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第2章 過去の文明への干渉開始
43. 1492年10月、肥料の採取
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現在、日本政府は豪州とアメリカ共和国にて農場を開発して植え付けを開始している。さらに、日本国内においても内地の休耕地の再整備と北海道において農場を開拓しており、それらの農地に肥料が必要になる。肥料に関しては、有機肥料という言葉がもてはやされ、化学肥料は嫌われる傾向にあるが、よほど規模が小さい農業はともかく、化学肥料を使わない農業は現実的でない。
その需給に関してはそれほど話題にはなっていなかったが、他の多くの原材料と同様に、これも国産では到底賄えないことは明らかであった。窒素、リン酸、カリウムが植物の3大栄養素であり、いずれも原料を海外から輸入することが必要である。
しかし、窒素について原料は空気中の窒素なので殆ど無限に存在するし、現在ではハーバー・ボッシュ法などにより空気中の窒素を固定できる。しかし、窒素肥料にするにはまずアンモニアを合成することが必須であり、このために水素が必要であるので、原料の一つに天然ガスを用いることが最も経済的なのである。
日本では、現状では主要な窒素肥料として硫安を作っているが、もう一つの尿素は全量輸入に頼っている。だから、硫安は国内生産工場に全力での増産を依頼して、年内に現在の生産量である60万トンの2倍の生産を要請しているが、これは何とか達成できそうである。
また、昨年の尿素の輸入量は26万トンであったので、農地の増えた国内生産については120万トンの硫安でで賄えると考えられている。開発地については、その地力が落ちていない(つまり、肥効分が消費されていない)ので肥料は不要であった。
だが、1年後には、豪州・加州向けとして100万トンの増産が必要なので、現在最高の優先度として硫安と尿素の工場建設が進んでいる。
一方で、リン肥料の原料はリン鉱石であり、これは日本にはほとんど存在しない。リン鉱石は中国に多く、アメリカでも18億トンの埋蔵量が確認されているが、必要な量は日本の国内向けの原料が150万トン、豪州、アメリカ向けが100万トン程度である。そこで、海岸から非常に近く、露天掘りであるため開発が非常に容易であるナウル島の資源を採取することに決定された。
ナウル島は全島が鳥の糞で覆われており、資源量は1億トンに近いと言われているので、当面の活用には十分である。ナウル共和国は、20世紀においてリン鉱石の輸出の利益によって1980年代には世界で最も富裕な国になった。
しかし、1990年代半ばには資源が枯渇してその富を使い果たし、怠惰になった国民の多くが糖尿病に罹患しているというある意味有名な国である。
現在の人口は千人に満たず、大部分が漁猟と農業で生計を立てている。日本政府は、ここでの当面の採取は年間250万トンとするが、徐々に採掘量を減らし、年間100万トンの程度の採掘に安定させて長く島民に利益をもたらすことにしている。この島は太平洋の真っただ中にあり、豪州と日本の航路に非常に近いために、運搬にも極めて都合がよい。
水上義人は42歳、農水省の技官であり、農地開発の専門家であり、8年程はJICAから派遣されてマラウイとケニアで農村整備に係わって来た。その経歴を買われてのナウル・リン鉱石開発団の団長であり、部下に210人の技術者と技能者及び会計・総務担当が配置されている。
彼は、リン鉱山開発をナウル島で行うことが決定された4月末に日本を発って、5月上旬にナウル島に到着した。随行しているのは副団長で50歳のゼネコン出身の狭山健吾に港湾担当の室田和仁に加え、ナウル共和国出身のウレン・ダブドとミラヌ・ゾバスの4人であった。
