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第13章 サーダルタ帝国との和解
13.13 使節団、襲撃される!
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“むつ”艦長、山木大佐は「大型艦及び小型機接近中!」の声に、はっと探知係下士官村木の方を見た。
「艦長、データを送ります」
続いて半ば叫ぶ村山曹長の声に、自分の手元のスクリーンを覗き込んだ。
探知係士官または下士官は、通常の500kmの探知レンジのレーダーの他に、指向レーダーによって探知距離の延ばすために、集束電波を送り出すことで2倍の探知距離を得ている。無論そのコントロールと探知はAIによっているが、その検知結果に異常があった場合には、検知係のスクリーンに音声と共に送られるのだ。
山木がスクリーンで判断するところでは、距離約800㎞に小艦隊が接近中であり、反応からするとガリヤーク機100機余と母艦一艦であろう。実のところ、艦を指揮する山木はサーダルタ帝国の軍が、軍事的には実質降伏に近い形の休戦を素直に飲むかどうかという意味で疑問があった。
旧日本軍においては、あれだけぼろぼろにやられていても、最後に特攻に赴いた者達がいたのだ。確かにサーダルタ帝国の艦船に対して、地球側の戦闘機・攻撃機は性能的に優勢であるが、聞くところではまだ帝国には、地球の現在の戦力を上回る数の艦船が残っている。
この点は、元ガリヤーク機母艦の艦長であったミールクに聞いてみた。彼女の回答は「ありうる」ということだから、気を緩めることは禁物であると考えて、部下にも言い聞かせている。
「“しでん”発艦、乗り組み次第順次発艦せよ。急げ!」
山木の命令に応じて、狭山飛行長が「了解!」の返事とともに乗員に“しでん”戦闘機に乗り組むように信号を送る。“むつ”には取り決めに従って“らいでん”は搭載していないが、“しでん”は80機定数搭載しており、パイロットは120名乗せている。
つまり、常に80名は起きておけるための配員である。これらパイロットには新開発の睡眠剤が配布されており、 飲んで一時間後には確実の眠りにつくことが出来、4時間以上眠れば確実かつ快適な寝起きを保証するものである。
これは、こうした戦闘員で時間帯を問わず行動に入る必要がある場合、さらには、航空機の高速化に伴って時差のある世界を短時間で移動する場合に重宝している。
艦長は、パイロットの招集とともに非常警報も出して、乗員も戦闘配置につけさせたので、艦に乗っている外交官及びマスコミ関係者を含む約120名に、この事態はただちに伝わることになった。
外交関係の責任者たるアメリア・カーター、及びマスコミの幹事を務めるワシントン・ポストのジミー・クレソンには副長の斎藤中佐から連絡している。まずはカーター女史への連絡だ。
「マダム カーター、ガリヤーク母艦と思われる大型艦とガリヤーク機と思しき小型機の編隊が近づいてきています。現在700㎞の位置で、秒速0.5㎞で使づいていますが、こちらの誰何には回答はありません。
戦闘機と思われる小型機はまだ増えていますので、母艦から発進を続けているものと思われます。わが方も“しでん”戦闘機を発艦させはじめました。」
「わかりました。必要な措置を取ってください。私も艦橋に行きます」
斎藤からの通話にカーター女史が応じ、その時にたまたま協議中であったサーダルタ帝国のカウンターパートである、帝国の外交官のサザナ・ジュマルンに声をかける。
「サザナ、大型艦1隻と小型機の編隊が近づいているようです。こちらも戦闘機を発艦させ始めていますから、戦闘になるかもしれませんね」
「ええ!ガリヤーク母艦とガリヤーク機でしょうか?」
若い女性外交官は顔色を変えるが、カーター女史は冷静に返す。
「まだ、確たることは言えませんが、戦闘が始まるとすればもうすぐです。まあ、艦橋に行ってみましょう。あなたにも相手に呼び掛けてもらう必要があるかもしれない」
艦橋には、すでにハヤトは来ており、サーダルタ帝国の連絡武官であるミジラム・マサル-ナも呼ばれてきており、艦長の山木の求めに応じて正体不明の編隊に呼びかけている。
