日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第4章 人類の宇宙への進出

4.13 地球連邦成立の日の牧村家の人々

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 誠司はゆかりとニューヨークに来ていた。無論5歳の星太と2歳になる娘のさやかも一緒で、このところいつも一緒の義弟の恵一に、一緒に行きたいと言ってついてきた大学院ドクターコースの妹の洋子も一緒である。

 かれらは来賓席ではないが、演説者に近い席を与えられて、誠司、洋子、恵一が座って阿賀新大統領の演説を聞いている。会場はニューヨーク郊外の連邦中央研究所に隣接した作られた幅80mで長さ100mにもおよぶ大会議場である。

 ゆかりは、宿舎のホテルの豪華な部屋でテレビ画面を見ながら星太とさやかの面倒を見ている。誠司もこんな時でないと金を使うことがないので、宿は大体ホテルのスイートを使っている。
 今回、今年で31歳の誠司がここにきた理由は、阿賀に半ば強要されて、地球連邦政府の主任科学アドバイザー兼連邦中央研究所の科学部の部長に就任することになって明日はそのスタッフと顔合わせがあるのだ。しかし、当分は西山大学技術開発研究所の宇宙物理学室長と兼任で、大体半分ずつの時間を過ごす感じになるようだ。この場合は、時差ぼけの解消が大きな問題になるがそのための処方の研究も進んでいる。

 西山大学にとっては、誠司とマドンナが不在になることは大問題であり、殆どすべての研究室で悲鳴をあげているが、「いつまでも頼るというわけにはいかないでしょう?」という山科研究所理事長の言葉で、誠司が半分しか居ない前提でのローテーションを組みつつある。

 ゆかりは、今38歳であるが、西山大学のアンチエイジの研究がほとんど完成に近づいてきて、すでに研究段階からその処方を受けていること、また本人の適切な運動と食生活の効果もあって、肌の張り、容姿といい誠司が出会ったころと殆ど変わらず夫婦仲は至って良い。

 ゆかり自身も、誠司が西山市とニューヨークの行き来をするということで、自分も一緒に往復するつもりであり、すでに連邦中央研究所の機械科の研究員の場所を確保している。
 誠司が、連邦中央研究所に席を占めるというニュースが流れたとたん(これはどうも連邦政府が故意に流したようだが)、世界中からその研究所のポストに応募が殺到して、阿賀大統領(予定)から「誠司君のおかげで、研究所には最高の人材を集められたよ」と感謝されたものだ。

 こうした研究者にとっては、誠司とマドンナのことはすでに公然の秘密になっており、西山大学のみが画期的な研究成果を連発するのに相当強いやっかみがあったことも事実である。

 ちなみに洋子であるが、今や世界的でもトップと言われる西山大学の理系の諸学部の一つ医学部において、学部学生のころから、誠司とのコネ欲しさの教官から引っ張られて研究室に入って研究を続けてきた。
 彼女の最初の希望は、母をがんで無くしてこともあって、がんの研究であったが、学生の二年の時にマドンナの力を借りた、富山研究室において完全なガンの予防と治療法が確立されてしまった。

 そこで、一旦目標を失ったが、誠司に対して8歳の年上女房というコンプレックスがあったゆかりから焚きつけられて、アンチエイジの研究をすっと続けてきた。その結果、無論研究室の主任教授のリーダーシップもあり、マドンナの使用時間も豊富に取れたこともあって、彼女の研究室では研究はすでに殆ど完成に域にきている。

 これは、すでに肉体面では六十歳代までは殆ど二十代と変わらない状態を保つことが出来る域にある。しかし、頭脳の衰えについては行き詰まっていたが、知能改善の研究の段階で開発された成人用のブレイン・インプルーブ剤に顕著な効果があることがわかったことで解決した。

 すなわち、手間を厭わず処方を続ければ、少なくとも六十代までは二十代に近い肉体状態と頭脳も衰えることがないことがわかっている。洋子はその研究に大きな貢献をしており、来年のドクターコース終了時の博士号取得は間違いないとされている。

 恵一については、いまは知能向上の処置を受けて5年になる十八歳であるが、中学二年の時の処置が知能向上の結果が非常に良好だったこともあって、その後3年の集中的な教育と本人の努力で大学教育を超えて物理学の修士レベルになった。そして、そのことで、自ら頼み込んで誠司の助手的な立場になってすでに2年がたつ。

