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第1章 日本の変革
1.13 重力エンジンの開発
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誠司は、H空港に到着する水谷ゆかりを迎えに来ていた。彼女は、レールガンの開発が大部分終わったところで、後は新垣研究員と西山技官に任せて、昨今の軍事情勢の緊迫から緊急に求められている重力エンジンの開発と実用機へのアセンブルを命じられたのである。
そのため、四菱重工の西山事業所でその開発が行われることになったことから、西山市への出向を命じられたのである。これは、その重力エンジンの大体の性能を誠司が四菱側に説明した結果、防衛省の用兵側が一日でも早くその性能の戦闘機がほしいという要求になったことが背景にある。
そのことから、彼女と誠司との関係が周りに知られてきたということもあって、最短の開発期間になるように防衛省で考えた結果ということでもある。間違いなく、最も早い開発方法は誠司にへばりついて、出てくる問題を即座にマドンナで解決していくことであるので、手段としては間違ってはいない。
飛行機を待ちながら、誠司は嬉しいが7割やや後ろめたいが3割である。あの夜の後、誠司は口実を作っては防衛研究所に行き、何度も彼女と一夜を過ごしているため、もう周囲にはばればれなのだが、誠司自身ははまだ皆には知られていないと思っていた。
無論、ゆかりは皆が知っていることは気が付いているが、大人の女として、恋人がいても全然不思議ではないのだからと割り切っていた。今回の出向については、誠司が一緒と言う意味で、今までやってきた経験から仕事に対する不安は全くなく、むしろ重力エンジンと言う未知の地平線が見られるというわくわくする気持ちが一杯であった。
これはレールガンの開発においての経験したことの結果である。この開発においては、最初の一日で実用化へのほぼ九十%が詰められたが、当然その後も考えていなかった壁に何度もぶつかった。
その都度ではないが、出来るだけ自分で努力した末に越えられない壁ははやり誠司に助けを求めた。誠司もそれに積極的に答え、忙しい仲を何度も来てくれた。その往復の際には、研究所長に誠司がヘリコプターに乗りたがっていると告げたところ、所長の顔が効くところで2回ほどは出してくれ、出来ない時は飛行場までの送り迎えを出来るようにしてくれた。それだけ、誠司の貢献を多としているわけである。
しかし、誠司が彼女の研究にこのように協力してくれるのは、半分以上は彼女に会いたいという気持ちーたぶん肉体関係を求めても含めてだがーがあってのことと彼女は考えている。
彼女も、彼に会って話を聞いた最初から、彼に対しては好意を持っていたが、実際にそう言う関係になった結果、年下の彼はその年齢らしく激しく彼女の肉体を求めてきた。
また、一方で彼女の前ではくつろいで甘えるという男女の関係に、自分でも思いがけないほど喜びを感じるのを自覚していた。しかし、仕事を助けてもらう段階では、問題点の把握の適切さと速さ、把握後の対処にその分野では自信があった自分も、若い彼のその能力と学識に深い尊敬を覚えざるを得なかった。
それらのことから、彼女は彼と出来るだけ一緒に居たいという気持ちが日々募ってきている。
しかし、八歳の年の差は小さいものではない。心の底では結婚と言う願望はあるが、それは無理と自分に言い聞かせてきた。その意味で、今度は西山市に出向すればたぶん同棲することになるであろう。実際に誠司はそう求めているが、どれだけに期間かわからないが、その間は精一杯お互いに愛し合おう思っている。
ゲートをくぐると、誠司が待っていた。嬉しかった。誠司も彼女に駆け寄ってくる。たぶん、欧米だと抱き合ってキスでもするのだろうけれど、日本人である彼らにはできない。しかし、「会いたかったよ」と言って、彼女の手を一瞬握り、目を見つめていから手を放して、彼女の荷物を取って歩き始めた彼にテレと愛情を感じて幸せと感じる自分がある。
