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第12章 異世界へ潜入
12.4 異世界マダン、パイロットの救出2
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ピーター・マッカラムは25歳、アメリカ空軍の少尉であり、今、回の偵察部隊に加われたことで大喜びであった。父母は、やはり未知の世界に最初に飛び込んで行くということでその危険を考えて反対であったが、本人の意思が固く振り切って出て来たというのが正直なところである。
ピーターにしてみれば、偵察隊に選ばれるというのはスターダスト機のエリートの証明であり、断るという選択肢はなかった。実際に彼は、EU諸国の上空でおこなわれた空中戦で3機の敵機を撃墜している。
今回の戦闘はしかし、彼にとっては残念な結果になった。首尾よく2機のガリヤーク機を撃墜して、敵機とすれ違おうとした時に数で勝る敵の機関砲に撃ち落とされたのである。幸い、重力エンジンの機能はある程度残っていたために脱出には苦労はなく、脱出装置で無事に街の明かりの無いところを選んで降りることが出来た。
降下したそこは、ほとんど暗くなった夕刻の畑が広がり、その境に樹木が立ち並んでいるアメリカ中西部の農業地帯のような場所の柔らかい土の畑の中であった。作物らしいものは生えていないので、今は農閑期なのであろう。農家らしいいくつか集まった明かりは、そこからは500m位の距離であったの。
だから、当面は無音である彼の反重力機の降下は気が付かれないはずだが、多分レーダー波で検知されているのでそのうち捜索が始まるだろう。自分の位置はビーコンで知らせているので、いずれ助けは来ると信じてはいたが、あの雲霞のようなガリヤーク機を考えると、わずか300機足らずのスターダストと“しでん”では分が悪いと思わざるを得ない。多分、あらかじめ計画されていたように、母艦を始め全戦闘機は成層圏に上がっているだろう。
スターダストの場合は、重力エンジン機なので地上に近づけさえすれば着地は容易であり、救出した者を乗せるスペースは十分である。だが、これだけの数のガリヤーク機がこの世界にあると、それらを突破して助けには来ることはできないだろう。
その意味では、当面唯一の望みは例のハヤト氏のジャンプ能力だ。これは、出発前のブリーフィングにあったのだ。それは、仮に制空権を取れないとして戦闘機が地上に近づくことが出来なくても、ハヤト氏が10人くらいでまではジャンプで運べるという。さらに彼は、仮に撃墜されたパイロットが地上に降りた場合には救出を約束しているということだ。
だから、できるだけ逃げて、彼が来るまで時間を稼ぐ必要があるのだ。ちなみに脱出装置には碌な武器はない。魔法により爆薬は容易に着火できる点から、火薬を使った銃などが持てないという点は携行兵器に大いに制限を与えている。彼の持っているのは何でも切れる電磁ナイフと、普通のナイフ及び簡易クロスボウとその矢が10本である。
しかし、敵側は火薬が使えないという制限はないので、ガリヤーク機の機関砲と同様に、銃は間違いなく持っているだろう。マッカラムは、降下時に見えた近くの森に逃げ込むことにした。脱出装置の毛布にもなるそれを包んでいる絶縁布などを付属のバックパックに回収して、『破壊スイッチ』を入れた。
これで、降下装置の重力系の装置などは溶かされて再現できなくなるのだ。それから、パイロットスーツの表層をはぎ取って、迷彩戦闘服の状態にして歩き始める。ファスナーで締めるタイプの丈夫なブーツを履いた足で、柔らかく歩きにくい畑地を速足で黒々と星明りの中に浮かぶ森に向かって進む。
彼は簡易ノクトビジョンを付けて森に入り込んで、クロスボウを構えて慎重に進む。このノクトビジョンではクリヤーには見えないが、辺りは薄明るく見えるので歩行には支障はない。この世界には狂暴な動物は少なく、毒性のある昆虫や小動物も少ないとは聞いているが、やはり暗闇の中の森というのは不気味なものだ。
