贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第一部

フレドリックの贖罪2

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 目の前の少年は、十五の少年に見えないほどにその過去を憂い顔に湛えていた。


 あの日、あの時、表情のなかった子供とその面影がかぶる。目の色と、その表情のなさだけを覚えていた。
 深い深い、海の底、湖の底のような藍の色。




「レオン・カレッジは己のうちに存在する前世の記憶から考えて、今後貴族の責務を担うことが出来ないと思った。だから魂の迷い人の特権を使い、新しい戸籍を用意してもらいました」


 戸籍の、身分の書き換えは基本的に国の法で禁止されている。もし許されるのだったら、それは陛下の許可があって、なおかつ宰相や裁判官も納得する理由を用意する必要がある。



「超法規的措置――だから特一級機密事項なのか……」
「四歳で記憶がよみがえり始めて、五歳のあの事件の頃にようやく落ち着きを取り戻しました。家族がいたら貴族として生きる道もあっただろうけれども、家族が全員いなくなってしまったあの時、貴族であることに価値を見出せなくなった」
「……じゃあ、俺があの暴言を吐いたのは……君なのか」
「そうです。魂の迷い人として、成人した大人の記憶を取り戻していた、五歳の俺でした。だから八歳のあなたに言われても「この子やべえな!!」ってなっただけです。措置を済ませた後、公爵があなたに対して教育したと聞きました。お灸を据えたといっていましたけど、俺も公爵もあなたがこうしてずっと引きずるなんて思ってはいなかったんだ。やり過ぎたとよく言っていますよ」
「結果論だ。君が大人の心を持っていたから流してくれただけで、俺が吐いた言葉は許されるものではない。君は、君は被害者だったのに、家族を見送ったたった五歳の子供だったのに!!あのような暴言は君が何者であろうと許されることではなかった」
「――でもあなたの行動で、不当に搾取されている魂の迷い人を一人、保護することが出来たんですよ。それなりに深刻な影響が既に出ていたけれども、それを明らかにすることが出来た」
「え?」
「その魂の迷い人は前世の記憶が強すぎて、この世界に馴染むことが出来なかった。だから前世で読んだ読み物を書き出すことで自我を保とうとしたんです。その書き散らかした物語を、義理の家族に掠め取られて出版されていた。それが当時悪書と言われたあれです。あなたの言動に疑問を覚えた俺がそれに目を通すことによって、魂の迷い人の関与が疑われた。そうして閉じこもっていた魂の迷い人の存在が確認されました。――今は王宮で魂の迷い人同士で交流をもって、普通の生活をしています。あのまま狂いそうになっていた魂の迷い人が狂う前に保護出来たし、影響を受けている子供たちが王政に影響する前にどうにか出来たからって、公爵が陛下から褒美を……」


 そんなことは聞いていない。公爵である父によって本の作者が捕縛された以外、フレドリックは聞いていなかった。そんなことよりも。


「フレドリック様、あなたが思い悩んでいるような、親を殺されて、小さな子供が勘違いした言葉に傷ついて、悲しみの中衰弱して死んだ子供はいなかったんです。確かに親に殺されて、小さな子供の言動に危機感を持った貴族の子供はいましたが、今こうして好きに生きています」


 恐ろしいほどの情報が流れてきた。
 部屋の端では侍従長が変わらず立っている。侍従長であるマイルズは当時事件の起きたカレッジ領に父と向かい、レオンを我が公爵家に連れ帰ってきた侍従だ。だから彼はフレドリックのカレッジ領行きに同伴したのだろう。

「……っ」

 頬を熱いものが伝う。
 
 ずっと後悔していた。
 知った時には既にすべてが終わっていた。知ろうとしない愚かさが罪だと知った。
 あの時から、自分はきっと贖罪のためだけに生きると思っていた。それだけのことをしてしまったのだから。
 

「ごめんなさい、知らなかったんだ。知ろうとしなかった。きっと君を支えることを父は期待していたけれども、俺はそんなことを考えなかった。あの時の俺はとても浅はかで、短絡的で、現実と物語を混合してしまって、君にとてもひどいことを言ってしまった。君を、君の家族を貶める発言をしてしまった。ずっとずっと謝りたかった。――ごめんなさい」


 たとえ謝れたとしても、許されることではないとわかっていた。
 あの時フレドリックはレオンと、そしてレオンの家族をも侮辱したのだ。彼らは領地を守り、そして勇敢に立ち向かったというのに。


「フレドリック様。あなたの部屋にあったといわれる書物、俺も読みました。俺が生きた世界では大体十五歳くらいまで、あのような物語に影響されて振る舞いにも影響するような子供がたくさん出ていました。あなたの行動はあの本を読んだ子供として、ある意味至極真っ当なものでした。問題はそこから卒業できるかどうかで、子供の頃のやらかしは笑い話です。――もしあの時俺が魂の迷い人ではない普通の子供だったなら、生き残らずに殺されていたでしょう。大丈夫です、あの時あなたの状況を冷静に判断できる俺じゃなければあそこにたどり着かなかった。――大丈夫です、俺が許すから、あなたもそろそろあなた自身を許してあげてください」

 そっと涙が伝う頬に、リオの、レオンの小さな手が触れる。いつの間にか目の前に立っている少年はリオと経った三歳しか違わないというのに、まだ小さかった。その顔を見上げれば、あの時の無表情とは違い、ただ柔らかく笑う少年がいた。


「もし、それでも許せないんであれば、次期ウォルターズ公爵としてカレッジ領をこれからもお願いします。俺はカレッジ領を守るって決めたので」
「わかった、約束する」


 頬の小さな手を握り締めて、そして力強い光を決意を宿すその藍色の目を見つめて、フレドリックはその手に、その瞳にそう約束したのだった。



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