帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第10章 対アンノ戦争勃発

10.4 対アンノ同盟日本防衛軍欧州派遣

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 欧州が侵略されたことは、日本においても大いに議論になった。
 ハヤトは、侵略が始まった朝、対アンノ同盟日本防衛軍総司令官の城山大将及び副総司令官の滋賀少将を中心にアンノ侵攻を話し合う会議に出席している。彼は、防衛軍には所属してはいないが、最初から関わった関係からアドバイザー的な立場で協力している。出席した18人の表情はこわばっている。城山大将がまず口を開く。

「今日は、欧州への援軍について協議したい。イギリスからは当然援軍依頼が来ているし、EU各国からは、対アンノ同盟に対して、さらにEU合同軍からもイギリスを通じて援軍依頼がきている。現状のところでは、援軍を出すほど“しうん”型を持っているのは日本とアメリカくらいだし、実質出せるのは日本のみだ。
 それにしてもAIの判定によると、可能性としては最も高かったが、アンノの侵攻が実際に欧州とはなあ………。イギリスは何とか守り切れるだろうが、欧州本土、殆どがEU諸国では戦闘機が、やはり機内外に持っているミサイル等の火薬を爆破されて、相手になっていない、さらに陸に置いている対空ミサイルも同様で、対空砲も結局やはり炸薬を爆破されている。
 だから、全く対抗手段がないのが実情だ。なにしろ、魔力スクリーンが無いのが致命的だな。これについては以前にEU各国に打診したのだけど、秘密保持の要求が気に入らなかったようで結局拒まれている。さて、滋賀君、援軍についての議論をしてくれ」

 その言葉に滋賀が応える。
「はい、まず現時点で我が国には、“しでん”戦闘機が2万5千機、さらに500機の“らいでん”攻撃機が配備されております。また、状況的に現時点で欧州を襲っている以上、日本がアンノ機に襲われる可能性はないと判断しています。さらに、万が一突然襲われても、イギリスの健闘から見れば、よほどの大群でない限り我が国が圧倒されることはないと思います。
 日本には対空レールガンも多数装備されていますからね。従って、即応と言う意味では難しいのですが、少し時間をかけれは半分程度を援軍に出すことは可能です。

 一方、アンノ機の対EUの闘いは先ほども総令官の話にあったように、EU側が火薬を魔法で爆破されて、いいようにやられています。それに対して、イギリスでは彼らのスピットファイアⅡ機は、ミサイルを装備していないものの、機銃については火薬発射式です。しかし、特段爆破されたという報告はないのを見ると、魔力スクリーンが大きく効果を現わしているのは確かなようです。
 さて、敵アンノ機の武器は、現状ではっきりしているのは、魔力による敵機の爆破、さらに魔法で操っているらしい空中爆弾です。機銃的なものがあるかどうかは、今のところ確認されていません。加えて、アンノ母艦については、大口径のミサイル様のものがあって、都市を狙って発射されていますが、幸い全て撃破しているのでどれほどの威力かわかりません。

 イギリスのSFⅡは“しでん”と同じで25mmのレールガンと同径の機関砲です。このレールガンはアンノ機には有効ですが、アンノ母艦には無効であることは確かなようで、一方“らいでん”攻撃機の150mm砲はアンノ母艦に大被害を及ぼせます。
 それもあって、現時点ではイギリスのSFⅡの活躍を見ると、アンノ機についてはキルレシオが1:3を超えているようです。さらに、“らいでん”もアンノ母艦に対して問題なく数発で撃墜していますので、数的に極端に劣勢でない限りアンノ機とアンノ母艦の編隊に対しては現在の装備で圧倒できると考えています。
 ただ、大きな問題としてアンノは気楽に爆弾をばらまいて、地上への被害を無視できますが、我々はそうではありません。さらに、アンノ機・アンノ母艦を撃墜した場合の被害も大きなものになります」

 滋賀が一旦言葉を切ると、アメリカ防衛軍からの連絡将校であるサマービル少将が口を開く。
「なるほど、日本は欧州への援軍が可能と言うことですな。それで、たぶんEU諸国の空はアンノに完全に支配されることになりますが、陸も火薬を使えない軍は戦えないでしょう。結局、剣と槍の時代に帰るわけですが、敵はそうでないとなると、降伏するしかないということになります。
 彼らEU諸国、人口3億で、近年他の地域が魔力の処方のお陰で存在を増しているのに対して、急速に相対的に経済・技術の国際的地位を落としてはいますが、まだまだ侮れない存在です。彼らが、アンノの支配下に入った時に何が起きるか、アンノはEUの人々をどのように扱おうとしているのか、この点は日本としてはどう考えていますか?」

