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第一部
断罪の後に
しおりを挟む「リオ、お疲れ様」
会が終わった後、付き添いだけが許された控室から魂の迷い人たち専用の控室へと案内されたフレドリックはまっすぐに魂の迷い人たちに囲まれているリオの元へと駆け寄った。
「フレドリック!!」
満面の笑みでやり切った様子のリオを見てフレドリックもほっとする。自分の意志と反して結構な人数にカレッジ子爵の死んだはずの孫息子だと明らかにしなければいけなかったリオが、王都につくまでものすごく怒って、そしてものすごく面倒くさがっていたのをフレドリックは知っているからだ。
だから先ほどの審議会でのリオは怒り心頭だった。
「フレドリック。聞いた!?あれ!!狙撃されてこわーい!!ってところにうちにおいで~って言って「行く~!!」とかなると思う!?意味わかんないんだけどあれ!!俺ってそんなに単純に思えたの!?魂の迷い人ってみんなそんなに単純じゃないだろー!?」
「そうだよ、魂の迷い人、日本人がほとんどだからおとなしいと思われがちだけど、そうじゃないからね!!」
周りにいた魂の迷い人がそう笑いながらヤジを投げる。国で確認されている成人している魂の迷い人がほぼ全員そろっているのはなかなかに壮観だった。平民も貴族も貴族から平民に降りたリオのような人間も年齢以外の身分差は感じられない。彼らの生きた世界は身分制ではなかったらしいのでその影響だろう。
控室では顔を隠していたものも全員取っているので、あの人もそうだったのか、とフレドリックが内心驚いていると、リオが近づいてきた青年の腕をつかんでフレドリックの前へと押し出した。
「フレドリック。この人があの悪書事件のお話を書いてたハヤテ。ハヤテ、この人がウォルターズ公爵の長男のフレドリック」
紹介された青年の身元にフレドリックが目を見開いた。
「やあ、初めまして。君がフレドリック少年だね。もう少年じゃなくなっちゃったか。君のやらかしのおかげで搾取されていることにも気づかなかった僕が見つかったんだ。君も色々大変だったろうが、僕は君のおかげで助かったよ、ありがとう」
朗らかに笑う青年は、間違いなくフレドリックの人生を変えた人間だ。
フレドリックの件がきっかけになって存在を確認され、保護された今も物語は書き続けているらしく、ハヤテの小説は貴族どころか平民の間でも大流行だ。
青年曰くのやらかし後、フレドリックはそういった物語に触れないで来た。先日リオと和解して初めて父からフレドリックのその行動とリオの助言が発端となって明らかになったこの一連のハヤテを巡る事件の全容を知ることになったのだ。
リオの件は実際に血を見る凄惨さであったが、ハヤテの件もとても闇が深かった。自分の行動が魂の迷い人であるリオの記憶に引っかかり、結果としてハヤテが保護されたことは間違いない事実である。現にウォルターズ公爵がその件で国王陛下から表彰されていた、フレドリックは知らされていなかったが。
当時カレッジ領を発端とする事件と合わさって、十年前ウォルターズ公爵が随分と表立って動いていたのは紛れもない事実である。そこのところをやっかんでいる貴族もいなくはない。その関係で犯人が確保され自供するまでフレドリックかリオかいまいち標的が判明しなかったのである。
「初めまして、ハヤテ。色々複雑ですが、今あなたがこうして暮らしていられるのであればよかったです」
「あはは、八歳なら厨二病どころか小二病だよ。魂の迷い人組はみな大なり小なり君よりも恥ずかしい記憶を持っているはずだから気にしないといいよ。リオとも和解できたみたいだし。じゃあリオ、またあとで」
すぐに誰かに呼ばれたらしいハヤテが二人に手を振ってその場からいなくなる。この後まだ食事会が待っているから、その時にまたリオと話せばいいと思っているのだろう。
「それにしても何事もなくてよかった。騎士が大勢ついているとはいえ、リオを狙っていた犯人の前に出すのは不安だったから」
「さすがにあそこまで突っ込んで来れないよ。自分の言葉で砕けたのはすっきりした。控室に呼んでたヤーアク家の跡取りからも聞き取りしているらしいし」
「この後は食事会だよな?いつうちの屋敷に?」
「後継の方の聞き取りも確認してからじゃないと王宮出られないんだよね。早くそっちに移りたいのはやまやまなんだけど。王都久しぶり過ぎて迷い人関連の諸々を突っ込まれてる」
公爵家もそれなりに豪華だけれども、王宮にある魂の迷い人関連の部屋はそれを上回る。それこそ国賓級の豪華さなのではなかろうか。リオはその豪華さと過保護さに若干気後れしているらしい。ウォルターズ公爵の王都邸はまだ何度か過ごしたことがあるし、ある程度リオの自主性を慮ってくれるから楽なのだそうだ。王宮から許可が出たら公爵邸に移って、そこからまだしばらく王都に滞在することになっている。
「そうか。こっちもまだこれから残務がどっさり積まれるだろうから、ひたすらそれの補佐だよ。君がうちに来る頃には落ち着いているといいな」
「公爵家の王都のお屋敷にお世話になるのは七年ぶりだから、楽しみ」
そんな話をしていたら、魂の迷い人に号令がかかった。これから食事会なのだろう。今回の食事会は魂の迷い人のみにて行われるので、再び付添人とみな離れてぞろぞろと扉の向こうに消えていった。
「フレドリック。こちらへ」
全員が部屋から去り、これから食事会が終わるのを待つために別室で食事する組と王宮を辞する組で分かれるらしい。フレドリックはこの後、屋敷に帰ることになっている。おそらく明日からは書類と報告の嵐になるだろう。
「これでとりあえず一段落ですか」
「これから書類仕事だよ、フレドリック」
今回の件が片付いたら、本当の意味でのカレッジ領の惨劇が終わるのだろう。
フレドリックの後悔も少しだけ軽くなった。新しく背負った約束はそれなりに重いものではあるが、それでもリオの正体を聞く前に比べれば、だいぶ心が軽い。
今回の襲撃は大変ではあったが、あの時カレッジ領に行くことが出来てよかったと思う。
幼いフレドリックの罪は消せるものではないが、いろいろな偶然が重なってフレドリックは贖罪を受け入れてもらえた。
彼の望みは平和なカレッジ領で暮らすことだ。
フレドリックはその望みを守るためにこれから生きていこうと決めたのだ。
贖罪のために生きてきた公爵長男は、贖罪以外にようやく生きる目的を得たのだ。
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ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
贖罪公爵長男とのんきな俺、これにて第一部終了となります。
この後少しお休みを挟みまして、第二部を始めたいと思っています。まだBがLしてないので!!
再開まで今しばらくお待ちくださいませ。
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