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第4章 人類の宇宙への進出

4.11 惑星ホライゾンへの植民2

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 私は、ホア・ダナン、二十五歳です。27歳の建築の施工技師の夫と2歳になる男の子を持っている主婦です。私の夫は高等学校卒業ですが、とっても頑張り屋さんで建築関係の資格をいろいろ勉強して取得した結果、今では大学を卒業した人たちと一緒に監督として仕事をしています。

 私たちの国ベトナムは、直接は関係出来なかったけれど、1年以上前のラザニアム帝国の侵攻に対する地球防衛軍の設立と、戦い、そして勝ったことは本当に大きなニュースで、私たちも皆毎日テレビにかじりついて見ていました。

 地球防衛軍には、ベトナムからも空軍のパイロットと整備士、それと海軍の方が合計百二人選ばれてその多くが、あのガイア型の宇宙艦に乗って宇宙のかなたに飛び立ち、そしてラザニアム帝国を屈服させて帰ってきました。
 彼らのほとんどはまだ地球防衛軍に勤務していますが、里帰りということでベトナムに帰ってきたときは、歓迎で大変な騒ぎでした。

 その中で、帰ってきた皆が一様に言っていたのは、今や世の中は変わりつつある、いや変わらなくてはいけない、ということです。たしかに、数年前から、日本でとんでもない発明が次々にされて、実用化されて、いまでは、私たちのベトナムでも核融合発電機が出来つつありますし、SAバッテリーによる電動車もすこし入って来ています。

 でも、日本自体が自分の国のために作るのが精いっぱいで、なかなかこちらでは普及していませんので、未だ庶民の足はガソリン駆動のバイクです。
 それでも、ラザニアム帝国のことがわかってからは、日本もいろんな工場を世界中に作ることを認めて、今ではベトナムでも核融合発電機、SAバッテリーとその励起、MMモーターなどの工場も作られていて、もうすぐ製造を始めるので今後普及に拍車がかかるでしょう。

 そうなれば、当然、バイクもモーター駆動になるので、ハノイのこのひどい排気ガスも無くなるでしょうから、息子のダンを育てるのも安心だと思っていました。
 昨年の、地球政府設立準備機構の発表である「所得3倍増計画」はここベトナムではすごく期待を持って受け止められました。その計画はすでに出来ているようで、その概要が発表されました。

 それは、私たちの国については国の予算を超える莫大な投資による、農村部・都市部双方の極めて大規模な開発および、それに伴って公務員、民間すべての給料の2倍に及ぶ上昇等が含まれていて、国民皆にとってそんなうまい話があっていのかと頬をつねるようなものでした。

 ただ、その条件は、その投資に加え、国の予算の執行を機構が派遣する組織に任せることが入っており、最初私たちの共産政府は断固として拒否し、投資はすべて現政府を通しそのコントロールの元に行うように要求しました。しかし、機構は政府のこの要求については、今後進める大規模かつ複雑な計画を実行することは、地球頭脳の指示する通りに実施するしかない、とあっさり政府の拒否を刎ね付けました。

 そして、その受け入れを拒否することは、ベトナムにおける所得3倍増計画の実施を拒否することである、と通告しました。これは、人々の心からの怒りを呼びました。主要政府の公館には人々が押し掛け、抗議をしましたし、警察も軍も同調して、いくら上官が命令しても実施部隊が取り締まりをしません。

 マスコミは、政府の拒否に理由は、公務員の現在の腐敗した状態を今後も続けるつもりだと書き立て、人々の怒りをより掻き立てました。その中で、軍の動きも不穏になって、政府は最終的には折れて、結局今後地球頭脳の計画に沿って、その端末の指示によって政府及び地方政府の組織を使って様々な施策が実行されることになりました。

 こうして、私の国では今後は豊かになれるという希望に皆が燃えていたわけですが、宇宙の話などは私たちに縁があるとは全く思っていませんでした。でも、夫のナムが一綴りのパンフレットを持って帰ったときに、それは私にとっても身近なものになりました。

 そのパンフレットは、ラザニアム帝国から取り上げた惑星ホランゾンへの建設技術者募集のもので、その職種は設計、施工管理、施工実施に係る、土木・建築、機械・電気、給排水衛生、プラント、工場設備の経験者を家族と共に移住を条件にしたものです。

 その報酬は年ベースで現在の6倍以上になろうかというものでした。さらに、今後ベトナムからは今後3千万人の移住者募集を行うことと、今回の募集に応じれば、パンフレットにある住宅を格安で手に入れることが出来るとあります。

