帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第14章 異世界との交流が始まった地球文明

14.6 反撃、ジムカク3

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 侵攻部隊第2大隊長、ムズスス中佐は、丁度そこにあった台に立ちすっかり明るくなった広場に整列した部下たちを見渡した。そこからは、整列した部下の後方数百m離れた沖側の堤防の手前にすこし油の浮いた港の水面が見える。早朝の港には人影はない。

 中佐が部下に向かって口を開こうとした時、部下から叫びが上がる。
「中佐殿!敵が近づいてきます。速い、空からです!」
 その声に、中佐も近づいてくる殺気に気づいてその方向を見上げる。そこには確かに豆粒のような20~30の何かが殺到して来るのが見えるが、一切の音はない。如何に轟音を出すものであろうと、音速を超える速度で近づく物から前方に音が聞こえる訳もない。

 しかし、それらからは間違いなく濃厚な殺気が漏れている。中佐は、ここで集合させるなどという愚行を実行した自分の判断を後悔しながら叫んだ。
「総員、散れ!市内に入り込め!急げ!」

 その声に流石に鍛えられた大隊員はとっさに動こうとしたが、余りに密集しすぎていた。隊列の端にいたものはバイクのエンジンをかけて、アクセルをふかして道路に向かって動き始めたが、中にいる者は自分の両側のバイクが動かないと身動きがとれない。

 中佐が、叫びながらも見上げるその豆粒がそれぞれチカ!と光り、何かが飛び出したような気がしたら、ドン!ドン!という重なった音と黄白色の火の玉が隊列の中に発生する。それは、約1㎏の25mm砲弾が舗装と激突して、その運動量を熱に爆発的に変えた結果起きた高熱と爆発である。

 その爆発力は150mm砲弾の爆発に相当し、熱ははるかに高い。約250m四方に整列していた2500台のバイクの隊列に、28発のそうした爆発が起きた結果はすさまじいことになった。そもそも、編隊によるこうした砲撃は、AIによる統制射撃によっている。

 従って、射撃は重ならないように調整されているが、通常にくらべ極めて小さい範囲に射撃が集中することになったことから、完全に均等に分散することはなく、ある程度重なる部分が生じた。しかし、その着弾は250m四方のエリアをはみ出すことはなく、ほぼ同時に起きた。6haの範囲に、28発の150mm砲弾が同時に着弾したらどうなるか。

 径2mほどの爆炎に捕らえられた、人体やバイクのプラスチックやゴムなどの有機材は瞬間的に蒸発し、金属は溶解した。その発熱の結果生じた物質の蒸発によって、瞬間的なそれらの拡散、すなわち爆発が起きた。いくつもの黄白色の発熱部が目立つなかに、人体が混じる様々な分解された物質が爆発により飛び散り、バイクも人を乗せたまま舞い上がっている。

 しかし、それで終わりではなかった。1秒後には、もう一連射が来た。そして、28機のしでん戦闘機はフライパスして行き、ようやく上空500m余を飛んでいくそれらからの、キーンという甲高い風切り音が遅れて聞こえてくる。
隊列から遠ざかろうとするバイク30台余は一旦停止した。彼らとしては仲間の救助を考えたのだろう。

 しかし、爆発で飛ばされたものの軽症で済んだ指揮官であるムズスス中佐から「行け。留まるな。市内に散れ!」との怒号に応じて、再度発進してその地獄の情景から遠ざかろうとする。

 そこに、編隊から分離していた2機の“しでん”が反転してきた。かれらは、敵にはすでに反撃の術がないことを確認して、上空500mにほとんど停止して、落ち着き払って1秒に1発の射撃を始める。その射撃から、市内に向かったバイク群は逃れることはできなかった。先頭の数台を破壊され、その爆発に巻き込まれるものも多く、それを避けて行こうとするとさらに破壊され、順次破壊される。

 しかし、大隊は全滅したわけではなかった。派手な爆発は起きたが、その密度の低い部分では多くの兵員と機材が生き残っていた。その中にはバイクで逃げ出すもの、徒歩で逃げ出すもの、さらには機関銃を組み立てて“しでん”を撃墜しようとするものもいる。

 そこにフライパスした28機が反転して来る。フライパスした速度が秒速0.5㎞と低かったので反転も早かったのだ。かれらは、すでに現場上空に居座っている指導士官の命令で、まず組み立てられた機関銃を狙う。再度、バイクとその破片や死体が散らばり、尚も赤熱の火の壺が散乱するエリアに黄白色の爆発が起き、人体と機材が飛び散る。