ナウル出身の2人は、いずれも22歳の若者であり、残った質の低いリン鉱石を細々と掘った収入に頼っている祖国に愛想を尽かせて、日本に渡ってきたものだ。そして、日本がナウルの開発をするという記事を見て応募してきたのだ。
彼らが乗って来た船は、豪州に向かう船から下ろされた10人乗りのボートであり、船外機によって10ノットの速さで航行できる。帰りは、同じ船であるパシフィック12号に拾ってもらうことになっている。えらく安直な方法であるが、ナウル開発が決まったのが出発直前であり、超特急案件である。
そのことから、事前に現地を見ない事には人員の機材も決められないということから、水上が決断してこの方法をとったのだ。
パシフィック12号にしてみれば、ナウルの沖を通るのは殆ど廻り道にならないので問題はなく、帰りは荷と人を下した後なので、荒天などで時間を食っても問題はない。ナウル島は長径約5㎞、短径3㎞の一部が欠けた楕円形である。海岸は砂浜に囲まれており、まだリン鉱石の採掘がおこなわれていない現在は、島の内陸部はなだらかな小高い丘になっている。
砂浜に乗り上げて、ボートの艫から水の浅いところにサンダルで身軽に降りた水上は「ひえー、これが全部リン鉱石か!」思わず眼の前の丘を見て叫んだ。副団長の狭山も全く同感であった。長身で、色が浅黒く細身で身が軽い水上に比べ、中背のやや太り気味で動きの重い狭山は船を降りるのも一苦労であった。
それにしても、このちっぽけで、なだらかな丘でからなっている島の標高は30m位か、これが鳥の糞の化石であることはいささか信じがたい。これは、180億トンあると言われる世界のリン鉱石の1億トンに過ぎないが、一カ所に集まっている量と掘りやすさ、搬出しやすさでは一番だろう。
海辺は砂だし、地形はなだらか、しかも範囲が狭い。鋼製の桟橋を作り、そこから重機を揚陸して、鉱石はダンプからベルトコンベアに落として、コンベアを海に突き出してその下に船を持ってきて積む。鉱石の掘削はオープンカットだから、リッパーで鉱石を起こしてシャベルカーでダンプに積む。
採掘の最初は、桟橋までのダンプの走る距離も精々500m足らずだろう。年間最大250万トンの輸送となると、ちょっと大きな設備は、鉱山での鉱石の破砕機と沖に300mほど突き出すコンベア設備で、それも時間400㎥の輸送能力のコンベアが2系列必要だな。
船の往復1航海が20日として、5万トンの船を使った場合には必要な船は4隻か、大したことはない。そのように頭の中で計算する狭山だった。上陸した海岸近くには、ヤシが生えて岡は草に覆われており、灌木がぽつりぽつりと生えているが、島の中央部には固まって林がある。
さらに、少し離れたところには集落が見えて、10人ほどの人がこちらに向けて歩いてくる。また、集落の近くには丸木船が舫われているようだ。近づいてくる彼らは、背は少し低く色は浅黒く目は鋭くて、頭髪が縮れており体は引き締まっている。
その意味では彼らは、迎える21世紀人のウレン・ダブドとミラヌ・ゾバスを少し引き締めた感じである。やって来た男性6人は、皆腰みのをつけて上半身は裸であり、多かれ少なかれ刺青を入れている。頭の白い老年に差しかかった一人と2人は少年であり、他は20歳台から40歳台に見える。
ラフなTシャツのダブトとソバスが進み出て、ナウル語で交互に彼らと話し始めた。水上は、ダブトとソバスとは彼ら2人にとっても大きな関心事である現地の人々の待遇について話をしている。日本側としての基本的な方針は、後に建国する国の国民として遇するというもので、極端な富は与えるつもりはない。
ただ、ナウルは単一の国としては小さすぎて、成立が困難である。だから、リン鉱石を掘削する会社組織を立ちあげて、住民をその社員としてそれなりに豊かな生活を送れるようにする。また、リン鉱石を他の地域で採取できるようになった後は、採掘量としては年間100万トン位に抑えて、50年以上は採掘を続けられるようにするというものである。
