贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

文字の大きさ
22 / 35
第二部

閑話・公爵家の若手侍従2

しおりを挟む

 そうして、数週間が過ぎ、ようやく待望の客人が訪れた。一週間ほど前まで公爵である旦那様とその長男であるフレドリック様がピリピリとしていたが、ある日を境にそのひりつきがおさまったので、おそらく問題が解決したのだろう。


「リオ様、お久しぶりです、お待ちしておりました」

「お久しぶりです、執事長、ハンナさん!! お世話になります」


 王宮に公爵とフレドリック様自ら出向き、迎えに行ったリオ様が来たのはとある日の昼下がりだった。

 フレドリック様にエスコートされるように玄関ホールに入ってきたのは十五歳を迎えるには少し小柄な少年だった。平民と言われると品があり、貴族としてはあまりにも気安そうな雰囲気。おそらく七年前までの滞在で面識のある使用人はみな笑みを浮かべていた。それに関しては少々居心地が悪いらしく、ちょっと笑顔が強張っていたのはご愛敬である。

「ではリオ様、お部屋にご案内いたしますね」

 ハンナに目配せされて、コリーとミック、メアリーとモイラもその後ろに従った。気安く話すハンナとリオ様の後ろを歩きつつ、流石王宮のアイロン係の腕はすごいなぁとその小さな背中を眺めていた。

「うわ、変わってない!!久しぶり過ぎる!!」

「リオ様が大きくなった分、お部屋も狭く見えてしまいますね。リオ様、こちらがこれからリオ様の滞在時にお世話いたしますものたちです。ご紹介しますわ」

 四人を簡単に紹介すると、ハンナが部屋を出て行った。

「うーん、四人もつけてもらっちゃって悪いな」

「普段つきますのはメイドと侍従一人ずつです。日々交代制となっています」

「そうなんだ」

「お部屋のことはご存じだと思いますが、新しく用意したものがありますから、ご案内いたしますね」

 七年前から水回りが変更になっているらしく、小さな案内にも驚いたり頷いたりしてくれる。いつの間にかメイドも侍従も笑顔になっていた。どうやら聞いていた通り、随分と気安い性分らしい。

「いや、でもこの服は多すぎ……。え、うそでしょ一年分あったりする?」

「ええ、念のためご用意するようにと」

「俺、成長期なのに……」

 部屋の案内と荷解きが済むと、ミックとモイラは部屋を辞した。コリーとメアリーが残っている。コリーが付き添って部屋着に着替えている間に、メアリーがお茶を入れたので、リオ様はそれを飲みながらやや疲れていた。

「いやでも昔とほとんど変わらなくてほっとした。王宮の客間って、調度品が全部「私は高いです!!」って主張しててあとなんか輝きが強すぎて……」

「そんなにですか?」

「そんなに。王宮に住んでる同類の部屋は色々と家具を入れ替えてだいぶ落ち着いてるんだけど、客間はどうしてもね……」

「このお屋敷にもそういうものを好む方が来た時用のお部屋がありますけどね、初めてこのお屋敷に来た時は思ったよりシンプルなお屋敷に驚いたものです」

「やっぱり?そうだよね。多分シンプルに見えてキンキラに劣らずそれ以上の銘木とか使い放題のものすっごく高価なものだろうと思うんだけどそれでも視覚情報は大事」

 そう言ってリオ様が使っている茶器も、魂の迷い人が好むものを長年追求してきた商会が出している高級なシリーズものである。魂の迷い人に関わる商品はそれなりに貴族にも平民にも売れるので商会は商品開発に積極的だ。たまに新製品が出ると新聞にニュースとして出るほどである。

「リオ様の滞在期間は決まっていないとのことですが、既に決まっている予定などありますか?」

「うーん、前に来たの七年前だからね。ちょっと数日はお屋敷でゆっくりさせてもらおう……。王宮にいた時はランチにお茶にディナーと引っ張りだこだったんだ……」

「ああ……」

 コリーとメアリーは目を見合わせた。私的とはいえ王宮なら着せ替え人形状態で、なおかつ堅苦しいものだったのだろう。今もソファに背を預けて、ちょっとお行儀が悪い。しかし、ここは彼の私室なのでそれが許される場所である。

「では私たちは控えの間におりますので何かあればすぐにお呼びください」


 客間に隣接して、なおかつ廊下に出なくても客間との出入り口がある侍従控えの部屋がある。ここだけでも寝泊り出来るほどのものだ。小さなキッチンとデスク、そしてベッドまである。コリーはそこに下がり、メアリーは部屋を辞した。部屋の主に呼ばれるか、次の予定が入るまで、こちらで細かな仕事をこなすのだ。
 もちろん廊下にも面しているので、部屋の主に直接言うほどのものではない連絡はこちらに来る。
 しばらく机仕事をしていると、ノックとともに先輩侍従が入ってきた。フレドリック様付の侍従ケネスである。

「リオ様は?」

「お部屋でおやすみです。随分とお疲れのようだったので」

「そうか、夕食の時間はこちら。服はこちらのメモの物を。フレドリック様が迎えに来るから少し前に着替えだけは頼む」

「わかりました」

「どうだった?客人は」

「気安い方でした。少なくとも高圧的とは正反対の方です」

「そっか。まさか迷い人様をお迎えすることになるとはな……さすが公爵家というべきか」

「本当に。おとぎ話の中の登場人物だと思っていました」

「やっぱりそうだよなぁ……。っと、じゃあ夜はそういうことで」

「はい、お知らせありがとうございました」


 先輩を見送って、独りになってほっと一息つく。隣の部屋は小さな音すらしないので、きっとおとなしくしているのだろう。確かに公爵家の侍従とはいえ、王宮は身構えてしまう。平民ならなおのことだろう。リオ様をギリギリまで休ませようとコリーは時間を逆算するのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...