いつもの通り、誠司の行くところは護衛がついており、迎えの車も2人の護衛付きであるが、後部座席は彼ら2人のものである。自然に寄り添って、彼女が誠司に体を預けて話す内容は、残念ながら色気のない仕事の話である。前部座席で座っていて、話が否が応でも聞こえてくる護衛の白川は、『不器用なカップルだな』と苦笑しながら聞く。
水谷は、今日は、誠司から急にこの出迎えを言われた。
「申し訳ないのですが、ちょっと空港に行ってほしいのですが」
「無論任務だから行きますよ」
任務だから気楽に応じたが、こんな美人の出迎えとは思わなかった。
そういえば、最近は彼も彼女が出来てたびたび上京しているとか聞いたことがあるが、相手は彼女か。
まあ紹介してくれたが「防衛研究所の研究者の水谷さんです。今度一緒に働くことになります。」とだけで、彼女は「よろしくお願いします」とにっこり笑って挨拶していた。
今の、牧村君のやっている仕事は核融合発電機の開発らしいが、これはどんなにとんでもないことかは流石に俺でもわかる。 だからこそ、これだけの警戒態勢を引くのもよくわかる。しかし、どうもその上にまだとんでもない開発をやるのだろうな。しかもそれは防衛関係だということだ。
しかもその研究者というか、多分防衛省側の代表だろうけど、牧村君の彼女なわけだ。見かけはそれほど歳はいっていないように見えるが、たぶんここに送られてきたという立場からすれば、三十台に乗っているか。だいぶ牧村君より上であることは確かだけど、一緒に居るといい雰囲気をだしているよな。お似合いかもしれないな。
しかし、2人が話している内容は日本語に違いないが、ほとんど理解できないものの何か技術的なことを話しているのはわかる。いい雰囲気なのにもう少し色気のある話をすればいいのにと思うが、まあ彼らにとっては今話している内容が色気のある話なのかもしれないな。
などと白川はとりとめもなく、2人の会話を聞きながら考えるのであった。
着いたところは、やはり警備の問題で、四菱重工の西山事業所内の社宅でありアパート形式の2K のフラットである。彼女の荷物はすでに届いているが、家財道具一式は新しいものが揃えられているので、それほど多くはない。
東京の彼女の職場近くのマンションはそのまま借りている。
白川たちとはアパートの手前で別れ、2人でドアを開ける。彼女が来るというので家具等を準備してそろえたのは誠司である。金はとりあえず父の芳人に借りた。近く、多額の金が入ってくるのはわかっているので、こうした借金も気楽である。
入ってドアを閉め、彼女の荷物を置いた誠司はゆかりの正面に回って抱きしめて、その唇をむさぼった。ゆかりも「ああ」と息をついて喜んで応じて、2人は無言でしばらく抱き合い夢中でお互いの唇を味わった。
しばらくして、さすがにゆかりは誠司の体をやんわり突き放して言う。
「あとでね。あとでゆっくりね。まずご挨拶が先よ」
「う、うん、そうだね。もう重力エンジンの開発室は出来ていて、四菱側のスタッフもあらかたそろっているよ。まあ行かなくちゃね」
誠司の未練そうに同意する。
一緒に外に出て、しばらく歩き、目的の白いビルについて2階に上がるとドアがあって、「GVE開発室」のプレートがあり、「部外者立ち入り位禁止」のプレートも貼ってある。誠司がポケットからネームプレートを出して首にかけ、それをドアにかざすとぴぴっとした音がしてドアノブを回して中に入る。
中は百㎡程度の事務室で、中央の会議机が設けられており白板を備えており、四菱重工側の十二名のスタッフが集まって、一人が白板に何やら書いて説明しそれを皆で聞いている。女性が3人加わっており、全体に皆若く、説明しているリーダーらしき人を除けば、二十代から三十代に見える。入っていった2人を皆が注目するなかで、誠司が紹介する。
「皆さん、邪魔をしてすみません。紹介します。この方が防衛研究所から来られた水谷ゆかりさんです。しばらくは皆さんと一緒に仕事をするようになります。よろしくお願いします」
「水谷ゆかりです。開発された装置を実際の機材へのアセンブルを担当します。まだ、装置そのものをきちんと理解していませんので、今から、皆さんにできるだけ早く追いつきたいと思います。よろしくお願いします」
白板の前で説明していた、四十歳台に見える男性がゆかりに近づいて来て手を差し出す。