彼は、寝るところを探し回った結果、低い灌木の間に入り込んで電磁ナイフを使ってそれを切り取り、さらに辺りの柔らかそうな草を刈り取って寝床を作って座り込む。さらに、水で流し込みながらバー状の非常食料をかじる。味は悪くはないが如何にもわびしい。
非常食料はまだ量があるが、水は重量制限で1㍑ほどしか持っていないのでその半分を飲んでしまっている。非常食料の満腹効果で空腹も満たされ、疲れ果てた彼は脱出装置から持ってきた絶縁布を被り青臭い草のベッドの中で眠り込む。
はっと目を覚ました。光の矢が動いている。捜索だ!辺りは夜が明けてきており、白々としてきている。どうするべきかは、あらかじめ考えており、できるだけ時間を稼ぐために追いにくい森の奥へ入ることにしている。サーダルタ人が追ってくる場合、彼らは魔法で探査ができる者がいるので、多分いずれは見つけられるだろう。
しかし、彼らの乗ってくるのが、空中機か陸上を走る車か判らないが、森の中では使えないだろうから徒歩で追うしかないはずだ。マッカラムは急ぎ起きて、荷物を取りまとめ、バックパックに詰め込んで歩き始める。どんどん明るくなる中を森の奥へ奥へと歩くが、上空にサーダルタの空中機が飛ぶのが見え始める。
どうやら彼を探知して、その上空を飛んでいるようだが、殺すつもりはないらしい。殺すつもりなら、上空から熱線銃か機関銃なりを打ち込んでくれば防ぐのは難しい。やがて、空中機が見えなくなった。地上に降りていよいよ地上から捕らえにくるなと、警戒を強めるが、相手は自分を検知できて、こちらは出来ないので避けようがない。
しかし、せめて逃げる努力はしようと、空中機が向かった方向の反対方向に進む。いきなり、バリバリという音がして、チュンチュンと弾が飛んでくる。
『しまった、裏をかかれた』
あえて飛んでいた方向と反対に降りて、待ち構えていたらしい。その銃撃は威嚇でもなさそうで、殺してもやむを得ないということだろう。太い木の陰に隠れて見透かすと、葉の陰からちらちら見える敵は、3人ほどで銃を構えている。
彼は抵抗できる唯一の武器であるクロスボウで50~60mほどの先の敵に狙いをつける。このクロスボウは簡易・軽量の割に優秀だが、あの距離だと訓練でやった限りでは人体程度の大きさには多分、もしかしたら当たる距離だ。威嚇に満足したか、敵は銃を構えて近づいてくる。
「え!」彼はびっくりした。いきなり、近づいてくる3人の背後に人が2人現れたのだ。黒い巨人と、あれはハヤトだ!黒い巨人が滑らかな動きで、5mほど離れた距離を音もなく一気に詰めて、2人の首筋をトン!トン!と打つ。巨人は2人が崩れ折れるのを見て、かすかな音と気配に振り返ろうとしていた残り一人の銃を背後からもぎ取る。
白い肌、灰色の切れ長の目で長い尖った耳の男は、仰天して目を見開いて高い位置にある相手の黒い顔を見上げる。ヤフワは、すでに銃を構えて引き金に当たるボタンに指をかけて相手に向けている。
その状況を見てハヤトが、位置をはっきり知っている様子でマッカラムに向けて叫ぶ。
「おーい、俺はハヤトだ。助けに来たぞ。こっちに来てくれ!」
マッカラムはすっかり安心して、極度の緊張が解けて気が抜けた思いで「ありがとう。助かったよ。へたな弓を撃たなくて済んだ」言いながら、灌木をかき分けて彼らに近づいて行く。そういえば、あの巨人はハヤトの直卒隊の一員だったなと思う。
「さて、君の名前はカブラ・マーミルだな。このマダン総督府軍5万人の1人で、まあ中尉相当か。10億人のこの世界の者に比べて、支配する軍はたったの5万人か、少ないな。しかし、文官が2万で経済的に搾取しているわけか」
ハヤトが捉えた敵兵に、サーダルタ語・英語の翻訳機を通じてしゃべりかけると、マーミルは恐怖に顔をゆがめて叫ぶ。
『こ、こいつ。読心の魔法が使えるのか!読ませないぞ』
