帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第14章 異世界との交流が始まった地球文明

14.5 反撃、ジムカク2

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 ミモザラ共和国の首都ミモザでは、支配者ノメラによるジュラムス市侵攻のための第2陣である第2大隊の準備が整っていた。兵の数は2500人であるから、送り込む兵の数は倍増するわけである。送り出しの責任者のモーマラ・アジマ少将は、イライラしながら能力者の準備ができるのを待っていた。

 現地責任者のポラサル・サキイ少将からの念話による連絡では、ジュラムス市にはすでに地球から提供された戦闘機が飛びまわり、その上ザラムム帝国からの兵力が送り込まれている。そのため、すでに人質を確保している以上の行動は出来ないでいる状態であり、その中で100人に近い兵が連絡を絶っている。

 なにより、制空権を完全に取られているのが痛い。しかも、その戦闘機は極めて高い加速性能と、自在に空中に留まることができる浮遊性能を持っている。今のところ、持ち込んだ機関銃で3機の戦闘機を撃墜したというが、1機は緩やかに着地したのでパイロットが脱出したらしい。

 しかし、現状では戦闘機は警戒して、機関銃のある位置には低い高度で飛ばないし、高度を下げる場合には動き回ってとても狙いを付けられないという。これらの戦闘機は、ミモザラ共和国の技術レベルでは全く想像もできない性能であり、送り込んだ兵も殆ど身動きができない。

 従って、次に送り込む大隊には、戦闘機に有効であることが判った機関砲を、できる限りの数を持たせることになった。その数は150基であり、その機関砲がある場所には殆ど戦闘機が近づかないということは、機関砲もっている隊は戦闘機からは安全であるということだ。むろん、それも人質があってのことであるが。

 アジマ大佐は、精力的に機関砲を集めるなど、送り出しの責任者を務めているが、これ以上の兵をジュラムス市に送り込んでも意味がないと思っていた。空を支配されているということは、動きを全て見張られているということだ。その状態で占領地域を広げることなどできるはずはない。

 そこで、当面ジュラムス市に送り込むのを止めて、150㎞離れている港町であるラムチャン市に送り込み先を変えることを提案して、軍本部の承認を得た。彼らも状況の行き詰まりを認識しているのだろう。また、ラムチャン市には現在潜水艦が忍び寄っているところであり、その受け入れ態勢を作るためにも兵を送り込む必要があるのだ。

 ノメラとしても、機関銃などの小火器のみでザラムム帝国の一部なりとも征服できるとは思っていない。しかし、魔法による空間ゲートのみでは大型兵器の持ち込みはできない。だから、密かに持ち込める手段として潜水艦を考え、長期間かけて大型の艦を100隻建造したのだ。

 このような潜水艦を建造したのは、水上艦によって過去に何度か侵攻の試みたものの、サーダルタ帝国の哨戒機により発見されて、その船が捕らえられるか破壊されたことによる。これらの艦の推進には、ディーゼルエンジンを用いてシュノーケルを使ってものであるが、速度は遅く、その航行には最低25日を要する予定であった。

 この潜水艦により、大型の火砲及び戦闘車両を運び込むことになる。さらに戦闘機を運ぶという話もあったが、かさばる上に、サーダルタ帝国のガリヤーク機に対しても勝てる機は存在しないので、無駄ということになった。増して、この戦闘機ではガリヤーク機を明らかにしのぐ、地球からの重力エンジン機には全く敵わない。

 いずれにせよ、潜水艦は機材を運ぶことを重視しているが、兵員も合計すれば2500名を乗せている。この潜水艦は、予定ではあと数日で港町であるラムチャン市近郊に着く予定でになっている。潜水艦の誘導は潜入工作員が行うが、ラムチャン市を征服しているに越したことはない。

 だから、ラムチャン市の征服は元々の計画に入っていたので、アジマ大佐のその前倒しの意見が取り入れられた面もある。ようやく、転送の要員の魔力が回復して必要な数が揃った。魔法要員に位置に着かせ、魔法要員の指揮をとるデオラムスに声をかける。

「よいなデオラムス、少し荷が多いが、バイクと人員のこの数と資材を通してくれ」
 そう言って手を振って、25列に並んでいる50台づつのサイドカー付きの動力2輪車(バイク)隊を指す。

