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第4章 人類の宇宙への進出

4.14 加速する惑星ホライゾンの開発

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 惑星ホランゾンでは、開発が加速していた。
 ニューハノイに住む、ナムとホア夫婦には、5歳になるダンの他に2年前に妹のミエンが出来て4人家族になり、かつホアの弟のクワンも一緒になってにぎやかになった。

 ナムは、最初は十万㎾の核融合発電機の基礎工事と、パーツに分けて運んできた発電機5基の建設を皮切りに、SAバッテリーの励起工場、SAバッテリーの製造工場、食品工場等の様々な工場の建設を次々に手掛けてきた。
 ホアは、こっちに来て間もなく近所の奥さんグループが保育園を開いたのでダンを預けて働き始めた。

 惑星ホランゾンにはベトナムだけでなく、さまざまな国から移民が集まっており、基本的には一つの都市には同じ民族を住まわせるようにはしているものの、隣り合った地域では当然違う民族が住むようになることになる。
 ニューハノイは、ベトナム人移住者の大きな居住区の端に位置しており、隣はフィリピン人居住地区になるため互いに様々な調整事項があって、どうしても英語でのコミュニケーションが必要になる。

 そこで、ベトナム人では英語をしゃべる人は少ないために、英語が達者なホアが、好条件で引っ張り出されたわけだ。ちなみに、翻訳装置はすでにあって、それに向かってしゃべると翻訳された言葉が聞こえる。だが、いわゆる機械翻訳であり、ほとんどの意味は通じるがニュアンスは伝えにくいことと数が少ないので通訳が出来るものが貴重なのだ。

 フィリピンのタガログ語とベトナム語は互いにマイナーな言語なので、殆どのフィリピン人がしゃべることが出来て、ベトナムにもある程度使える人がおり、かつ将来は人類世界の共通言語になる可能性が高い英語が共通言語になっている。

 惑星ホランゾンには、2百隻のガイア型の艦船が割り当てられ、百五十隻が旅客船、五十隻が貨物船として使われている。これらの船は往復5日で移動しており旅客船は原則として1万人の十歳以上のものが乗っているが、十歳未満は親と一緒の区画(ベッド)で移動するので平均で1万2千人程度が乗っている。

 つまり5日間に百五十万人が到着するわけであるので、もともと十億人のラザニアム帝国人が住んでいた惑星ホランゾンではこれらの住民が住んでいた家屋が使えるため、家屋を新設するのに比べると大幅に楽ではあるが、既存の家屋を住めるように準備する作業部隊は常に綱渡りの連続である。

 したがって、各都市の宇宙港代わりの広場には巨大な仮設住宅が建っており、5万人は数日を過ごせるようになっている。現状では、通常この仮設住宅で1日程度を過ごし、各割り当ての住宅に入っていく場合が多い。
 ナム夫婦が住む住宅は当初宇宙港に使われていた大きな広場の直近であり、すぐに近所は一杯になったが、ニューハノイでも中心街に比較的近くて最も便利が良い場所になる。

 また、彼らが着いた1年後にはホアの弟のクアンが移住してきた。十八歳のクアンは知能向上の処置を受けており、なかなか成果は上々なので、すぐにニューハノイに作られた、ホランゾン政府ベトナム地方政府に配属されて、ナムたちの家に一緒に住んでいる。

 惑星ホランゾンはラザニアム帝国の惑星であった頃の人口は十億人であったが、ラザニアム帝国人は意外に大家族主義であり、一戸当たりの居住人数は8人から十人であったらしい。このため、現在の移住者の平均家族数の4.5人では家屋数が足りなくなることがはっきりしてきた。

 そこで、今の家屋200㎡に2家族を住むことを原則とするようにルールが変わった。ナムの家の場合には家計を別にするクワンが同居しているということで別の家族を入れなくて済んでいる。
 ちなみに、当初ナムは通勤には電池駆動のバイクを使っていたが、今ではホランゾンで造られるようになった、トヨダイ社のセダンを買って通勤に使っている。無論これも電池駆動であるが、ホアは通勤場所が近いこともあって、バイクで通勤しているし、ホアの弟のクワンは遠出が多いので役所から車を貸与されている。

 また、娯楽については、ナムたちが落ち着いてすぐにテレビ受像機が売られはじめ、最初は主としてビデオよる放送が始まったが、内容も徐々に充実して現在では放送局も惑星に十局以上出来て十種類以上の言語に翻訳されて放送されている。

