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第一部
フレドリックの贖罪1
しおりを挟む「――あなたの領地には絶対に行きません。あなたと関わることを、僕は良しとしない、絶対に」
「なっ!!なんという哀れな……!!ウォルターズ公爵に洗脳されているとは……!!」
「……今現在はリオ、と名乗っていますが、十年前に僕本人の希望で、戸籍を変えてもらいました。――僕の旧名はレオン・カレッジです。――あなたの息子が皆殺しにしたカレッジ家の、唯一の生き残りだ」
周りに座っていた五十人弱ほどの魂の迷い人の付き添いで来た者たちもその少年の告白に困惑し、声をこぼした。一人一人の小さな声が小さくはないざわめきを生み出す。
最前列で父であるウォルターズ公爵の隣に座っていたフレドリックはただ目の前で行われる顛末をひと時たりとも逃さないように凝視していた。
まっすぐな背中を見て、ああ、あの子はああやってまっすぐ育ったんだな、と感慨深かった。
◆◆◆◆◆
リオに関われないと父から通告されてから二日、フレドリックは再び父の執務室へ来ていた。今日はリオはいなかった。どうやら母に付き添われてなんやかんややっているらしい。
部屋に入ってきたフレドリックの顔を見て、父が面白げに片眉を上げていた。
「継ぐ気になったのか?」
その言葉にフレドリックは一息ついて、そしてまっすぐ父を見た。この二日、いろいろ考えて、そして調べて自分なりの結論を出してきた。
「――継ぎましょうとも。その代わり、条件が一つ」
「聞こうか」
「公爵家を継ぐのを了承します。ですがこちらにも条件があります。要は私が公爵の跡取りであり、公爵になればいい。その代わり、次代は妹か、妹の夫か、その子供のいずれかであること。私に婚姻・後継を求めない、強いないことが条件です」
フレドリックも考えたのだ。爵位を継いだ後、後継問題はいつだってついて回る。フレドリックが例外なだけで既に妹であるライラには貴族の次男以下の婚約者候補が幾人か挙がっている。本人もそれについて了承しているので、問題はないだろう。それがフレドリックにとって追い風になる。
「――してやられたな。そっちの条件は付けていなかった」
「そうですよ。公爵になって跡取りを作れという条件にしなかったのが父上の敗因です」
「いいだろう。――ただ、リオに関わるにはもう一つお前が超えなきゃいけない要件がある。リオに打診してから改めて話し合いの場を設けるからちょっと待て」
父のその言葉に頷き、そうしてその日の夜、夕食後にリオの時間を取ることが出来た。
◆◆◆◆◆
「ごめんね、急ぎ時間を取ってもらってしまって。今日も母と何かしていたんだろう」
夕食後、準備された応接室で二人きりで向かい合って座っていた。夕食後なので用意されたのはお茶だけであるが。部屋の隅には侍従長であるマイルズが控えている。
「……王宮に行くにあたって、最低限の礼儀作法を復習してました。あっちでは王宮にお世話になることになるので」
「え?うちの王都の屋敷にいるんじゃないのか?」
「はい、あちらの希望と諸々のために、王宮にいろと言われてます」
「……私は公爵を継ぐことになったよ。父が引退してから次代、妹夫婦かその子供かに引き継ぐまでだけどね」
「公爵が頭抱えてましたよ」
「うん。そこはね、譲れないところだったから。折衷案を申し立てたまでだよ。これならまあ、妥協できるからね」
「――公爵はああいいましたが、フレドリック様はこれからの件を聞く権利はあると思いますし、その決定も話を聞いた後、覆すことが出来ます。公爵を継ぐのは話を聞いた後でゆっくり考えていいと思います」
「そんな権限が……」
「公爵の更に上が関わっているんですよ、申し訳ありませんが」
心底困っている、と眉を寄せて申し訳なさそうな顔をするリオにフレドリックは言葉を返すことが出来なかった。
リオが平然としてるのも、父が持ち掛けたことをどうにかできるのも。これがそれよりも上ということは。
「一級機密事項……」
「一級と特一級機密事項が関わっています。どちらも俺の意志でフレドリック様、あなたに話すことの許可を、陛下から既に得ています」
だから公爵が跡取りがどうの、と言っているのはあなたの覚悟が見たかったかららしいですよ、とリオが言う。
「特一級?」
それは陛下・宰相・当事者その他責任者の許可がないと知ることが出来ないといわれている国家の秘密の頂点だといわれている。もはや噂だと、いや陰謀だといわれているあるかどうかもわからない機密事項だ。
それが、関わっている?
