放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ

文字の大きさ
32 / 32

#32

しおりを挟む
 卒業式の終盤、佑奈はふと視線を上げた。体育館の窓の向こうに、春の陽射しが柔らかく差し込んでいる。桜の花びらが、風に乗ってひらひらと舞っていた。

 ──そういえば、あの日もこんな風に桜を見に行った。今咲いているのはソメイヨシノで、あの時は河津桜だったけど。

 彼女の脳裏に、星花女子学園の合格発表の日が蘇る。あの日、佑奈と佳子は佳子の部屋で、並んでパソコンの画面を見つめていた。

「み、見るよ……」

 緊張に固まった表情のまま佳子はマウスを操作し、合格番号のページを開く。ずらっと並ぶ合格番号は科ごとに並んでおり、普通科を志望した二人は目を見開いて自分の番号を探す。番号と番号の間に開きがある部分もあり、高い倍率を改めて実感させられる。

「……あった」
「えっ」
「私、受かった……!」
「……すごい、すごいよ佑奈!」

 先に佑奈が自身の受験番号を見付ける。

「佳子も! 早く、自分の番号見て!」
「う、うん……」
 
 祈るように、佳子の番号を探し――そして。

「……あった、私の番号……?」

 呆然とつぶやく佳子に、佑奈が改めて受験票の番号とそこに表示されている番号を見比べる。

「佳子! 合格してるよ!」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと! やった、二人とも合格だよ!」

 佑奈が佳子の手を取ると、佳子の肩が小刻みに震えた。

「……よかった……ほんとに、よかった……」

 じわっと目に涙が浮かび、次の瞬間、佳子は堪えきれずに佑奈に抱きついた。

「うわあああん……!」
「よしよし、頑張ったもんね!」

 二人はそのまま、笑いながら泣きながら、しばらく抱き合っていた。
 そんな日々があって、今、この卒業式の瞬間がある。
 名前を呼ばれ、一人ひとりが卒業証書を受け取っていく。佳子の名前が呼ばれると、彼女は少し緊張した面持ちで壇上へ上がった。
 受け取る瞬間、佳子は少し背筋を伸ばした。きっと、あの合格発表のときとは違う、自信を手に入れているのだろう。
 やがて卒業生代表の言葉が終わり、校歌が歌われ、卒業式は終わりを迎えた。
 佑奈は隣の佳子を見た。

「なんだか、あっという間だったね」
「うん……そうだね」

 佳子の声は、どこか晴れやかだった。桜の花びらが、春の風に乗って舞い落ちる。
 二人の未来、そして帰る場所は――これからずっと同じ。





「おかえりなさい、佑奈!」

 合格が決まって以降、佑奈は着々と引っ越しの準備を進めていた。とはいえ、荷物が多いわけではないが、ちょっとした日用品を徐々に自宅から佳子の家に移していた。

「……本当に、今日から一緒に住むんだね」

 佑奈は、改めて口にした。

「……なんか、不思議な気分」

 佑奈がぽつりと呟く。何度も遊びに来た家。何度も泊めてもらった家。でも、これからは「遊びに来る」場所ではなくなる。ここが、自分の「家」になるのだ。
 佑奈が一歩踏み出す。佳子がそれを見届けるように、そっと扉を閉めた。
 そして、彼女は佑奈の前に立つと、少しだけ顔を赤らめながら、それでもしっかりとした声で言った。

「ほら、ただいまって言ってよ。佑奈!」
「た、ただいま。佳子」
「はーい、二人ともおかえりなさい」

 家の奥から聞こえた声に、佑奈の目が大きく見開かれる。佑奈だけじゃない。佳子も驚いた様子だ。
 これまで家事手伝いに来てくれていた親戚の声ではない。でも聞き覚えがある、どうして?と疑問が脳内をめぐる。

「な、なんでお母さんが?」
「香さん、どうして?」

 声の正体は佑奈の母、白石香だった。

「佳子さんのご両親から、監督として一緒に住んだらいいって提案されて、お言葉に甘えることにしたの。やっぱり大人の目が届いた方がいいでしょう?」
「そ、そうだったんだ……もう、先に教えてよ……」
「よろしくお願いします! じゃあ、取り敢えず部屋で着替えてきちゃいますね」

 佳子が佑奈の手を引き、部屋へと入る。ドアがきっちり閉まったのを確認したその次の瞬間、佳子はそっと彼女に顔を寄せ、唇を重ねた。優しくて、温かくて、確かにそこにある、二人の新しい生活の始まりを告げるキス。

「バレないようにしなきゃね」

 佑奈の心臓が、大きく跳ねた。そして、佳子の背中にそっと手を回す。

 ──これが、新しい日々の始まり。




 (完)
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

朝倉
2025.05.12 朝倉

お互いの想いが通じ合う前は、同じものを求め、通じ合った後では求め合ったものにズレが生じ、そのズレの軌道修正をどのように協働していくか…
ますますこれからが楽しみです。

2025.05.12 楠富 つかさ

感想ありがとうございます。本作は全32話なので、次回から後半に入ります。物語が大きく動き出すので、今後ともお付き合いいただければと思います。

解除
朝倉
2025.04.26 朝倉

再読しました。
ドキドキする展開がとてもいいです。
「わたしの中で何かが芽生え、じわじわっと広がる…気づかせたくない、気付いてほしい」
素敵なジレンマです。
2人が…上手くいきますように🥰
続きがとてもたのしみです。

解除
朝倉
2025.04.05 朝倉

これから2人がどうなっていくんだろ〜
とってもキュンとするシチュエーションです。
丁寧な筆致が、読みやすく、情景が目に浮かぶようです。
楽しみにしてます

2025.04.06 楠富 つかさ

朝倉さん感想ありがとうございます。
これからの二人にはいろんなことが待ち受けていますが、見守ってくれると嬉しいです。
毎週更新ですので、これからの日曜日を楽しみにしていただけると幸いです。

解除

あなたにおすすめの小説

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。