『私は、帝国中央軍の法務官であるミジラム・マサル-ナ大佐だ。貴艦の所属を明らかにし、直ちに接近を停止せよ。このままでは私の乗る艦と戦闘状態に入ることになる。地球との休戦は皇帝陛下の御命令だ。お前はそれに逆らうのか?答えよ!』
無論サーダルタ語である。
「答えはありませんね。ハヤトさん、あれはサーダルタ帝国軍のガリヤーク母艦とガリヤーク機ですよね?」
山木大佐の問いに、探査をしていたハヤトが答える。
「ええ、そうです。間違いないです。すでに、約200機が発艦して、さらに順次発艦を続け、戦闘態勢を取りつつあります。まあ、たぶんこの世界キリマララのサーダルタ帝国の駐屯軍の一部でしょう。
このまま遭遇戦になるとやばいですね。このむつは打撃力は強力ですが、装甲はそれほど強くはなくガリヤーク母艦に劣りますからね。ガリヤーク機の空中爆弾でも穴が空くでしょう。発進したガリヤーク機は全速で近づいていますので、接敵まで10分は要しないですよ」
「ガリヤーク機確定であって、多分サーダルタ帝国の不満分子ですね。もう1分ほどで、最後の“しでん”が離艦します。心配ありません。この“むつ”は最大5Gの加速ができるのですよ。ガリヤーク機の最高速度は秒速2㎞ですから、要は追いつかれないように逃げればいいのです。
かれらの空中爆弾、実質魔力で飛ぶミサイルですが、5Gで加速するこの艦には追いつきませんよ」
ハヤトの言葉を聞いた山木艦長は、艦橋に入ってきたカーター女史一行にも聞かせるように言う。それにハヤトが反問する。
「しかし、彼らがすでにそれなりの速度になっていると加速で勝っているといっても交叉するのではないですか?ああ、それはすでに計算の上ですか」
「はい、全力加速中に“しでん”の発艦は危険ですから、まだ加速していませんが、AIで彼らに追いつかれないようにちゃんと計算させています」
「ということは、もともと逃げようと思えば逃げられたわけですか?」
今度はカーター女史が聞くと、艦長が答える。
「その通り、それに成層圏に逃げればどのみち追ってはこられません。しかし、そうなるとサーダルタ帝国の指定する位置での転移が出来ないことになります。だから、こちらが状況を支配することができるということを示すために“しでん”を発艦させたのです」
「なんと、そういうことですか。速度で負けているのでガリヤーク機は追いつくこともできないのですか。では、最初からこの艦に危険はなかったと」
サーダルタ帝国軍のマサル-ナ大佐が複雑な表情で言う。
「近距離で戦おうとすれば、危険はありますよ。この艦でもガリヤーク機の積んでいる空中爆弾の直撃をうけたら、被害を受けますし、母艦に備えている大型ミサイルを食らえば木っ端みじんでしょう。ですから、多分20~30㎞以内の距離に近寄ったらこれらが命中する可能性があります。
しかし、そのように近づく必要はないのです。わが方の主力兵器であるレールガンの射程は非常に大きいですから、ガリヤーク母艦はこちらをその兵器の射程に収める前に撃破可能です。ガリヤーク機は小回りが利くので、この艦をもって遠距離で撃破するのはちょっと無理ですが、それは“しでん”戦闘機の役割りです。
地球では我が方も相当な被害を受けましたが、あれは守るべき街が、人々があったからです。マダンでの被害もあれは母艦を守るためのものです。フリーでこの“むつ”と今接近している艦隊と闘えば、こちらの損害はゼロで全滅させることが可能です」
「し、しかし、戦闘機同士の戦いでゼロとはいかないでしょう?」
自軍がそれほど劣っていると信じたくないマサルーナ大佐が反論するが、山木艦長は冷静に答える。
「いや、“しでん”はガリヤークに比べて加速に優れ、レールガンの射程もはるかに長い。まず、空中爆弾ではやられないでしょう。さらに、ガリヤークには今は火薬式の機関砲を設置しているようですが、それでやられるような距離に近づく必要はないのです。ですから、時間をかければまず問題はないでしょう」
その言葉に、マサルーナ大佐が顔いろを悪くして意気消沈する。
「艦長!最後のしでんが発艦しました」
