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第1章 日本の変革

1.12 日本の政治的な変革

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 誠司が山科教授の部屋で言った話は、先輩の吉村博人と話し合って準備しての結果である。誠司は同級の狭山良太から尊敬する吉村のことを詳しく聞いており、彼が見かけによらずいわゆる日本を憂いる国士であって、官房副長官で衆議院議員の村田健吾の金の世話をしているのもその政治的な信念に同調しての上であること、またとりわけ左巻きのマスコミが多いことを嘆いているのを知っていた。

  そこで、彼は吉村を研究室に訪ね、切り出した。
「吉村さん、僕は今核融合発電の開発をやっていますが、今の憲法を持っている状態で開発が成功したことを世界に向け発表したら危ないと思っているのですよ」

 吉村は鋭い目で誠司をしばらく見てぽつりと聞いた。
「じゃあ、どうしたらいいと思っているんだ?」

「世論を作るんですよ。新聞とテレビ局それと雑誌さらにインターネット部隊で大キャンペーンをやるんですよ。そのため、新聞社と、テレビ局を一社ずつ買います。そして新聞社の中に百人位のインターネット部隊を作ります。
 また右派の学者を総動員して日本を取り巻く歴史の嘘を暴き十カ国位に翻訳してネットに大宣伝の上で公開します。それと、今夏の衆議院選挙では憲法改正に熱心な人を大量に送り出します」

 誠司の言葉を真剣に聞いていた吉村はしばらく返事をせずに腕を組んで誠司を見つめていたがやがて言う。
「牧村、お前はオタクめいたところはあるが馬鹿ではない。そう言うということは、金がかかるのはわかっていて金を調達する方法も考えているわけだよな?」

「ええ、無論です」
「いくらと考えているのだ?」

「1千億円です」
 吉村は目を見開いて誠司をまじまじと見た。そしてやがて笑い始めた。

「牧村、お前は大物だよ、必ず歴史の名を遺す大物だ。そして事実1千億円の金が調達できるなら、お前の言うことは実現できるだろうし、また、憲法改正は出来るだろう、大体今の総理は憲法改正が信念だからな。それで、ネタはなんだ。1千億を調達できるというネタは?」

「重力操作です。まあ、反重力と言った方の通りがいいかな」

「なんと、反重力の理論確立をしたのか。しかももう当然システムのチャート、並びに機器構成も出来ていると?」

「ええ、出来ています。そう半年あればプロトタイプは出来ますよ」 
「うーん、どこかに声はかけたか?」

「いえ、それも相談しようと思って」
 誠司の言葉に吉村は「ちょっと考えさせてくれ」と上を向いて腕を組む。

 数分して吉村は話始める。
 「反重力を使った輸送機器は、航空機メーカー潰しだ。どうせ、お前の発明するものだから、自動車に積めるくらいのものだろう?」

「ええ、セダン車のエンジンルームに積めますよ」
「大きさはどの程度まで対応できる?」

「特に制限はないと思いますよ。五十万トンタンカーでも浮かせますし動かせます。ちなみに推進も、エンジンで場を作って引っ張る感じでやれますから、ジェットとかプロペラは要りません」

「それは、航空機だけではないな、船も要らなくなるし、車も長距離の移送には使われなくなるな。これはお前、下手をすれば核融合発電よりインパクトはでかいぞ。それにこれは1千億では安いよ。桁が違うわ。おまえ、前もそうだったけど本当にとんでもないものを持ってきたなあ」

 吉村は誠司の目を見て言う。
「おまえ、個人としてはこれで、日本を目覚めさすための1千億が調達できればいいんだな?」

「ええ、そうです」
「わかった、ちょっとこの話は預からしてくれ。そう1週間以内には何か方向を出すよ。そのチャートを預かっていていいかな?」

「ええ、構いませんよ。それではどんなものが出来るかわかるだけで製作は出来ませんから」
「うん、それで十分だし、逆にこれでできたら困るよ」

 吉村は一日考えて方向を決め、まずちょうど選挙区に帰っていた官房副長官で衆議院議員の村田健吾に会いに行った。
「おお、吉村君、しばらく会っていなかったな。今日は何の用だ、前みたいなとんでもない話ではないだろうな。しかし、前の話は我が国のとっては非常にありがたい話ではあったが」

「いや、村田さん、場合によっては前より影響の大きいとんでもない話です」
 吉村の真剣な表情と口調に村田はくつろいでいた表情を改める。
「話を聞こうか」

 吉村は誠司からもらったチャートを見せぽつりと言う。
「反重力装置です」村田は吉村の顔を凝視して言う。
「冗談ではないんだよな?」

「無論、真剣な話です」
「出どころは例の牧村か?」
「ええ、かれは日本国憲法と言う自殺装置を後生大事に持っている状態で核融合の成功を世界に発表することに不安を感じわけです。そこで、日本人の政治意識を変えようと。そのためマスコミに金を突っ込み、さらに夏の選挙には憲法改正派を押そうということで」

