と知力が上がるのか
答:自衛隊での18歳から30歳までの100人の測定では、処方の前後において、平均で体力は100m走にて、平均12秒7が9秒8、知力と言う意味ではある知能指数テストで平均102から145になった。
実際のところ、これが、一番驚嘆された。当たり前である、体力に優れた自衛隊員としても100m走の平均が世界記録並み、さらに平均という知能指数は天才と呼ばれるレベルに近い。その回答により、天野陸将補にデータの開示が求められ、野島次官の了解のもと後刻駐屯地の記者会見で発表して配布することでとりあえず収まった。
実はこの種のデータは、学校等で処方をする中ではデータを発表しないことにしていたため、いろんな憶測と断片的なデータはあるが統計的なデータはなかったのだ。これは中学生・高校生の児童が対象というためで、文科省の指導によるものだ。
その回答による騒ぎのなかで、ハヤトの家に係る問題は大きな問題とならないと見られたが、実際は大きな関心を呼んだ。
問:ワールド・ジュエリー(WJ)に預けたという金と宝石の量は?
答:金が約20kg、宝石が少々、WJに聞いてほしい
これも大騒ぎになった。金20kgと言えば、グラム5000円として1億円の大金である。
問:その宝石の少々と言う量とその値打ちは?
答:1kg以上はあったが値打ちは知らないし答えない(5kgでも1㎏以上には違いない)
宝石が1kg?そんなとんでもない量が、ということになった。
問:税金はどうしたのか
答:正確には知らないのでWJに聞いて欲しいが、税務庁とは話が付いたと聞いている。
税務庁と話をするほどの額のものか。しかし、まあ、家を買えるのは判る。
さらに質問は、まもる君にうつる。
問:あなたはまもる君と関係ないと言ったが、時期が符合しすぎている。関係あるだろう?
野島次官からの答:防衛省か承知しているが、実際に関係ないし、何処から誰からと言う点は防衛機密に当たるので公表できない
問:なんでそんな魔法という貴重な能力を見返りなく他に与えたのか?
答:私は異世界から帰って余計日本が好きになった。また愛する両親と妹が住む国でもある。魔法能力は人にとって非常に有用なものだから、それを人々に分け与えてその日本に貢献したかった。また、せっかく人々が持っている隠れた能力を開放することで別のよりよい時代が始まる可能性を考えた
問:この能力による知力の増強の可能性には当初気が付かなかったようだが
答:自分では自覚はしていたものの、異世界ラーナラでは意識されていなかったので私の場合は移転による特殊なケースと思っていた
問:この能力の悪用も考えられるが
答:それは無論あり得る。しかし、それは現在の状態でも一緒だが、それに対しては多数の善良な人々によって解決出来る
しかし、悪意のある質問もあった。
問:あなたの能力は極めて高いらしいが、そんな能力があれば人を従えること、また組織またはそれこそ国を乗っ取ることも出来るだろう?
答:出来るかもしれない。でも、なんでそんな面倒くさいことをしなくちゃならない?俺はラーナラで国一つ位は作れたけど、帰って来た。
立民党の宮城議員は、オバサン扱いされた記者会見の放送を見て怒ったが、週刊Fも黙らせた、魔法能力の処方を受けた者達の党及び自分の事務所への怒りの電話及びインターネットを受けて党も本人も黙ってしまった。
これは、資金の不正流用はないことが明らかになったこと、また、まもる君関係は、それが防衛のみの存在でもあり、日本にとってあまりにも重要であるため野党議員と言えども触るべきでないという判断も働いたのだ。
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元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
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秋月レンジ。高校2年生。
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