 なお、当然ホランゾンでも知能強化処置は行われて、その処置を受けた者に対しての大量の教育プログラムはビデオの形で誰でもが利用で切るようになっていて、こうしたプログラムが処置を受けた者達の一種の娯楽になっている。
 惑星ホランゾンの首都は、最大の大陸ニューアジアのほぼ中央にある巨大な湖パール湖の西岸に発達した都市パール市に設置された。この位置は温帯にあり、農地が広がった中心の平坦な地形に中にあって、ホライゾン帝国が支配した時期にも中心地であったらしい。

 そこに中心が置かれた政治に関して言えば、惑星ホランゾンとホープの場合は、惑星国家が成立して政府がすぐに作られた。しかし、2027年までは準備機構(2030年以降は地球連邦政府)から派遣される行政官によって治められ、各惑星で40ほどの民族毎に構成される地方政府を通して各地区の開発および行政機能をはたしている。

 選挙によって惑星政府の政治家が選ばれるのは2035年以降に各地方政府が過半数で求めた場合ということになっている。現状で、違う民族の寄せ集めで、この場所にも慣れないうちに惑星政府の政府首班及び議員を選ぶと結局人数が多い民族が支配するようになるからである。

 ただし、地方政府については、2028年以降2032年までの間に選挙で、その知事と議員を選ぶシステムを構築することが義務つけられている。なお、予算の策定は人間の行政官の意見を聞いて惑星頭脳によって策定されており、執行はその監視の元に公務員の立場の者が行っている。

 2030年の時点で、惑星ホランゾンの人口は4.1億人であり、現状では住民の生活に必要な基本的なシステム、すなわち、住居、インフラ、工業生産、食料生産、医療、公共サービスの提供は最低限出来ている。ただし、食料の内主食の穀物については、ようやく農地で生産される穀物、小麦等の麦類、米、トウモロコシなどが需要に追い付いてきたところである。

 それまでは、樹木や草から取れるセルロースをデンブンやたんぱくに変換して、小麦粉様の代用粉を作って主食に代用していた。一億人の主食として、平均15十㎏/年/人として1千5百万トンの穀物を地球から運ぶのは、まず地球自体の供給が追い付かないのと、運搬上でネックになったからである。

 しかし、この疑似小麦粉は栄養的は全く問題はないが、いかに味付けをしても微妙に本物に及ばず、最近になって農地整備が完全に軌道に乗ってコメとこうした穀類が需要を満たすだけ作られ始めると、『本物』の穀類に人々の需要は移っていった。

 動物性たんぱくについては、幸いホランゾンのあちこちの草原には巨大な牛のような動物、ホギュウが莫大に生息して、これは十分肉としての需要に答えられたし、海には極めて豊富な漁業資源に恵まれており、これも十分刺身を始めとする魚料理につかえた。

 ホギュウは、捕獲して食肉として加工されるものがある他、一部は代用粉をつかって大規模に肥育された。このホギュウの肉と魚類はホランゾンの地球への主要輸出品となっている。
 さらに輸出品としては、惑星頭脳の計画に沿って大車輪で鉱山が開発されたリン鉱石、高品質の鉄鉱石、ボーキサイト等がある。なにしろ、5日に一回、30万トンを積める貨物船が地球に引き返していくのだから空船で帰ることはないのだ。

 地球連邦国家の成立のニュースがテレビをにぎわした頃、大ニュースが飛び込んできた。ラザニアム帝国に滅ぼされたと思っていた、惑星ホランゾンの原住人類が見つかったのだ。
 アフリカ・ケニアから来た、ジュリアス・キサンバは、惑星ホランゾンの2番目に大きな大陸ニュー・アフリカの中央高地の草原でホギュウを狩るために、小型反重力エンジンを積んだいわゆるランドクルーザ(ランクル)駆って荒地の地上50㎝を走っていた。

 彼の仕事は、そのランクルで群れを追いつめて集め、ランクルの先端に取り付けた熱線銃で頭を狙って撃って倒すのだ。ホギュウは体重が2トンもあって肉だけで600㎏、内臓は様々な食品の材料に、皮は革製品、骨は肥料と、捨てるところのない獲物である。

 彼は、ホギュウ狩猟会社に雇われて獲物を倒すところまでをやり、倒した後はビーコンを刺しておくと別のスタッフが死体を回収していくのだ。ここの景色はケニアの草原によく似ており、仕事自体もサファリガイドをしていた頃とよく似ている。

 うん?肉食獣のシンバ(大きな肉食獣)の声だが、なにか人の声、悲鳴が混ざっているような。あの大きな岩の影だ。ジュリアスは、ランクルの前部に取り付けられた熱線銃の安全装置を外して、神経を集中しながらランクルを進め、岩を回る。あ!大きなシンバが人に襲い掛かろうとしている。