「チームリーダーの吉田正人です。新垣とは同期で、来られるというのでいろいろ話は伺いました。期待していますのでよろしくお願いします」
「新垣さんにはすっかりお世話になっちゃって、あのプロジェクトはあとをみんな皆お任せしてきてしまいました」
ゆかりはその手をとって、そう言って握った。
「さて、ちょうど我々も集まって1週間だ。水谷さんも着任されたところで、水谷さんへの説明と、牧村さんに我々の理解度を確かめて頂く意味もあって、いまわれわれが開発しようとする装置、GVエンジンと呼んでいますが、この実装置化へのアプローチの現段階の説明をしようと思います。いいですかね。牧村さん」
吉田は皆を向いて言い、最後に誠司に確認する。
「それはいいですね。はい勿論結構です。お聞きしたいですね」
「ではプロジェクターを使って説明します」
しばしの準備の後、部屋の照明を少し落とし、浮かび出たチャートを前に吉田が説明を始める。
「この図は、牧村さんの作られたもので、GVエンジンの原理を示したものです。GVエンジンは重力を操作していわゆる重力を中和、反転、また牽引を行うものです。そして、そのすべての源はここに示している、重力場発生操作装置によって対象を包む場を作り出し、その範囲においてさっき言った中和、反転、牽引を行うことになります。
つまり、要は重力場発生操作装置(GVGCD:Gravity Generation Control Device)が重力エンジンそのものということになります。
牧村さんの計算によると、中和は無論重力を打ち消す力ですが、地球の重力加速度の十倍程度とされていますし、逆に反転というのは地球上で言えば十倍に対する一の重力の差を使っていってみれば上昇力に使えるわけです。牽引力のも結局は同じことで、方向が異なるだけです。
いま、緊急の命題としてこの装置を戦闘機F4Fの機体を動かすために使おうとしていますが、場に包まれた機体の空気の抵抗のみが問題でたぶん時速5千㎞程度は楽に出るでしょう。
それも加速時には中の操縦者には重力変化は打ち消すことができます。動力は今度開発されたSAバッテリーの特注ものである1万㎾時レベルのものを使って十二時間程度は十分稼働できますが、残念ながら操縦者がそれほどの長時間耐えられませんね」
吉田は一旦言葉を切る。ゆかりは、この内容は大体のところ聞いてはいたが、つくづくとんでもない性能だなと思う。バッテリーの容量を十分にして、かつ乗り組み員が交代し生活できるようにする、すなわち大型化すればアメリカ大陸でも、いや地球を周回することは簡単に出来る。
さらに言えば、あの核融合発電機(FRG)を積めばほぼ無限の航行ができるのだ。さらに、空気抵抗のない宇宙空間にいけば、その十Gの重力加速度でどこまでも加速していけることになる。
吉田はさらに続ける。「このような、画期的と言う言葉で足りない性能を持つ、GVエンジンそのものであるGVGCDの構成ですが、さっき言ったように動力はSAバッテリーによる電力です。その電力によって重力の場を作り出すこのコンバータですが、この仕組みは………」
この吉田の説明はさらに1時間以上続き、GVGCD制作に必要なすべての必要な構成機器がピックアップされ、それは購入品であるもの、新たに設計し製作すべきものであるものに分類された。
「………、以上のようなところが現状で把握できている所です。あとは、設計製作すべきこれらの部品をどのように短期間に仕上げるかが、現状の課題と認識しています」
吉田の説明がこの言葉で終わったとき、誠司は思わず拍手をして言う。
「いや、素晴らしい。完璧な理解ですね。それらの部品の設計には力を貸しますので、もうそれほど時間はかかりませんね」
実際には、こうした開発においては、まだ未知の部品がいくつもある以上、本来はここからが茨の道であるのが本来である。しかし、この場合はマドンナを使えるのが非常に大きなアドバンテージになっている。
吉田は同期の新垣から、レールガンの開発時に必要としたそうした細かい機器等の開発に誠司がどれだけ貢献したかを聞いていて、それならば2~3カ月でこれだけの画期的は装置を開発することも夢ではないと思っていた。