航空長狭山が報告するのに、山木が命じる。
「よし、後退する。5G加速だ。飛行長は“しでん”には当面敵ガリヤーク機及び母艦に近づかないで遊弋するように命じてくれ」
「了解、敵機、敵艦に20kmより近づかないように命じます」
狭山は復唱して、指揮下の“しでん”にそのように命じる。
「さて、我々はこの状況をどうするかです。今の状況をほおっておけば、いつまでもサーダルタ帝国には行けないことになります。サーダルタ帝国からのこの行動をもってして、引き返すのも一つの選択肢ではありますが、これは使節団の決めることです」
艦長の言葉にカーター女史は顎に手を当てて、一瞬考え込みすぐに艦長に問い返す。
「木山艦長、この艦はいつまでもガリヤーク機から攻撃を受けずに逃げることが可能なわけですか?」
「いえ、“むつ”はいつまでも逃げられますが、しでんはバッテリー駆動かつ一人乗りの機なので、いつまでもは無理です。20時間と限らせてください」
「攻撃して、相手を追い払うまたは殲滅することも可能なのですね?」
「追い払うような機動は、反撃を食いますので難しいですね。相手が逃げ出すまで、相手のガリヤーク機を破壊することはできます。あるいは母艦を最初に破壊するかですね」
「ふむ、そうね。マサルーナ大佐、サザナ・ジュマルンさん、これはあなた方の役割りのようね。この“むつ”と、すでに離艦した“しでん”戦闘機は、迫ってきているガリヤーク母艦とガリヤークの編隊を全滅させることも可能です。
そういう目に遇いたくなかったら、どこかに行って下さいというのが我々地球側のお願いです。それを、あなた方の元同僚に伝えてくれませんか?」
カーター女史の言葉に2人のサーダルタ帝国人が答える前に、山木艦長が口を挟む。
「その連絡をする前に、まず彼らが我々を捕まえることはできないということを納得してもらう必要があると思います。そうですね1時間ほど逃げ回ればわかるでしょう」
「それもそうね。すこし、待ちましょう」
カーター女史が同意する。
「先頭のガリヤーク機との位置関係は、距離350km、速度2.0km/秒です。こちらは加速を始めたばかりですが、約50秒で2.0㎞/秒の速度になります。まあ、摩擦熱を考えるとこの程度の速度でいいでしょう。その時点での距離はまだ250km以上ありますから十分安全ですよ。
“しでん”も、先ほど飛行長の言ったように20㎞以上離れるように言っていますから、問題ありません。“しでん”の場合、10㎞以下の距離になれば大体ガリヤーク機だ破壊できますから、もっと近づきますがガリヤークの攻撃からはまず安全です。
この“むつ”でガリヤーク母艦を攻撃する場合には、この高度だと空気の動きによる影響が殆どありませんから、100㎞でもほぼ100%撃墜できます」
山木艦長の言葉に、マサルーナ大佐の顔色はますます悪い。
「私は、貴帝国の皇帝陛下の御英断に感心したのですよ。長い歴史もある大帝国の責任者として、地球のような未だ惑星規模の統一もされていないちっぽけな世界と対等の条約を結び、さらには、今まで支配していた世界を手放すというのは大変な決断だったと思います。
あの戦いで、地球においても20万人を越える犠牲者はでましたが、帝国はそれに劣らない犠牲がでました。あのまま、戦いを続けていたら何倍もひどいことになったでしょうが、それを冷静に受けとめられるというのはまた別の話です。また、反対もあったでしょう。それを実際に実行された皇帝陛下を私は尊敬します」
ハヤトの言葉にマサルーナ大佐が大きく頷く。
「その通り。たしかに、あの決断には恐れ多くも皇帝陛下を非難する者もおりました。しかし、陛下のご決断は正しかったのです。正直なところ私自身も今それが心から納得できました。それを愚かなあの者達は!」
そう言って、大佐はスクリーンに浮かぶ光点をにらみつける。
やがて1時間がたった。その間、ガリヤーク母艦は大きな動きをしていないが、ガリヤークはしでんを追って必死の機動を行うが、どうあっても攻撃できる距離に近づくことはできない。それを光点の動きで追っていたマサルーナ大佐は、カーター女史が促すのに答えてマイクを握る。