 それに対して、滋賀が答える。
「まだ、何ともいえません。しかし、近代においてこの地球にあっては、仮に戦争があって、敵に占領されたとしても、その敵が住民の福祉を完全に無視することはあり得ません。しかし、地球でも数百年前は全く違っていたわけです。勝った国は、平気で被征服国の住民を虐殺し奴隷にしました。
 アンノのEU諸国の住民に対する態度は後者である可能性は否定できないというか、その可能性は強いと考えています。ハヤト氏によると、アンノは多くの世界を征服している帝国だということです。従って、これは征服によってメリットがあるからで、そのメリットというのは経済的なものであると考えられます。

 一般に他国を征服した場合、被征服地の住民の生活レベルを相当に落とすまでの搾取をしないと、経済的なメリットは得られないと考えられます。従って、アンノに征服されたEU諸国の生活レベルは悲惨なことになるでしょう。
あと、もう一つ考えなければならないことがあります。
 それは、アンノがEU諸国を先行して征服しようとしている理由です。これは、征服したEU諸国を足掛かりに全体を、という戦略である可能性が高いのです。つまり、EUの人々を征服の尖兵に使おうとしているのではないか、ということです。

 その場合には、EUにある兵器は、アンノには無力でも周りの世界には有効であるということで、それなりに厄介なことになります。さらに、最大の問題はその場合には地球人同士で殺しあうことで、一方でアンノにとっては痛くも痒くもありません。

 ただし、その前提として、命令するだけでは欧州の人々も他の地域に攻め込み、人々を殺すことはないでしょうから、アンノが地球人を操る方法がある場合ということです。
 ハヤトさん、魔法を使うアンノはそういう技術というか能力を持っているのでしょうか?」

 滋賀の問いにハヤトが考えながら回答する。
「そうですね。ラーナラには魔獣を操る技術がありました。これは、魔石を介して魔法を使ったものですが。また、魔人は人に対してもその技術を使った証拠があります。ですから、アンノが人を操ることができるというのは大いにあり得ますね。私は、滋賀少将の言うことに賛成です。
 たしかに、アンノがEU諸国を占領した場合は、その住民を心身ともに奴隷にして、あるものは地球の他の地区に侵攻する兵士に、あるものはひたすらアンノに奉仕する労働者にすることはあり得ます。その場合、問題になるのはフランスが持っている核兵器です。アンノが核兵器を持っているかどうかはわかりません。
 しかし、アンノ母艦が核兵器でない巨大ミサイルを発射したところから考えると、実用化していないと考えていいと思います。ところで、アンダーソン少将、NATOはすでに解散しましたが、アメリカ軍は欧州に持ち込んだ核兵器は全て引きあげたのでしょうか?」

「それは、無論引き上げました。ですから、EU諸国で核兵器を持っているのはフランスのみです。確かに、その核兵器をアンノに渡すのは防止しなければなりませんね。アンノであれば、それを躊躇なく使いそうです」
 アンダーソン少将が答え、滋賀が話を続ける。

「結局われわれは、EU諸国がアンノに征服されるのを座視できないということです。また、イギリスもぎりぎりの状態です。援軍を出しましょう。
この場合は、時間が極めて重要ですから、大気圏外にでて、地球の脱出速度を越えない範囲で目いっぱい速度を出して行きましょう。最大加速10Gを100秒強で10km/秒ですからイギリスまで1万㎞は慣性で飛んで1000秒ですか。従って、“しでん”機の場合は2時間もあれば余裕で着きますが、“らいでん”はもう少しかかりますかね。

“しでん”戦闘機、“らいでん”攻撃機及び、バッテリーを積んだ“ひの”型輸送艦を出せるだけ出しましょう。AE発電機とバッテリー励起装置を積んだ“ありあけ”型母艦ができていればよかったが、まだ3ヶ月はかかります。
山路大佐、“しでん”戦闘機、“らいでん”攻撃機及び、“ひの”型輸送艦は今夕、そうだね、今から5時間後の22時にどのくらい出せる?」