力んで読心を防ごうとするが、確かに読みにくくはなっているもののその気になれば可能だ。しかし、概ね必要なことは読み取ったので、当面は問題ない。
このマダンでは、サーダルタ帝国の支配の方法としては、マダン人の軍は解散させて警察組織は残している。またガリヤーク機によって空を支配しているので、通常配備の2千機のガリヤーク機と5万人の総督府軍で十分である。
総督府軍による、現地人を押さえるための小火器としては基本的に火薬を使った銃を使っている。銃はもともとマダン人が開発して使っていたものだが、サーダルタ人であれば意のままに爆発させることが出来るので、脅威にはなり得ない。
後は、銃火器としては大砲のようなもの、魔力で操る爆弾・ミサイルである。火薬を使った大砲はサーダルタ人には無力であろ、威力の大きい爆弾はこの世界の者には使えないので、武力ではマダン人は総督府には抵抗できない。
ところで、サーダルタ帝国の総力を挙げた地球への侵攻が完全に失敗して、殆ど全滅の被害を受けてたたき出されたのは、この世界の総督府にも承知されている。もちろん、その知らせはサーダルタ本国にも伝わって大騒ぎになっているようだ。
だから、本国からの命令で地球からの侵攻に備えるようにという命令があり、ガリヤーク機も1万機が補充された。その増強の結果、約百機の損害は生じたが、地球同盟側は地表近くの戦闘をあきらめて成層圏に逃れた。
総督府にとってみれば、地表近くの空の制空権は取っており、当面この世界の支配が脅かされることはない。だが、地球側の戦力が高空に上がって手を出せない状態であることから、不安でもあるし対応に苦慮しているところである。この点については、急ぎ帝国に総督府からの使者が向かっているという。
また、地球同盟軍の戦闘機が撃墜されて、パイロットが脱出したのは把握しており、全員をできるだけ生かしたまま捕虜にする命令が出ている。しかし、その命令が出たのが夜間であったことで、まともな体制が取られていなかったが、間もなく本格的な体制で捜索が始まるだろうというこのマーミルの見解だ。
また、地表近くの制空権はガリヤーク機によって確保されているので、パイロットの捕獲は急ぐことはないという総督府の考えである。空間転移/ジャンプが使えるものがいるというのは全く考えてもいない。ハヤトは近くに駐機してあった、小型バス大のサカン1号に入り込み操縦法をマーミルの抵抗を押し切って探り取る。
もともと、ガリヤーク機とサカン1号についての操縦方法は、EU諸国で捕獲したもので研究していたのだ。ただ、魔力のほとんどない白人には魔力を操縦に使うこれらの機の操縦はできない。ハヤトとしては高空の“ありあけ”と往復するより、できればある程度地上でパイロットを集めてまとめて移転させたい。
だから、彼はサカン1号を休憩所に使ってここにパイロットを集めることにした。まず、サカン1号が電波や魔力を出さないようにチェックしてすべての発生源を落とす。さらに、気絶しているサーダルタ人とマーミルを床に固定されている椅子に縛りつける。むろんそのための粘着テープはハヤトのマジックバッグに入っているのだ。
ハヤトはマッカラムからその名前他の必要なことを手早く聞いて、食料や水など当面必要そうなものをマジックバッグから出して渡し指示する。
「この機の中で待っていて欲しい。この周辺にはこうした機はいないし、ガリヤーク機もこの森の中の空き地のような地上近くには降りてこない。今から、君のように不時着したパイロットを集めてくる。とりあえず、こいつも気絶させていくけど、起きようとしたらこれで、ここを打ってまた気絶させてほしい。彼らは君を操る魔法を使える可能性がある」
そう言って、ハヤトはまたも出した金属棒で、縛られてもがいて文句を言っている、マーミルの首筋を少し強めに叩く。すると、そのエルフのようなサーダルタ人はクタ!と白目を剥いて静かになる。さらに、それを複雑な心境で見ていたマッカラムが、その金属棒を受け取った直後、ハヤトは黒い巨人と共に消え去る。
