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傾き始めた太陽に照らされた放課後の教室、目の前には一人の女子生徒。かなりの美少女だ。身長は153センチほどか。艶やかな髪をいわゆる姫カットにした、その髪型が自然と似合う上品な顔立ち。それでいて制服であるブレザーの上からでも分かる肉感的な膨らみ。あどけなく、艶っぽい、神聖であって、親しみやすい、様々な属性が神秘的なバランスで保たれた、まさに完璧な美少女。そして、
「三崎さんに、お願いがあって……」
鈴を転がすような、軽やかで可愛らしい、それでいて凛とした響きのよい声が耳朶をうつ。聴く者の心を動かす魔性の声だろう。
「あたしで良ければ聞くよ」
既にあたし、三崎七瀬には彼女、早乙女卯月の相談内容がなんとなく分かる。中学三年の四月、彼女とは初めて同じクラスになったが、彼女の美貌は学校中に知られている。そして、それゆえに問題を抱えていることを。
「里中に付きまとわれて困っているから助けて欲しい、そんなとこか?」
「私が彼に付きまとわれているって……知っているのですか?」
「まぁ、な。で、あたしはあいつをどうすればいい?」
「そ、そうじゃないんです」
慌てたように首を振る早乙女。それにつられて波打つ黒髪が日の光に煌めくのがやけに綺麗に見えた。そして、少し悩むようなそぶりを見せてから、ゆっくりとその薄桃色の唇を開いた。
「その……私と、今年だけでいいんです、恋人になってくれませんか?」
「……え?」
「フリ、フリなんです! 恋人のフリをしてくれませんか?」
それがあたしと彼女の、いわゆる馴れ初めというやつだった。
――恋人になってくれませんか?――
早乙女の声が脳裏から離れない。答えは今日でなくていいと言って彼女は帰宅した。あたしもその後、帰ってきはしたが……どうすればいいのか分からない。ずっと剣道をやってきたあたしに、里中を叩きのめしてくれ、みたいなお願いを想定していたのだが……随分と違ったなぁ。
背丈はあっても色気はない。こんながさつなあたしが何であんな姫様みたいな早乙女の偽恋人に選ばれたんだ……って、そりゃ男には頼めないけど男勝りならいいってことか。それはそれで悲しいものがあるというか、なんというか釈然としないというか。でもなぁ……。
「あんな風に頼まれたら……断れないだろ……」
あたしの目を真っ直ぐに捉えた早乙女の瞳を思い出す。長い睫毛にオニキスのような双眸……ありゃ、まともな男子なら惚れるわ。里中は諦めが悪すぎるが。
「つか、恋人のフリって何すりゃいいんだ?」
14歳と9ヶ月……恋に縁のないあたしに、んなこと分かりっこないだろ。
「まぁ、その辺は早乙女に聞けばいいか。……って、頼み聞き入れる前提かよ! いや、まぁ……別にいいか。好きな人いないし、早乙女なら……まぁ。いいか」
「なーなーせー、ご飯よー!」
「はーい! 今行く!」
母親に呼ばれて自室を出てリビングへ向かう。取り敢えず、飯食えば考えもまとまるだろう。
一方その頃、三崎七瀬を悩ます原因となった少女もまた、懊悩とした夜を過ごしていた。
「あぁ……お願いしてしまった。緊張しすぎて正直どうお願いしたか覚えてませんが大丈夫でしょうか? 変な子だと思われてないでしょうか? ちゃんと伝わったのかしら?」
大きなベッドの上で真っ白なネグリジェを着て、その悩ましげな肢体をくねらせ、数多く並べられたぬいぐるみに問いかける早乙女卯月。
「男性は苦手です……どうして私なんかにあんなにしつこくするのでしょう? やはりお金が目当てなのでしょうか?」
ため息を吐くその姿は、見る者が息を飲むような美しく、絵になる姿であるというのに……早乙女卯月という少女は自身の美しさを自覚していない。はたまたそれが、彼女に浮世離れした振る舞いをさせるのだろうか。