『ガリヤーク母艦、32-3227、キリマララ駐屯地軍の者だと思うが、再度皇帝陛下に代わって命令する。すぐに原隊に帰りなさい。もうわかったであろう、私の乗っている地球の母艦は我が帝国のガリヤーク機より早く加速も鋭い。さらに、彼らの武器は弾速が早く射程はわれわれの数倍は長い。
つまり、かれらは好きなように距離をとり、安全な距離から好きなように料理ができるのだ。もとより、君らは自らの命を懸けてのことではあろう。しかし、今回の行為で死に至っても全くの愚か者の犬死だ』
彼は、一旦言葉をきり、先ほど山木艦長と合意した話をする。
『君らの艦からこの地球の艦“むつ”まで約100kmだ。君らに攻撃の術はない。しかし、この艦は君らを撃破できる。それを見せよう、この艦から今から撃つ弾は君らの艦を打ち抜くことができる。それは、地球とマダンで証明されている。その弾を君らの艦の艦橋の上部の10mほどの上を通過するように撃つ。
これが出来れば、むつのガンは君らの艦を自由に撃破できることを認めるだろう。いいか、今から10カウントする、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!』
その言葉と共にかすかに艦が揺れ、径150mm長さ500㎜の弾が発射される。それは100kmの距離を10秒で駆け抜け、まさに大佐が言った位置を抜けていった。
『わかったかね』
マサルーナ大佐の言葉に回答があった。
『わかった。私はキリマララ駐屯地軍航空監察官のイジラ・ムルダンだ。たしかにこれで攻撃をしようとして撃破されたらまさに犬死だ。ついてきた部下たちをそのような無様な死に追いやるわけにはいかない。原隊に復帰する。さらばだ』
ガリヤーク母艦は減速し、ガリヤーク機は母艦に向かい始めた。
「艦長、データを送ります」
続いて半ば叫ぶ村山曹長の声に、自分の手元のスクリーンを覗き込んだ。
探知係士官または下士官は、通常の500kmの探知レンジのレーダーの他に、指向レーダーによって探知距離の延ばすために、集束電波を送り出すことで2倍の探知距離を得ている。無論そのコントロールと探知はAIによっているが、その検知結果に異常があった場合には、検知係のスクリーンに音声と共に送られるのだ。
山木がスクリーンで判断するところでは、距離約800㎞に小艦隊が接近中であり、反応からするとガリヤーク機100機余と母艦一艦であろう。実のところ、艦を指揮する山木はサーダルタ帝国の軍が、軍事的には実質降伏に近い形の休戦を素直に飲むかどうかという意味で疑問があった。
旧日本軍においては、あれだけぼろぼろにやられていても、最後に特攻に赴いた者達がいたのだ。確かにサーダルタ帝国の艦船に対して、地球側の戦闘機・攻撃機は性能的に優勢であるが、聞くところではまだ帝国には、地球の現在の戦力を上回る数の艦船が残っている。
この点は、元ガリヤーク機母艦の艦長であったミールクに聞いてみた。彼女の回答は「ありうる」ということだから、気を緩めることは禁物であると考えて、部下にも言い聞かせている。
「“しでん”発艦、乗り組み次第順次発艦せよ。急げ!」
山木の命令に応じて、狭山飛行長が「了解!」の返事とともに乗員に“しでん”戦闘機に乗り組むように信号を送る。“むつ”には取り決めに従って“らいでん”は搭載していないが、“しでん”は80機定数搭載しており、パイロットは120名乗せている。
つまり、常に80名は起きておけるための配員である。これらパイロットには新開発の睡眠剤が配布されており、 飲んで一時間後には確実の眠りにつくことが出来、4時間以上眠れば確実かつ快適な寝起きを保証するものである。
これは、こうした戦闘員で時間帯を問わず行動に入る必要がある場合、さらには、航空機の高速化に伴って時差のある世界を短時間で移動する場合に重宝している。
艦長は、パイロットの招集とともに非常警報も出して、乗員も戦闘配置につけさせたので、艦に乗っている外交官及びマスコミ関係者を含む約120名に、この事態はただちに伝わることになった。
外交関係の責任者たるアメリア・カーター、及びマスコミの幹事を務めるワシントン・ポストのジミー・クレソンには副長の斎藤中佐から連絡している。まずはカーター女史への連絡だ。
