贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

文字の大きさ
7 / 44
第一部

フレドリック襲来

しおりを挟む

「初めまして、フレドリック・ウォルターズです。今回はわがままを聞いていただきありがとうございます」



 自領の屋敷から馬車で十二時間。途中の宿場町で一泊したので、カレッジ領代行官邸に着いたのは出発翌日の昼過ぎであった。さすがに単身で来ることは叶わず、運転手と侍従長であるマイルズも一緒である。ちなみにこのマイルズはあの日父を置いてカレッジ領からレオンを連れ帰ってきた侍従だ。あの日のカレッジ子爵邸の惨劇を実際にその目で見た人間だから選ばれたのだろう。

「いえ、ようこそいらっしゃいました」

 穏やかな笑顔を浮かべながら迎えてくれた父より少し若い男は代行官のケビン・ハントである。ウォルターズ公爵傘下のハント伯爵の三男だか四男だかの末息子だ。文官としてたいそう優秀で、フレドリックの父が推薦してカレッジ領の代行官に就任した。

「代行官補佐のケイでございます。フレドリック様、お疲れでしょうから、まずはお部屋にご案内いたします」

 その名前にわずかにフレドリックの身体が揺れた。代行官補佐のケイ――あの日レオンと共に隠し部屋に隠れ、生き残った執事見習いの名前だ。幼いレオンとともにこの地で暮らしたことのある青年である。
 会ってみたかった人の一人だ。すぐにレオンのことを聞きたいのを抑えてフレドリックは挨拶をした。

「ああ、よろしく頼む」

 そうして当たり障りのない会話をしながら案内されたのは三階の客間だった。貴族の館よりも随分簡素なその屋敷ではあったが、客が訪れることがそれなりにあるのか、豪奢とはいえないまでも途中で泊った宿屋よりもうんと上質な部屋であった。
 窓の外には緩やかな丘が広がり、その頂上には屋敷が建っているのが見える。

「あれが惨劇のカレッジ邸か」

 子爵にしては大きな建物だと思う。カレッジ子爵領はもともと気候の良く、また丘陵地帯が多く酪農や農耕が盛んであり、国から見ても裕福な領であり、国内有数の穀倉地帯でもあった。また住民への還元も積極的に行っており、善良なカレッジ子爵は代々領主として人気があった。田舎だけれども、気候が良くのんびりした土地で、貴族の別荘もそれなりに多い。
そんなおいしい土地を掻っ攫おうとしたのが当時のカレッジ子爵の娘の婿であった。
もちろんカレッジ子爵は自分の長男を跡取りにしようとしていたが、相手が伯爵家の人間だったことから伯爵家からの横槍も入っていたと聞いている。当の伯爵家は否定しているが、煽った部分は少なからずあったのだろう。現に事件詳細が発表される前、カレッジ子爵領の代行に婿の実家である伯爵家が立候補していた。もちろん加害者の実家が担うなどという判断をするものは誰もおらず、親交の深かったウォルターズ公爵家が管理している。
なおカレッジ子爵邸での惨劇は王宮から事件詳細が発表されたこともあり、今は随分と肩身の狭い思いをしているようだ。

 フレドリックは上着を脱いで窓辺の椅子に座る。一緒に来たマイルズはフレドリックの荷物を開けた後、今後の打ち合わせをしに代行官の執務室へと向かった。
 メイドが用意してくれたお茶を飲みながらフレドリックは丘の上を眺めていた。
 窓の外はのんびりとした風景で、街中にあるウォルターズの屋敷とはまず空気からして違った。
 こんなところでレオンがちゃんと育ったならどんな子になったろうか、と思いを馳せていると、ふと丘の上へを続く少年が見えることに気づいた。遠くに見える小さな少年はたくさんの花を抱えて、てくてくと登っていく。きっと屋敷へ墓参りに行くのだろう。小さな背中に羨望のまなざしを送ってしまう自分にフレドリックは苦笑した。

「ようやく、ようやくあの子のゆかりの地へと来ることが出来たんだ」
 
 引き摺り過ぎだとは自分でもよくわかっている。けれども、あの子がどれだけの絶望を抱えて死んでしまったのかを考えるたびに胸がきしむように痛むのだ。
 それが、自分がこの先、死ぬまで抱えていかなければならない痛みだと、フレドリックは知っている。
 いっそ自害しようかと思ったこともある。けれども、生きられなかった子爵家の人々や死んでしまったあの子を思うたびに、その命を捨てる決心は出来なかった。誰かが生きたかった明日を、自分の身勝手な死で穢すことなど、出来なかった。あの子を思い、偲び、生きることがフレドリックの贖罪だった。



※短いので本日18時にも1話更新予定です。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。 四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。 だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。 自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。 ※性描写あり。他サイトにも掲載しています。

精霊の愛の歌

黄金 
BL
 主人公の鈴屋弓弦(すずやゆずる)は、幼馴染の恋人に他に好きな人が出来たと振られてしまう。その好きな人とは大学で同じゼミの村崎翼(むらさきつばさ)だった。  失恋に悲しむ弓弦は翼によって欄干から落とされてしまう。  ……それが全ての始まり。   ※全30話+31話おまけ有。  最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...