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卒業式の終盤、佑奈はふと視線を上げた。体育館の窓の向こうに、春の陽射しが柔らかく差し込んでいる。桜の花びらが、風に乗ってひらひらと舞っていた。
──そういえば、あの日もこんな風に桜を見に行った。今咲いているのはソメイヨシノで、あの時は河津桜だったけど。
彼女の脳裏に、星花女子学園の合格発表の日が蘇る。あの日、佑奈と佳子は佳子の部屋で、並んでパソコンの画面を見つめていた。
「み、見るよ……」
緊張に固まった表情のまま佳子はマウスを操作し、合格番号のページを開く。ずらっと並ぶ合格番号は科ごとに並んでおり、普通科を志望した二人は目を見開いて自分の番号を探す。番号と番号の間に開きがある部分もあり、高い倍率を改めて実感させられる。
「……あった」
「えっ」
「私、受かった……!」
「……すごい、すごいよ佑奈!」
先に佑奈が自身の受験番号を見付ける。
「佳子も! 早く、自分の番号見て!」
「う、うん……」
祈るように、佳子の番号を探し――そして。
「……あった、私の番号……?」
呆然とつぶやく佳子に、佑奈が改めて受験票の番号とそこに表示されている番号を見比べる。
「佳子! 合格してるよ!」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと! やった、二人とも合格だよ!」
佑奈が佳子の手を取ると、佳子の肩が小刻みに震えた。
「……よかった……ほんとに、よかった……」
じわっと目に涙が浮かび、次の瞬間、佳子は堪えきれずに佑奈に抱きついた。
「うわあああん……!」
「よしよし、頑張ったもんね!」
二人はそのまま、笑いながら泣きながら、しばらく抱き合っていた。
そんな日々があって、今、この卒業式の瞬間がある。
名前を呼ばれ、一人ひとりが卒業証書を受け取っていく。佳子の名前が呼ばれると、彼女は少し緊張した面持ちで壇上へ上がった。
受け取る瞬間、佳子は少し背筋を伸ばした。きっと、あの合格発表のときとは違う、自信を手に入れているのだろう。
やがて卒業生代表の言葉が終わり、校歌が歌われ、卒業式は終わりを迎えた。
佑奈は隣の佳子を見た。
「なんだか、あっという間だったね」
「うん……そうだね」
佳子の声は、どこか晴れやかだった。桜の花びらが、春の風に乗って舞い落ちる。
二人の未来、そして帰る場所は――これからずっと同じ。
「おかえりなさい、佑奈!」
合格が決まって以降、佑奈は着々と引っ越しの準備を進めていた。とはいえ、荷物が多いわけではないが、ちょっとした日用品を徐々に自宅から佳子の家に移していた。
「……本当に、今日から一緒に住むんだね」
佑奈は、改めて口にした。
「……なんか、不思議な気分」
佑奈がぽつりと呟く。何度も遊びに来た家。何度も泊めてもらった家。でも、これからは「遊びに来る」場所ではなくなる。ここが、自分の「家」になるのだ。
佑奈が一歩踏み出す。佳子がそれを見届けるように、そっと扉を閉めた。
そして、彼女は佑奈の前に立つと、少しだけ顔を赤らめながら、それでもしっかりとした声で言った。
「ほら、ただいまって言ってよ。佑奈!」
「た、ただいま。佳子」
「はーい、二人ともおかえりなさい」
家の奥から聞こえた声に、佑奈の目が大きく見開かれる。佑奈だけじゃない。佳子も驚いた様子だ。
これまで家事手伝いに来てくれていた親戚の声ではない。でも聞き覚えがある、どうして?と疑問が脳内をめぐる。
「な、なんでお母さんが?」
「香さん、どうして?」
声の正体は佑奈の母、白石香だった。
「佳子さんのご両親から、監督として一緒に住んだらいいって提案されて、お言葉に甘えることにしたの。やっぱり大人の目が届いた方がいいでしょう?」
「そ、そうだったんだ……もう、先に教えてよ……」
「よろしくお願いします! じゃあ、取り敢えず部屋で着替えてきちゃいますね」
佳子が佑奈の手を引き、部屋へと入る。ドアがきっちり閉まったのを確認したその次の瞬間、佳子はそっと彼女に顔を寄せ、唇を重ねた。優しくて、温かくて、確かにそこにある、二人の新しい生活の始まりを告げるキス。
「バレないようにしなきゃね」
佑奈の心臓が、大きく跳ねた。そして、佳子の背中にそっと手を回す。