新垣も、新垣のその話を聞くまでは、誠司の相当に細部に亘る資料があっても、この開発は1年では終わらないと見ていたのだ。
実際に、GVGCDの組み立てが終わって、プロトタイプが出来上がったのは6月の末であった。
そのため、四菱重工の西山事業所でその開発が行われることになったことから、西山市への出向を命じられたのである。これは、その重力エンジンの大体の性能を誠司が四菱側に説明した結果、防衛省の用兵側が一日でも早くその性能の戦闘機がほしいという要求になったことが背景にある。
そのことから、彼女と誠司との関係が周りに知られてきたということもあって、最短の開発期間になるように防衛省で考えた結果ということでもある。間違いなく、最も早い開発方法は誠司にへばりついて、出てくる問題を即座にマドンナで解決していくことであるので、手段としては間違ってはいない。
飛行機を待ちながら、誠司は嬉しいが7割やや後ろめたいが3割である。あの夜の後、誠司は口実を作っては防衛研究所に行き、何度も彼女と一夜を過ごしているため、もう周囲にはばればれなのだが、誠司自身ははまだ皆には知られていないと思っていた。
無論、ゆかりは皆が知っていることは気が付いているが、大人の女として、恋人がいても全然不思議ではないのだからと割り切っていた。今回の出向については、誠司が一緒と言う意味で、今までやってきた経験から仕事に対する不安は全くなく、むしろ重力エンジンと言う未知の地平線が見られるというわくわくする気持ちが一杯であった。
これはレールガンの開発においての経験したことの結果である。この開発においては、最初の一日で実用化へのほぼ九十%が詰められたが、当然その後も考えていなかった壁に何度もぶつかった。
その都度ではないが、出来るだけ自分で努力した末に越えられない壁ははやり誠司に助けを求めた。誠司もそれに積極的に答え、忙しい仲を何度も来てくれた。その往復の際には、研究所長に誠司がヘリコプターに乗りたがっていると告げたところ、所長の顔が効くところで2回ほどは出してくれ、出来ない時は飛行場までの送り迎えを出来るようにしてくれた。それだけ、誠司の貢献を多としているわけである。
しかし、誠司が彼女の研究にこのように協力してくれるのは、半分以上は彼女に会いたいという気持ちーたぶん肉体関係を求めても含めてだがーがあってのことと彼女は考えている。
彼女も、彼に会って話を聞いた最初から、彼に対しては好意を持っていたが、実際にそう言う関係になった結果、年下の彼はその年齢らしく激しく彼女の肉体を求めてきた。
また、一方で彼女の前ではくつろいで甘えるという男女の関係に、自分でも思いがけないほど喜びを感じるのを自覚していた。しかし、仕事を助けてもらう段階では、問題点の把握の適切さと速さ、把握後の対処にその分野では自信があった自分も、若い彼のその能力と学識に深い尊敬を覚えざるを得なかった。
それらのことから、彼女は彼と出来るだけ一緒に居たいという気持ちが日々募ってきている。
しかし、八歳の年の差は小さいものではない。心の底では結婚と言う願望はあるが、それは無理と自分に言い聞かせてきた。その意味で、今度は西山市に出向すればたぶん同棲することになるであろう。実際に誠司はそう求めているが、どれだけに期間かわからないが、その間は精一杯お互いに愛し合おう思っている。
ゲートをくぐると、誠司が待っていた。嬉しかった。誠司も彼女に駆け寄ってくる。たぶん、欧米だと抱き合ってキスでもするのだろうけれど、日本人である彼らにはできない。しかし、「会いたかったよ」と言って、彼女の手を一瞬握り、目を見つめていから手を放して、彼女の荷物を取って歩き始めた彼にテレと愛情を感じて幸せと感じる自分がある。
いつもの通り、誠司の行くところは護衛がついており、迎えの車も2人の護衛付きであるが、後部座席は彼ら2人のものである。自然に寄り添って、彼女が誠司に体を預けて話す内容は、残念ながら色気のない仕事の話である。前部座席で座っていて、話が否が応でも聞こえてくる護衛の白川は、『不器用なカップルだな』と苦笑しながら聞く。
水谷は、今日は、誠司から急にこの出迎えを言われた。
