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#19 佳子視点
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私は佑奈のお母さん――香さんに促されて、佑奈と一緒にお風呂に入ることになった。狭い脱衣所で互いに服を脱ぎながら、私の心はずっと不安定なままだった。さっき泣いてしまったことが恥ずかしくて、香さんの優しさが心に染みて、どうしていいかわからなかったからだ。
浴室のドアを開けると、思わず目を丸くした。普段自分の家で使っている広々としたバスルームとは比べものにならない。いわゆるユニットバスというものだろうか、浴槽は大人一人がギリギリ足を伸ばせるくらいだ。狭いというのが正直な感想だった。お風呂とトイレが別々なだけいいのかもしれないけれど。
「……ここに二人で入るの?」
つい口から出たその言葉に、佑奈は小さく笑った。
「狭いけど、大丈夫だよ。うち、いつもこんな感じだから」
いつものこと。佑奈のその言葉が、私には少しだけ重く感じられた。きっと、これが彼女の日常で、私がいる場所とはまるで違う生活。それを思うと胸が締め付けられるようだった。
浴槽にお湯を張りながら、私たちは体を洗う。ホッとするようなドキドキするような、特別な時間を過ごしているうちに、お湯も溜まった。足を縮めながらお湯に浸かった瞬間、思わず声を漏らしてしまった。
「狭い……!」
佑奈は笑いながら、私の肩にそっと触れた。
「佳子、もうちょっと詰めてくれたら、入れるよ」
言われるがままに身を寄せると、自然と彼女の体に触れる距離になった。彼女の腕が私の腕に触れ、肩が触れ合う。それだけで、胸がどくんと高鳴った。
「狭いのも、悪くないかも」
ぽつりと呟くと、佑奈が不思議そうに私を見た。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。……ただ、近いね」
そう言って笑ってみせると、佑奈も安心したように笑った。その笑顔を見ていると、不思議と気持ちが和らいでいく。狭い空間も、少しずつ温かく感じられるようになった。
「こんなに近くにいられるの、嬉しいな……」
私がそう呟くと、佑奈は少し驚いた顔をして、でもすぐに優しく微笑んだ。そしてそっと、私の手を握った。
今なら、話せるかもしれない……。
「佑奈はさ……星花女子学園って知ってる?」
「知ってるよ。というか、知らない人の方が珍しいんじゃないかな?」
「そう……よね。私、そこ受験するの。というか、実は中等部の受験もしたことある」
父の海外転勤が決まったのは小学四年生の終り頃で、中学受験をするならタイミングとしては出遅れていると思う。ただ、その学校には寮があった。
「両親は私が寮に入ったら問題なく海外に行けると思ったんだろうね。だから――」
今思えば、なぜそんなことをしてしまったんだろうと後悔することもある。でも、今はもう、あの選択を間違いだと思わない。だって、こうして佑奈に会えたから。
「私、受験に落ちたんだ。わざと……」
佑奈は驚きの表情を浮かべ、言葉が出ない。佳子はその反応に目を合わせず、続けた。
「両親が海外に行くのが嫌で、失敗すれば、きっと私を置いて行かないだろうって。だから、わざと落ちたんだ。でも、結局……こういう状況ってわけ。それでまた、今度は高等部の受験ってわけ」
ここ数年で人気・知名度がぐんぐん上がっていて、しかも学科まで増えたのだから、全力で臨んだところで合格するかは少し怪しいのだけれど。
「そうなんだ……そっか、星花かぁ……」
「でも、もし佑奈が空の宮高校狙うなら、私もそうするから。宮高ならこの辺りで一番頭いいんだし、きっとママも文句言わないはず」
「高校は、まだ決心がつかなくて……。ごめん、話変わるんだけど、佳子は……その、私のお母さんに会ってどうだった?」
私が母から受験の話をされて嫌だったように、佑奈もまだ受験についてはあまり話したくないのかも。佑奈の面談は昨日だったから、ひょっとしてそこで何か言われたのかな……。
「佑奈のお母さん、若くてびっくりした。あと、よく似てる。柔らかくて優しくて、あったかい……素敵なお母さんだね」