マッカラムは、人間がジャンプによって突然現れ、また消えるところを始めて見たわけであるが、身近で消える場合は局部的にウオンという音が出て局部的に風の渦が起き、風と減圧をはっきり感じる。
『なるほど、人体という物体が突然消滅するわけだから、空気がそこを埋めようとするわけだな』
そう考えながらも、自分の喉のきに渡されたソフトドリンクを有難く飲んで、サンドウィッチをむさぼるうち、開いたハッチからハヤトと黒い巨人ともう1人の3人が現れるのが見える。帰ってくる場合は、空中機のように椅子が並んでいるような邪魔ものが多いところは具合が悪いのだ。
このようにして、ものの30分もかからず、マッカラムを入れて7人に1体の死体が集められる。救助されたものは、ハヤトの与えた水を飲み食料を食べながら、順次サカン1号で座って待っているのだ。中には骨折など負傷している者もおり、最初からそこにいるマッカラムはサーダルタ人の見張りと共に仲間のパイロットの世話係を務めている。幸いサーダルタ人は目を覚まさず、マッカラムも金属棒を振るう必要はなかった。
最期に死体を腕に抱いたヤフワと現れたハヤトは、空中機の中に座っているパイロットたちに呼びかける。
「さて、まだ捕らえられていないものは救出した。今から“ありあけ”にジャンプで帰るので、私の周りに集まってくれ。それから、そうだな。折角だからそれなりに情報を持っているサーダルタ人を連れて行こう。ヤフワ、その死体をそこに置いて、最後に気絶させた奴を連れて来てくれ」
ヤフワはハヤトに「了解!」と頷き、パイロットたちがきびきびと外に出てくるのを待って機に乗り込み、取り出したナイフで縛っていたテープをはぎ取る。その後、まだぐったりしているその体を、肩に軽々と担ぎ上げてタラップを降りてくる。
ハヤトはぐったりした体を担いだヤフワと、足元の死体、さらにパイロットたちが自分の周りに集まってきたのを確認して、「いくぞ!」と声をかけて“ありあけ”の医療前室にジャンプする。
ピーターにしてみれば、偵察隊に選ばれるというのはスターダスト機のエリートの証明であり、断るという選択肢はなかった。実際に彼は、EU諸国の上空でおこなわれた空中戦で3機の敵機を撃墜している。
今回の戦闘はしかし、彼にとっては残念な結果になった。首尾よく2機のガリヤーク機を撃墜して、敵機とすれ違おうとした時に数で勝る敵の機関砲に撃ち落とされたのである。幸い、重力エンジンの機能はある程度残っていたために脱出には苦労はなく、脱出装置で無事に街の明かりの無いところを選んで降りることが出来た。
降下したそこは、ほとんど暗くなった夕刻の畑が広がり、その境に樹木が立ち並んでいるアメリカ中西部の農業地帯のような場所の柔らかい土の畑の中であった。作物らしいものは生えていないので、今は農閑期なのであろう。農家らしいいくつか集まった明かりは、そこからは500m位の距離であったの。
だから、当面は無音である彼の反重力機の降下は気が付かれないはずだが、多分レーダー波で検知されているのでそのうち捜索が始まるだろう。自分の位置はビーコンで知らせているので、いずれ助けは来ると信じてはいたが、あの雲霞のようなガリヤーク機を考えると、わずか300機足らずのスターダストと“しでん”では分が悪いと思わざるを得ない。多分、あらかじめ計画されていたように、母艦を始め全戦闘機は成層圏に上がっているだろう。
スターダストの場合は、重力エンジン機なので地上に近づけさえすれば着地は容易であり、救出した者を乗せるスペースは十分である。だが、これだけの数のガリヤーク機がこの世界にあると、それらを突破して助けには来ることはできないだろう。