「申し訳ないのですが、ちょっと空港に行ってほしいのですが」
「無論任務だから行きますよ」
任務だから気楽に応じたが、こんな美人の出迎えとは思わなかった。
そういえば、最近は彼も彼女が出来てたびたび上京しているとか聞いたことがあるが、相手は彼女か。
まあ紹介してくれたが「防衛研究所の研究者の水谷さんです。今度一緒に働くことになります。」とだけで、彼女は「よろしくお願いします」とにっこり笑って挨拶していた。
今の、牧村君のやっている仕事は核融合発電機の開発らしいが、これはどんなにとんでもないことかは流石に俺でもわかる。 だからこそ、これだけの警戒態勢を引くのもよくわかる。しかし、どうもその上にまだとんでもない開発をやるのだろうな。しかもそれは防衛関係だということだ。
しかもその研究者というか、多分防衛省側の代表だろうけど、牧村君の彼女なわけだ。見かけはそれほど歳はいっていないように見えるが、たぶんここに送られてきたという立場からすれば、三十台に乗っているか。だいぶ牧村君より上であることは確かだけど、一緒に居るといい雰囲気をだしているよな。お似合いかもしれないな。
しかし、2人が話している内容は日本語に違いないが、ほとんど理解できないものの何か技術的なことを話しているのはわかる。いい雰囲気なのにもう少し色気のある話をすればいいのにと思うが、まあ彼らにとっては今話している内容が色気のある話なのかもしれないな。
などと白川はとりとめもなく、2人の会話を聞きながら考えるのであった。
着いたところは、やはり警備の問題で、四菱重工の西山事業所内の社宅でありアパート形式の2K のフラットである。彼女の荷物はすでに届いているが、家財道具一式は新しいものが揃えられているので、それほど多くはない。
東京の彼女の職場近くのマンションはそのまま借りている。
白川たちとはアパートの手前で別れ、2人でドアを開ける。彼女が来るというので家具等を準備してそろえたのは誠司である。金はとりあえず父の芳人に借りた。近く、多額の金が入ってくるのはわかっているので、こうした借金も気楽である。
入ってドアを閉め、彼女の荷物を置いた誠司はゆかりの正面に回って抱きしめて、その唇をむさぼった。ゆかりも「ああ」と息をついて喜んで応じて、2人は無言でしばらく抱き合い夢中でお互いの唇を味わった。
しばらくして、さすがにゆかりは誠司の体をやんわり突き放して言う。
「あとでね。あとでゆっくりね。まずご挨拶が先よ」
「う、うん、そうだね。もう重力エンジンの開発室は出来ていて、四菱側のスタッフもあらかたそろっているよ。まあ行かなくちゃね」
誠司の未練そうに同意する。
一緒に外に出て、しばらく歩き、目的の白いビルについて2階に上がるとドアがあって、「GVE開発室」のプレートがあり、「部外者立ち入り位禁止」のプレートも貼ってある。誠司がポケットからネームプレートを出して首にかけ、それをドアにかざすとぴぴっとした音がしてドアノブを回して中に入る。
中は百㎡程度の事務室で、中央の会議机が設けられており白板を備えており、四菱重工側の十二名のスタッフが集まって、一人が白板に何やら書いて説明しそれを皆で聞いている。女性が3人加わっており、全体に皆若く、説明しているリーダーらしき人を除けば、二十代から三十代に見える。入っていった2人を皆が注目するなかで、誠司が紹介する。
「皆さん、邪魔をしてすみません。紹介します。この方が防衛研究所から来られた水谷ゆかりさんです。しばらくは皆さんと一緒に仕事をするようになります。よろしくお願いします」
「水谷ゆかりです。開発された装置を実際の機材へのアセンブルを担当します。まだ、装置そのものをきちんと理解していませんので、今から、皆さんにできるだけ早く追いつきたいと思います。よろしくお願いします」
白板の前で説明していた、四十歳台に見える男性がゆかりに近づいて来て手を差し出す。
「チームリーダーの吉田正人です。新垣とは同期で、来られるというのでいろいろ話は伺いました。期待していますのでよろしくお願いします」
「新垣さんにはすっかりお世話になっちゃって、あのプロジェクトはあとをみんな皆お任せしてきてしまいました」
