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第二部
リオ、祝・王宮脱出
しおりを挟む魂の迷い人が一堂に会することなど滅多にない。審議会という形では七年振りである。魂の迷い人同士の情報交換ももちろん一日では終わらず、ほとんどの迷い人が王宮に数泊することになっていた。一部の迷い人も自宅や宿泊先から王宮に日参することになった。
もちろん魂の迷い人同士以外でも国の重鎮や王族による魂の迷い人関連の食事会やお茶会が審議会後の一週間に詰め込まれていた。リオはヤーアク伯爵家の言質がとれたらさっさと王都のウォルターズ公爵家のお屋敷に移れると思っていたのだけれども、そんなことはなかった。
魂の迷い人同士で過ごす分には問題ないけど、やれ王族の誰誰だ、王妃様のお茶会だ、王子との謁見だ宰相だ大臣たちだの目白押しで、ただでさえ先日の審議会で疲れ果てていたリオにとっては苦行でしかなかった。しかし今回は自分のことで集まってもらったので、基本は断ることはなかった。未成年だったので夜会がねじ込まれなかったのが不幸中の幸いである。
ただし、最後の最後に王太子殿下と従兄であり、王太子の側近であるロイド伯爵家の次男が抜き打ちで部屋を訪れてくれた時には膝から崩れ落ちた。レオン・カレッジの伯父であるロイド伯爵はレオンの母であるヘレンを大層可愛がっていたせいか、ロイド伯爵は甥のレオンであるリオに大変甘い。そのせいか、その息子たちも従弟であるリオにすこぶる甘いのだ。かつてレオンがリオになった時、最後の最後までリオがカレッジ領に留まることに反対していたのがロイド伯爵一家である。
いまだにロイド伯爵夫妻とその息子たちはお忍びと称して結構な確率で代わる代わるカレッジ領に遊びに来たりしている。そのせいでずっとロイド伯爵家の次男が雑談で可愛い可愛いと言い続けたからか、なぜかその上司である王太子までリオのことを弟扱いしてくるのが困る。ちなみに小さかった頃は王や王妃に抱き上げられたり、膝の上に乗せられたりして固まった経験がある。先輩たち曰く、諦めろ、とのことだ。幼児で見つかる魂の迷い人はかなり珍しいので猫可愛がりされていたのだ。
魂の迷い人は普通は大体思春期時代に発見される。思い出すのが平均して十歳前後、王宮に報告が来るのが十三歳前後である。そういうことなのでリオに関しては思い出すのも早かったしそれを家族が把握するのも早かったし、尚且つ貴族であったので間に挟まる諸々をすっ飛ばして速やかに王宮に、なんだったら公爵から直接国王に報告されていた。
魂の迷い人の身分上、王族全体が魂の迷い人のことを王族の友人扱いしてくるのだ。王族的には唯一対等に接しても問題ない国内の人間ということで、親しくなりたがる傾向にある。先日はハヤテと第二王子がタメ口でどつきあっていて白目をむいたものだ。
「そんなっ!!日々も!!今日で終わり!!」
今朝、部屋付きのメイドと荷造りをして(ちなみにこの部屋のメイドは働きたいと希望した魂の迷い人である)、案内の侍従とともに魂の迷い人区域を出て数多ある応接室のひとつへと向かえば、既に迎えのウォルターズ公爵とフレドリックが待っていた。
「やあ、元気そうでよかったよ」
「久しぶり、かな?」
「お久しぶりです!!迎えに来てくれてありがとうございます!!」
テンションの高いリオに公爵は苦笑して、フレドリックは驚いてしていた。王宮に滞在するたびにうんざりしているリオを知っている公爵にとってはいつものことなのだ。つつがなく手続きを終えて、ウォルターズ家の馬車に乗った時、リオは既に傾いでいた。
「リオ、しばらく王都にいるんだよね?」
傾いでいるリオに肩を貸しながらフレドリックが訊ねると、うーんとリオがうなる。
「行きたい場所はそれなりにあるけど、とりあえず三日くらい、いや三日と言わず一週間くらいお屋敷でゆっくりしたい……。ずっとお茶会だのお食事会だの王族さんたちとかお偉いさんとの予定突っ込まれたから……。昨日の午後なんてゆっくりするために予定を入れないでおいたのに王太子殿下が部屋に来たんだよいきなり。あの方、パトリック兄さまにあることないこと吹き込まれてるから俺のことも弟扱いする……」
「ああ、パトリック様は王太子殿下付だったか……」
「ロイド伯と母様の年齢が離れてるから、俺とロイド伯家の従兄たちとの年も離れてるんだよねえ」
「ジェレミーはヘレンのことを溺愛してたからな。いまだに養子の話が出てるんだろう」