 実際のところでは、誠司としては、他の研究者のために週に5日で各日に3時間のマドンナ操作の時間をとられていることもあって極めて多忙であり、恵一を助手に使うことはその教育の手間を考えれば、やや負担かなと思ったことは事実である。

 実際、彼は自分の時間が取れないので、研究所の事務的な話や相手が求めてくる面会者のさばき等は秘書に任している。その秘書は、やはり西山大学の卒業生の横田幸子で極めて優秀であるため、彼女にはアメリカまでもついてきたもらいたいと位であった。

 しかし、既婚者なので、今後も日本に常駐してもらうが、不在の時も専任になってもらって誠司も日本でも窓口になってもらう。アメリカでは、当然別途秘書が用意されることになる。
 恵一は誠司と一緒に働くようになったが、当初は恵一にとっては強化された知能があってもついていけない場面が多々あった。これは、誠司が長年マドンナを使って培って来た専門的な知識は膨大なものになっており、物理学に係る部分においてもいかなる文献にも載っていないような深い知識もあったため、当然恵一としては知識において不足していたのである。

 しかし、誠司がマドンナを使って他の研究者のための操作をやっている間にも、恵一が誠司がやりかけた研究を続けて実際に成果を出しているのを見て、誠司もその有用性に気がついた。そこで、誠司は主として恵一の能力を向上させて、有用性を高めようと、週に7時間恵一を含めた希望者に、自分の専門知識のうち文献にされていないものについてレクチャーを初めてもう1年半になる。

 最初は十五人から始めたのであるが、段々人数が増えてきて現在では五十人おり、この中には重田教授も含まれている。誠司としては自分でテキストを作っている暇はないので、マドンナのアウトプットを使っているが、これは当然ソフトデータもあるので、恵一が順次取りまとめており、半年前に1年分を取りまとめて誠司の同意を得て三百五十ページの物理学概論⑴として出版した。

 これは、大学レベルの物理学の知識は持っているものとして書かれたもので、どちらかと言うと博士号をもっているレベルの人でないと理解は難しい内容であったが、始めて明らかにされた理論や考え方も多く、学会では極めて大きなセンセーションを呼んだ。

 これは、実際にこの本を題材に、物理学会の緊急セミナーが開かれて誠司が基調講演を行い、その後3時間質問責めにされたほどのものであった。
 また、さらにこの本に関して、長く世界の物理学会を引っ張てきたと言われる、ケンブリッジ大学のセオドア・マイケルソン教授が「この本をもって、世界の物理学は百年のワープを遂げた。明らかに私の役割りは終わった。私もこれをもって引退する」と宣言したほどのものであった。

 恵一は当然のこととして内容を完全に理解しているわけであるので、すでにその学識は世界の一流の物理学者に並んだと言っていいだろう。
 しかし、こうしたことをしている間には、例によって何でも頭を突っ込む誠司が、所得3倍増計画の実働にあたって、組織犯罪グループ等の介入による不正行為の兆しを相談されて対策を実行している。具体的には、コンピュータの改善を進めている研究室に介入して、マドンナを集中的に使って、画期的な性能でかつ割安のコンピュータを開発した。

 当然、世のコンピュータは急速にこのタイプに変わっていったが、これを使うということは地球頭脳に繋がることになるわけだ。この結果、世界中のコンピュータにデータとして取り込まれた事象、無論銀行間の金のやり取りのデータも、全て地球頭脳が知ることになって、先述のように犯罪組織が暗躍する余地をなくしてしまった。

 このシステムの構築と普及に恵一は大いに活躍し、この件に関してはむしろ誠司より恵一の方の貢献度の方が大きい程であった。いずれにせよ、誠司と恵一は、今や極めて大きな成果をあげているとして世間も認めるコンビとなっている。そのためもあって、恵一はすでに西山大技術開発研究所の研究員になって、講師並の給料といくつかの発明の対価を得ておりすでに年収では十万クレジット(CD)を超えている。

 なお、誠司たちが現在取り組んでいるのは、超空間攻撃システムの防御方法である。間違いなく、ラザニアム帝国がいずれは超空間攻撃システムを開発するであろうことは予想されており、その時点で、防御方法のない攻撃方法であることは許されないのだ。