 吉村を村田が引き継ぐ。
「金を作るためにこれを発明したわけだ」
「正解!」吉村の言葉に村田はため息をついて言う。

「本当にとんでもない奴だな。たしかに影響としては核融合より大きいかもな」
 彼は頭をブル!と振って吉村を向いて尋ねる。
「それで、俺になにをさせたいんだ?」

「まず、この場合のクライアントである牧村の要望は1千億円の金を調達し、その金をもって新聞社を一社、テレビ局一局を買収し、さらに新聞社、テレビ局そのどちらでもいいですが、インターネット広報担当チーム少なくとも百名を揃えます。

 また、右派の学者を動員して、我々のキャンペーンの理論的裏付けをやってもらいます。
 キャンペーンは、現在の日本国憲法はアメリカ合衆国が日本をして二度と戦争が出来ないようにして、アメリカを頼るしか手段がないように押し付けたものであること。

 さらに、この憲法を見ると「諸国民の善意を信頼して」などとの噴飯物の前文になっていること、さらに軍備を持たないことを明記しておりこれは自衛権も明確に否定していることから日本に悪意があって作ったものであること。さらに、アメリカはそういういきさつにもかかわらず、日本を防衛することが重荷になっていること。などなどがまず第一優先ですね。

 ついで、いわれなき我が国対する歴史に対する誹謗・中傷の明確かつ根拠に基づいた否定を明文化して、十か国語程度で書籍、インターネットにて公開します。
 以上の行動をバックに、自民党及び憲法改正を求める党は夏の衆議院では憲法改正を掲げては戦ってほしい、というのがクライアントたる牧村君の要望です」

「うーん、この内容は望むところなのだけど。うーん。ちょっとごめんな。電話してみるわ」
 その後、村田は携帯で5人ほどと話していたが、1時間ほどもあちこちと話した結果、すっきりした顔になって言う。

「うん、何とかなりそうだ、明日東京に帰るから、何人かに会って準備を始めさせるわ」
 それから座り直して再度吉村の顔を見つめる。
「それで、反重力の件のお前の作戦は?どうせ、もう決めていて俺を駒に使おうというのだろう?」

「私自身としての案は無論ありますが、これを村田さんと詰めようと思ってですね」
「まあ、いいや、言いなさいよ」

「では、私の案を説明しますね。まず牧村は、世界一のメーカーのT自動車に声を掛けようと思ったらしいのですよ。まあ、この方が話として簡単だし、この技術の対価として1千億位はすぐ出すでしょう。しかし考えてください。これが実用化されて普及したら、現在の飛行機は無論、船も競争力を失いますよ。

 近所を走る乗用車はともかく長距離のトラックもたぶん生き残れないでしょう。これの権利を一自動車メーカーが握ったらたぶん大騒動になりますね。一方で、反重力によって空を飛ぶ旅客及び貨物飛行機ですかね、これは別に今の飛行機みたいなジュラルミンで作ったりする必要はないのですよ。

 結局鉄で作ればいいので、ボディは造船所か自動車メーカーが造ることになります。しかし、特に船は速度が圧倒的に上がりますから、数が要らなくなります。まあ、空を飛ぶんですこし単価は上がるでしょうけど。
 航空機は幸いと言うと怒られるかもしれませんが、日本ではまだ産業と呼ぶほどのものではないですが、アメリカ、欧州は大変 です。まだまだ需要が増えると見込んで生産能力を拡張してますからね。これは、大きな摩擦の原因になりますね」
 吉村の説明に村田はうなずきつつも苦情を言う。

「うん、その通りで、鋭い分析ではあるけれどどうするかを聞きたいのだがね」
「まあ、前提の現状分析無しに対策はあり得ないですからね。どうするかは今からです」
 と一息入れてお手伝いさんが出してくれたお茶を飲んで再度始める。

「結局これは、今は民間には出せないですよ。そう、十年間は軍事に限るということにするべきです。最も危ないのはアメリカです。へたをすると戦争です」
 お茶をすするのをやめて村田議員が言う。

「しかし、十年間軍事に限るということになると、1千億は厳しいのじゃないかな。そんなに出すところはないだろう」
「四菱重工です。あそこは軍需産業が強いので、反重力戦闘機に飛びついてきますよ。また、国も宇宙関係の予算を大幅に増やすべきです。核融合発電機を積んだ反重力宇宙機は大増産すべきですよ」

「ううむ、軍備の強化は緊急の課題だ、どっちにしても防衛費の大幅増は決定事項だからな。四菱に権利を売るとしてもその十年ルールを守らせるためには経産省と防衛省が絡んでおく必要があるな」