 その住宅の写真は、今にして思えば今私たちがいま現在見ている住宅街を撮ったものですが、それを見て私はいっぺんに引き付けられました。私は、このハノイのごみごみした排気ガスに満ちた環境で育って来ましたが、折りにふれ訪れた郊外の広々した環境と自然に憧れてきました。

 職さえあれば、不便でも夫のナムの故郷に住みたいと思っているくらいですから、そのパンフレットの中の広々して、緑に囲まれた家々に強く引き付けられました。そして、十倍に及ぶ競争を勝ち抜いて、今ここに来ることが出来た夫を誇りに思っています。どうも、私の英語の通訳の能力も選考理由にはあったようですが。

 そして、私は五十六光年の距離を超えて、ここ惑星ホランゾンのベトナム人が主たる住民になる予定の都市「ニューハノイ」の延々と続く住宅街を、バスに乗って走っています。しかし、止まったのは出発した広場からわずか1㎞足らずの一つのビルの位置です。あの女性係員が説明します。

「はい、ここが皆さんの住宅になります。A19―23号棟です。それぞれ、手前から1~5まで番号が振られており、まず、1号がダナンさん一家、2号が〇〇さん、3号が××さん、4号が□□さん、5号が▽▽さんですね。
 それぞれ、玄関に続く歩道前で止めますので、荷物を下してください。下ろす荷物は私物のボックスと水と食事のパックです。
 玄関はこのカードキーを使いますので、それぞれの家の十歳以上の方には1枚ずつ渡します。なお、各家については点検のチェックリストと、特記事項を書いたメモまたこの近所の地図は玄関においてあります。また、今日中に電動バイクが届けられますのでキーを受け取って、ガレージに入れるなり保管してください」

 なお、カードキーについて、この先発隊の前に到着した調査隊が行った様々な調査のなかで、アサカラ人から入手した透過調査法によって玄関ドアのシステムを解明して、カードとその入力装置を作ったものらしいです。
 最初に私たちが降りて、荷物を下すが、私がバスの中に声をかけます。
「同じ棟になりますのでよろしくお願いします」

 私の声に皆が応じてくれる。
「よかった」
 同じ棟には大体35歳以下の夫婦と子供ばかりなので、近所付き合いには問題ないと思いますよ。
「荷物お願いね。私は、ダンのおむつを替えるから」

 私はナムにそう言って、リュックのみを背負ってドキドキしながら玄関のドアの前に立ちます。
 庭は、自分の家の幅で、隣と身長くらいの周囲の塀と同じもので仕切られていますが、この家は建物の端だから建物の端が周囲の塀と3mほど空いていて私の家の庭になっています。

「庭が広いわ、ラッキー」
 私は思わずつぶやきました。庭の中には、適当に樹木が植えられていて、地面に当たるところは樹脂のようなもので覆われています。

 玄関のドアに、昨日みた説明ビデオの通りにカードをかざすとかすかにロックが外れる音がして、自動的にゆっくりと開きます。もうバッテリーは装着されているので、宅内の機器は使えるのですね。
 外が灰色かかった白に対して、中の壁と天井は薄いグリーンで床はベージュです。玄関は2m四方で半分が土間の舗装、半分が上がり口になっていて、その先が廊下で左手に居間らしき部屋が見えますが他の部屋はドアで仕切られています。

 玄関の一つの壁には半分はオープン、半分は戸で隠された棚があり、その上にわかりやすいように何枚かの紙が置いてあります。とりあえず私は靴を脱いで、その居間に上がります。すべすべした廊下と違って室内は布のような感触の弾力のある床になっていて、ダンを下して座っても快適です。

 部屋の真ん中においてあるテーブルの前で、むずがるダンのやっぱり濡れているおむつを替えてあげます。ダンは、ニコニコと機嫌がよくなってすぐに起き上がり、周囲を見回します。
 窓もありますが、天井全体が明るくなっているような感じで、部屋全体が気持ちの良い明るさです。壁一面の高さ1m程度までの高さが収納になっていて、上にはものが置けるようになっていますが、今は何も置いておりません。この居間だけで、私たちがハノイに住んでいた部屋の倍くらいあるでしょう。

 夫のナムが、荷物を玄関に持ちこんで、上がってきました。
「広いねえ、そして明るいや」
 彼が言いますが、確かに前の家は昼間でも日は当たらず薄暗かったのです。

「さあ、中を見て回ろうよ」
 夫はダンを抱き上げて早速一階を見て回ります。

 居間に続く台所、棚を空けるともって出なかったのでしょうが、少し食器らしきものが残してありますが、なべやフライパンのようなものは全くありません。大きな冷蔵庫もあって少し冷え始めたようで、中には何か残っていますが、捨てなきゃいけないでしょう。