その意味では、当面唯一の望みは例のハヤト氏のジャンプ能力だ。これは、出発前のブリーフィングにあったのだ。それは、仮に制空権を取れないとして戦闘機が地上に近づくことが出来なくても、ハヤト氏が10人くらいでまではジャンプで運べるという。さらに彼は、仮に撃墜されたパイロットが地上に降りた場合には救出を約束しているということだ。
だから、できるだけ逃げて、彼が来るまで時間を稼ぐ必要があるのだ。ちなみに脱出装置には碌な武器はない。魔法により爆薬は容易に着火できる点から、火薬を使った銃などが持てないという点は携行兵器に大いに制限を与えている。彼の持っているのは何でも切れる電磁ナイフと、普通のナイフ及び簡易クロスボウとその矢が10本である。
しかし、敵側は火薬が使えないという制限はないので、ガリヤーク機の機関砲と同様に、銃は間違いなく持っているだろう。マッカラムは、降下時に見えた近くの森に逃げ込むことにした。脱出装置の毛布にもなるそれを包んでいる絶縁布などを付属のバックパックに回収して、『破壊スイッチ』を入れた。
これで、降下装置の重力系の装置などは溶かされて再現できなくなるのだ。それから、パイロットスーツの表層をはぎ取って、迷彩戦闘服の状態にして歩き始める。ファスナーで締めるタイプの丈夫なブーツを履いた足で、柔らかく歩きにくい畑地を速足で黒々と星明りの中に浮かぶ森に向かって進む。
彼は簡易ノクトビジョンを付けて森に入り込んで、クロスボウを構えて慎重に進む。このノクトビジョンではクリヤーには見えないが、辺りは薄明るく見えるので歩行には支障はない。この世界には狂暴な動物は少なく、毒性のある昆虫や小動物も少ないとは聞いているが、やはり暗闇の中の森というのは不気味なものだ。
彼は、寝るところを探し回った結果、低い灌木の間に入り込んで電磁ナイフを使ってそれを切り取り、さらに辺りの柔らかそうな草を刈り取って寝床を作って座り込む。さらに、水で流し込みながらバー状の非常食料をかじる。味は悪くはないが如何にもわびしい。
非常食料はまだ量があるが、水は重量制限で1㍑ほどしか持っていないのでその半分を飲んでしまっている。非常食料の満腹効果で空腹も満たされ、疲れ果てた彼は脱出装置から持ってきた絶縁布を被り青臭い草のベッドの中で眠り込む。
はっと目を覚ました。光の矢が動いている。捜索だ!辺りは夜が明けてきており、白々としてきている。どうするべきかは、あらかじめ考えており、できるだけ時間を稼ぐために追いにくい森の奥へ入ることにしている。サーダルタ人が追ってくる場合、彼らは魔法で探査ができる者がいるので、多分いずれは見つけられるだろう。
しかし、彼らの乗ってくるのが、空中機か陸上を走る車か判らないが、森の中では使えないだろうから徒歩で追うしかないはずだ。マッカラムは急ぎ起きて、荷物を取りまとめ、バックパックに詰め込んで歩き始める。どんどん明るくなる中を森の奥へ奥へと歩くが、上空にサーダルタの空中機が飛ぶのが見え始める。
どうやら彼を探知して、その上空を飛んでいるようだが、殺すつもりはないらしい。殺すつもりなら、上空から熱線銃か機関銃なりを打ち込んでくれば防ぐのは難しい。やがて、空中機が見えなくなった。地上に降りていよいよ地上から捕らえにくるなと、警戒を強めるが、相手は自分を検知できて、こちらは出来ないので避けようがない。
しかし、せめて逃げる努力はしようと、空中機が向かった方向の反対方向に進む。いきなり、バリバリという音がして、チュンチュンと弾が飛んでくる。
『しまった、裏をかかれた』
あえて飛んでいた方向と反対に降りて、待ち構えていたらしい。その銃撃は威嚇でもなさそうで、殺してもやむを得ないということだろう。太い木の陰に隠れて見透かすと、葉の陰からちらちら見える敵は、3人ほどで銃を構えている。
彼は抵抗できる唯一の武器であるクロスボウで50~60mほどの先の敵に狙いをつける。このクロスボウは簡易・軽量の割に優秀だが、あの距離だと訓練でやった限りでは人体程度の大きさには多分、もしかしたら当たる距離だ。威嚇に満足したか、敵は銃を構えて近づいてくる。