 バイクの座席には1名がまたがり、もう1名はサイドカーに乗っているが、その後部には大きな荷台が乗っていて、荷物が満載されている。さらに、サイドカーには小銃の架台があって各々2丁が取りつけられている。
 確かに、この大隊の機動力はなかなかのものであろう。ジュラムス市にも同じ編成で乗り込んだので、市内に素早く展開できたのだ。今回は前に比べとりわけ機関砲の台数を増やしているので、その分バイクの機動力が落ちることはやむを得ない。

「はい、大佐殿、何時でもゲートを開けます」
 デオラムスの返事を聞いて、大隊長のムズスス中佐に確認する。本来は、サキイ少将の指揮下に入るが、目的地が変更になったので、今回はムズスス中佐が独立して指揮をとることになる。

「では、ムズスス中佐。あそこにゲートが形成されるので、できるだけ早く通過せよ。当然最初に通過するものは、銃を構えて置き直ちに現地人を排除せよ。今のところ、ラムチャン市には小火器を持った警官しかいないはずだ」

「はい、大佐殿。皆聞いたな。第2中隊の第22隊の50台が先にゲートを通過せよ。辺りにいる現地人は取りあえず排除のこと。ゲートの位置はラムチャン市の船着き場の広場で十分広さはあるはずだ。各小隊長の指揮のもと、一旦は現地で整列し、順次分散することになる。各小隊はそれぞれの展開位置を解っているな?」

 続けて言う大隊長のムズスス少佐の言葉に小隊長が一斉に答える。
「「「はい、了解しました。展開地点は了解しています!」」」

 早朝のラムチャン市の波止場において、船の荷役が行われている。辺りはまだ、すこし薄暗いが普通の作業には支障はない。それは千トンほどの貨物船から、港のクレーンを使ってパレット上に固定された荷が順次トラックに降ろされている。ジュラムス市での惨劇は承知しているが、帝国内の物流を止める訳にもいかないのだ。

 クレーンとトラックの運転手及び荷役に従事する者、監督と10人ほどが働いているが、最初に気づいたのは最も高所にいるクレーンの運転手である。
『うん、あれは何だ?』
 今作業しているふ頭の隣は空いているが、その陸側の大きな広場に、何かが現れている。そこには、青白い門のようなものが出来て、そこから次々に何かが走り出ており、その3つほどが近づいてくる。

 近づいてくるあれは、サイドカー付きのバイクだ!唖然として見ていると、そのサイドカーに乗っている兵士らしき者達が銃を構えているのに気が付いた。そのクレーンのオペレーターはサーダルタ帝国の侵攻以来殆ど実物は見ていはいないが、テレビの中で小銃を使われているのは見ており、その形と用途は知っている。

 彼は下で作業している仲間に警告を発した。
「おおい!銃を持っている者が近づいてくるぞ。気を付けろ!」

 そう叫びながらも実際に生命の危機になるとは思っていなかったが、5台のサイドカーに乗っている銃手は警告することなくかつ躊躇いなく撃った。いわゆるマシンガンではないが、狙いをつけて1秒に1発程度の射撃速度で目に入る人を撃つ。ダン、ダン、ダン、ダン。

 頭上5mの運転席のオペレーター、トラックの荷台で荷下ろしをしていたトラックの運転手とその助手は狙い撃ちにより、血をまき散らして倒れ、動かなくなった。それは、岸壁上から3mほど上の船のデッキにいて指図をしていた監督も同様で、胸を貫かれて一旦岸壁上に落ち、さらに船と岸壁の隅間から海に転げ落ちる。

 サイドカーが接舷している船から降りている階段の横に止まり、それらから5名が飛び出して階段を3段飛ばしで走りあがる。その中の2人は、銃声にも様子がわからず上を見上げている船倉内の5人に向けて、またしてもダン、ダン、ダンと銃の狙いをつけて撃つ。5人のあるものは頭部を、あるものは胴を撃たれて血をまき散らして倒れ伏す。

 他の3人は、船の操縦室に向けて小走りに急ぐが、ちょうど一人が駆けてくるのを見て、同様に狙いもつけずその胸を撃つ。その後、その3人は船の中を捜索して、操縦室の士官らしき1名、船員室にいた2名を射殺する。このようにして、侵攻軍第2大隊は、そのふ頭のに居合わせた目撃者、または目撃する可能性のあるものを全て排除することに成功したのだ。