 コンロは電気式でベトナムでも新しいアパートには良く見かけるようなタイプで、オーブンもありますが使い方は勉強が必要です。トイレは私が夢みていた水洗式で、どうも座ると乾燥まで自動的にやってくれるそうです。風呂があり、バスタブになっていますが中に立つと勝手に洗って乾燥までしてくれるようです。

 トイレと風呂は地球の水準をはるかに超えています。二階にある寝室は2つあって一見何もない部屋ですが、ボタンを押すとベッドが壁から出てきます。ダブルベッドのサイズと、シングル2つのサイズです。
 ダブルベッドの部屋には小さ目のベッドもあります。寝てみましたが、やわらかいけれどしっかりしていて、寝心地は最高だと思いました。
 ベッドがでてきた壁には毛布等の収納スペースがありますが、今は空ですので、配給された毛布を使うことになります。

 さてそうすると、台所のものが問題です。一応指示があったので小さめのなべやフライパン最小限の食器の類は持ってきましたが、あまりに今の立派な台所に釣り合っていません。これは、買わなくてはなりません。数日中には市場が開くということなので買いに行きましょう。

 それから問題は、食材です。最初の3日間はパックの食事が配給されますが、その後は市場で買って自分で料理しなくてはなりません。今回来た技術者の家族が市場と一緒にレストランも開くようですが、やはり自分で料理はしなくては。どんなものが売られるのかな。なお、まだテレビは無く、各家庭にノートパソコンが配られそれで様々な情報伝達とビデオ放送があります。

 その日は、家を隅々まで見て回り、点検の人はざっとしか掃除はしていないので、隅々を持ってきた雑巾で掃除をして、トイレも風呂も使って着替えをしました。トイレは全自動ということで、排泄後は水で洗われ、温水で乾燥されて慣れないせいか特に洗われている間は気持ちが悪い思いをしましたが、終わったのちは本当にさわやかで気持ちが良くなります。

 風呂はまずスイッチを入れて湯を張り、そのバスタブで横たわって、ボタンを押すと水流で体をほぐしてくれます。それから、バスタブの外に出ると洗剤も使って体を洗って流してくれます。最後にあったまって、外に出ると勝手にバスタブは空になりますが、この水は浄化して再利用するそうですから、水の無駄使いはしないようですね。

 皆が風呂にも入って気持ちよくなったところで、食事の紙パックを台所のレンジ兼のオーブンで温めて、ダンには少し加工して居間のテーブルで夕食です。
 ナムは、船の中で買って持ってきたビールを用意しています。
「本当に、こんな立派な家とは思わなかったあ。地球にはこんな便利な家はないぞ。さあ、ホアも飲んでくれ」

 私に、コップを渡して注いでくれます。
 この家に、ベトナムから持ってきた紙コップの、そのアンバランスおかしくなって思わず笑ってしまいました。

「何か、おかしいか?」
 ナムが言いますが「いいえ、このコップがね」ナムもしげしげ見て言います。

「うーん、確かに似合わんなあ、明日は市場が開くというところへ行ってみよう。それらしいコップや食器を探そう。まあ、乾杯!」
 私も唱和します。

「乾杯!」
いつもは苦さだけを感じるのですが、ぐっと飲んだビールは何か美味しく感じます。その夜は、ベトナムに残してきた人たちのこと、来る途中の宇宙船の中でのこと、今後のこと、ナムとゆっくり話しました。

 ナムはウオッカを持ってきて飲み始めました。
「あまり、飲んじゃだめよ」私が優しく言うと、「もちろん、新居での最初の夜だからね」彼は意味ありげに言いますので、私は思わず頬が赤くなりました。ダンが寝てしまったので、私が抱いて2階の寝室のベッドに寝かしつけました。

 私が、居間に降りていくと、ナムが「ホア、おいで」と手を広げて招きます。
 私は素直に彼の腕に抱かれて、その唇を受け、お互いにむさぼりあってしばらくすると、彼は私を抱き上げて二階までに運び、すでに整えられていたベッドに降ろして覆いかぶさってきます。

 惑星ホランゾンの新居での最初の夜の彼は、それは情熱的でしたが、私もすっかり夢中になり、2人とも疲れ果てて寝てしまいました。
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