 結局、吉村の案通りになって、首相、官房長官も承知のうえで、経産大臣、防衛大臣の立会いの下で四菱重工の山口副社長が1千億円で重力操作装置の権利を買うことを承知した。
 無論、技術資料を精査して機能することを確認したうえである。

 アメリカに対しては、一号機が運転し始めて通知し、日本が十年間の間は軍事以外にこの技術を活用しないという約束をして大いに恩を売る予定である。
 防衛大臣は、レールガンの実用化に加えて、反重力戦闘機の導入が出来るというのでニコニコである。 半面電磁カタパルトの必要が無くなったと少しがっかりしている模様であるが、F35には有効なのでと言われて気取り直している。反重力エンジンを積んだ戦闘機の前でF35が有効かどうかは怪しいが。

 反重力戦闘機は防弾鋼板で製作した機体に反重力エンジンを積んだものの設計が進行中であるが、当面は戦力として劣るF4の現有八十機に重力エンジンを積む改修をすることになった。四菱重工は反重力エンジンのプロトタイプの制作に大車輪でかかり始めたが、結局西山事業所で作ることになった。

 何しろ、山口副社長が思うに、牧村誠司のいる所でないといつまでかかるかわからないからで、彼もマドンナのことに気がついている一人である。このように、資金の目途がついたところで、村田議員が根回しをした組織が動き始めた。

 まず、『新世紀日本』と言う政治団体・社団法人を設立して、理事長には参議院議員である青木直樹が就任した。
 四菱重工からの金はまず半金が新世紀日本の口座に振り込まれ、その金で経営危機がささやかれていたM新聞、また最近視聴率が減少を続け、スポンサーも十分集められず経営が行き詰っていたFテレビの経営権を買い取った。

 いずれも、左巻き社員が多かったが、もととも待遇は悪かったM新聞では編集長に青木が連れて来た右派が座り、社としての方針に従うように強制した結果、半数が退社している。
 Fテレビは高給取りだった社員の待遇を大幅に切り下げて半分が辞め、同様に青木の息のかかった新経営陣の方針に耐えられずさらに半数が辞めた。

 M新聞には剛腕右派でならした城山慎太郎、F放送には硬骨の言論で知られた西村慎吾が社長に就任して、その新社長を慕う若者が多く結集した。
 これらの組織は大車輪で働き始めた。まず、左巻きのマスコミの過去日々の言論の嘘、駆使した報道をしない自由など都合の悪いところを徹底的に暴いていった。また、右派学者の監修によって完全に事実に基づいた歴史的な真実をドキュメンタリーの形で連続して放送または、特集で表に出していった。

 意外にこれらの番組や記事は好評であり、Fテレビはそれなりの視聴率を稼ぎ、M新聞の部数も経営者が変わることによる部数減はそれほどでもなく逆に新たな読者層が増え始めている。また、新世紀日本の中心人物は経営層に厚い人脈があるため、広告費はかえって以前より増えてきているので、経営上の赤字は当初覚悟したほどでもなかった。

 また、中韓関係のそれぞれの国に対して、主として近世の歴史をそれぞれA4で十枚程度に概説したもの、詳しく述べた百ページ程度の論文はすべて根拠の論文を示したうえで、まず日本語、英語、韓国語、中国語で発表された。
 これについては、韓国、北朝鮮、中国から凄まじい非難を浴びた。これらには、彼らが最も隠したかったことが容赦なく暴き立てられているのだ。
 しかしその内容は折に触れ、インターネット等で取り上げられたものであり、すべての内容は日本の歴史の大御所の書いたもので現在知られている文献では最も正確なものである。

 たとえば、多くの韓国人が信じていて、その憲法にも書かれている太平洋戦争中韓国は日本に抵抗していたとの嘘、実際は朝鮮半島は日本の一部で、多くの若者が志願して日本兵として戦ったことや、南京虐殺三十万人が実際には南京の人口が二十万しかいなかったこと、また事変が起きた数カ月後の南京の人口が二十万以上いたなどの点である。

 これらの国が、余りに血相を変えて非難するため、これは日本のマスコミでも大騒ぎになり、歴史学者に記者が殺到したが、その内容が嘘と言えるものはいなかった。
 中には「この内容はすべて知られている限りでは真実ですよ。中韓は反論するなら、根拠を示さないとね」とあっさり言う学者も多かった。

 そのことから、一般の人々も新世紀日本の言うことは正しいという共通意識が出てきたが、これはまた新世紀日本の言うように日本国憲法がアメリカの悪意によってつくられたのではないかと意識するようになってきた。情勢を見ていた政府自民党は一旦引っ込めていた、憲法改正をまた前面に出し始め、夏の選挙の最大の争点であると言い始めた。
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