 彼らがこのように、船員を処分している間にも、続々と侵攻部隊が続き、最後に大隊長のムズスス中佐が指揮車(小型4輪車)に乗って現れたので、2500人の大隊がすべてそろったわけである。彼等は、これから市内に散って、この人口5万人の都市で適当な人質を取って支配を固めにかかる訳であるが、新生ザラムム帝国軍と地球同盟の駐屯軍も何もしていない訳ではなかった。
 
 かれらは、監視・通信機能を充実させた“らいでん”改を、ジュラムス市の高空に浮遊させて見張っている。地球同盟では、地球からの通信で空間ゲートのようなものが、使われた可能性について現地に連絡している。そして、その場合には魔力の大規模な発散があるはずだということで、魔力レーダーにそのような魔力を検知したら、その位置に急行するように提言している。

 その早朝、“らいでん”改2-011は、果たして大規模な魔力の発散をキャッチした。その状況を慎重に探り、検出結果を記録の後、直ちに本部に連絡をして、その指示のもとにしでんのパイロットに緊急連絡を入れる。
「“しでん”第3小隊、第5小隊及び第8小隊の30機、座標〇〇〇、×××、▽▽▽へ向かえ。これはラムチャン市だな。ノメラ侵入の可能性あり。5Gの加速で直ちに発進せよ!急げ、人々に接触させるな」

 空中で浮遊している“しでん”の半分は、機内で座席をリクライニング状態にして、仮眠を取っていたが、半数は起きて待機状態だった。命令を受けた30機は指示された座標に直ちに向かう。第3小隊の小隊長のダンヌ・カマンラ少尉は、5Gで加速しながら、なおも本部から同じく指定された座標に向かう戦闘機群へ向けた通信に耳を傾ける。

「現在の分析では、目標地点は港町であるラムチャン市の海際の港湾があるところである。現地に着いたら直ちに、状況を出来るだけクリヤーに撮影せよ。それが事実、ノメラの侵攻部隊だったら、彼らが市内に侵攻しない内に撃破する。
 方法は敵の足元の地面にレールガンを打ち込む。このことで、小規模な爆弾程度の爆発が起きることになる。いいか、狙いをつけるために時間を使うなよ。さらに、君らも聞いているように機関銃によって撃墜されたわが方の戦闘機がいる。動きのない状態で上空に留まるな。常に動くことを怠るな」

 聞いたカマンラ少尉は、小隊の列機に編隊を組まて、加速を続けながら小隊につけられている指導士官の神坂少尉に相談する。神坂は彼女らの教官を務めており、今回の出動では、これらの教官が各10機の小隊の指導士官として付けられている。

「こちらカマンラ少尉。カミサカ少尉、このように我が第3小隊は目標地点でフライパスして、本部からの承認があり次第攻撃をするこということでよろしいでしょうか?」

「こちら、神坂。うん、全機でフライパスしてまた戻って攻撃するのは、少なくとも5分程度を要すので危険だ。だから、まず私の機と第5小隊の指導士官のカミラ・ミダン少尉と先行して、映像をとり本部の了解を取るので、君たちは秒速0.5kmで銃撃せよ。しかし、敵性ではないと判断された時は無論フライパスだ。ミダン少尉、よろしいか?」

 今回の3小隊の指導士官の中でも先任である神坂の声にミダン少尉が応じる。
「こちらミダン。神坂少尉の提言に賛成する、指示を頼む」
「こちら神坂、よろしい、では、速度が秒速1㎞に達したらその速度で急行して現地を偵察する」

 僅か5分後、座標点の上空1㎞を通過しつつ、神坂が本部及び近づいてくる列機に映像を送りつつ、連絡する。
「こちら、第2小隊指導士官神坂中尉。座標地点にノメラと思われる大群、多分2千以上が集結。1台の4輪小型車の他は全員がサイドカー付きのバイクに乗っている。これらは、ジュラムス市を襲ったノメラと特徴が一致する。
 また、近傍の路上と船上に荷揚げをしていたと思われる死体が見られる。2分後に上空に到着する、第2、第5、第8小隊によって攻撃したい。攻撃の許可を求める」

「こちら本部、30秒待て!………。こちら、本部ダマラム大佐。よろしい、攻撃を許可する。奴らを市内に入れるな!」
 本部に詰めていた、作戦本部長のダマラム大佐は、バイクに乗った大群と散乱する死体を映す画面を見て、すぐ腹を決めた。彼は、通信員にマイクを求めて自ら攻撃許可を出した。

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