その間に、住民の子孫は十分なスキルを身に付けて、どこに行っても暮らしていけるようにしようというもので、2人も住民側に入るということで納得している。彼らは、一生懸命地元の人と話していたが、最初はなかなか話が通じないようだった。
それはそうだろう。500年のギャップと21世紀の文明に知識の差があるのだからやむを得ない。しかし、だんだん会話が進むようになってきて、やがて2人がタブレットを出してそれを使って様々に説明し始めた。
さらに、彼らに様々な贈り物をして歓心を買って、島の開発を認めさせることができた。20世紀以降の近世において、太平洋の島々の人々の土地に対する執着は激しいものがあるが、この時代はまだ人口も少ないこともあって、殆ど土地の私有という概念がなく、そのことも交渉がスムーズにいった要因の一つであった。
このようにして、現地調査の結果から人員と装備を準備して、8月中旬には開発団をナウル島に乗り込んだ水上以下の一行であったが、1ヶ月で揚陸用の桟橋を完成した。そして、工事の途中から可能になったので重機を揚陸して、10月上旬には表土をはぎ取って第1期の工区10haについて鉱石をむき出しにしている。
それに並行して、海沿いの土地を造成して5haの建設基地を建設して、210人の日本人及びオーストラリア人の職員の宿舎と事務所を設置している。さらに、鉱石破砕機とコンベアの組み立てが始まっている。また作業基地の中には売店があって、赤ん坊も入れて現地のナウル人882人に配ったそれぞれ10万円によって、買い物ができるようにしている。しかし、これらが十全に機能するようになるのは12月末である。
また、学校も作って子供も大人も日本語を習いたい者は学習できるようにする準備している他に、彼らの家を建てることも約束している。これは、規格化されたプラハブ住宅で、1家族4人以下の場合は50㎡の平屋であり、電気も引かれて照明、冷蔵庫、テレビ、扇風機等が使えるようになる予定である。
10月末の時点では、作業基地もまだ完成はしていないが、第1工区において、鉱石の掘り起こしと破砕が始まっており、12月初めに来る予定の鉱石運搬船への積み込みを始める予定だ。
―*-*-*-*-*-*-*-*-
また、肥料としてのカリウムについては塩化カリウムが主要な原料になっており、カナダとロシアなどが主要な埋蔵地になっている。カナダの塩化カリウム鉱山は、中西部の21世紀にサスカチュワン州という、ロサンゼルスから陸路で3000kmもの距離の地域に集中している。
これは余りに遠いということで、21世紀ではシアトルになる場所に港を作って、そこから1500kmの距離を陸路で結ぶことにした。幸い、鉄鉱石・石炭などと比べ量が大幅に少なく、必要量は年間130万トン程度なので、現在ダンプが通れる道路を建設中であるが、並行して鉄道も敷設すべく準備をしている。
この地域にはウラニウムの鉱山もあるので、南アのウラン資源と共に日本の原発のために採掘する予定にもなっている。サスカチュワンをもじって、サスカ鉱山群と名付けられた塩化カリウムの鉱山開発団を担当するのは、国交省の技官であり、水上と同様に海外の道路建設に携わった経験が長い八島重人、51歳であり、副団長はやはりゼネコン出身の水谷隼人、55歳である。
こちらは、陸揚げ港であるシアトルから1500kmもの道程であり、半分は山脈を縫って走ることになる。やはり、八島と水谷は下見に現地を訪れているが、沿岸から直線で1200kmの距離である、だから、護衛艦“ひゅうが”を使ってシアトルまで行き、飛行可能距離が3500kmに及ぶオスプレイを用いて飛んだ。
道路のルートはカナダ側の国道7号線から3号線を用いて、ロッキー山脈を越えて中央大平原に出ることになる。これは当然これらの道路が出来るルートは、道路を建設しやすい地形であるためだ。道路ルートの下見と、鉱山の下見を済ませていったん帰国して、人員と機材を準備してシアトルに着いたのは7月の初めである。
この間に、揚陸のための桟橋建設班は現地に入っており、到着した機材はすぐに揚陸できた。