 やせ形のロジスチックス担当の山路は、その質問を予想したようで、タブレットを見ながら答える。
「はい、“しでん”が2200機、“らいでん”が80機、さらに“ひの”が“しでん”と“らいでん”と自機の3回分の交換バッテリーを積んで15機必要です。また、さらに1日後にはしでん”が5200機、“らいでん”が120機にそれに相応した“ひの”が出せます。
 それまでは、これらの機のAEバッテリーはイギリスのAE励起工場で充電可能です。しかし、その2日後には励起装置を積んだ改ひの機が完成しますし、他のしでん”と“らいでん”も準備が整いますので、先ほど議題に出た稼働機の半数でも派遣可能です」

 その回答に、滋賀はアンダーソン少将を見て尋ねる。
「アンダーソン少将、如何でしょうか。アメリカ防衛軍のご意見は?」
「全面的に賛成です。わがアメリカにとっても、欧州の人々がアンノに操られて攻撃してきて、我々がそれを撃破するのは悪夢です。日本防衛軍が、場合によって自軍戦闘機の半数もの援軍を出すという点は敬意を表します」
 アンダーソンはその言葉を真摯に口にした。

 滋賀はそれを受けて、総司令の城山大将を見て尋ねる。
「総司令官、こういうことで、いかがでしょうか」
 腕組みをしていた城山はその腕を解き、白髪混じりの頭をなでて、その言葉に応じる。

「どのみち、イギリスに対しては要請もあるし、わが方も出せるので応援に行くことは必要だ。だから、今夕の第1陣は出そう。いいかな皆?」
 城山の言葉に、皆が頷く。

「しかし、EU諸国のアンノを追い払うことは、なかなか難しい問題があるのは気が付いていると思う」
 さらに続いた城山の、この言葉に半数ほどが頷き、半数ほどは頷くことなく難しい顔をしている。

「現在、EU諸国は完全に空を占領された状態にある。つまり、アンノがその気になれば、都市部をその空中爆弾で絨毯爆撃もできるし、例の大型ミサイルで都市を破壊することもできる。つまり、約3億人のEU諸国民がすでに人質になっている状態なのだ。
 さらに、もう一つ難しい問題は、都市部上空で我々がアンノ機と闘った場合には、撃ち落とした彼らの機体によって、都市に莫大な被害が出るということだ。結果的にアンノを追い払ったとして、欧州の人々はその必要性を理解はしても許せないだろう」

 城山はそう言って皆を見渡すが、皆難しい顔をしている中で、ハヤトが手を挙げて話し始める。
「まさに懸念しているのはその点ですが、いやしくも帝国を名乗る連中が占領地の住民を人質にできるものか。一方で、その状態を放置して、欧州の人々が操り人形になって侵攻してきた時には、おそらく反撃して殺すしかない。また、そのようにして欧州を解放しても、操り人形になった人々を回復できるかどうかも定かでない。要は情報が不足しています。さらに、フランスの核兵器の技術はアンノに渡すわけにはいかない」

 ハヤトが言葉を切っても出席者は次の言葉を待っている。
「私も今晩行きましょう。幸い、アンノはマナを圧搾して持ち込んでいます。そして、私はマナさえあれば、ラーナラで使えていたレベルの魔法を使えます。アンノの連中の魔法のレベルがどの程度かわかりませんが、調べた範囲では私のレベルの者はいないようです。
 ですから、私がそのマナを使用して魔法を使えば、神出鬼没の働きができますので、その能力を使ってアンノの占領政策のポリシーを探り、ついでにでもないですが、フランスの核兵器を無力化してきます」

 城山総司令官は慌てた。
「い、いや、唯一無二の君をそんな危険にさらすわけにはいかん。それは駄目だ」
 しかし、冷徹な戦略家である滋賀少将はハヤトに同意する。

「確かに、総司令官の言われる通り、唯一無二のハヤト氏を危険にさらすことは本意でないし、戦略的に誤っているように見える。しかし、ここで我々が情報不足から打つ手を誤れば、それこそ地球上の人類全体がアンノの圧政に呻吟することになりかねない。
 私もハヤト氏の手記を読みましたが、ハヤト氏はとても勝てないような状況でも、自分の戦力を冷静に見極めて実際に勝っています。私は、彼が必ず必要な情報と核兵器の無力化を成し遂げると信じます。ですから、ハヤト氏には行ってもらうべきだと思います」
 滋賀が総司令官そして出席者皆を見渡して言う。

「私は、防衛軍に正式に所属しているわけでもありませんから、自分の行動に関して誰かに命令される立場ではありません。私は行きます!広山司令官、私にしでん機を与えてイギリス側に私の同行を伝えてください」
 滋賀の話を受けて言う、そのハヤトの言葉が結論になった。
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