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佑奈の家から帰宅した佳子は、さっそく母親に佑奈のことを伝えることにした。
秀美はリビングでタブレット端末を操作していた。秀美は子育てがひと段落して以降、株式や仮想通貨などでお金を運用することに腐心していた。その目的が佳子の進学費用であることは、佳子だけが知らされていない。
「遅かったわね」
「ただいま。えっと……友達の家にいたから」
「そう……」
根っからの営業マンで口の上手い佳子の父と違って、寿退社するまで経理の仕事をしていた秀美は口数が少ない。このままでは話が終わってしまうと、佳子は勇気を振り絞る。
「実は、その……友達をママに紹介したいの」
「彼氏……?」
さしもの秀美も、佳子の真剣な口調にもしかして、という思いが去来する。言葉にはしないが夫一筋の秀美には、娘にも幸せな結婚をしてほしいという思いがある。ただ、高校受験を控えた、それも女子校に進ませるつもりの娘にはまだ早いのではないかと、眉が上がる。
「女の子だよ。でも、とても大切な人だから。会ってほしいの。その子のお母さんには、今日……お会いしたわ。だからかな、彼女も……ママに会いたがっているの」
秀美が再び出国するのは三者面談の翌々日の朝いちばん、おのずと取れる時間は限られてくる。
「なら……そうね、面談の後であれば」
佳子の真剣な眼差しに秀美はしっかりと頷いた。そのままタブレットで地図アプリを起動し、話をする場所の提案を行う。佳子は候補の中から一か所を選び、秀美は席の予約のためにスマートフォンに手を伸ばすのだった。
そうして秀美との約束を取り付けた佳子は翌日の昼休み、学校でそのことを佑奈に伝える。佑奈もその時間で承諾し、それから佳子は一つ尋ねた。
「……佑奈は、うちのママに何を話すつもりなの?」
「佳子には先に伝えなきゃだね。一昨日、うちも三者面談したんだけど、実は星花女子を勧められたの。学費免除の特待生試験を受けないかって」
その言葉に佳子の目が見開かれる。佑奈と同じならどこの高校でもいいとは思っていたけれど、もしかしたら同じ寮での生活ができるのかもしれないと気持ちが浮足立つ。
「星花女子ってそもそも自転車でも通える距離だよね。だからね、もし……もし特待生になれたら……」
佑奈にはまだ迷いが残っていた。この提案が受け入れてもらえるのか、まだ試験が始まったわけでもないのに、そんなことを考えていいのか、それでも、佳子の心を想えば、この提案はある種の誓いであり、約束になると思ったからこそ、意を決して佑奈は告げた。
「佳子の家で二人暮らしをしたい」
「……っ!」
佑奈の口調は真剣で、本気でそう願っていることを実感し、佳子は目に涙を浮かべる。それは佳子が問うた、自分と母親どちらが大事なのかに対する答えだと受け取った。
「もし寮に入ったら、佳子はあの家での一番新しい記憶が寂しいものになってしまうから……。きっと楽しい思い出だってあるはずだよね。私は、まだそれを聞かせてもらってない。だから、私はあそこで佳子の隣にいたい。ダメかな?」
真摯な言葉がぐっと佳子の胸を打つ。ただ、佳子には不安があった。佑奈がもし自分と暮らすのだとしたら、佑奈の母はそれを受け入れているのかどうか。
「ダメじゃない。ダメじゃないよ! ……でも、佑奈のお母さんはそれでいいの?」
「うん。それは大丈夫。ちゃんと伝えて許してもらってる。それに、お母さんにも、これからを一緒に過ごしたい人が見つかるかもしれない。そんな時、私が邪魔になりたくないの。それに、お母さんは私と佳子の仲を応援してくれてるから」
「ちょ、佑奈ってばどこまで話してるの!?」
「ふふ、それはナイショ」
自分だったら恥ずかしくて言えないような話も、佑奈は母としているのだろうかと佳子は考え、少し慌ててしまう。深呼吸して一つ間を置くと、顔を引き締めた。
「うん……私も、佑奈と一緒に暮らしたい。だから、明日……ママを説得する。精一杯を伝えたい」
