日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第4章 人類の宇宙への進出

4.12 所得3倍増計画中間年

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 2030年、所得倍増計画中間年である。この年、9月1日地球連邦政府がついに正式に発足し、そのセレモニーが盛大に行われた。地球連邦政府はアメリカ合衆国の旧国連ビルにおかれ、初代大統領は日本の阿賀元首相になった。

 地球政府は連邦の形をとっており、旧国家は自治国家の形でなお国の形態を取っている。だだし、2百以上の国と地方は余りに多いので、基本的に所得を上げるために予算を準備機構が代行した国や地方については半ば強制的に統合した。

 さらに惑星ホープ、現代人口4億人および惑星ホライゾン、同人口4.1億人も加わって最終的に75個の国になった。一方、インド、中国は逆にあまりに人口のまとまりとしては大きい、ということでそれそれ3つと5つに分けられた。

 もともと、地球上の国々が多くの数に別れようとしたのは、民族ごとのアイデンティティーという名の元での差別意識と実際の差別があったからである。そこにおいて、2025年に始まった所得3倍増計画においては、多くの国で予算の実施権を取り上げてしまった。

 さらに、民族という意味では全くバイアスのかかっていない地球頭脳の、計画の極めて規模の大きな事業の数々を実施する中で、過去の国という分けに意味がないということに人々が気づいてきたということが、こうした国の数の整理が可能になった理由であろう。

 一方で、基本的には準備機構から投資がなかった先進国は、財政の実施権を取り上げられることもなく、結果的に殆ど統合されていない。
 また、常任理事国を旧国連と同様にG7+1で形成しているが、これらの国々に議決の拒否権はないものの、その8か国で大統領の候補を出すことができるほか、重要事項として定められている、軍事に係ることや重大と定められているいくつかの項目について優先議決権(通常の票の3倍の重み)を持つ。

 なお、大統領の候補は、常任理事国以外の国で最大2人出すことも可能である。しかし、最初の年である今年は、阿賀清太郎が候補として出ることを聞いた常任理事国以外の国々が、候補を出すのをあきらめたため信任投票となってしまった。

 なお、日本においてはすでに日本新世紀党と自由民主党が2大政党になって、交互に政権を取る形になっており、現在は新世紀党が政権を担って西村慎吾が首相になっている。

 地球政府の予算については、基本的に各自治国政府のGDPの2%を目安として供出することになっているが、これでは現在進んでいる所得3倍増計画の予算には全く足りない。
 従って、地球政府の原資はこのほかに、ガイア型宙航艦の友好国への売却益1.8兆ドル、さらに、地球開発債と名しての債券募集、加えてかって大問題になっていた、世界を駆け巡る年金等を原資とする様々なファンド資金からの直接借り入れである。

 これらのうち借り入れに関しては担保が必要であるが、惑星ホープ・ホライゾンを担保としており、債券、借り入れである以上は基本的には返す必要がある(国家は返さなくても借り換えを続ければいいという意見もある)が、これは、きっちり目途がついている。

 すなわち、都市あるいは近代化された農地等としての開発益である。
 まず、途上国において、都市スラムや農山村などは殆ど無価値であるところを、巨額の開発費用で開発することにより、開発費用の何倍もの価値を得ることになるし、現在惑星ホープとホライズンで行われている開発はまさにゼロから価値を生み出すことになるわけである。

 短期的に、今般地球政府が準備機構から引き継いだ負債は巨額なものであるが、これらは近い将来巨大な利益を生むことになるわけだ。なにより、地球連邦政府にはホープとホランゾンの他にも8個の地球型惑星の所有権があるので、いかなることがあっても担保は十分にある。

 ちなみに、この時点での全世界の金融関係のデータはすでに地球頭脳に握られており、このことは全ての金にからむ取引は地球頭脳が掌握しているのである。すなわち、人間と違って地球頭脳は様々なニュース、広報等を通じて地球で起きている殆どあるゆる事象を把握しているので、ある金額の金が銀行を通した出入りがあるとそれがなにゆえに行われたかも確実に把握できる。