「特一級はいろいろ言われていますが、いわゆる超法規的なことが行われたときに使うものらしいですよ」
「軽く言ってくれるが……超法規的措置って……」
頭を抱えたフレドリックの前で、リオはお茶を一口飲んで、そしてカップを置いた。
「改めて、カレッジ領のリオです。四歳の時に記憶を取り戻し、カレッジ領でウォルターズ公爵の助けを得て、魂の迷い人に認定されました」
「は……?」
魂の迷い人――それは時折現れて、己の生まれる前、別の世界で生きてきた記憶を持ち、国の利益になる知識を齎してくれることもある存在である。全員がそうでは必ずしもないが、先人たちに敬意を表して、世界の記憶を持つ人たちを国を挙げて保護している。今は確か二十人くらいいるんではなかったか。
「それは……、つまり、魂の迷い人として襲われたと?」
「はい。俺の意志で、カレッジ領にとどまること、身分を公表しないこと、未成年の内はそれをさらに強化した結果、俺の存在については一級機密事項となっています。それが、漏れた」
「なるほど。――つまりは魂の迷い人が齎す何かを皮算用した輩が、君の身分を欲しくなったと」
「王宮に何度も不公平だって抗議に来ていたらしいですよ。カレッジ領を預かっているくせに、そのうえ魂の迷い人を囲い込むとはずるい、と」
「それは、なんというか……短絡的な」
「あまりにしつこいので、陛下が音頭を取って、魂の迷い人全員の総意としてその抗議者――とある伯爵なんですが――それを断罪することになりました。そもそも一級機密事項を関係ない伯爵が知っているのが問題なんです。しかも浅はかなことに、俺を怖がらせるために襲撃を頼んだそうですよ」
「怖いからって移住させるために?」
「俺、もうすぐ十五なんですけどね――しかもありえないことに、カレッジ領では禁句どころか名前も出したくないヤーアク伯爵だということです」
今度こそ、フレドリックは声すら出なかった。ここまで淡々と話していたリオだったが、その名を出すのが心底いやだと表情が物語っていた。
それも当然である。
ヤーアク伯爵、カレッジ領の惨劇を起こした長女の婿の生家であり、現在の当主はその婿の父親である。
どの面下げてカレッジ領の住民に口を出してくるのか。
「ちょっと、待て。ずるい?うちがカレッジ領と未成年の魂の迷い人を抱えているからと?」
「カレッジ領の惨劇のあと、詳細がわかる前にあの人なんて言ったか知ってます?うちの息子が継ぐ予定だったのだから代行をこちらでしましょうって言ってきたらしいですよ?どうやら三男が自分が継ぐって言ってたみたいで」
「いや、婚姻契約でそれは明記されていただろう」
「でもその後息子が話していたから変わったのかと思った、だそうです。結局三男の犯行が分かって、三男の動機の裏付けになって赤っ恥かいたらしいですけど」
「それが今になって魂の迷い人である君の存在を知って、ちょっかいをかけてきている、と」
「そういうことです。既に襲撃の下手人は捕らえられたそうですよ。ただ今回の犯人以外に依頼しているかわからないので引き続き俺たち二人には護衛がつくとのことです」
「なるほど。よくわかった。一級機密は魂の迷い人である君のことだったんだね。では特一級は?」
ここまででも充分機密事項だとは思う。それでも特一級には及ばないだろう。
「……フレドリック様に、俺は謝らないといけない」
「襲撃に巻き込まれたことなら、君だって被害者だ。気にしないで」
「ちがうんです。――フレドリック様。俺は、カレッジ領のリオは、リオとして生まれたわけじゃないんだ」
顔を上げたリオは、今までになく真剣でそして少しだけつらそうな顔をしていた。
「あの時、それが最善の策に思えた。もう家族も亡く、一人でやっていけるなんて思っていなかった。だって俺は前世でも普通の会社員だったから。だからもう、家族が残っていない中で、その身分でいることは出来なかった。でも、あなたにこんなに影響を与えてしまうなんて思わなかったんだ。――レオンは、レオン・カレッジは死んでなんかいなかったんだよ、フレドリック様。あなたがこんなに長い間悔やんでいたのは、俺のせいだ……、あなたがこんなに傷つくなんて、あの頃の俺はこれっぽっちも考えなかったんだ。レオンはレオンが、俺が、己の意志で殺してリオになった」
フレドリックは目の前で真摯な目でこちらを見るリオを、ただ見つめていた。
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