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第一部
王宮にて:ヤーアク伯爵
しおりを挟むヤーアク伯爵は待機室で一人ソファに座っていた。ほかにもたくさん呼ばれているはずだが、その部屋に通されたのはヤーアク伯爵一人であった。
ヤーアク伯爵は王都からほど近い領地を治める伯爵だ。上でも下でもなくど真ん中。領地も狭くもなく広くもない。そんな貴族の中に埋もれるヤーアク家の名前が知られるようになったのはここ十年ほどのことだった。
ヤーアク伯爵には三人の息子がいた。長男は顔こそ妻に似ていたが、学園の成績もど真ん中、容姿もよくもなく悪くもない、これぞうちの跡取り、といった感じの平均的な男である。そして次男はヤーアク家にしては成績が良く、そしてーアクにも妻にも全く似ていなかったし、両親を毛嫌いしていた。そして問題の三男である。比較的貴族的模範的な性格だった長男次男と少し年齢が離れていて、お互いによく似ていた三男を、伯爵と妻は甘やかして育てた。そうしたら恐ろしいほどの我儘不良少年が育ったのである。自分は特別だ、お前たちとは違うと態度にも言葉にも出していた三男はあろうことか学園在学中に子爵家の娘に手を出して孕ませてしまったのだ。その一報を聞いたとき、伯爵は正直「ついにやってしまったか。それにしても子爵でよかった」と言葉に出してしまった。その言葉に長男はため息をつき、次男は悪態をついていた。それなりに苦言を呈していた上の息子二人は呆れていたのだ。ある程度までは上の子たちの嫉妬だと思っていたが、本当に三男と自分に対して危惧していたのだと気づいたのは三男が学園に入学する少し前から街や屋敷内で暴力事件を起こし始めてからだった。
結局三男とその子供を孕んだ娘は、相手方が引き取ってくれることになった。せめてもと持参金を持たせた。あそこは田舎過ぎる、と数か月おきに帰ってくる息子は「あそこは俺が継いでやるぜ」などと言っていた。おかしいと思っていた。なぜなら相手の子爵家には評判のよい跡取りがいたし、二人が結婚するときに三男は子爵家の経営に一切かかわらないと証書を交わしたほどなのだ。おかしいな、と思いつつ「任せられるのならしっかりがんばりなさい」と言っていたが、息子は不敵に笑っているだけだった。
そうしているうちに、ある日突然、三男の訃報が飛び込んできた。それだけではない、子爵、子爵の長男夫妻、そして三男と妻の子爵長女とその子が破落戸の襲撃に遭い、死んだというのだ。生き残ったのは五歳の子爵長男の息子だけだという。
息子が継ぐ予定だったのだから、と子爵家の管理を名乗り出た。だがしかし、それが悪手だったのだ。
まさか、その破落戸とともに襲撃したのが三男だったとは思わなかった。
管理を名乗り出るどころか、伯爵家の屋敷にも騎士団が取り調べに入る始末だった。
長男は青い顔をし、そして次男は「ほら言っただろう!!」といいながら絶縁状を家と王宮に提出していなくなってしまった。
もともと体の弱かった子爵長男の息子は事件から半月ほどで死んだという情報が回ってきて、善良で評判の良かった子爵家を全滅させた男の実家として、ヤーアク伯爵は大変肩身が狭くなってしまった。
三男の結婚の時に出てこなかったから失念していたが、子爵家長男の妻はウォルターズ公爵家の従兄弟であるロイド伯爵の妹だった。ロイド伯爵は非常に怒っていて、ヤーアク伯爵家との取引を一切合切切ってしまった。伯爵家としての格が、ヤーアク家がど真ん中ではあるが、あちらは伯爵家のトップだ。しかも可愛がっていた娘を殺した男の実家である。ヤーアク家はその処置に甘んじるしかなかった。
あれから貴族家の真ん中、と言われていたヤーアク家はかろうじて伯爵という地位にいる形になっている。領地が富んでいるわけでもない。三男の事件以降、領民の流出も続いていた。
更にはどんどんひっ迫する財政に、ついには妻が実家に戻ってしまった、捨て台詞を残して。
『伯爵だから嫁に来たというのに、こんなに没落するなんて』
三男を育てたのは自分もだろう、と反論してみれば、嘲笑して去っていった。あとになって、妻が何人もの男と関係を持っていたことを知った。
『おそらく、次男は父の種ではない可能性が』
そう教えてくれたのは誰だったか。そんなに昔から浮気をしていたのか、とがっかりしてしまった。三男も誰の子供だかわからないではないか。
そんな時、とある噂を手に入れた。
『カレッジ領にはまだ発表されていない未成年の魂の迷い人がいるらしい』
魂の迷い人、この世界ではない別の世界を生きた記憶を持って生まれた人間だ。そういう人間は国を富ませる知識を持っていることが多く、この国ではそれらの存在を尊び、保護していた。彼らの身分は決して縛られるものではなく、国にとって不利益をもたらすこと、別の国に住むこと以外は自由が認められている。
カレッジ領は農耕畜産が盛んで、公爵が管理するようになってからも変わらず財政がとても良いと聞いている。
あのまま三男があの領地を継いでいたら、その利益の恩恵を受けることが出来たのに、それをかすめ取っていったウォルターズ公爵が許せなかった。
それなのに、さらに魂の迷い人まで抱え込んでいるだと?
ヤーアク伯爵は目の前が真っ赤になった。
以来、ヤーアク伯爵は魂の迷い人を抱え込んでいることがずるい、と後宮に陳情しに日参していた。
何度も何度も門前払いを食らったが、通った甲斐があって、王宮にて魂の迷い人の意志を聞く会を開催してもらえることになったのだ。
あとはカレッジ領にいる未成年の魂の迷い人がそこにいたくないと思ってくれればそれでいい。
ちやほやしてやれば、そのうちヤーアク領で働いて、魂の迷い人の知識で富を齎してくれるだろう。
「ヤーアク伯爵、お時間です。こちらにどうぞ」
役人が呼びに来たのにうなずくと立ち上がる。
仕込みは既に済んでいる。あとは子供をあやして領地に迎え入れるだけだ。
ヤーアク伯爵は勝利を確信して、役人の後に続いた。
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※ヤーアク伯爵の言い分が途中からおかしくなっているのは仕様です。
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