放課後の約束と秘密 ～温もり重ねる二人の時間～

＃３１

　星花女子学園の敷地を出ると、寒さが肌を刺す。冬の空気はさらに冷えていた。受験生たちはそれぞれの感想を語り合いながら、足早に帰路につこうとしている。

「佑奈！」

　少し先で待っていた佳子が、駆け寄ってきた。佑奈はほっとした笑みを浮かべる。

「お疲れ様！」

　佳子は大きく頷いたが、表情はどこか硬い。

「……どうだった？」
「うーん……わかんない。面接は筆記より手ごたえを実感できないね」

　佳子はそう言って、マフラーに顔を埋める。彼女の言葉は不安げだったが、試験前ほど萎縮した様子ではない。

「そっか。でも最後まで頑張ったんでしょ？」
「……うん」

　佳子が小さく頷く。

「なら大丈夫だよ！」

　佑奈は、明るく笑って言った。すると佳子は、少しだけ目を丸くしてから、ふっと小さく笑った。

「……なんか、佑奈がそう言うと、そんな気がしてきた」
「そう？　なら良かった」

　ようやく、佳子の顔にいつもの柔らかい表情が戻る。

「ねぇ、今度の週末カフェ行かない？」
「え？　うん、いいね。行こうか」

　冷たい冬の空気の中、二人は並んで歩き出した。試験の結果はまだわからない。でも、今はただ、頑張った自分たちを少しだけ労わる時間が欲しかった。


　そして週末、佑奈と佳子は駅前のカフェにいた。試験が終わった開放感と、合格発表を待つ不安が入り混じった、落ち着かない時間を過ごしている。

「……なんかそわそわしちゃうよね」

　カフェラテのカップを両手で包みながら、佳子がぽつりと言う。

「そう？　私、試験の復習しようかと思ってたけど」

　佑奈が何気なく言うと佳子は少し苦い顔で首を横に振る。

「やめてよ、試験終わったのに……」
「でも、まだ公立の試験だってあるし」
「それはそうだけど……私たちの本命は星花女子なんだからさ……」

　その言葉に、佑奈は手を止めた。佳子の声には、どこか寂しさが混じっていた。

「……佳子」
「私さ、できなかったところばっかり思い出しちゃうんだよね」

　佳子はカップを回しながら、ぼんやりと呟く。

「国語の記述、最後のところ、絶対ズレてたし……英語の長文も後から考えたら違う訳だった気がするし……」
「でも、できたところもあったでしょ？」
「……それが、あんまり思い出せない」

　佳子は小さく苦笑する。佑奈は、そんな彼女を元気づけようと声を明るく張る。

「じゃあさ、気分転換しよう」
「気分転換？」
「うん。このまま落ち込んでても仕方ないし、せっかくだから楽しいことしようよ」

　確かにまだ受験シーズンは続く。でも佳子の言った通り二人の本命は星花女子学園だ。効率を滑り止めとは思っていないが、モヤモヤした気持ちのまま挑むのは嫌だ。

「映画でも観に行く？　それともショッピング？」
「……そんな気分になれるかな」
「なれるよ！」

　佑奈は笑顔で断言する。

「だって、切り替えなくっちゃでしょ？そのためなら、ちょっとくらいご褒美タイム作ってもいいでしょ？」

　佳子は少し考え込んだが、やがてふっと小さく笑った。

「なんか、佑奈がそう言うなんて珍しいかも。じゃあ、映画……行こうかな」
「よし、決まり！」

　佳子がスマホで上映スケジュールを検索し始め、その画面を佑奈が寄り添いながら眺める。二人で見ていたドラマの映画が公開中ということもあり、二人は手を繋いでそのまま映画館へと向かうのだった。