佑奈といられればどこだっていいという気持ちがないわけでもない。ただ、佑奈が佳子のことを一番に考えた結果が、佳子の家でともに暮らすことなのだと思うと、佳子はなんだってできるような、そんな気持ちが芽生えるのだった。
秀美はリビングでタブレット端末を操作していた。秀美は子育てがひと段落して以降、株式や仮想通貨などでお金を運用することに腐心していた。その目的が佳子の進学費用であることは、佳子だけが知らされていない。
「遅かったわね」
「ただいま。えっと……友達の家にいたから」
「そう……」
根っからの営業マンで口の上手い佳子の父と違って、寿退社するまで経理の仕事をしていた秀美は口数が少ない。このままでは話が終わってしまうと、佳子は勇気を振り絞る。
「実は、その……友達をママに紹介したいの」
「彼氏……?」
さしもの秀美も、佳子の真剣な口調にもしかして、という思いが去来する。言葉にはしないが夫一筋の秀美には、娘にも幸せな結婚をしてほしいという思いがある。ただ、高校受験を控えた、それも女子校に進ませるつもりの娘にはまだ早いのではないかと、眉が上がる。
「女の子だよ。でも、とても大切な人だから。会ってほしいの。その子のお母さんには、今日……お会いしたわ。だからかな、彼女も……ママに会いたがっているの」
秀美が再び出国するのは三者面談の翌々日の朝いちばん、おのずと取れる時間は限られてくる。
「なら……そうね、面談の後であれば」
佳子の真剣な眼差しに秀美はしっかりと頷いた。そのままタブレットで地図アプリを起動し、話をする場所の提案を行う。佳子は候補の中から一か所を選び、秀美は席の予約のためにスマートフォンに手を伸ばすのだった。
そうして秀美との約束を取り付けた佳子は翌日の昼休み、学校でそのことを佑奈に伝える。佑奈もその時間で承諾し、それから佳子は一つ尋ねた。
「……佑奈は、うちのママに何を話すつもりなの?」
「佳子には先に伝えなきゃだね。一昨日、うちも三者面談したんだけど、実は星花女子を勧められたの。学費免除の特待生試験を受けないかって」
その言葉に佳子の目が見開かれる。佑奈と同じならどこの高校でもいいとは思っていたけれど、もしかしたら同じ寮での生活ができるのかもしれないと気持ちが浮足立つ。
「星花女子ってそもそも自転車でも通える距離だよね。だからね、もし……もし特待生になれたら……」
佑奈にはまだ迷いが残っていた。この提案が受け入れてもらえるのか、まだ試験が始まったわけでもないのに、そんなことを考えていいのか、それでも、佳子の心を想えば、この提案はある種の誓いであり、約束になると思ったからこそ、意を決して佑奈は告げた。
「佳子の家で二人暮らしをしたい」
「……っ!」
佑奈の口調は真剣で、本気でそう願っていることを実感し、佳子は目に涙を浮かべる。それは佳子が問うた、自分と母親どちらが大事なのかに対する答えだと受け取った。
「もし寮に入ったら、佳子はあの家での一番新しい記憶が寂しいものになってしまうから……。きっと楽しい思い出だってあるはずだよね。私は、まだそれを聞かせてもらってない。だから、私はあそこで佳子の隣にいたい。ダメかな?」
真摯な言葉がぐっと佳子の胸を打つ。ただ、佳子には不安があった。佑奈がもし自分と暮らすのだとしたら、佑奈の母はそれを受け入れているのかどうか。
「ダメじゃない。ダメじゃないよ! ……でも、佑奈のお母さんはそれでいいの?」
「うん。それは大丈夫。ちゃんと伝えて許してもらってる。それに、お母さんにも、これからを一緒に過ごしたい人が見つかるかもしれない。そんな時、私が邪魔になりたくないの。それに、お母さんは私と佳子の仲を応援してくれてるから」
「ちょ、佑奈ってばどこまで話してるの!?」
「ふふ、それはナイショ」
自分だったら恥ずかしくて言えないような話も、佑奈は母としているのだろうかと佳子は考え、少し慌ててしまう。深呼吸して一つ間を置くと、顔を引き締めた。
「うん……私も、佑奈と一緒に暮らしたい。だから、明日……ママを説得する。精一杯を伝えたい」
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