帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第12章 異世界へ潜入

12.10 異世界マダンの解放2

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 臨時大使イマリルーナルは、4時間ほどの協議の後に再度自分のオフィスのあるジルルカン市に戻り、必要な連絡をすぐさま実施した。国の宰相も務めていたアリージル帝国議会における彼の力と影響力は非常に大きく、彼の偵察隊=地球同盟との協議は信用され、かつ同意された。

 これは、地球側からサーダルタ帝国侵攻部隊との戦いを含めて、様々な動画を渡されており、それをテープの形で配布したことも信用を得た大きな要因であった。さらには、とりわけ最近になって、サーダルタ帝国の支配下に入って以来の技術・社会の停滞が、社会的な話題と不満の種になっていることが大きい要素の一つである。

 この種のニュース・書籍について、サーダルタ帝国としては厳しく取り締まっているが、その要員の少なさから穴が多く、とても地下出版を止める力はない。このため、ニューズレターや本、あるいは口コミで、こうしたサーダルタ帝国支配のネガティブな面は広く広まって、サーダルタ帝国への嫌悪感が広がっている。

 さらには、サーダルタ帝国がこのマダンが連接する世界の地球でぼこぼこに負けて、何隻かのガリヤーク母艦が逃げ帰った様子、さらに多数のガリヤーク機を動員して地球からの反攻に備えていることは、こうした媒体を通じて広く知られている。

 こうしたことから、イマリルーナルの呼びかけに応え、ガリヤーク母艦の基地に市街地が近接しているビビールク及びサリガムの両都市の指定された地区の住民の避難は、地元自治体の協力も得て、驚くほどスムーズにいった。
 元々、全惑星の居住可能面積は人口が地球と大差はない割に、10億人強と人口の少ないマダンはそれほど人々が密集して住む習慣がない。このため、近接した面積が大きい割に避難した人々の数も千人足らずであって、それほど目立つことなく人々の避難は済んだ。

 偵察隊は、すでにガリヤーク母艦の破壊のための攻撃機の割り当ては済ませていた。ガリヤーク母艦は、人口が6億に達するアリージル帝国(大陸)内で12カ所の基地に25隻、ジムカク大陸のカザムル帝国に4ヶ所で7隻、レクザース帝国に3ヶ所6隻が配置されている。

 これらの攻撃に当たっては、攻撃機“らいでん”及びコメットにより、高度100㎞からレールガンによることになっている。また、攻撃のタイミングはほぼ同時に行って、母艦が逃げ出して市街地に近づかないようにする計画だ。従って、住民の避難の状況の数回の確認の上で余裕をとって攻撃時間を決定して、攻撃機の“らいでん”とコメットがそれぞれの攻撃位置についた。

 さらに、住民の避難が必要な基地の攻撃が昼間になるように時間が定められたので、惑星の反対の位置にあるジムカク大陸の基地の攻撃は当然夜間になっている。
 攻撃の時間になり、ダラス司令官が「攻撃を開始せよ!」との命令を下した。

 サーダルタ帝国第3軍の第2艦隊レラーヌル119号の艦長、シザーネル・ジュラスは副長のシモラ・レーナルルとイライラしながら話している。
「艦隊司令部は何を考えているのだ!このように、地上に艦を係留していると敵の良い的だ。確かに彼らは我々が届かない高空に逃げてはいるが、あの高さから攻撃できないという保証はない」

 現在、この世界マダンには38隻のガリヤーク母艦がいるが、通常は4~5隻しかいないものがこの数になっているのは、地球からの侵攻を防ぐために、ガリヤーク機を運んできたためである。サーダルタ帝国の艦隊においては、ガリヤーク機と母艦の関係は固定されており、現在のガリヤーク機がマダンに配備されている限り、今の母艦はマダンに留まる必要があるのだ。この点を、ジュラス艦長は怒っている。

「何という、ばかばかしい規則だ。わが帝国には500隻ものガリヤーク母艦がいて、まさに無敵艦隊を成していた。それが、辺境の世界、地球への逐次投入によって300隻もの艦が失われてしまった。本当に、地球総督に任命されたアヌラッタ・シジン及び侵攻軍の司令官サンガ・マニューズ将軍は愚かな間違いをしたものよ。
 だから、残った母艦は帝国のために極めて貴重なものだ。なにしろ、それなくしては異世界へ渡ることはできないのだから。それをこの艦のように、むき出しで着陸させておくとは。今のところは現れていないが、わが母艦を容易に貫くという大威力の砲を積んだ攻撃機が現れたら一発でやられてしまう」

