贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第一部

レオンの独白

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 たった一夜でレオンを取り巻く環境は様変わりしてしまった。


 父も母も、祖父も叔母も。


 仲良く一緒に過ごしていた屋敷の使用人たちも、沢山の人が命を落としてしまった。




 レオン・カレッジは子爵家当主の孫である。本来であればぼちぼち親世代が爵位を継ぐ年齢に差し掛かるはずであったがいわゆる跡取り騒動で、揉めに揉めていた。
 レオンの父である子爵家長男が継ぐところであったが、そこに茶々を入れたのがレオンの叔母に当たる子爵家長女の婿である。とある伯爵家の末の子であった伯爵家の三男は火遊びに手を出して、カレッジ子爵家の娘を妊娠させた。その責任を取る形で婿に来た――ことになっている。子供が出来たことを口実にした体のいい厄介払いだったというのが貴族社会での共通認識だ。押し付けられたカレッジ子爵家としてはいい迷惑である。婚約者でもない未婚の、当時未成年の二人が姦通したのも問題だが、伯爵家が問題行動の多かった末子を丸投げにしたのだ。伯爵家から男と共に来た持参金はその男が自分の贅沢の為にたった一年で使い切ってしまったらしい。そうして自由になる金を使い切った男は自分が伯爵の息子だから跡を継がせろ、と無理難題を押し付けてきたのだ。
 揉めた、というよりかは難癖付けられて代替わりが遅れている状況だ。相手の伯爵家は知らんぷりだし、子供を産んだ子爵家の娘と伯爵家の三男はすでに寝所どころか住まいを別にしているしで子爵家はたった二年でぐちゃぐちゃだった。
 父と祖父が頭を抱えている光景しか覚えていないくらいだ。



 そんなある日、四歳になったレオンは朝から調子が悪かった。あまり丈夫ではなかったから家の中で過ごすことも多かったが、こんなに頭が痛かったのは初めての経験だった。三日三晩苦しんで苦しんで――


 そしてレオンは思い出したのだ。




「え、これって異世界転生ってやつなの?」




 そう、自分がかつて別の世界で生きていたということを。
 
 かつてレオンが生きたのは、地球という惑星の日本という島国だった。科学というものが進化して、遠くの星まで行くような、そんな世界。

 今生きているこの世界はレオンがかつて生きたところのヨーロッパという国に似ている気がする。けれども文明がやや違うらしく同じものと違うものが混じりあっていた。それまでこちらの世界で生きてきた記憶をもとに考えるとどうやら異世界で生きた人間がこの世界で生まれることが、稀にあるらしい。魂の迷い人とか言われるらしいが、その迷い人が覚えている知識を披露するとこう、なんというかオーバーテクノロジー的にとあるものが発達するのだということが分かった。なるほど、だからトイレとか風呂とか鉄道とか車とか電話とかが発達しているのだろう。

 そのせいか魂の迷い人は報告があれば国で保護してもらうことも出来るし、便宜を色々と計ってもらえることも出来る。保護してもらえば身分制度に振り回されることのない特権がもらえたりすると父が相談した公爵が教えてくれた。この公爵がレオンのことを報告してくれたらしい。レオンは貴族に生まれたので特に国に保護されることなくこの家にいることが出来た。

 なんだかんだで最初はパニックになったからか、父や母がじっくり話を聞いてくれて、そういう人たちがいることを知った。だいたい記憶の整理に一年近くかかってその間、レオンは殆どベッドの住人と化していた。信頼できる母付きのメイドだったアニーと父についていた執事見習のケイが一時的にレオンについて、記憶の整理を手伝ってくれた。


