放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ

文字の大きさ
20 / 32

#20

しおりを挟む
 佑奈の家から帰宅した佳子は、さっそく母親に佑奈のことを伝えることにした。
 秀美はリビングでタブレット端末を操作していた。秀美は子育てがひと段落して以降、株式や仮想通貨などでお金を運用することに腐心していた。その目的が佳子の進学費用であることは、佳子だけが知らされていない。

「遅かったわね」
「ただいま。えっと……友達の家にいたから」
「そう……」

 根っからの営業マンで口の上手い佳子の父と違って、寿退社するまで経理の仕事をしていた秀美は口数が少ない。このままでは話が終わってしまうと、佳子は勇気を振り絞る。

「実は、その……友達をママに紹介したいの」
「彼氏……?」

 さしもの秀美も、佳子の真剣な口調にもしかして、という思いが去来する。言葉にはしないが夫一筋の秀美には、娘にも幸せな結婚をしてほしいという思いがある。ただ、高校受験を控えた、それも女子校に進ませるつもりの娘にはまだ早いのではないかと、眉が上がる。

「女の子だよ。でも、とても大切な人だから。会ってほしいの。その子のお母さんには、今日……お会いしたわ。だからかな、彼女も……ママに会いたがっているの」

 秀美が再び出国するのは三者面談の翌々日の朝いちばん、おのずと取れる時間は限られてくる。

「なら……そうね、面談の後であれば」

 佳子の真剣な眼差しに秀美はしっかりと頷いた。そのままタブレットで地図アプリを起動し、話をする場所の提案を行う。佳子は候補の中から一か所を選び、秀美は席の予約のためにスマートフォンに手を伸ばすのだった。


 そうして秀美との約束を取り付けた佳子は翌日の昼休み、学校でそのことを佑奈に伝える。佑奈もその時間で承諾し、それから佳子は一つ尋ねた。

「……佑奈は、うちのママに何を話すつもりなの?」
「佳子には先に伝えなきゃだね。一昨日、うちも三者面談したんだけど、実は星花女子を勧められたの。学費免除の特待生試験を受けないかって」

 その言葉に佳子の目が見開かれる。佑奈と同じならどこの高校でもいいとは思っていたけれど、もしかしたら同じ寮での生活ができるのかもしれないと気持ちが浮足立つ。

「星花女子ってそもそも自転車でも通える距離だよね。だからね、もし……もし特待生になれたら……」

 佑奈にはまだ迷いが残っていた。この提案が受け入れてもらえるのか、まだ試験が始まったわけでもないのに、そんなことを考えていいのか、それでも、佳子の心を想えば、この提案はある種の誓いであり、約束になると思ったからこそ、意を決して佑奈は告げた。

「佳子の家で二人暮らしをしたい」
「……っ!」

 佑奈の口調は真剣で、本気でそう願っていることを実感し、佳子は目に涙を浮かべる。それは佳子が問うた、自分と母親どちらが大事なのかに対する答えだと受け取った。

「もし寮に入ったら、佳子はあの家での一番新しい記憶が寂しいものになってしまうから……。きっと楽しい思い出だってあるはずだよね。私は、まだそれを聞かせてもらってない。だから、私はあそこで佳子の隣にいたい。ダメかな?」

 真摯な言葉がぐっと佳子の胸を打つ。ただ、佳子には不安があった。佑奈がもし自分と暮らすのだとしたら、佑奈の母はそれを受け入れているのかどうか。

「ダメじゃない。ダメじゃないよ! ……でも、佑奈のお母さんはそれでいいの?」
「うん。それは大丈夫。ちゃんと伝えて許してもらってる。それに、お母さんにも、これからを一緒に過ごしたい人が見つかるかもしれない。そんな時、私が邪魔になりたくないの。それに、お母さんは私と佳子の仲を応援してくれてるから」
「ちょ、佑奈ってばどこまで話してるの!?」
「ふふ、それはナイショ」

 自分だったら恥ずかしくて言えないような話も、佑奈は母としているのだろうかと佳子は考え、少し慌ててしまう。深呼吸して一つ間を置くと、顔を引き締めた。

「うん……私も、佑奈と一緒に暮らしたい。だから、明日……ママを説得する。精一杯を伝えたい」

 佑奈といられればどこだっていいという気持ちがないわけでもない。ただ、佑奈が佳子のことを一番に考えた結果が、佳子の家でともに暮らすことなのだと思うと、佳子はなんだってできるような、そんな気持ちが芽生えるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

処理中です...