 機関銃が排除されたのを確認しながら、合計30機のしでんが辺りを飛びまわって、1台のバイク、1人のノメラも逃さないように砲撃を加えていく。指揮官のムズスス中佐は、指揮車としての小型4輪車で逃げようとした時に砲撃されて殺害された。
 彼は死ぬ間際まで、なぜ彼らの大隊がこのように早く発見されて対処されたのか怒りと共に困惑していた。空間ゲートによる移送は見つかるはずはないと、彼もノメラ上層部も信じていたのだ。

 ノメラは、魔法を効率よく使ってはいたが、空間ゲートは魔力を撒きちらすこと、またそれを検知できる魔力レーダーの存在そのものを知らなかったのだ。彼らは、運が悪かったと言えるだろう。ノメラの侵攻を受けて、地球のアナザ基地に“むさし”が帰還した時に、そこにハヤトがいたのだ。

 ノメラ対策の会議の最大の問題になった一つは、どうやってノメラが突然5千㎞離れた都市に現れたかであった。それに対して、ハヤトが空間ゲートの可能性を示唆したのだ。これは彼がラーナラで魔族と闘っていた時に、魔王が空間移動のみならず、ゲートを使っていたのを知っていたからである。

 空間移動には多大の魔力が消費されることは明らかであり、その似た手法である空間ゲートの発動には間違いなく大きな魔力消費がある。そのハヤトの示唆に従って、アナザ基地からジムカク駐屯地へ連絡がいったのだ。なお、異世界への通信には、地球側の成層圏に無人異世界通信センターが軌道速度で周回しており、地球に隣接している4世界に対して、1日に24回転移装置を起動させて繋ぎ両世界からの通信を媒介している。

 こうした地球側の行動の結果、ノメラの2回目の侵攻は失敗に終わった。ノメラの侵攻要員の約2500名のうち、生き残ったものは32人であったが、彼らは全て負傷して意識がなくなった者達である。一通りの掃討が終わり、逃げ出す可能性がなくなったところで、“しでん”からは降伏するようにアナウンスはしたが、帰って来たのは小銃の銃弾であったので、動くものについては殲滅したのだ。

 その後、地球人の陸戦隊を含む地上兵が送り込まれたが、意識のあるものは抵抗を止めなかったのでやむを得ず射殺したので、意識を無くし確保されたもののみが捕虜になったということだ。これで、当面の問題はジュラムス市で人質を取って立てこもっているノメラ2千数百人である。
 また、彼等は空間ゲートをもっており、またどこかに侵攻してくる可能性はあるのだが、今回のラムチャン市侵攻が失敗していることは認識しているだろう。だから、続けて同じことをする可能性は低いと見られている。

 そこに、母艦“むさし”が“はりま”を伴ってジムカクに帰ってきた。直ちに、会議が開かれた。会議には新生したザラムム帝国軍の司令官のカミラム・ムンゾス大将と、作戦部長のミウラム・ジクラ少将他の軍人3人と皇太子のサザムイ・カザル・ザラムム殿下が出席している。

 地球側は、ジムカク派遣軍司令官の三村省吾大将(少将)に駐屯軍のトマス・カージナル大佐、むさしの山路艦長、はりまの井川艦長さらにハヤトがその直卒部隊と一緒に加わっている。地球側は慌ただしい協議の結果、陸戦隊500名を出すことに決定し、そのメンバーは身体強化のできる日本兵と台湾兵に限ることになったのだ。

 その指揮と、駐屯軍の陸戦隊の指揮に加え、ザラムム帝国との調整のために、三村少将が派遣された。しかし、ザラムム帝国軍に指揮権を主張されても困るので、48歳の三村少将をジムカク限定で大将として派遣することになった。ハヤトは、マナが濃いジムカクであれば、十全の魔法を使えることもあり、ノメラが相当に強力な魔法を使える可能性が高いことから自分で派遣軍に加わることを主張し、やむを得ないと認められたものだ。

 お互いの紹介の後に、三村が口火を切った。
「まず、今回の作戦の目的を明らかにしたいと思います」
「そんなものは、明らかではないか。あの、ノメラのくそどもを殲滅することだ!」
 ザラムム帝国軍の司令官のムンゾス大将が、まくしたてる。三村はうんざりして舌打ちしたい思いで言い返す。