「マダム カーター、ガリヤーク母艦と思われる大型艦とガリヤーク機と思しき小型機の編隊が近づいてきています。現在700㎞の位置で、秒速0.5㎞で使づいていますが、こちらの誰何には回答はありません。
戦闘機と思われる小型機はまだ増えていますので、母艦から発進を続けているものと思われます。わが方も“しでん”戦闘機を発艦させはじめました。」
「わかりました。必要な措置を取ってください。私も艦橋に行きます」
斎藤からの通話にカーター女史が応じ、その時にたまたま協議中であったサーダルタ帝国のカウンターパートである、帝国の外交官のサザナ・ジュマルンに声をかける。
「サザナ、大型艦1隻と小型機の編隊が近づいているようです。こちらも戦闘機を発艦させ始めていますから、戦闘になるかもしれませんね」
「ええ!ガリヤーク母艦とガリヤーク機でしょうか?」
若い女性外交官は顔色を変えるが、カーター女史は冷静に返す。
「まだ、確たることは言えませんが、戦闘が始まるとすればもうすぐです。まあ、艦橋に行ってみましょう。あなたにも相手に呼び掛けてもらう必要があるかもしれない」
艦橋には、すでにハヤトは来ており、サーダルタ帝国の連絡武官であるミジラム・マサル-ナも呼ばれてきており、艦長の山木の求めに応じて正体不明の編隊に呼びかけている。
『私は、帝国中央軍の法務官であるミジラム・マサル-ナ大佐だ。貴艦の所属を明らかにし、直ちに接近を停止せよ。このままでは私の乗る艦と戦闘状態に入ることになる。地球との休戦は皇帝陛下の御命令だ。お前はそれに逆らうのか?答えよ!』
無論サーダルタ語である。
「答えはありませんね。ハヤトさん、あれはサーダルタ帝国軍のガリヤーク母艦とガリヤーク機ですよね?」
山木大佐の問いに、探査をしていたハヤトが答える。
「ええ、そうです。間違いないです。すでに、約200機が発艦して、さらに順次発艦を続け、戦闘態勢を取りつつあります。まあ、たぶんこの世界キリマララのサーダルタ帝国の駐屯軍の一部でしょう。
このまま遭遇戦になるとやばいですね。このむつは打撃力は強力ですが、装甲はそれほど強くはなくガリヤーク母艦に劣りますからね。ガリヤーク機の空中爆弾でも穴が空くでしょう。発進したガリヤーク機は全速で近づいていますので、接敵まで10分は要しないですよ」
「ガリヤーク機確定であって、多分サーダルタ帝国の不満分子ですね。もう1分ほどで、最後の“しでん”が離艦します。心配ありません。この“むつ”は最大5Gの加速ができるのですよ。ガリヤーク機の最高速度は秒速2㎞ですから、要は追いつかれないように逃げればいいのです。
かれらの空中爆弾、実質魔力で飛ぶミサイルですが、5Gで加速するこの艦には追いつきませんよ」
ハヤトの言葉を聞いた山木艦長は、艦橋に入ってきたカーター女史一行にも聞かせるように言う。それにハヤトが反問する。
「しかし、彼らがすでにそれなりの速度になっていると加速で勝っているといっても交叉するのではないですか?ああ、それはすでに計算の上ですか」
「はい、全力加速中に“しでん”の発艦は危険ですから、まだ加速していませんが、AIで彼らに追いつかれないようにちゃんと計算させています」
「ということは、もともと逃げようと思えば逃げられたわけですか?」
今度はカーター女史が聞くと、艦長が答える。
「その通り、それに成層圏に逃げればどのみち追ってはこられません。しかし、そうなるとサーダルタ帝国の指定する位置での転移が出来ないことになります。だから、こちらが状況を支配することができるということを示すために“しでん”を発艦させたのです」
「なんと、そういうことですか。速度で負けているのでガリヤーク機は追いつくこともできないのですか。では、最初からこの艦に危険はなかったと」
サーダルタ帝国軍のマサル-ナ大佐が複雑な表情で言う。
「近距離で戦おうとすれば、危険はありますよ。この艦でもガリヤーク機の積んでいる空中爆弾の直撃をうけたら、被害を受けますし、母艦に備えている大型ミサイルを食らえば木っ端みじんでしょう。ですから、多分20~30㎞以内の距離に近寄ったらこれらが命中する可能性があります。
