贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第二部

閑話・公爵家の若手侍従

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 王都でのウォルターズ公爵邸は王宮にごく近い貴族街にある。現ウォルターズ公爵は国王の従弟であるし、そもそもそのウォルターズ公爵の母は前国王の妹だ。ウォルターズ公爵家はこのように歴代王族に近しい血縁を保っている。似たような公爵家はほかにも何家かあるが、いずれも王家を支える貴族のトップの一家である。

 当然その身分に見合うようにその屋敷は広い。歴代の公爵が整えてきたその屋敷はもちろん大量の使用人が常駐している。基本は領地にいるのが公爵家族であるが、馬車で三日ほどで領地から来ることが出来るので比較的頻繁に王都の屋敷は使われている。また公爵の子供たちも長期休暇以外に週末寮から帰ってくるのはこちらの王都の家だ。去年までは長男が、入れ替わるように長女が貴族院学園に通っているのでここ数年王都のウォルターズ公爵邸は活気がある。


 そんなある日、飛び込んできたのは公爵と長男、そして念のため客人の部屋を用意するようにとの指示が飛んできた。

「ああ、旦那様とフレドリック様のお部屋はいつものように。客人はリオ様なので、そうですね、ハンナ、よろしくお願いします」

「まぁ!!リオ様なんですの!?本当に久しぶりで……!!」

「七年ぶりですね。しばらくは王宮に滞在されるそうですが、許可が出たらしばらくこちらに滞在するかと。こちらが領地から届いた現在のリオ様のお洋服のサイズです。あちらでも用意しているそうですが、念のため、部屋着類はこちらでも用意を」

「わかりましたわ。久々に腕が鳴りますね」

 執事長と古参のメイドがニコニコしながら会話を進めていく。若い使用人たちはみな首を傾げるが、その『リオ様』を知っている勤続の使用人はみな機嫌がよくなっていた。


 そうして訳が分からないままの若い使用人はこそこそとうわさ話に興じる。きっとまた直前に客人である『リオ様』の身分やその他についての説明はあるだろうが、今はまだその時ではないらしい。

「そういえば、衣類の倉庫にリオ様って見たことある気がするわ」

 そう言ったのは公爵家の面々が着なくなった衣類庫の虫干しや点検をしたことのあるメイドだった。なるほど、この屋敷に過去に滞在していたことがあるなら、そういうものがあってもおかしくない。

「しばらく王宮に滞在するってことは王族関連なのかな。緊張しちゃう」

「そんなこといったら旦那様だって王様の従弟だよ」

「前の公爵の奥様に至っては王女様だったから、先輩たちの貫禄っぷりがすごいわ」

 使用人専用の部屋でそんなことを言いながら仕事をしていたら、先ほど執事長に『リオ様』とやらの支度を頼まれた古参のハンナが顔を出した。

「客間を整えるから何人か手伝ってちょうだい。そうね、コリーとミック、メアリーとモイラついてきてちょうだい」

「はい」


 名前を呼ばれた四人が立ち上がる。四人とも勤続が三年ほどの若手だ。

 いくつか倉庫をハシゴしてハンナが指定した備品を持って整える予定の客間に向かった。
 その客間は二階の一番東にある部屋だった。どんな客人がいてもそこは使っていなかった場所だから、若い使用人たちは目を見張る。

「この部屋はね、リオ様専用のお部屋なのよ。何度かこの屋敷に滞在された時は決まってこの部屋を使われるわ」

 日当たりの良いその部屋は既に掃除されていて、いつでもお客様を迎えてもいい状態だった。しかし、ここからまた備品や調度を替えていくのだ。倉庫から運んできたそれをハンナの指示で据えていく。家具の移動は先日既に済ませているらしい。

 仕事を終えたらそこにいた四人はハンナにお茶に誘われた。使用人に与えられている部屋のひとつに通される。

「あなたたちはリオ様のお世話をすることになるわ」

 ハンナに指導されながらモイラが入れたお茶を飲んで一服していたら世間話でもするようにハンナがそういったので集められた若いメイドと侍従はまるで凍ったように動きを止めた。

「わっ、私たちがですか?」

「ええ、執事長や侍従長と相談したのだけれど、若い子にお願いしようかと思って」

「あのリオ様ってすごくすごく重要なお客様ですよね?私たちに務まるのでしょうか……」

「うふふ、そんな固くならなくても大丈夫よ。リオ様はとても重要なお客様だけれども、リオ様はそこまで気負うことはないわ。説明しようと思って呼んだの。――リオ様自体は平民なのよ、ウォルターズ公爵家が代理で管理しているカレッジ領の代行官補佐の弟さん。ただね、魂の迷い人なのよ」

「魂の迷い人!?」


 魂の迷い人は万人に知られているが、身近な存在かと言われるとそうではない。勿論ここに呼ばれた四人も偉人伝などで読んだことはあっても会ったことすらなかった。

「まだ未成年だから存在も公表されていないの。あなたたちも絶対口外しちゃだめよ。申し訳ないけどあとで誓約書にサインしてもらうわ。ただね、それ以外は普通の男の子なの。特別丁寧にするとかは必要ないわ。本人も嫌がるでしょうしね」

「魂の迷い人、ということを、屋敷内でどれだけの人間が知っているのでしょうか?」

「そうね、そう多くはないわ。こちらの屋敷では私と執事長、そしてあなたたち間だけでだけにしてちょうだい。ああ、そうね、料理長はご存じよ」

 ミックの質問にハンナが答える。

「魂の迷い人は平民であっても貴族と同等、と聞きました。公爵家の大事なお客様、というだけでは手配に支障が出るのでは?」

「ええ、そうね。ですから旦那様の従兄弟であるロイド伯爵家に連なる方、という扱いを知らない使用人や対外的に説明するわ。ロイド伯がリオ様を可愛がっていることは事実ですし、お名前を使わせていただくことをご了承いただいていますからね」

 コリーの質問にも既にハンナは答えを用意していた。きっと旦那様と執事長とメイドの長であるハンナの間では既に打ち合わせが済んでいるのだろう。

 また後日細かい打ち合わせをすることを約束して、そうして四人は解放された。ちょうど仕事終わりの時間だったから、そのまま自室へと帰ってきたコリーとミックである。この二人は同期で同室なのだ。それもあって二人揃って選ばれたのであろう。

「いやはや、びっくりした。魂の迷い人とかおとぎ話かと思ってた」

「俺も。たしか裁判官に有名な人いたよな?それくらいしか俺知らねえぞ」

「図書室に本あるかな、借りられるかな」


 二人とも先日二十歳を迎えたばかりである。リオ様は平民でまもなく十五歳とのことなので、この屋敷に馴染んでいて年齢が近く、気安く対応できるであろう二人が選ばれたのかもしれない。


 ハンナは問題ないというが、二人は緊張しながらその日を待つのだった。


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