 すなわち、収賄等を行って、それを銀行に通してとたんに判ってしまうわけだ。実は地球頭脳にあらゆるコンピュータネットワークを繋ぐことは、市販コンピュータの能力向上と一緒に、誠司たちが義弟の誠一も含めたチームで真の狙いを隠して進めたことである。

 このシステム構築の結果として収賄等が露見した場合には、あまり大きな騒ぎにしないために、額にもよるが基本的には警告で済ましているが、中には監視されていることに気が付かないバカもいて、そういうものは告発されてその地位を失っている。

 このことで、所得3倍増計画による極めて巨額の金が世界中で動いているが、収賄等による被害は微々たるものである。なお、こうしたプロジェクトに絡もうとしてくる犯罪組織による行為は容赦なく暴いて、組織そのものを徹底的に追及してつぶしている。

 過去のものを含めて、世界中のデータを自由に入手できる存在に目を付けられ、その存在が警察組織を自由に動かせるとなるといかなる犯罪組織も敵うはずがない。
 実際に、裏の大物が最近3年でほとんど豚箱に入っている。そういう意味では、犯罪組織の経済からみの犯罪はまず起こせなくなっている。また、これらの組織の他の主要な犯罪である恐喝等についても、地球頭脳とその動かせる組織が実際に頼りになることが知れてきて、被害者が恐れず告発するようになって規模の大きいものは殆ど無くなっている。

 このように、地球頭脳の計画の元で、所得増加計画は順調に進み、2030年四月の段階のGDPの推定値は2025年の1.8倍になっている。とりわけ上昇率が大きいのは当然貧しい国であり、現在では最貧国でも平均GDPは1万ドル弱になっており、結局、国の大きさは変わることのなかったベトナムの場合では1万2千ドルを超えている。

 一方で、先進国については、途上国のように準備機構からの投資はなかったが、途上国のみならず、惑星ホープ及びホライゾンの開発に当たっては莫大な資器材に必要になり、これらはその工業生産能力から先進国または中進国から調達されたので、これらは当然GDPのアップに貢献している。その意味では、日本の技術封鎖で経済に落ち込みを見せていた、中国・韓国もこの特需に大いにおこぼれに預かった形である。

 こうした、インフラ等の資器材の製造と輸出で最も潤ったのは、当然日本である。なにより、最も必要でかつ最も付加価値の高い、核融合発電、SAバッテリー、MMモーターの励起(充電)装置、重力エンジンなどのキー部品の生産のノウハウを独占的に握っており、さらにはすでに世界の半分くらいの人が飲んでいるブレイン・インプループ剤も日本の独占生産である。
 こうしたことから、最近の日本のGDPの伸びが毎年5%を超えて、すでに900兆円になっているので一人当たりGDPは7万ドルを超えている。

 さて、地球政府設立の記念式典であるが、これには、地球連邦構成国のすべての代表及び、同盟諸国36か国すべての代表が参加し、聞きつけたラザニアム帝国も代表を送ってきた。
 なお、同盟諸国は、すでにニューヨークに大使館及び同盟軍事務所を構えており、地球も準備機構と地球防衛軍から各同盟国に大使と同盟軍駐在官をおくっている。

 同盟軍については、当然地球防衛軍が主力になっているので、同盟軍駐在所には超空間通信機が設置されている。超空間通信機は、アサカラ王国のみはすでに実機をもっているが、ラザニアム帝国を含めて他はもっていないし、この技術は公開していない。

 この理由は、超空間無線機は超空間タグの技術が含まれるので、超空間攻撃システムの秘密を守るために少なくともラザニアム帝国に対しては厳重に秘密にしなくてはならないため、他の同盟国にもやむを得ず秘密としている。
 この駐在事務所と駐在員の存在は、各星系にとってその意味では極めて重要であり、その星系に何かあれば、超空間通信機の知らせによって、基本的には太陽系から2日以内に駆け付けることが出来るように常に待機部隊が控えて出動態勢を整えている。

 式典は、花火の音ともに始まり、1時間程度のショーがあって、各同盟諸国、さらにラザニアム帝国から祝辞があり、最後に新大統領の阿賀から挨拶があった。

「地球の皆さん、そして遠路今日ご出席頂いた来賓の方々おいで頂きありがとうございます。
 今日、地球は統一惑星政府を設立しました。
 ご来賓の皆さんからすれば、今更とお思いでしょうが、実際のところ、2022年ごろまで、わが地球は200以上の国と地域に別れ、場合によっては近隣同士の様々な紛争もあり、各国はその隣人あるいは近隣の諸国との紛争に備えて莫大な資金を投じて軍備を整えてきました。