 その言葉に、聞かれていないか周りを見渡して副長レーナルルが上官をたしなめる。彼は、この艦長の有能さを高く評価しており、この艦長のような人材こそが将軍となって艦隊を率いるべきだと思っている。しかし、サーダルタ帝国の人材登用のシステムは魔法第一主義であり、魔力が強く魔法をうまく使えるものが上に登っていく仕組みになっており、如何に有能であろうが魔力が弱いものは艦長どまりである。

「艦長、そのような大きい声で、雲の上の上官のことを言われるものではないですよ。それに、この基地の上空には常時100機のガリヤーク機が哨戒していますし、地上にはさらに300機はスランブル状態で待機しています。地球でわが母艦を撃破したというその攻撃機はとても近づけないでしょう。
 それに、彼らの戦闘機はわがガリヤーク機に対して速度も兵器も優位にありますが、我々の機関砲によってかなりの数を撃墜しています。また、かれらの母艦はわずか4隻であり、その艦載の戦闘機はせいぜい400機足らず、さらに噂の攻撃機を載せていればさらに減ります。
 報告ではその攻撃機は動きが鈍く、機関砲を積んていないわがガリヤーク機でも対処が可能のようです。ですから、この艦のみならず母艦が攻撃されることはないでしょう」

 それを聞いて、ジュラス艦長はフッと笑った。
「そうであれば良いがな。彼らの主要武器は超高速の砲弾のようだ。私も地球で半ば破壊されて帰ってきた母艦を調査して、さらに乗員に聞き合せたがその砲弾の中に発火できる火薬はなかったようだ。だから金属の塊なのだろう。
超高空にいる彼らの位置から、あの砲で我々の艦に打ち込むことは理屈の上では可能だ。
 そうは言っても、いくら何でもあの高さから命中させることが出来るとは思えないが。しかし、地上の破壊を気にせずに多くの弾を打ち込めば、何隻か母艦を破壊出来るだろう。
 また魔力または機械的に砲弾あるいは爆弾を操ることが出来れば、命中は可能であろうが、聞いている弾速でしかも単なる砲弾ではそれは無理だろう」

 彼らには100kmの彼方から、魔法やまたは誘導装置によらず、砲を撃って精密に的に当てることのできる技術は想像もできなかったのだ。

 それは、アリージル大陸の基地からの連絡であった。その艦レラーヌル32号の艦長は危険知覚の魔法を使えるとして艦長仲間では有名であった。

「こちら、レラーヌル32号の艦長アミンスルだ。危険が迫っている。俺の艦のみではない。逃げろ!」
 レラーヌル119号の念話機にその連絡があったのは、もうすぐ昼食という時間であった。その緊急連絡の念話機で受けた通信を各々の艦長は直接受けられるのだ。

「なんだ、どうした。何が迫っているのだ?」
 ジュラス艦長はそのただならぬ警告にすぐさま問い返した。しかし、その反問は警告を受けたすべての艦長も行ったために、ごちゃごちゃになってまともに伝わらなかったようだ。

 しかし、アミンスル艦長は続ける。
「なにかは分からん。しかし、致命的なもので、何かが飛んでくるはずだ。また、それは上空にいる地球の艦隊が関係している」

 有能なジュラス艦長は直ちに叫ぶ。
「機関を始動しろ!」
 魔力を使って起動する魔力エンジンは、機械的なものより始動までの時間が非常に短いがそれでも遅かった。

 彼の艦は掩体に入っていないので、高空から撃たれて重力に加速された砲弾が秒速8.5kmかつ5万rpmの回転力を持って艦体のほぼ中央に撃ち当たった。それは、艦体の厚み20cmに達するサーダルタ帝国の科学の粋を集めた特殊鋼を轟音を立てて引き裂き、中の居住区及び艦載機の格納庫の隔壁、機器を引き裂きながら艦底の鋼板も引き裂き土中に潜り込んだ。

 その時点で弾丸は未だ6㎞/秒の速度を持っており、その回転力と相まってその巨大な運動量を熱に変え大爆発を起 こした。その爆圧は、大部分が弾丸が空けた穴から母艦の艦内に入り込んであらゆる内容物を破壊した。
 ジュラス艦長を始め艦橋に居た21名の内5名は、砲弾の回転力に引き裂かれて跳んできた鋼板に胴体や手足を切断され、その強烈なショックに声もなく倒れ伏した。ジュラス艦長と副長はその時点では助かったが、地中の爆発による爆風が艦内になだれ込んでその烈風で吹き飛ばされ、高温で焼かれてほぼ即死した。