「あ、ありがとう。えっと……もし出来ればなんだけど、私……佳子のお母さんに会いたい」
思いもよらない言葉に困惑する私。でも、佑奈の目は真剣で……私は時間が設けられるか聞いてみると答えるのだった。
浴室のドアを開けると、思わず目を丸くした。普段自分の家で使っている広々としたバスルームとは比べものにならない。いわゆるユニットバスというものだろうか、浴槽は大人一人がギリギリ足を伸ばせるくらいだ。狭いというのが正直な感想だった。お風呂とトイレが別々なだけいいのかもしれないけれど。
「……ここに二人で入るの?」
つい口から出たその言葉に、佑奈は小さく笑った。
「狭いけど、大丈夫だよ。うち、いつもこんな感じだから」
いつものこと。佑奈のその言葉が、私には少しだけ重く感じられた。きっと、これが彼女の日常で、私がいる場所とはまるで違う生活。それを思うと胸が締め付けられるようだった。
浴槽にお湯を張りながら、私たちは体を洗う。ホッとするようなドキドキするような、特別な時間を過ごしているうちに、お湯も溜まった。足を縮めながらお湯に浸かった瞬間、思わず声を漏らしてしまった。
「狭い……!」
佑奈は笑いながら、私の肩にそっと触れた。
「佳子、もうちょっと詰めてくれたら、入れるよ」
言われるがままに身を寄せると、自然と彼女の体に触れる距離になった。彼女の腕が私の腕に触れ、肩が触れ合う。それだけで、胸がどくんと高鳴った。
「狭いのも、悪くないかも」
ぽつりと呟くと、佑奈が不思議そうに私を見た。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。……ただ、近いね」
そう言って笑ってみせると、佑奈も安心したように笑った。その笑顔を見ていると、不思議と気持ちが和らいでいく。狭い空間も、少しずつ温かく感じられるようになった。
「こんなに近くにいられるの、嬉しいな……」
私がそう呟くと、佑奈は少し驚いた顔をして、でもすぐに優しく微笑んだ。そしてそっと、私の手を握った。
今なら、話せるかもしれない……。
「佑奈はさ……星花女子学園って知ってる?」
「知ってるよ。というか、知らない人の方が珍しいんじゃないかな?」
「そう……よね。私、そこ受験するの。というか、実は中等部の受験もしたことある」
父の海外転勤が決まったのは小学四年生の終り頃で、中学受験をするならタイミングとしては出遅れていると思う。ただ、その学校には寮があった。
「両親は私が寮に入ったら問題なく海外に行けると思ったんだろうね。だから――」
今思えば、なぜそんなことをしてしまったんだろうと後悔することもある。でも、今はもう、あの選択を間違いだと思わない。だって、こうして佑奈に会えたから。
「私、受験に落ちたんだ。わざと……」
佑奈は驚きの表情を浮かべ、言葉が出ない。佳子はその反応に目を合わせず、続けた。
「両親が海外に行くのが嫌で、失敗すれば、きっと私を置いて行かないだろうって。だから、わざと落ちたんだ。でも、結局……こういう状況ってわけ。それでまた、今度は高等部の受験ってわけ」
ここ数年で人気・知名度がぐんぐん上がっていて、しかも学科まで増えたのだから、全力で臨んだところで合格するかは少し怪しいのだけれど。
「そうなんだ……そっか、星花かぁ……」
「でも、もし佑奈が空の宮高校狙うなら、私もそうするから。宮高ならこの辺りで一番頭いいんだし、きっとママも文句言わないはず」
「高校は、まだ決心がつかなくて……。ごめん、話変わるんだけど、佳子は……その、私のお母さんに会ってどうだった?」
私が母から受験の話をされて嫌だったように、佑奈もまだ受験についてはあまり話したくないのかも。佑奈の面談は昨日だったから、ひょっとしてそこで何か言われたのかな……。
「佑奈のお母さん、若くてびっくりした。あと、よく似てる。柔らかくて優しくて、あったかい……素敵なお母さんだね」
「あ、ありがとう。えっと……もし出来ればなんだけど、私……佳子のお母さんに会いたい」
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