 そこに、今日ここにその代表に御出席頂いていますが、ラザニアム帝国の挑戦を受けて、我々は地球防衛軍を設立して抵抗した結果として、幸いにその挑戦を退けることが出来ました。これは、わが地球人類のみならず地球に住む生物すべてにとっての生存をかけてのことでしたから、我々は、宇宙に対して地球人類として軍備を備えなくてはならないことを理解したわけです。 

 すなわち、中で争っている場合ではなくて、団結して外に備える必要であることを知ったわけです。一方で、その戦いの結果として、今ここに出席されている同盟諸国の皆さんと出会い、その中で私たち地球は大変若く、その結果として、その経済、技術、社会システムそのものが未熟なものであることに気が付きました。

 そこで、私たちは2025年に始まり、2025年を目標年とする所得3倍増計画を実施に移しました。これは、経済のみならず、我々の知性も向上させ、その技術を向上させ、社会システムを成熟したものにするという計画も含んだ大変野心的なものであり、今年はその中間年に当たります。

 現状のところは、その計画は順調に推移しており、目標年には当初の目論見は果たせると見込んでおります。また、その目標の中に今年すなわち中間年には地球統一政府を設立するという目標も入っておりましたが、それもまた今果たせたわけであります。

 さらにもう一つ重要な話として、皆さんもご存知のように地球共通通貨を発行します。これは、現在すでにほぼ共通通貨として使われている、ドルと基本的に等価とします。したがって、当然紙幣、貨幣はクレジット貨(CD)として一新し、地球連邦発足の日の今日に発行しドル他の通貨は順次交換していきますが、当面は今皆さんの国で使われている通貨も当然使われます。

 現状では、このすべての交換は2035年まで、すなわち所得3倍増計画最終年として考えています。交換レート等についてはすでにインターネット等で発表していますのでご覧ください。
 さて、この地球政府は75か国の自治政府の上に乗った形の連邦政府であります。友好国に対する、あるいはラザニアル帝国、さらには今後友好関係か敵対関係になるかわかりませんが、今はまず存在も判らない銀河宇宙の他の宙域の住民との付き合いは当然地球政府が担当します。

 さらに、現在行われているように、わが地球を星間国家として成熟した存在にするために、地球頭脳の指導の下に、全地球規模で統一的に行われている所得3倍増計画と、それと並行して行われている知力の改善、教育の平準化等の計画と実施等についても我々が主体となって実施します。

 なお、地球防衛軍は、準備機構とは並列の組織で上下関係はありませんでしたが、今後は、名称は変えないものの我が連邦の内閣で任命される防衛大臣の指揮下に入ることになります。
 初代の防衛大臣は皆さんもご存知のように、前防衛軍司令官のアーサー・
シップ大臣です。新しい法律の下で、防衛大臣は文官と定めますのでアーサー・シップ上級大将は軍籍を離れます。

 なお、防衛軍司令官には今まで副司令官だった西野上級大将が就任されます。
 他の大臣の方々の紹介はまた別の機会にさせていただきます。
 さて、わが連邦政府はまだ滑り出したばかりで、未だ詰め切れていない制度上、手続き上のことが沢山あります。このことで、たぶん様々な混乱がおきるでしょうが、それは順次解決していく以外の解決の方法は無いわけで、これには皆さんの心からの協力が必要です。

 今日、地球連邦が成立しました。しかし、これは皆さんが地球人としてその連邦の一員であるという自覚を持って頂かないことには、連邦国家としての役割りを果たすことはありません。今まで属していた国は違っても、肌の色は違っていても、言葉は違っていても皆地球人であり同胞なのです。皆さんが自分は地球人だと思うことこそが本当の地球連邦の始まりだろうと思っています。

 みなさん、私たち皆は地球人なのです」
 初代大統領阿賀清太郎の挨拶が終わり、その会場にいた人達からも、またテレビを見ていた人々からも盛大な拍手が長く続いた。

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