 幅と高さが100mで長さが600mもある半円筒形の巨大な掩体に入っていた母艦も、掩体そのものがレールガンの弾に対しては全く防御の用をなさなかった。掩体は、巨大な円筒を柱無しに支えるために鋼製アーチ構造で作られているが、アーチの鋼板厚さはわずか25mmであり、巨大な速度の弾は単純に貫通して減速することもなかった。

 掩体に入っていた、ガリヤーク母艦の運命は野天で着地していた艦と全く同じ運命であったが、掩体が地中の爆発で吹き飛んだ点が少し異なっていた。魔法でこの砲撃を探知したアミンスル艦長も結局自艦を離陸させることはできず、他の艦長と同じ運命をたどった。

 このように、38隻のガリヤーク母艦は、それぞれ1発のレールガンの命中で乗員もろとも完全に破壊された。レールガンの弾が地中に潜り込んで爆発を起こすことは、当初から予想されており一発ずつの射撃で十分と判断されていたのだ。

 “らいでん”とコメット攻撃機は23機出動して、19カ所の母艦基地の上空約100㎞からそれぞれ担当の母艦に弾丸を打ち込んだ。100㎞の高さからの誤差は0.5mと想定されていたが、実際には強風が吹いていた地区で打ち込んだ弾が3mほどずれた。気流が乱れていた場合にはやはり誤差が出るのはやむを得ないが、長さ500mで径が55mもの艦への射撃ではその程度の誤差は問題なかった。

 攻撃機は基本的に2隻着地している基地には1機、3隻いる基地には2機というように配置し、1機で2艦を処分する場合には1発目を撃って1分後2発目を撃つことになる。
 サーダルタ帝国の第2艦隊は、地球上で撃破されたガリヤーク母艦は全て空中で撃たれたこともあって、上空をガリヤーク機で守って着地した状態で攻撃を迎えたわけである。これは、母艦が動かない方が守りやすいという判断もあってのことであった。

 この点は、電子頭脳による判断補助を実用化していないサーダルタ帝国の欠点であろうが、この判断は全くの裏目にでたことになる。母艦が空中にあれば、弾の持つエネルギーの多くは貫通する弾の運動エネルギーとして抜けてしまうが、艦の直下の地中に潜ったために、土の飛散を含めてそのエネルギーのすべてを受けることになってしまった。

 なお、ガリヤーク機の母艦護衛は全く無意味であったわけではない。それなりに濃密な編隊で上空を守っていたため、2つのケースで母艦を目指した弾丸は先にガリヤーク機に命中した。1つはガリヤーク機のほぼ中心を貫いたため、問題なく母艦に命中して、それを破壊したが、もう1つは機の側板に鉛直に当り弾の軌道をずらした。

 そのため、弾は母艦から10m外れて地中に潜り込んで爆発を起こしたが、それにより健全な状態の母艦を破壊するには至らなかった。そこで、その弾を撃った“らいでん”攻撃機は再度レールガンを撃って今度は無事に標的を破壊した。こうして、最後の攻撃を含めて8分間で“らいでん”とコメットの攻撃は終わり、38隻のガリヤーク母艦とその乗組員は全滅した。

 ガリヤーク母艦の全滅は、その艦載機であるガリヤーク機の機能に大きな影響を及ぼした。ガリヤーク機は殆ど全てその母艦のコントロール下で行動しており、保守及び補給機能も母艦を通じてのものである。また、成層圏に地球連盟の母艦と戦闘機が存在して、何時その攻撃があるか判らないという状態では、ガリヤーク機の多くは外に出て着地するか、または上空で哨戒に当たっていたが、その3割近くは母艦に収容されていた。

 従って、ガリヤーク母艦の破壊に伴ってガリヤーク機も3割程度が失なわれており、その数は7500機ほどに数を減じていた。その上、母艦を失ったガリヤーク機はその指揮を受けるシステムと上官を失った。何よりの問題は、食料・水及びマナ等の補給物資と補給手段、機体のメンテナンスの手段も失われたということになる。

 サカン1型、2型という輸送機は原則として地上基地で運用されるので、その一環として地上で運用されるガリヤーク機もあった。しかし、マダンではその数は2百機程度であって、到底7500機ものガリヤーク機の運用はできない。こうした中で最大の問題は、指揮系統を失ったガリヤーク機は当面組織立った運用ができないことであった。
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