「いや、最終の着地点を決めないと、投入戦力も、個々の戦闘の仕方も決まりません。まず、今回の作戦の目的は、ノメラに主導されているレガシピ亜大陸の侵攻に際して、ジュラムス市の解放と、今後の侵攻を防ぐこと、さらに今後ノメラによる侵攻の可能性を排除することです。違いますか?」

「い、いや。まあ。その通りだな。し、しかし、今回の作戦はわがザラムム帝国で行われるものだから、当然、公爵であり帝国軍司令官たるわしが指揮を執る。よいな」

「良くありません。残念ながら、閣下は我が方の戦力である戦闘機、攻撃機、母艦、さらに陸戦隊の能力とその運用方法をご存知ありません。従って、今回の作戦の多くはザラムム帝国内で行われるものではありますが、機材はいずれにせよ我が方のものを使います。
 そのことから、私も上司から、今回の作戦の指揮権は地球側で持たせて頂くように求められています。従って、作戦の指揮は私に執らせて頂きたい。しかし、当然地元の方々からの問題、とりわけ今回の人質解放は残念ながら犠牲なしとはいかないと思いますので、その点の決断などはあなた方の協力が不可欠です」

「それは、許さん。わしが国軍の司令官だ。帝国領内におけるすべての指揮権はわしが持ちわしが作戦を決める」
 ムンゾス大将は頑固に言うが、皇太子がにこやかに言う。

「ムンゾス公爵、貴下の帝国に対する長き貢献は我が皇室にとっても、国民にとっても尊いものだ。今回の作戦、ノメラという侵略者の退け、その今後の侵略の恐れを無くすことはようやくサーダルタ帝国の支配から逃れた我が国にとって重要なことだ。
 それに対しては、出来るだけ当方の犠牲がでないように、効率的に行う必要がある。そのためには、三村大将の言われるように、使用する機材と戦力を正確に把握している方々にその作戦を講じてもらうことが必要だと私も思う。

 それと、申しておきたい。貴殿は公爵であり、帝国にとっては尊い立場であり、国民に対しては当然のことに貴ばれる立場だ。しかし、異世界の人々にはそうではない。今後、地球のみならず多くの異世界の方々と付き合っていく必要がある。その際には我々王族・貴族は、帝国の人々と触れ合うようにはいかないということを私自身も胆に銘じているところだよ」

 まだ若い皇太子は、一旦言葉を切って自国の軍人たちを見回して続ける。
「どうだろうか。この件はどちらが主導権などという問題ではなくて、適材適所ということで、すでに明確な作戦をお持ちの三村大将の作戦で直ちに行動を開始すべきと思うが。またわが帝国も、ムンゾス大将は総司令官としても責務でこれは激務であるから、わが軍の本作戦の責任者はジクラ少将とした方が良いと思うが……」

「はい、皇太子殿下!私が本作戦担当として当たらせて頂きます」
 中年の目の鋭い少将は皇太子の言わんとすることを読み取って起立して、掌を相手に向けるこの国の敬礼をする。それを見て、ムンゾス大将は何か言おうとしたが、皇太子の顔を見て諦めて言う。

「はい、殿下、それでよろしいと思います」
 その幕間劇を興味深く見ながら三村は再度口を開く。

「では、続けさせて頂きます。作戦目的は先ほど申した通りですが、いざ実行となるとなかなか難しい面があります。それは、ノメラの徹底した人質作戦にあります。
 ラムチャン市の例に見るように、彼等だけが孤立している場合は、あの程度の戦力を殲滅するのは簡単です。しかし、ジュラムス市では人質を取って立てこもっているために、こちらから手を出せません。
 一つの方法は、薬剤を使ってある催眠ガスを発生させて、彼らを人質と共に眠らせることです。地球にそうした薬剤はありますが、地球人に対してでも危険性もあり、生理面で異なるこの世界の方には危なくて使えません」

 そう言ったとき、ザラムム帝国の軍人は互いに顔を見合わせて、ジクラ少将が言う。
「そのような薬剤はあります。液体に粉体を混ぜるとガスを発生するのですが、そのガスを吸うと少なくとの3時間以上は眠り込みます。我が国では手術する時に使っていますので安全です」

「それは、有難い。そういうことだと、早めに片付けられる可能性が高くなります。ただ、問題は眠る前にガスを嗅がせられたことを悟って、人質を殺す可能性があります。その点はどうなのでしょうか?」
 議論はなおも続く。
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