しかし、そのように近づく必要はないのです。わが方の主力兵器であるレールガンの射程は非常に大きいですから、ガリヤーク母艦はこちらをその兵器の射程に収める前に撃破可能です。ガリヤーク機は小回りが利くので、この艦をもって遠距離で撃破するのはちょっと無理ですが、それは“しでん”戦闘機の役割りです。
地球では我が方も相当な被害を受けましたが、あれは守るべき街が、人々があったからです。マダンでの被害もあれは母艦を守るためのものです。フリーでこの“むつ”と今接近している艦隊と闘えば、こちらの損害はゼロで全滅させることが可能です」
「し、しかし、戦闘機同士の戦いでゼロとはいかないでしょう?」
自軍がそれほど劣っていると信じたくないマサルーナ大佐が反論するが、山木艦長は冷静に答える。
「いや、“しでん”はガリヤークに比べて加速に優れ、レールガンの射程もはるかに長い。まず、空中爆弾ではやられないでしょう。さらに、ガリヤークには今は火薬式の機関砲を設置しているようですが、それでやられるような距離に近づく必要はないのです。ですから、時間をかければまず問題はないでしょう」
その言葉に、マサルーナ大佐が顔いろを悪くして意気消沈する。
「艦長!最後のしでんが発艦しました」
航空長狭山が報告するのに、山木が命じる。
「よし、後退する。5G加速だ。飛行長は“しでん”には当面敵ガリヤーク機及び母艦に近づかないで遊弋するように命じてくれ」
「了解、敵機、敵艦に20kmより近づかないように命じます」
狭山は復唱して、指揮下の“しでん”にそのように命じる。
「さて、我々はこの状況をどうするかです。今の状況をほおっておけば、いつまでもサーダルタ帝国には行けないことになります。サーダルタ帝国からのこの行動をもってして、引き返すのも一つの選択肢ではありますが、これは使節団の決めることです」
艦長の言葉にカーター女史は顎に手を当てて、一瞬考え込みすぐに艦長に問い返す。
「木山艦長、この艦はいつまでもガリヤーク機から攻撃を受けずに逃げることが可能なわけですか?」
「いえ、“むつ”はいつまでも逃げられますが、しでんはバッテリー駆動かつ一人乗りの機なので、いつまでもは無理です。20時間と限らせてください」
「攻撃して、相手を追い払うまたは殲滅することも可能なのですね?」
「追い払うような機動は、反撃を食いますので難しいですね。相手が逃げ出すまで、相手のガリヤーク機を破壊することはできます。あるいは母艦を最初に破壊するかですね」
「ふむ、そうね。マサルーナ大佐、サザナ・ジュマルンさん、これはあなた方の役割りのようね。この“むつ”と、すでに離艦した“しでん”戦闘機は、迫ってきているガリヤーク母艦とガリヤークの編隊を全滅させることも可能です。
そういう目に遇いたくなかったら、どこかに行って下さいというのが我々地球側のお願いです。それを、あなた方の元同僚に伝えてくれませんか?」
カーター女史の言葉に2人のサーダルタ帝国人が答える前に、山木艦長が口を挟む。
「その連絡をする前に、まず彼らが我々を捕まえることはできないということを納得してもらう必要があると思います。そうですね1時間ほど逃げ回ればわかるでしょう」
「それもそうね。すこし、待ちましょう」
カーター女史が同意する。
「先頭のガリヤーク機との位置関係は、距離350km、速度2.0km/秒です。こちらは加速を始めたばかりですが、約50秒で2.0㎞/秒の速度になります。まあ、摩擦熱を考えるとこの程度の速度でいいでしょう。その時点での距離はまだ250km以上ありますから十分安全ですよ。
“しでん”も、先ほど飛行長の言ったように20㎞以上離れるように言っていますから、問題ありません。“しでん”の場合、10㎞以下の距離になれば大体ガリヤーク機だ破壊できますから、もっと近づきますがガリヤークの攻撃からはまず安全です。
この“むつ”でガリヤーク母艦を攻撃する場合には、この高度だと空気の動きによる影響が殆どありませんから、100㎞でもほぼ100%撃墜できます」
山木艦長の言葉に、マサルーナ大佐の顔色はますます悪い。