 ちなみに、誠司の妹の洋子も給料こそはないが、いくつかのアンチエイジ措置の特許料の分配があって、年に2万CD程度の収入があってこずかいとしては十分な収入がある。
 余談が長くなったが、阿賀の演説が終わり、誠司たちは精一杯拍手をする。

「どう思うかな?この地球連邦政府については?」
 誠司が洋子と恵一にどちらともなく聞く。

「ええ、地球人が恒星間宇宙に乗り出した以上、いずれにせよ避けて通れない道だったと思うわ。また、人々は国境でさえぎられていることをいいことに、あまりに他の苦しみ、まあ内乱もあるけど、貧しさからくる飢えなどに無関心で来すぎましたね。
 日本からしてその通りです。例えば、東日本大震災で被災した人は気の毒に思っても、アフリカの干ばつやそれによる飢えには無関心でした」

 洋子は一旦言葉を切って考える様子を見せて、なおも続ける。
「地球からすれば、今回宇宙に住む全く違う人種に向かい合った時、私たちは、いやがおうにも地球人としてのまとまりを意識せざるを得なくなったのですね。
 日本の場合で言っても、着ること、食べること、住むことに基本的に困らず、家には電気器具が揃っていて、娯楽もあってそんなに見苦しくない生活を私たちがしている一方で、スラムでボロボロの服を着て、食べるものも十分でなくただ生きているだけの人々もいる。
 こういうことを、みなが少なからず恥ずかしく思うようになったと思うのよ」


 恵一が頷いて話を引き取って続ける。
「それが、所得3倍増計画に対するいわゆる先進国の抵抗の少なさの原因だと思うな。
 結局、今まで準備機構は、ガイア型の宇宙艦の販売益や惑星ホープとホランゾンを担保にして巨額の金を手に入れてすべてを途上国、中進国に投じてきたわけだから、過去の世界の在り方からすれば、先進国から大変な抗議があったはずだよね。

 しかし、内心はあるかもしれないが、表立っては出ていないということは、洋子姉さんが言ったことが事実あるのだと思う。また、今は目立たないようにやっているけど、地球頭脳は明らかに貧富の差をなくす方向に持って行っているよね。
 まず。特に途上国、中進国で目立っていた金持ちほど税金を払わないという点は完全の是正できたよね。さらに、これは遡って徴収できるようにしているから、後ろ暗いことをしてのし上がってきた金持ちがどんどん没落している。
 また、日本では普通の相続税を、世界的に導入しようとしているよね。あれは、2033年までには連邦政府全体で導入されるようになるはずだよ。その結果は世襲の金持ちが居なくなって、皆自分の実力で生きて行かざるを得なくなってくるということだ」

 今度は洋子が引き取る。
「そのあたりもあるけれど、いわゆる後進国へ投資が集中することの理解というか、あきらめは、知力向上も一つの要素として大きいと思うわ。白人は特に有色人種を知力の面で馬鹿にしていたでしょう。
 ところが、知力向上後の調査の結果は、人種による有意な差はないという結果になったけど、あれが大きかったと思うわ。実際に、知力向上の結果、バリバリ活躍している有色人種の映像などを見ると、馬鹿にできないと感じざるをえないはずよ」

 恵一は頷いて言う。
「そうだね、それはあるかな。僕たちだってある程度そういう面はあるよ。いずれにせよ、この後はいろんな価値観が変わってくると思うね。
 いまでもそうだけど、財産を持ってて豊かな生活をしている人を尊重する社会的風潮はあるけど、価値観が変わって、自分で稼いだものはいいとして、親や先祖から受け継いだ財産で豊かな生活をしている人は恥ずかしく思うようになるかもしれないな。
 いずれにせよ、すでに友好国の星間国家がほぼそうであるように、今後は地球でも地域的な豊かさの差は小さくなるだろうし、貧富の差も小さくなる方向に行くと思うよ」

 それを聞いていた誠司は頷いて言う。
「そう、なかなか考えているね。俺も地球の少なくとの貧富の平準化は進めるつもりだし、実際に進むとおもうよ。さて、ぼちぼち引き上げるか、君ら2人は市内観光をするんだろう?」

「ええ」
「そうです」
2人は答える。

 洋子と恵一はその夕方と晩は護衛と一緒に、日本領事館の館員の随員の付き添いでニューヨーク観光を楽しみ、夜景を見ながらの夕食を楽しみ、誠司たち夫婦は久しぶりに子供と一緒にゆっくり過ごした。
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