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早乙女との関係に、ひとまず区切りをつけた。これで、気持ちを切り替えて剣道に集中できるはずだった。
少なくとも、そう思ってた。でも、実際は――どうにも調子が上がらない。
「面!」
ビシッとした掛け声と共に、竹刀がまっすぐに振り下ろされる。その重さに防具越しでも肩が痛む。受け止めるのが精一杯で、反撃に転じる余裕なんてない。
「……くそっ」
思わず悪態が漏れた。まさか、こんなに押されるなんて――相手は、石津美憂。
ついこの前まで小学生だったはずの、うちの大型新人だ。身長はあたしと変わらないくらいなのに、腕力はむしろ上かもしれない。竹刀の打ち込みも鋭くて、重くて、とにかく隙がない。
「七瀬先輩、今のちょっと甘かったですよ!」
間髪入れず、元気な声が飛んでくる。いや、わかってる。わかってるんだってば。
心の中でそう叫びながら、悔しさを噛み殺す。集中、集中しろ。今は余計なこと考えずに目の前の相手に――
「胴!」
その瞬間、横からの鋭い一撃が胴に入った。防具越しでも響く衝撃。
思わず後ずさって、体勢が崩れる。
「はい、一本!」
審判役の先輩が即座に声を上げる。……情けない。ほんと、情けない。
「七瀬先輩、どうしました? 今日はなんか元気ないですね」
面を外した石津が、心配そうに首を傾げてくる。
その顔が、やたらまっすぐで、眩しくて、思わず目をそらした。
「別に……なんでもねぇよ」
「そうですか? でも、さっきからちょっと動きが鈍いっていうか……」
石津は悪気なんて全然ないんだろうけど、その指摘が妙に刺さる。
そりゃあ、そうだろうな。心のどこかで早乙女のことを引きずってるんだから。自分なりに出した答えに迷いたくはないが、事前にもっと早乙女と相談するべきではなかったか、あれ以来どちらからともなくつい声をかけて気まずい思いをしてしまう。恋人のふりはやめるが、友人関係までやめたいわけじゃないというのに……。
「本当に大丈夫ですか? 何か悩みがあるなら、私でよかったら聞きますよ!」
にこっと笑って、そんなことを言ってくる。ああもう、ほんと真っ直ぐだな、こいつは。先輩に向かって無遠慮すぎる気もするけど、悪い気はしない。
「……別に、たいしたことじゃないって。気にすんな」
「でも、七瀬先輩が調子悪いと、私もなんか心配になっちゃいます」
「……お前な」
そんな顔で言われると、なんか無駄に気まずい。ほんと、厄介な後輩だ。
「じゃあ、次はもうちょっと本気出してくださいね!」
「ああ、わかってる……っつか、さっき手抜いたのか?」
「いえいえ、そんなことは! ただ、まだまだいけそうだなーって」
悪びれない笑顔でそう返して、石津は竹刀を握り直す。
全然悪気はない。むしろ応援してくれてるんだろうけど、その分だけ胸がざわつく。……このままじゃ、ダメだ。早乙女とのことも、剣道のことも、中途半端なままじゃ。
顔を上げて、石津の真っ直ぐな瞳を見返す。今は――剣道に、全力で向き合うしかないんだから。
「よし、もう一本だ」
「はいっ、お願いします!」
石津の元気な声と共に、再び竹刀がぶつかり合う。
その音だけは、少しだけ雑念を消してくれるような気がした。
少なくとも、そう思ってた。でも、実際は――どうにも調子が上がらない。
「面!」
ビシッとした掛け声と共に、竹刀がまっすぐに振り下ろされる。その重さに防具越しでも肩が痛む。受け止めるのが精一杯で、反撃に転じる余裕なんてない。
「……くそっ」
思わず悪態が漏れた。まさか、こんなに押されるなんて――相手は、石津美憂。
ついこの前まで小学生だったはずの、うちの大型新人だ。身長はあたしと変わらないくらいなのに、腕力はむしろ上かもしれない。竹刀の打ち込みも鋭くて、重くて、とにかく隙がない。
「七瀬先輩、今のちょっと甘かったですよ!」
間髪入れず、元気な声が飛んでくる。いや、わかってる。わかってるんだってば。
心の中でそう叫びながら、悔しさを噛み殺す。集中、集中しろ。今は余計なこと考えずに目の前の相手に――
「胴!」
その瞬間、横からの鋭い一撃が胴に入った。防具越しでも響く衝撃。
思わず後ずさって、体勢が崩れる。
「はい、一本!」
審判役の先輩が即座に声を上げる。……情けない。ほんと、情けない。
「七瀬先輩、どうしました? 今日はなんか元気ないですね」
面を外した石津が、心配そうに首を傾げてくる。
その顔が、やたらまっすぐで、眩しくて、思わず目をそらした。
「別に……なんでもねぇよ」
「そうですか? でも、さっきからちょっと動きが鈍いっていうか……」
石津は悪気なんて全然ないんだろうけど、その指摘が妙に刺さる。
そりゃあ、そうだろうな。心のどこかで早乙女のことを引きずってるんだから。自分なりに出した答えに迷いたくはないが、事前にもっと早乙女と相談するべきではなかったか、あれ以来どちらからともなくつい声をかけて気まずい思いをしてしまう。恋人のふりはやめるが、友人関係までやめたいわけじゃないというのに……。
「本当に大丈夫ですか? 何か悩みがあるなら、私でよかったら聞きますよ!」
にこっと笑って、そんなことを言ってくる。ああもう、ほんと真っ直ぐだな、こいつは。先輩に向かって無遠慮すぎる気もするけど、悪い気はしない。
「……別に、たいしたことじゃないって。気にすんな」
「でも、七瀬先輩が調子悪いと、私もなんか心配になっちゃいます」
「……お前な」
そんな顔で言われると、なんか無駄に気まずい。ほんと、厄介な後輩だ。
「じゃあ、次はもうちょっと本気出してくださいね!」
「ああ、わかってる……っつか、さっき手抜いたのか?」
「いえいえ、そんなことは! ただ、まだまだいけそうだなーって」
悪びれない笑顔でそう返して、石津は竹刀を握り直す。
全然悪気はない。むしろ応援してくれてるんだろうけど、その分だけ胸がざわつく。……このままじゃ、ダメだ。早乙女とのことも、剣道のことも、中途半端なままじゃ。
顔を上げて、石津の真っ直ぐな瞳を見返す。今は――剣道に、全力で向き合うしかないんだから。
「よし、もう一本だ」
「はいっ、お願いします!」
石津の元気な声と共に、再び竹刀がぶつかり合う。
その音だけは、少しだけ雑念を消してくれるような気がした。
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