彼らの道路建設のやり方はブルドーザー、バックホー、ダンプトラック、クレーン車、鋼材を積んだトラック、オイルタンカートラック等を連ねた大コンボイを組んで、道を作りながら進んで行くというものだ。
また、道路には少なくとも砂利を敷かないと車両は通過できないので、補助的に通過点の近傍の河川から砂利を取る班も配置している。さらに、途中で当然橋を懸ける地点も数多いため、その為の鋼材を港から運ぶ班も必要になっている。
このような道路造成班だけで、技術者50人、運転手を含めた技能者350人が動員されている。さらには、鉱山にはオスプレイによって20人の調査班が送り込まれており、道路が到達したら、直ちに採掘が始められるように必要な機材の調査を行っている。
道路建設班が、ようやくロッキー山脈を抜けたのは、2ケ月半後の9月中旬、その後平原部を1ヶ月で抜けて、最初の採掘予定のアスカ1号鉱山に到着したのは10月下旬になろうとする頃であった。現地で調査に当たっていた責任者の笠谷春樹は、ゴウゴウという音を立ててきた、コンボイから降り立った2人を見た。
それは、薄汚れたザンバラ髪の、日に焼けてやつれ果てた顔の上司の八島と水谷の姿であり、日本で最後に会ったエリート然とした面影は殆どなかった。笠谷はそれを見て胸を打たれた。しかし一方で、そのやつれた2人が顔をほころばせて笑っているのをみて、彼らの苦労を察すると共に使命を達成した喜びに心から共感した。
確かに道路建設が最もハードであることは確かで、彼らの使命の峠は越えたことになる。一方で、鉱山開発そのものは露天掘りであり、それほどの困難はなかったが、寒冷地であるカナダ南部での鉱石採取・積み出しの仕事はやっつけ仕事の道路の悪条件もあって、鉱石の運搬において苦労は大きかった。
それでも、厳冬期前の掘削と粉砕機材の準備によって冬季の掘削が可能になった。そのお陰で搬出が捗り、翌年の春から300台の大型ダンプによって、アスカ鉱山群の塩化カリウムは、計画通りに搬出することができた。
その需給に関してはそれほど話題にはなっていなかったが、他の多くの原材料と同様に、これも国産では到底賄えないことは明らかであった。窒素、リン酸、カリウムが植物の3大栄養素であり、いずれも原料を海外から輸入することが必要である。
しかし、窒素について原料は空気中の窒素なので殆ど無限に存在するし、現在ではハーバー・ボッシュ法などにより空気中の窒素を固定できる。しかし、窒素肥料にするにはまずアンモニアを合成することが必須であり、このために水素が必要であるので、原料の一つに天然ガスを用いることが最も経済的なのである。
日本では、現状では主要な窒素肥料として硫安を作っているが、もう一つの尿素は全量輸入に頼っている。だから、硫安は国内生産工場に全力での増産を依頼して、年内に現在の生産量である60万トンの2倍の生産を要請しているが、これは何とか達成できそうである。
また、昨年の尿素の輸入量は26万トンであったので、農地の増えた国内生産については120万トンの硫安でで賄えると考えられている。開発地については、その地力が落ちていない(つまり、肥効分が消費されていない)ので肥料は不要であった。
だが、1年後には、豪州・加州向けとして100万トンの増産が必要なので、現在最高の優先度として硫安と尿素の工場建設が進んでいる。
一方で、リン肥料の原料はリン鉱石であり、これは日本にはほとんど存在しない。リン鉱石は中国に多く、アメリカでも18億トンの埋蔵量が確認されているが、必要な量は日本の国内向けの原料が150万トン、豪州、アメリカ向けが100万トン程度である。そこで、海岸から非常に近く、露天掘りであるため開発が非常に容易であるナウル島の資源を採取することに決定された。
ナウル島は全島が鳥の糞で覆われており、資源量は1億トンに近いと言われているので、当面の活用には十分である。ナウル共和国は、20世紀においてリン鉱石の輸出の利益によって1980年代には世界で最も富裕な国になった。