「ええ、来る度に誘われてますよ。そろそろ跡取りのレイモンド兄さまも結婚するのでそっちに意識が移ってほしい」
前に座っていたウォルターズ公爵が苦笑する。ウォルターズ公爵より少し年上の従兄がロイド伯で、少し年下の従妹がリオの母であるヘレンだからだ。小さなころからジェレミー・ロイドは少し年の離れた妹であるヘレンを溺愛していたらしい。事件後、ロイド伯からの諸々を受けているのは間違いなく公爵なので、リオも苦笑するしかなかった。ちなみにこういうフレドリックの知らない話を出すと、フレドリックがしょっぱい顔をしていてちょっと楽しい。いや、それなりに可哀そうではあるのだけれども、それを思い出して、貴公子らしからぬ表情をするのだ。
王宮に近い場所にあるウォルターズ公爵邸にはほどなく到着した。王都の屋敷とは思えないほどの大きさは、何度見ても公爵の身分の高さを感じてしまう。リオは十年前に事件後初めて王都に来た時以来、王都に滞在するときは必ずお世話になっている。とはいえ、前回お世話になったのは七年前ではあるが、王宮よりは何倍も居心地が良い屋敷だ。王都に来るときは大体魂の迷い人で呼び出しがかかるか、それ関連の手続きがある場合なので、魂の迷い人としての後見人であるウォルターズ公爵に付き添われて王宮に上がるからだ。勿論その際は万が一にもフレドリックに会わないように、フレドリックに話題を出されないよう屋敷では徹底されていた。勿論ウォルターズ公爵領の屋敷に滞在するときもである。だからこそフレドリックはリオのことをカレッジ領に行くまで知らなかった。ウォルターズ公爵家の使用人の仕事は完ぺきだった。
いまだリオの身長には少し高い馬車である。フレドリックに手を借りて降りると、玄関扉が開けられ、玄関ホールには使用人がずらりと並んでいた。最初と最後だけ大仰なお出迎えとお見送りがあるので、そこだけ我慢である。懐かしい顔に挨拶をしていれば、フレドリックが相変わらず微妙な顔をしていた。
「リオ様、お久しぶりです、お待ちしておりました」
「お久しぶりです、執事長、ハンナさん!! お世話になります」
すぐにリオのもとに来てくれたのが、執事長とメイド長であった。七年前と変わらず柔らかな笑みを浮かべてリオを迎えてくれた。ウォルター公とフレドリックの元にも侍従やメイドがついて、各々の部屋に引き上げることとなった。メイド長であるハンナと近況報告をしながら、リオはこの屋敷に来るといつも使わせてもらっていた二階の一番東の客室へと通された。
水回りを中心にリフォームされていたが、七年前とほぼ変わらないその部屋に安堵する。お茶をいただいた後は、今回からリオにつくこととなったメイドと侍従も控えの部屋に下がってくれてようやく一人きりになった。
「あ゙ー!!一人最高……!!」
きらめきが抑えに抑えられたお部屋の内装に、家具、その割にふっかふかのソファにベッド。きらめきはないが、この世界で最先端のバスとトイレ。勿論一番落ち着くのはカレッジ領の自室ではあるが、この部屋もそれなりに落ち着く。何よりウォルターズ公爵邸は領地のお屋敷もこちらのお屋敷もリオのことをよく理解して適度に放っておいてくれる。前回までは小さな子供だったから年配のハンナが面倒を見てくれていたが、今回は若手の四人をつけてくれたらしい。メイドと侍従が一人ずつの交代制だ。特にフレドリックよりちょっとだけ年上の侍従二人とはうまくやれそうだ。ハンナが色々と事前にレクチャーしていてくれたらしく、堅苦し過ぎない態度がちょうどよかった。
王宮でのメイドの一人は魂の迷い人仲間だったけれども、その人以外は王宮の使用人の中でも選びに選び抜かれた精鋭たちである。気が効き過ぎて、時々とても怖い。魂の迷い人仲間である当のメイドも前世で一流ホテル勤務だったらしく、ものすごい、いろんな意味ですごい。彼女が監修を始めてからうちの国の王宮の客殿の評判がうなぎ登りであるらしい。
そんなことをつらつらと考えていたら転寝をしてしまっていたらしい。いつの間にかソファに横になり、ブランケットがかけられていたし、なんだったら侍従のコリーに夕飯で起こされた。一応お世話になっている手前、朝食と夕食はこの家の家人ととることになっている。着替え終えてまもなく、フレドリックが迎えに来たので、若いながらコリーは仕事ができるんだなぁ、と認識を改めた。なるほど、将来の幹部候補なのだなと察した。
こうしてリオの王都休暇が始まったのであった。
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