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ほどなくして早乙女は戻ってきた。手にはティーセットとクッキーの盛られた皿を持っている。
「お待たせしました。紅茶で良かったですか?」
「あ、ああ。ありがとう」
……あれ、なんかおかしくない? 今更ながら違和感に気付いた。……恋人のフリってこんな感じなのか? 普通は両親に合わせるか?
まぁいいか。紅茶を飲む習慣などないが香りは上品でそもそもカップの美しさはまるで美術品のようだ。
「美味いな」
「そう言っていただけると嬉しいです。お代わりもあるので、遠慮なく言って下さいね」
「お、おう……」
それからしばらく他愛のない話をした。主に早乙女が話すのを聞いているだけだったが、それでも楽しかった。
……恋人のフリなんて言い出した時はどうなるかと思ったが、意外とこういう時間も悪くない。早乙女みたいなタイプと接する機会なんてそう滅多にあるもんじゃなかったからな。そんな風に考えていた時だった。
「七瀬さん、キスしてもいいでしょうか?」
「ぶほっ!」
「大丈夫ですか!?」
「ごほごほ! げほ、ごは!」
突然の爆弾発言に思わず咽た。なんだって急に……。
「すみません、驚かせてしまって。どうしても我慢できなくて……恋人同士が二人きりでいたら、その……キスをするものだと思いまして」
「あたしたちは恋人同士のふりをしているんじゃないのか?」
「確かに、それはそうなのですけど……おでこにしてもらったのが嬉しくて……私からも、して、みたいなと……」
「そうならそうと先にだな……まぁ、いいや」
あたしは目を閉じる。なんか、他人のキス顔なんてまじまじと見るもんじゃないだろうし。あたしの額にそっと早乙女の唇が触れる。柔らかい感触に胸が高鳴る。
心臓がバクバクうるさい。顔が熱い。体が燃えるように暑い。……これが、恋人同士……か。
早乙女が目を開けて、恥ずかしそうに微笑む。
あたしは照れ隠しに、早乙女が持ってきたクッキーを頬張った。
「っふ、クッキーも美味いな」
「実はそれ、私が焼いたんですよ」
「え? マジかよ」
「はい。料理やお菓子作りが好きなんです」
早乙女が楽し気に語る。その笑顔につられて口元が緩んでしまう。
なんだろう、この気持ちは。初めての感覚だけど……嫌じゃない。むしろ心地よいくらいだ。もっと笑ってほしいと思う自分がいることに気付く。
その後、二人でクッキーを食べたり、早乙女に提案されてスマホのゲームを始めてみたり、漫画を読んだりして過ごした。
少女漫画なんて読む機会がこれまでなかったから、なかなかに新鮮だった。気が付けばもう夕方になっていた。名残惜しいが、そろそろ帰らないとまずいかもしれない。
「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」
「あー、うん……。その、あたしも……結構……楽しかった」
「本当ですか!? また、誘っても良いですか?」
「まあ、好きにすれば」
「で、ではゴールデンウィークに一日くらいいただけませんか?」
「剣道の出稽古があるが……まあ、こどもの日は休みだったはずだな。その日ならかまわないぞ」
あたしの言葉を聞いた早乙女の表情がぱあっと明るくなった。まるで花が咲いたかのような笑顔を見せる。来週の予定が決まったってだけで、そこまで嬉しそうにされると、不思議とこちらも嬉しくなるものだな。
「また明日、学校でな」
「はい、今日はありがとうございました!」
早乙女に見送られながら家路につく。……たまにはこういうのも悪くない、素直にそう思えた時間だった。
「お待たせしました。紅茶で良かったですか?」
「あ、ああ。ありがとう」
……あれ、なんかおかしくない? 今更ながら違和感に気付いた。……恋人のフリってこんな感じなのか? 普通は両親に合わせるか?
まぁいいか。紅茶を飲む習慣などないが香りは上品でそもそもカップの美しさはまるで美術品のようだ。
「美味いな」
「そう言っていただけると嬉しいです。お代わりもあるので、遠慮なく言って下さいね」
「お、おう……」
それからしばらく他愛のない話をした。主に早乙女が話すのを聞いているだけだったが、それでも楽しかった。
……恋人のフリなんて言い出した時はどうなるかと思ったが、意外とこういう時間も悪くない。早乙女みたいなタイプと接する機会なんてそう滅多にあるもんじゃなかったからな。そんな風に考えていた時だった。
「七瀬さん、キスしてもいいでしょうか?」
「ぶほっ!」
「大丈夫ですか!?」
「ごほごほ! げほ、ごは!」
突然の爆弾発言に思わず咽た。なんだって急に……。
「すみません、驚かせてしまって。どうしても我慢できなくて……恋人同士が二人きりでいたら、その……キスをするものだと思いまして」
「あたしたちは恋人同士のふりをしているんじゃないのか?」
「確かに、それはそうなのですけど……おでこにしてもらったのが嬉しくて……私からも、して、みたいなと……」
「そうならそうと先にだな……まぁ、いいや」
あたしは目を閉じる。なんか、他人のキス顔なんてまじまじと見るもんじゃないだろうし。あたしの額にそっと早乙女の唇が触れる。柔らかい感触に胸が高鳴る。
心臓がバクバクうるさい。顔が熱い。体が燃えるように暑い。……これが、恋人同士……か。
早乙女が目を開けて、恥ずかしそうに微笑む。
あたしは照れ隠しに、早乙女が持ってきたクッキーを頬張った。
「っふ、クッキーも美味いな」
「実はそれ、私が焼いたんですよ」
「え? マジかよ」
「はい。料理やお菓子作りが好きなんです」
早乙女が楽し気に語る。その笑顔につられて口元が緩んでしまう。
なんだろう、この気持ちは。初めての感覚だけど……嫌じゃない。むしろ心地よいくらいだ。もっと笑ってほしいと思う自分がいることに気付く。
その後、二人でクッキーを食べたり、早乙女に提案されてスマホのゲームを始めてみたり、漫画を読んだりして過ごした。
少女漫画なんて読む機会がこれまでなかったから、なかなかに新鮮だった。気が付けばもう夕方になっていた。名残惜しいが、そろそろ帰らないとまずいかもしれない。
「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」
「あー、うん……。その、あたしも……結構……楽しかった」
「本当ですか!? また、誘っても良いですか?」
「まあ、好きにすれば」
「で、ではゴールデンウィークに一日くらいいただけませんか?」
「剣道の出稽古があるが……まあ、こどもの日は休みだったはずだな。その日ならかまわないぞ」
あたしの言葉を聞いた早乙女の表情がぱあっと明るくなった。まるで花が咲いたかのような笑顔を見せる。来週の予定が決まったってだけで、そこまで嬉しそうにされると、不思議とこちらも嬉しくなるものだな。
「また明日、学校でな」
「はい、今日はありがとうございました!」
早乙女に見送られながら家路につく。……たまにはこういうのも悪くない、素直にそう思えた時間だった。
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