ゆかりはその手をとって、そう言って握った。
「さて、ちょうど我々も集まって1週間だ。水谷さんも着任されたところで、水谷さんへの説明と、牧村さんに我々の理解度を確かめて頂く意味もあって、いまわれわれが開発しようとする装置、GVエンジンと呼んでいますが、この実装置化へのアプローチの現段階の説明をしようと思います。いいですかね。牧村さん」
吉田は皆を向いて言い、最後に誠司に確認する。
「それはいいですね。はい勿論結構です。お聞きしたいですね」
「ではプロジェクターを使って説明します」
しばしの準備の後、部屋の照明を少し落とし、浮かび出たチャートを前に吉田が説明を始める。
「この図は、牧村さんの作られたもので、GVエンジンの原理を示したものです。GVエンジンは重力を操作していわゆる重力を中和、反転、また牽引を行うものです。そして、そのすべての源はここに示している、重力場発生操作装置によって対象を包む場を作り出し、その範囲においてさっき言った中和、反転、牽引を行うことになります。
つまり、要は重力場発生操作装置(GVGCD:Gravity Generation Control Device)が重力エンジンそのものということになります。
牧村さんの計算によると、中和は無論重力を打ち消す力ですが、地球の重力加速度の十倍程度とされていますし、逆に反転というのは地球上で言えば十倍に対する一の重力の差を使っていってみれば上昇力に使えるわけです。牽引力のも結局は同じことで、方向が異なるだけです。
いま、緊急の命題としてこの装置を戦闘機F4Fの機体を動かすために使おうとしていますが、場に包まれた機体の空気の抵抗のみが問題でたぶん時速5千㎞程度は楽に出るでしょう。
それも加速時には中の操縦者には重力変化は打ち消すことができます。動力は今度開発されたSAバッテリーの特注ものである1万㎾時レベルのものを使って十二時間程度は十分稼働できますが、残念ながら操縦者がそれほどの長時間耐えられませんね」
吉田は一旦言葉を切る。ゆかりは、この内容は大体のところ聞いてはいたが、つくづくとんでもない性能だなと思う。バッテリーの容量を十分にして、かつ乗り組み員が交代し生活できるようにする、すなわち大型化すればアメリカ大陸でも、いや地球を周回することは簡単に出来る。
さらに言えば、あの核融合発電機(FRG)を積めばほぼ無限の航行ができるのだ。さらに、空気抵抗のない宇宙空間にいけば、その十Gの重力加速度でどこまでも加速していけることになる。
吉田はさらに続ける。「このような、画期的と言う言葉で足りない性能を持つ、GVエンジンそのものであるGVGCDの構成ですが、さっき言ったように動力はSAバッテリーによる電力です。その電力によって重力の場を作り出すこのコンバータですが、この仕組みは………」
この吉田の説明はさらに1時間以上続き、GVGCD制作に必要なすべての必要な構成機器がピックアップされ、それは購入品であるもの、新たに設計し製作すべきものであるものに分類された。
「………、以上のようなところが現状で把握できている所です。あとは、設計製作すべきこれらの部品をどのように短期間に仕上げるかが、現状の課題と認識しています」
吉田の説明がこの言葉で終わったとき、誠司は思わず拍手をして言う。
「いや、素晴らしい。完璧な理解ですね。それらの部品の設計には力を貸しますので、もうそれほど時間はかかりませんね」
実際には、こうした開発においては、まだ未知の部品がいくつもある以上、本来はここからが茨の道であるのが本来である。しかし、この場合はマドンナを使えるのが非常に大きなアドバンテージになっている。
吉田は同期の新垣から、レールガンの開発時に必要としたそうした細かい機器等の開発に誠司がどれだけ貢献したかを聞いていて、それならば2~3カ月でこれだけの画期的は装置を開発することも夢ではないと思っていた。
新垣も、新垣のその話を聞くまでは、誠司の相当に細部に亘る資料があっても、この開発は1年では終わらないと見ていたのだ。
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