「三崎さん、了承してくださるでしょうか……。あの凛然たる姿を思い出すとなんだか胸がドキドキしてしまいます……」
自身の美しさ同様、未だ彼女は三崎七瀬への想いがどういうものなのか……自覚していない。
「三崎さんに、お願いがあって……」
鈴を転がすような、軽やかで可愛らしい、それでいて凛とした響きのよい声が耳朶をうつ。聴く者の心を動かす魔性の声だろう。
「あたしで良ければ聞くよ」
既にあたし、三崎七瀬には彼女、早乙女卯月の相談内容がなんとなく分かる。中学三年の四月、彼女とは初めて同じクラスになったが、彼女の美貌は学校中に知られている。そして、それゆえに問題を抱えていることを。
「里中に付きまとわれて困っているから助けて欲しい、そんなとこか?」
「私が彼に付きまとわれているって……知っているのですか?」
「まぁ、な。で、あたしはあいつをどうすればいい?」
「そ、そうじゃないんです」
慌てたように首を振る早乙女。それにつられて波打つ黒髪が日の光に煌めくのがやけに綺麗に見えた。そして、少し悩むようなそぶりを見せてから、ゆっくりとその薄桃色の唇を開いた。
「その……私と、今年だけでいいんです、恋人になってくれませんか?」
「……え?」
「フリ、フリなんです! 恋人のフリをしてくれませんか?」
それがあたしと彼女の、いわゆる馴れ初めというやつだった。
――恋人になってくれませんか?――
早乙女の声が脳裏から離れない。答えは今日でなくていいと言って彼女は帰宅した。あたしもその後、帰ってきはしたが……どうすればいいのか分からない。ずっと剣道をやってきたあたしに、里中を叩きのめしてくれ、みたいなお願いを想定していたのだが……随分と違ったなぁ。
背丈はあっても色気はない。こんながさつなあたしが何であんな姫様みたいな早乙女の偽恋人に選ばれたんだ……って、そりゃ男には頼めないけど男勝りならいいってことか。それはそれで悲しいものがあるというか、なんというか釈然としないというか。でもなぁ……。
「あんな風に頼まれたら……断れないだろ……」
あたしの目を真っ直ぐに捉えた早乙女の瞳を思い出す。長い睫毛にオニキスのような双眸……ありゃ、まともな男子なら惚れるわ。里中は諦めが悪すぎるが。
「つか、恋人のフリって何すりゃいいんだ?」
14歳と9ヶ月……恋に縁のないあたしに、んなこと分かりっこないだろ。
「まぁ、その辺は早乙女に聞けばいいか。……って、頼み聞き入れる前提かよ! いや、まぁ……別にいいか。好きな人いないし、早乙女なら……まぁ。いいか」
「なーなーせー、ご飯よー!」
「はーい! 今行く!」
母親に呼ばれて自室を出てリビングへ向かう。取り敢えず、飯食えば考えもまとまるだろう。
一方その頃、三崎七瀬を悩ます原因となった少女もまた、懊悩とした夜を過ごしていた。
「あぁ……お願いしてしまった。緊張しすぎて正直どうお願いしたか覚えてませんが大丈夫でしょうか? 変な子だと思われてないでしょうか? ちゃんと伝わったのかしら?」
大きなベッドの上で真っ白なネグリジェを着て、その悩ましげな肢体をくねらせ、数多く並べられたぬいぐるみに問いかける早乙女卯月。
「男性は苦手です……どうして私なんかにあんなにしつこくするのでしょう? やはりお金が目当てなのでしょうか?」
ため息を吐くその姿は、見る者が息を飲むような美しく、絵になる姿であるというのに……早乙女卯月という少女は自身の美しさを自覚していない。はたまたそれが、彼女に浮世離れした振る舞いをさせるのだろうか。
「三崎さん、了承してくださるでしょうか……。あの凛然たる姿を思い出すとなんだか胸がドキドキしてしまいます……」
自身の美しさ同様、未だ彼女は三崎七瀬への想いがどういうものなのか……自覚していない。
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