贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第二部

フレドリックと新しい生活

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 フレドリックが侍従たちを伴ってリオと共にカレッジ領に戻った時にはすっかりとカレッジ領代行官屋敷の改装が済んでいた。


 リオは部屋の引っ越しがあるので、リオ付きの侍従二人とケイと共に送り出した。執務室に残ったのは部屋の主であるハント代行官とフレドリックと侍従のケネスである。


「すべて公爵から事前にご連絡いただいた指示通りに終わらせています」


「ああ、既に騎士団の詰め所も出来ていたんだな。随分と急いでもらったようだ」


「銃撃の時は色々捜査が領内に入りましたし、リオ様が二ヶ月も留守にしてましたしね。領民も随分と心配してたみたいで……。顔見世の意味も込めて侍従の皆さんとフレドリック様はリオ様に案内してもら
ってカレッジ領内を一度見て回ったほうがいいかもしれませんね」


 銃撃のあと、王都から大規模な調査団が入ったのだ。フレドリックとリオはウォルターズ領に移動してしまったので詳しくは知らないが、随分と町がざわめいていたらしい。しかも先日その事件の沙汰が出たが、よりにもよってヤーアク伯爵家がらみだったのも領民の怒りを倍増した。十年前のあの襲撃を、領民は忘れていないのだ。


「そうだな、そうしよう。前回は領内を見ることなくとんぼ返りになってしまった」


「リオ様の警備についてですが……」


「ああ、大丈夫。うちの侍従は侍従だけれどもその辺の騎士に勝てる程度には鍛錬しているから、コリーとミックのどちらかがついていれば基本問題ないだろう。念のためしばらくは私もリオと共に動くようにする。それなら騎士もついてくるし」


 ウォルターズ公爵家の使用人は他の貴族家に比べ少々独特なのだ。侍従長であるマイルズは侍従長だけでなく領主邸における家令や執事のような仕事もするし、何よりウォルターズ公爵家の侍従は個人の執事でもあり、更に護衛も兼ねている。


 今回の件を受けてリオの警護度を上げなければいけなくなってしまった。しかしリオに面と向かって護衛をつけるよう諭しても辞退されるだろう。そこでフレドリックが提案したのが、フレドリック自身がカレッジ領に入ることでリオの周りの人間を自然と増やす案だった。リオに教育を施すため、という名目をつければリオの周りにフレドリックが連れてきた侍従がいてもおかしくない。今回連れてきたコリーとミックは王都のウォルターズ邸において執事長お墨付きの期待の若手である。侍従としての本来の仕事だけでなく、警護の面でもだ。最終的にウォルターズ領の屋敷にいた二週間でさらに諸々を叩き込み、侍従長であるマイルズも及第点を出した。あとはケネスが実地で叩き込むことになっている。



「フレドリック様とリオ様を連れて歩く前に一度領内を確認したかったんですがね」


「それじゃあケイと一緒に一度見て回るといいですよ。今本当に余所者に警戒しているから屋敷の者と一緒に歩くのが無難かと」


「なるほど、そうさせてもらいます」


「私は知らないんだが、騎士団はそんなに大規模な捜査を?」


「ええ、王都直属の騎士団が三十人ほどで調査に来ました。現場検証から聞き込みまでまあみっちりと。領民もリオとウォルターズ家の若様が狙われたと憤慨していて、随分と調査に協力的だったと捜査責任者から教えてもらいました。調査に参加した王都の騎士も何人かこちらに先に赴任してきているはずです」


「うちに駐在している騎士だけじゃなくて王都組もいるのか」


「のんびりしているところで好評ですよ。私も知っている騎士がいましたが、食べ物がおいしいといろんな食堂を巡っているようです」


「へえ、楽しみ」


 ケネスはかしこまっている時以外は大変気安い男なので、きっとそのうち街をふらつくのだろう。そうして情報を得てくるのだからすごいとフレドリックは思っている。


「リオと街歩きするときはぜひ騎士団へも顔を出してください」


「わかったそうしよう」


「今後の予定としては――」



 そうしてその日は打ち合わせをして終わったのであった。




     ◇◇◇◇◇




「フレドリックは公爵家を継ぐんだよね?」


 フレドリックに書類の書き方を教えてもらいながら、リオがポツリと呟いた。既に聞いてはいたが、扱っている書類に違和感を持ったのだろう。


「そうだね。そういうことになったね」


「――なんかさ、カレッジ領の跡を継ぐような勉強をしている気がするんだけれど」


「うーん、なんて言ったらいいのかな。公爵家を継ぐ前に、おそらくこのカレッジ領代行官としてしばらくいることになると思うんだ。ハント代行官も近々中央に戻らないといけないだろうし。――あの人、事務方ですごく有能な人でね、今回そろそろ返してくれないかって突かれたんだよ、父が」


「そうなの!?」


「うん、当時領地系の取りまとめをしている部署の若手精鋭だったから、カレッジ領の件で派遣された」


「うん、そういわれればわかる……ケビンさんめっちゃ仕事できる」


「だろう?さすがに十年貸すとは思っていませんでしたってそこの部署の長から言われたんだって。だから俺は早急に仕事を覚えないといけない。――まあ、ケイが全てを知っているから最悪何とかなるけれど、それでもね。おそらくハント代行官も半年後には離任してしまうからね」


「そっか、寂しくなっちゃうな。せっかくフレドリックたちが来て賑やかになったのに」


 ハント代行官は戻って数年もすれば領地を管理する部署の長になる。実務を知っている人間は強いから期待されていた。本当は五年ほどで交代となる予定だったが、カレッジ領は特殊な事情があったので後任が見つからなかったのだ。今回フレドリックが名乗りを上げたことによってようやくハント代行官も中央に戻せることになった。本人は「えええ、フレドリック様が代行官になって私が代行官補佐でカレッジ領に残ってもいいんですけど~!!」と言っていたが、それは上が許さないだろう。ぜひ引退後はカレッジ領で隠居してほしいものである。


「ハント代行官が離任したら、公爵家からもう少し人員が補給されるだろう、父と母が選定に入っていた」


「公爵家から見たらこの屋敷じゃちょっと使用人足りてないか」


 ここのところの仕事内容の変化について満足のいく回答を得られたからか、リオは手元の書類に意識を戻した。フレドリックに教わった通り清書している。


 とにかくフレドリックはリオが成人するまでにこのカレッジ領を把握してリオを守る体制を整えなければならないのだ。リオに力をつけること、自分が盾となるように成長することを父であるウォルターズ公爵から言われている。


 窓の外に望む旧カレッジ領主邸は静かにこちらを見守っているように見えた。




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