「え!」彼はびっくりした。いきなり、近づいてくる3人の背後に人が2人現れたのだ。黒い巨人と、あれはハヤトだ!黒い巨人が滑らかな動きで、5mほど離れた距離を音もなく一気に詰めて、2人の首筋をトン!トン!と打つ。巨人は2人が崩れ折れるのを見て、かすかな音と気配に振り返ろうとしていた残り一人の銃を背後からもぎ取る。
白い肌、灰色の切れ長の目で長い尖った耳の男は、仰天して目を見開いて高い位置にある相手の黒い顔を見上げる。ヤフワは、すでに銃を構えて引き金に当たるボタンに指をかけて相手に向けている。
その状況を見てハヤトが、位置をはっきり知っている様子でマッカラムに向けて叫ぶ。
「おーい、俺はハヤトだ。助けに来たぞ。こっちに来てくれ!」
マッカラムはすっかり安心して、極度の緊張が解けて気が抜けた思いで「ありがとう。助かったよ。へたな弓を撃たなくて済んだ」言いながら、灌木をかき分けて彼らに近づいて行く。そういえば、あの巨人はハヤトの直卒隊の一員だったなと思う。
「さて、君の名前はカブラ・マーミルだな。このマダン総督府軍5万人の1人で、まあ中尉相当か。10億人のこの世界の者に比べて、支配する軍はたったの5万人か、少ないな。しかし、文官が2万で経済的に搾取しているわけか」
ハヤトが捉えた敵兵に、サーダルタ語・英語の翻訳機を通じてしゃべりかけると、マーミルは恐怖に顔をゆがめて叫ぶ。
『こ、こいつ。読心の魔法が使えるのか!読ませないぞ』
力んで読心を防ごうとするが、確かに読みにくくはなっているもののその気になれば可能だ。しかし、概ね必要なことは読み取ったので、当面は問題ない。
このマダンでは、サーダルタ帝国の支配の方法としては、マダン人の軍は解散させて警察組織は残している。またガリヤーク機によって空を支配しているので、通常配備の2千機のガリヤーク機と5万人の総督府軍で十分である。
総督府軍による、現地人を押さえるための小火器としては基本的に火薬を使った銃を使っている。銃はもともとマダン人が開発して使っていたものだが、サーダルタ人であれば意のままに爆発させることが出来るので、脅威にはなり得ない。
後は、銃火器としては大砲のようなもの、魔力で操る爆弾・ミサイルである。火薬を使った大砲はサーダルタ人には無力であろ、威力の大きい爆弾はこの世界の者には使えないので、武力ではマダン人は総督府には抵抗できない。
ところで、サーダルタ帝国の総力を挙げた地球への侵攻が完全に失敗して、殆ど全滅の被害を受けてたたき出されたのは、この世界の総督府にも承知されている。もちろん、その知らせはサーダルタ本国にも伝わって大騒ぎになっているようだ。
だから、本国からの命令で地球からの侵攻に備えるようにという命令があり、ガリヤーク機も1万機が補充された。その増強の結果、約百機の損害は生じたが、地球同盟側は地表近くの戦闘をあきらめて成層圏に逃れた。
総督府にとってみれば、地表近くの空の制空権は取っており、当面この世界の支配が脅かされることはない。だが、地球側の戦力が高空に上がって手を出せない状態であることから、不安でもあるし対応に苦慮しているところである。この点については、急ぎ帝国に総督府からの使者が向かっているという。
また、地球同盟軍の戦闘機が撃墜されて、パイロットが脱出したのは把握しており、全員をできるだけ生かしたまま捕虜にする命令が出ている。しかし、その命令が出たのが夜間であったことで、まともな体制が取られていなかったが、間もなく本格的な体制で捜索が始まるだろうというこのマーミルの見解だ。
また、地表近くの制空権はガリヤーク機によって確保されているので、パイロットの捕獲は急ぐことはないという総督府の考えである。空間転移/ジャンプが使えるものがいるというのは全く考えてもいない。ハヤトは近くに駐機してあった、小型バス大のサカン1号に入り込み操縦法をマーミルの抵抗を押し切って探り取る。