 その日も寝る前にアニーとケイと記憶の整理をしていたら、一階が騒がしくなった。ケイが外の様子を見て、そしてすぐに戻ってきた。


「襲撃です。どうやら婿殿が破落戸を従えて来たそうです。執事長から我々はここの奥の間に隠れているようにと、決してドアを開けてはならないと」


 レオンの叔母の夫は色々悪い意味で有名だ。叔母はいわゆる日本でいうところの不良にころりといってしまい、子を成してしまった。いいとこの坊ちゃんだったその不良を押し付けられたカレッジ家はこの二年、家族及び使用人一同、頭を抱えている状態だ。

 急いでリビングを整えて奥のベッドルームへと急ぐ。勿論鍵も忘れずに。
 レオンのいるこの部屋はベッドルームのベッドの下に隠し小部屋が存在する。三人で急いでそこへ転がり込んだ。


「執事長はレオン様は別荘に行っていると伝えると言っていました。――急いで通報していましたので、騎士団が来るまで持ちこたえれば……」


 貴族も取り締まることが出来る騎士団は二つ向こうの公爵家に駐屯地がある。そこから駆けつけてくるまでにはどんなに急いでも半日はかかるだろう。
 どんどんと喧騒が近づいてくる。別荘に行ってくるといってもきっと我が家の車庫にある車や馬車の数が減っていないことに気づくだろう。誰かが命乞いの為に口を開くかもしれない。ただこの小部屋のことはごく少人数しか知らないから隠れきれる自信はあった。


 結局夜に襲撃が来て、翌日の昼前に騎士団が来るまでの十四時間ほどを三人でそこで過ごすことになったのだ。


「ああ、よかった……無事だったんだな、レオン」


 そう言って小部屋の扉を開けたのは、見たことのある紳士だった。騎士団が駐屯するウォルターズを治める、父の友人であり母の従兄であるウォルターズ公爵だ。前世の記憶があるとわかった時に相談に乗ってもらった国のお偉いさんである。

 小部屋から這い出た後に見た屋敷は凄惨たるものだった。血の匂いが充満し、あちこちに血だまりと遺体が転がっている。レオンの部屋の扉の前ではメイド長と執事が息絶えていた。

 アニーが悲鳴を上げてメイド長に縋りつく。ケイも執事長の元へ崩れ落ちた。見知った二人の死にレオンも涙を流す。


「公爵……。父さまと母さまは……。おじいさまは」
「――会うかい?」
「……会います」


 わざわざ聞くということは、そういうことなのだろう。ふらついたレオンを抱き上げたウォルターズ公爵はゆっくりと歩を進めた。
 屋敷のあちこちでうめき声が聞こえる。騎士が倒れている人を確かめて生きているか死んでいるか、家の人か侵入した破落戸かを確認しているようだった。
 目をつぶっていてもいいと言われたが、レオンはじっと光景を眺めていた。破落戸以外は全員知っているのだ。共に暮らしていた家族なのだから。
 公爵に連れてこられたのは両親の寝室だった。そこにはレオンの両親が横たわっていた。まるで寝ているかのようだが、近づいてみれば二人とも血で汚れていた。それでもきっと拭ってくれたのだろう。まるで寝ているような死に顔だった。



「子爵とクリフトンとヘレンは執務室で倒れていたよ……クリフトンとヘレンはここに、子爵も寝室に安置している」


 聞けば叔母の婿もそこで死に絶えていたという。破落戸の何人かは公爵率いる騎士団が突入するまで使用人たちと戦っていたそうだ。それらはすべて捕らえられて、これから尋問され事の真相究明に当たるという。


「……ぼくは独りぼっちになってしまったんだな」


 けったいな他人の記憶を思い出してしまったレオンを愛しんでくれた家族が、全員殺されてしまった。

「本来であれば君が子爵となるけれどね、まだ未成年だから。議会での話し合いにはなると思うが、成人までは代行官に管理してもらい、そして成人したら子爵を継ぐのが一般的だ。――ああ熱が出てきてしまったね。この屋敷では休まるものも休まらないだろう。――一度我が家に来るといい」


 そうしてレオンはしばらくウォルターズ公爵家に世話になることになった。

 なったのだが――


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