しかし、1990年代半ばには資源が枯渇してその富を使い果たし、怠惰になった国民の多くが糖尿病に罹患しているというある意味有名な国である。
現在の人口は千人に満たず、大部分が漁猟と農業で生計を立てている。日本政府は、ここでの当面の採取は年間250万トンとするが、徐々に採掘量を減らし、年間100万トンの程度の採掘に安定させて長く島民に利益をもたらすことにしている。この島は太平洋の真っただ中にあり、豪州と日本の航路に非常に近いために、運搬にも極めて都合がよい。
水上義人は42歳、農水省の技官であり、農地開発の専門家であり、8年程はJICAから派遣されてマラウイとケニアで農村整備に係わって来た。その経歴を買われてのナウル・リン鉱石開発団の団長であり、部下に210人の技術者と技能者及び会計・総務担当が配置されている。
彼は、リン鉱山開発をナウル島で行うことが決定された4月末に日本を発って、5月上旬にナウル島に到着した。随行しているのは副団長で50歳のゼネコン出身の狭山健吾に港湾担当の室田和仁に加え、ナウル共和国出身のウレン・ダブドとミラヌ・ゾバスの4人であった。
ナウル出身の2人は、いずれも22歳の若者であり、残った質の低いリン鉱石を細々と掘った収入に頼っている祖国に愛想を尽かせて、日本に渡ってきたものだ。そして、日本がナウルの開発をするという記事を見て応募してきたのだ。
彼らが乗って来た船は、豪州に向かう船から下ろされた10人乗りのボートであり、船外機によって10ノットの速さで航行できる。帰りは、同じ船であるパシフィック12号に拾ってもらうことになっている。えらく安直な方法であるが、ナウル開発が決まったのが出発直前であり、超特急案件である。
そのことから、事前に現地を見ない事には人員の機材も決められないということから、水上が決断してこの方法をとったのだ。
パシフィック12号にしてみれば、ナウルの沖を通るのは殆ど廻り道にならないので問題はなく、帰りは荷と人を下した後なので、荒天などで時間を食っても問題はない。ナウル島は長径約5㎞、短径3㎞の一部が欠けた楕円形である。海岸は砂浜に囲まれており、まだリン鉱石の採掘がおこなわれていない現在は、島の内陸部はなだらかな小高い丘になっている。
砂浜に乗り上げて、ボートの艫から水の浅いところにサンダルで身軽に降りた水上は「ひえー、これが全部リン鉱石か!」思わず眼の前の丘を見て叫んだ。副団長の狭山も全く同感であった。長身で、色が浅黒く細身で身が軽い水上に比べ、中背のやや太り気味で動きの重い狭山は船を降りるのも一苦労であった。
それにしても、このちっぽけで、なだらかな丘でからなっている島の標高は30m位か、これが鳥の糞の化石であることはいささか信じがたい。これは、180億トンあると言われる世界のリン鉱石の1億トンに過ぎないが、一カ所に集まっている量と掘りやすさ、搬出しやすさでは一番だろう。
海辺は砂だし、地形はなだらか、しかも範囲が狭い。鋼製の桟橋を作り、そこから重機を揚陸して、鉱石はダンプからベルトコンベアに落として、コンベアを海に突き出してその下に船を持ってきて積む。鉱石の掘削はオープンカットだから、リッパーで鉱石を起こしてシャベルカーでダンプに積む。
採掘の最初は、桟橋までのダンプの走る距離も精々500m足らずだろう。年間最大250万トンの輸送となると、ちょっと大きな設備は、鉱山での鉱石の破砕機と沖に300mほど突き出すコンベア設備で、それも時間400㎥の輸送能力のコンベアが2系列必要だな。
船の往復1航海が20日として、5万トンの船を使った場合には必要な船は4隻か、大したことはない。そのように頭の中で計算する狭山だった。上陸した海岸近くには、ヤシが生えて岡は草に覆われており、灌木がぽつりぽつりと生えているが、島の中央部には固まって林がある。
さらに、少し離れたところには集落が見えて、10人ほどの人がこちらに向けて歩いてくる。また、集落の近くには丸木船が舫われているようだ。近づいてくる彼らは、背は少し低く色は浅黒く目は鋭くて、頭髪が縮れており体は引き締まっている。