もともと、ガリヤーク機とサカン1号についての操縦方法は、EU諸国で捕獲したもので研究していたのだ。ただ、魔力のほとんどない白人には魔力を操縦に使うこれらの機の操縦はできない。ハヤトとしては高空の“ありあけ”と往復するより、できればある程度地上でパイロットを集めてまとめて移転させたい。
だから、彼はサカン1号を休憩所に使ってここにパイロットを集めることにした。まず、サカン1号が電波や魔力を出さないようにチェックしてすべての発生源を落とす。さらに、気絶しているサーダルタ人とマーミルを床に固定されている椅子に縛りつける。むろんそのための粘着テープはハヤトのマジックバッグに入っているのだ。
ハヤトはマッカラムからその名前他の必要なことを手早く聞いて、食料や水など当面必要そうなものをマジックバッグから出して渡し指示する。
「この機の中で待っていて欲しい。この周辺にはこうした機はいないし、ガリヤーク機もこの森の中の空き地のような地上近くには降りてこない。今から、君のように不時着したパイロットを集めてくる。とりあえず、こいつも気絶させていくけど、起きようとしたらこれで、ここを打ってまた気絶させてほしい。彼らは君を操る魔法を使える可能性がある」
そう言って、ハヤトはまたも出した金属棒で、縛られてもがいて文句を言っている、マーミルの首筋を少し強めに叩く。すると、そのエルフのようなサーダルタ人はクタ!と白目を剥いて静かになる。さらに、それを複雑な心境で見ていたマッカラムが、その金属棒を受け取った直後、ハヤトは黒い巨人と共に消え去る。
マッカラムは、人間がジャンプによって突然現れ、また消えるところを始めて見たわけであるが、身近で消える場合は局部的にウオンという音が出て局部的に風の渦が起き、風と減圧をはっきり感じる。
『なるほど、人体という物体が突然消滅するわけだから、空気がそこを埋めようとするわけだな』
そう考えながらも、自分の喉のきに渡されたソフトドリンクを有難く飲んで、サンドウィッチをむさぼるうち、開いたハッチからハヤトと黒い巨人ともう1人の3人が現れるのが見える。帰ってくる場合は、空中機のように椅子が並んでいるような邪魔ものが多いところは具合が悪いのだ。
このようにして、ものの30分もかからず、マッカラムを入れて7人に1体の死体が集められる。救助されたものは、ハヤトの与えた水を飲み食料を食べながら、順次サカン1号で座って待っているのだ。中には骨折など負傷している者もおり、最初からそこにいるマッカラムはサーダルタ人の見張りと共に仲間のパイロットの世話係を務めている。幸いサーダルタ人は目を覚まさず、マッカラムも金属棒を振るう必要はなかった。
最期に死体を腕に抱いたヤフワと現れたハヤトは、空中機の中に座っているパイロットたちに呼びかける。
「さて、まだ捕らえられていないものは救出した。今から“ありあけ”にジャンプで帰るので、私の周りに集まってくれ。それから、そうだな。折角だからそれなりに情報を持っているサーダルタ人を連れて行こう。ヤフワ、その死体をそこに置いて、最後に気絶させた奴を連れて来てくれ」
ヤフワはハヤトに「了解!」と頷き、パイロットたちがきびきびと外に出てくるのを待って機に乗り込み、取り出したナイフで縛っていたテープをはぎ取る。その後、まだぐったりしているその体を、肩に軽々と担ぎ上げてタラップを降りてくる。
ハヤトはぐったりした体を担いだヤフワと、足元の死体、さらにパイロットたちが自分の周りに集まってきたのを確認して、「いくぞ!」と声をかけて“ありあけ”の医療前室にジャンプする。
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雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
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