 ランクル前部の熱線銃の照準をシンバに合わせ、クラクションを鳴らす。シンバは音に驚いて振り向いて流石に敏捷に構えなおし、ランクルに跳びかかってきたが、それは無謀というものだ。巨大な獣は熱線銃に7mの至近距離から胴体の真ん中を打ち抜かれて、どんと地上に落ちる。ジュリアスはランクルを急上昇して衝突を避けて、再度高度を落として人影の横に降ろして止める。

 それは、山刀のようなものをもった、この地では目立たない草色の厚手の服を来た女性だ。女性は足にけがを負っている様子で、ぎごちないが必死になってジュリアスに向かって刀を構える。女性の横では、子供が横たわっているが、気を失っているようだ。

 女性は、身長は170㎝くらいの細身で髪は肩くらい、すこし平べったい鼻で大きめの耳で褐色の肌だが目は敵意に満ちて睨んでいる。まだ若く、26歳のジュリアスと同じくらいの歳だろう。
 明らかに地球人ではないと思ったのは、女性の手の指が4本であり、いかにも自然であるうえ、女性が庇っている子供も4本指だ。それに、ジュリアスはこの惑星の原住民の映像を見ていた。

 地球人には神経が良くわからないが、征服したラザニアム帝国は滅ぼした民族の遺物を残した博物館を建てており、その中に滅ぼされた民族のフィルムが残っていて、どういう姿をしていたかがテレビ放送に流れてジュリアスも見ていたのだ。

 その民族の名前は確か、シャーナ人だ。ジュリアスは手を軽く上げて「俺は何もしないよ。けがをしているから手当をしなきゃ」女性の足を指さす。さらに「その子も見てやらなきゃ」と子供を指さす。
 それから、彼女を指さして「シャーナ、シャーナ」と言い、さらに自分を指して「ヒューマン、ヒューマン」という。
 女性は、それを見ているうち目から敵意が去っていき刀をだらりと下す。
 ジェリアスはそれを見て「待ってね」と言いながらランクルの救急セットを取り出す。たしか、ラザニアム帝国に隷属していた、今は友好国の人々の生理的な面は殆ど人間と一緒で交配も可能だ。シャーナ人も同様だと放送で言っていたはずだから、この救急セットも使えるだろう。

 ジュリアスが治療セットを彼女に見せると理解はしたようで、彼の手真似に従って腰を下ろして足を突き出す。彼女もズボンをまくり上げてくるぶしを触るとはれ上がって青くなり始めている。足首の骨組みは人間と一緒だ。
 しかし、これは固定しておくしかないのでシップのスプレーをかけて、包帯を巻いて固定する。さらに、辺りを見渡して、適当な木を切り杖として渡す。

 それから、子供を見たが、熱がひどく見ると手首に傷があり膿んでいるところをみると傷からくる破傷風かも知れない。これは、基地に行ってドクターに見せるしかない。袋を持ってついてきた女性を助手席に座らせる。女性は子供が心配なのかも逆らわない。

 かれは、ランクルの高度を最大の十mほどに上げて最大速度2百㎞/時で五十㎞離れた基地に向かう。
 操縦しながら、基地に連絡する。
「こちら、ランクルKGB二二のジュリアスだ。只今滅びたと言われていたシャーナ人の女性と男の子供を救助した、女性は足をひどく捻挫している。子供は破傷風らしい、医療の受け入れ態勢を頼む。それとシャーナ語の翻訳ソフトを用意してくれ!以上」

 この交信はすぐに、ホギュウ狩猟株式会社の本社に連絡され、そこから直ちにホランゾン政府に連絡された。この知らせを受けた、政府代表、矢代茂雄は飛び上がった。

 知らせを持ってきた秘書のサーシャ・ガラードにこぼす。
「これは、大変なことだな。場合によってはシャーナ人にこの惑星は引き渡して我々は撤退と言うこともありうるな」
「でも、何の力もない相手ですよ」

 サーシャが口をとがらせていうが、矢代は返す。
「だからこそだ。我々はラザニアム帝国の罪を非難して、誰も持ち主が居ないからということで、この惑星を取り上げた。しかし、明らかに所有権を主張できる持ち主が現れたのだ。
 我々は、公正であらなければならん。少なくとも公正であるように見えなければな。
 これは、見つかったというシャーナ人の出かた次第だな。いずれにせよ。わが政府からとしては、調査部のリッパード・コナー部長に現地に最優先でいくように指示してくれ」
 矢代の言葉にサーシャは答える。「了解しました。ボス」
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