その意味では彼らは、迎える21世紀人のウレン・ダブドとミラヌ・ゾバスを少し引き締めた感じである。やって来た男性6人は、皆腰みのをつけて上半身は裸であり、多かれ少なかれ刺青を入れている。頭の白い老年に差しかかった一人と2人は少年であり、他は20歳台から40歳台に見える。
ラフなTシャツのダブトとソバスが進み出て、ナウル語で交互に彼らと話し始めた。水上は、ダブトとソバスとは彼ら2人にとっても大きな関心事である現地の人々の待遇について話をしている。日本側としての基本的な方針は、後に建国する国の国民として遇するというもので、極端な富は与えるつもりはない。
ただ、ナウルは単一の国としては小さすぎて、成立が困難である。だから、リン鉱石を掘削する会社組織を立ちあげて、住民をその社員としてそれなりに豊かな生活を送れるようにする。また、リン鉱石を他の地域で採取できるようになった後は、採掘量としては年間100万トン位に抑えて、50年以上は採掘を続けられるようにするというものである。
その間に、住民の子孫は十分なスキルを身に付けて、どこに行っても暮らしていけるようにしようというもので、2人も住民側に入るということで納得している。彼らは、一生懸命地元の人と話していたが、最初はなかなか話が通じないようだった。
それはそうだろう。500年のギャップと21世紀の文明に知識の差があるのだからやむを得ない。しかし、だんだん会話が進むようになってきて、やがて2人がタブレットを出してそれを使って様々に説明し始めた。
さらに、彼らに様々な贈り物をして歓心を買って、島の開発を認めさせることができた。20世紀以降の近世において、太平洋の島々の人々の土地に対する執着は激しいものがあるが、この時代はまだ人口も少ないこともあって、殆ど土地の私有という概念がなく、そのことも交渉がスムーズにいった要因の一つであった。
このようにして、現地調査の結果から人員と装備を準備して、8月中旬には開発団をナウル島に乗り込んだ水上以下の一行であったが、1ヶ月で揚陸用の桟橋を完成した。そして、工事の途中から可能になったので重機を揚陸して、10月上旬には表土をはぎ取って第1期の工区10haについて鉱石をむき出しにしている。
それに並行して、海沿いの土地を造成して5haの建設基地を建設して、210人の日本人及びオーストラリア人の職員の宿舎と事務所を設置している。さらに、鉱石破砕機とコンベアの組み立てが始まっている。また作業基地の中には売店があって、赤ん坊も入れて現地のナウル人882人に配ったそれぞれ10万円によって、買い物ができるようにしている。しかし、これらが十全に機能するようになるのは12月末である。
また、学校も作って子供も大人も日本語を習いたい者は学習できるようにする準備している他に、彼らの家を建てることも約束している。これは、規格化されたプラハブ住宅で、1家族4人以下の場合は50㎡の平屋であり、電気も引かれて照明、冷蔵庫、テレビ、扇風機等が使えるようになる予定である。
10月末の時点では、作業基地もまだ完成はしていないが、第1工区において、鉱石の掘り起こしと破砕が始まっており、12月初めに来る予定の鉱石運搬船への積み込みを始める予定だ。
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また、肥料としてのカリウムについては塩化カリウムが主要な原料になっており、カナダとロシアなどが主要な埋蔵地になっている。カナダの塩化カリウム鉱山は、中西部の21世紀にサスカチュワン州という、ロサンゼルスから陸路で3000kmもの距離の地域に集中している。
これは余りに遠いということで、21世紀ではシアトルになる場所に港を作って、そこから1500kmの距離を陸路で結ぶことにした。幸い、鉄鉱石・石炭などと比べ量が大幅に少なく、必要量は年間130万トン程度なので、現在ダンプが通れる道路を建設中であるが、並行して鉄道も敷設すべく準備をしている。