「私は、貴帝国の皇帝陛下の御英断に感心したのですよ。長い歴史もある大帝国の責任者として、地球のような未だ惑星規模の統一もされていないちっぽけな世界と対等の条約を結び、さらには、今まで支配していた世界を手放すというのは大変な決断だったと思います。
あの戦いで、地球においても20万人を越える犠牲者はでましたが、帝国はそれに劣らない犠牲がでました。あのまま、戦いを続けていたら何倍もひどいことになったでしょうが、それを冷静に受けとめられるというのはまた別の話です。また、反対もあったでしょう。それを実際に実行された皇帝陛下を私は尊敬します」
ハヤトの言葉にマサルーナ大佐が大きく頷く。
「その通り。たしかに、あの決断には恐れ多くも皇帝陛下を非難する者もおりました。しかし、陛下のご決断は正しかったのです。正直なところ私自身も今それが心から納得できました。それを愚かなあの者達は!」
そう言って、大佐はスクリーンに浮かぶ光点をにらみつける。
やがて1時間がたった。その間、ガリヤーク母艦は大きな動きをしていないが、ガリヤークはしでんを追って必死の機動を行うが、どうあっても攻撃できる距離に近づくことはできない。それを光点の動きで追っていたマサルーナ大佐は、カーター女史が促すのに答えてマイクを握る。
『ガリヤーク母艦、32-3227、キリマララ駐屯地軍の者だと思うが、再度皇帝陛下に代わって命令する。すぐに原隊に帰りなさい。もうわかったであろう、私の乗っている地球の母艦は我が帝国のガリヤーク機より早く加速も鋭い。さらに、彼らの武器は弾速が早く射程はわれわれの数倍は長い。
つまり、かれらは好きなように距離をとり、安全な距離から好きなように料理ができるのだ。もとより、君らは自らの命を懸けてのことではあろう。しかし、今回の行為で死に至っても全くの愚か者の犬死だ』
彼は、一旦言葉をきり、先ほど山木艦長と合意した話をする。
『君らの艦からこの地球の艦“むつ”まで約100kmだ。君らに攻撃の術はない。しかし、この艦は君らを撃破できる。それを見せよう、この艦から今から撃つ弾は君らの艦を打ち抜くことができる。それは、地球とマダンで証明されている。その弾を君らの艦の艦橋の上部の10mほどの上を通過するように撃つ。
これが出来れば、むつのガンは君らの艦を自由に撃破できることを認めるだろう。いいか、今から10カウントする、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!』
その言葉と共にかすかに艦が揺れ、径150mm長さ500㎜の弾が発射される。それは100kmの距離を10秒で駆け抜け、まさに大佐が言った位置を抜けていった。
『わかったかね』
マサルーナ大佐の言葉に回答があった。
『わかった。私はキリマララ駐屯地軍航空監察官のイジラ・ムルダンだ。たしかにこれで攻撃をしようとして撃破されたらまさに犬死だ。ついてきた部下たちをそのような無様な死に追いやるわけにはいかない。原隊に復帰する。さらばだ』
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母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
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同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
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「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
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これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
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