──これが、新しい日々の始まり。
(完)
──そういえば、あの日もこんな風に桜を見に行った。今咲いているのはソメイヨシノで、あの時は河津桜だったけど。
彼女の脳裏に、星花女子学園の合格発表の日が蘇る。あの日、佑奈と佳子は佳子の部屋で、並んでパソコンの画面を見つめていた。
「み、見るよ……」
緊張に固まった表情のまま佳子はマウスを操作し、合格番号のページを開く。ずらっと並ぶ合格番号は科ごとに並んでおり、普通科を志望した二人は目を見開いて自分の番号を探す。番号と番号の間に開きがある部分もあり、高い倍率を改めて実感させられる。
「……あった」
「えっ」
「私、受かった……!」
「……すごい、すごいよ佑奈!」
先に佑奈が自身の受験番号を見付ける。
「佳子も! 早く、自分の番号見て!」
「う、うん……」
祈るように、佳子の番号を探し――そして。
「……あった、私の番号……?」
呆然とつぶやく佳子に、佑奈が改めて受験票の番号とそこに表示されている番号を見比べる。
「佳子! 合格してるよ!」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと! やった、二人とも合格だよ!」
佑奈が佳子の手を取ると、佳子の肩が小刻みに震えた。
「……よかった……ほんとに、よかった……」
じわっと目に涙が浮かび、次の瞬間、佳子は堪えきれずに佑奈に抱きついた。
「うわあああん……!」
「よしよし、頑張ったもんね!」
二人はそのまま、笑いながら泣きながら、しばらく抱き合っていた。
そんな日々があって、今、この卒業式の瞬間がある。
名前を呼ばれ、一人ひとりが卒業証書を受け取っていく。佳子の名前が呼ばれると、彼女は少し緊張した面持ちで壇上へ上がった。
受け取る瞬間、佳子は少し背筋を伸ばした。きっと、あの合格発表のときとは違う、自信を手に入れているのだろう。
やがて卒業生代表の言葉が終わり、校歌が歌われ、卒業式は終わりを迎えた。
佑奈は隣の佳子を見た。
「なんだか、あっという間だったね」
「うん……そうだね」
佳子の声は、どこか晴れやかだった。桜の花びらが、春の風に乗って舞い落ちる。
二人の未来、そして帰る場所は――これからずっと同じ。
「おかえりなさい、佑奈!」
合格が決まって以降、佑奈は着々と引っ越しの準備を進めていた。とはいえ、荷物が多いわけではないが、ちょっとした日用品を徐々に自宅から佳子の家に移していた。
「……本当に、今日から一緒に住むんだね」
佑奈は、改めて口にした。
「……なんか、不思議な気分」
佑奈がぽつりと呟く。何度も遊びに来た家。何度も泊めてもらった家。でも、これからは「遊びに来る」場所ではなくなる。ここが、自分の「家」になるのだ。
佑奈が一歩踏み出す。佳子がそれを見届けるように、そっと扉を閉めた。
そして、彼女は佑奈の前に立つと、少しだけ顔を赤らめながら、それでもしっかりとした声で言った。
「ほら、ただいまって言ってよ。佑奈!」
「た、ただいま。佳子」
「はーい、二人ともおかえりなさい」
家の奥から聞こえた声に、佑奈の目が大きく見開かれる。佑奈だけじゃない。佳子も驚いた様子だ。
これまで家事手伝いに来てくれていた親戚の声ではない。でも聞き覚えがある、どうして?と疑問が脳内をめぐる。
「な、なんでお母さんが?」
「香さん、どうして?」
声の正体は佑奈の母、白石香だった。
「佳子さんのご両親から、監督として一緒に住んだらいいって提案されて、お言葉に甘えることにしたの。やっぱり大人の目が届いた方がいいでしょう?」
「そ、そうだったんだ……もう、先に教えてよ……」
「よろしくお願いします! じゃあ、取り敢えず部屋で着替えてきちゃいますね」
佳子が佑奈の手を引き、部屋へと入る。ドアがきっちり閉まったのを確認したその次の瞬間、佳子はそっと彼女に顔を寄せ、唇を重ねた。優しくて、温かくて、確かにそこにある、二人の新しい生活の始まりを告げるキス。
「バレないようにしなきゃね」
佑奈の心臓が、大きく跳ねた。そして、佳子の背中にそっと手を回す。
──これが、新しい日々の始まり。
(完)
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