この地域にはウラニウムの鉱山もあるので、南アのウラン資源と共に日本の原発のために採掘する予定にもなっている。サスカチュワンをもじって、サスカ鉱山群と名付けられた塩化カリウムの鉱山開発団を担当するのは、国交省の技官であり、水上と同様に海外の道路建設に携わった経験が長い八島重人、51歳であり、副団長はやはりゼネコン出身の水谷隼人、55歳である。
こちらは、陸揚げ港であるシアトルから1500kmもの道程であり、半分は山脈を縫って走ることになる。やはり、八島と水谷は下見に現地を訪れているが、沿岸から直線で1200kmの距離である、だから、護衛艦“ひゅうが”を使ってシアトルまで行き、飛行可能距離が3500kmに及ぶオスプレイを用いて飛んだ。
道路のルートはカナダ側の国道7号線から3号線を用いて、ロッキー山脈を越えて中央大平原に出ることになる。これは当然これらの道路が出来るルートは、道路を建設しやすい地形であるためだ。道路ルートの下見と、鉱山の下見を済ませていったん帰国して、人員と機材を準備してシアトルに着いたのは7月の初めである。
この間に、揚陸のための桟橋建設班は現地に入っており、到着した機材はすぐに揚陸できた。
彼らの道路建設のやり方はブルドーザー、バックホー、ダンプトラック、クレーン車、鋼材を積んだトラック、オイルタンカートラック等を連ねた大コンボイを組んで、道を作りながら進んで行くというものだ。
また、道路には少なくとも砂利を敷かないと車両は通過できないので、補助的に通過点の近傍の河川から砂利を取る班も配置している。さらに、途中で当然橋を懸ける地点も数多いため、その為の鋼材を港から運ぶ班も必要になっている。
このような道路造成班だけで、技術者50人、運転手を含めた技能者350人が動員されている。さらには、鉱山にはオスプレイによって20人の調査班が送り込まれており、道路が到達したら、直ちに採掘が始められるように必要な機材の調査を行っている。
道路建設班が、ようやくロッキー山脈を抜けたのは、2ケ月半後の9月中旬、その後平原部を1ヶ月で抜けて、最初の採掘予定のアスカ1号鉱山に到着したのは10月下旬になろうとする頃であった。現地で調査に当たっていた責任者の笠谷春樹は、ゴウゴウという音を立ててきた、コンボイから降り立った2人を見た。
それは、薄汚れたザンバラ髪の、日に焼けてやつれ果てた顔の上司の八島と水谷の姿であり、日本で最後に会ったエリート然とした面影は殆どなかった。笠谷はそれを見て胸を打たれた。しかし一方で、そのやつれた2人が顔をほころばせて笑っているのをみて、彼らの苦労を察すると共に使命を達成した喜びに心から共感した。
確かに道路建設が最もハードであることは確かで、彼らの使命の峠は越えたことになる。一方で、鉱山開発そのものは露天掘りであり、それほどの困難はなかったが、寒冷地であるカナダ南部での鉱石採取・積み出しの仕事はやっつけ仕事の道路の悪条件もあって、鉱石の運搬において苦労は大きかった。
それでも、厳冬期前の掘削と粉砕機材の準備によって冬季の掘削が可能になった。そのお陰で搬出が捗り、翌年の春から300台の大型ダンプによって、アスカ鉱山群の塩化カリウムは、計画通りに搬出することができた。
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**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
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A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
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