30 / 44
第二部
フレドリックと新しい生活
しおりを挟むフレドリックが侍従たちを伴ってリオと共にカレッジ領に戻った時にはすっかりとカレッジ領代行官屋敷の改装が済んでいた。
リオは部屋の引っ越しがあるので、リオ付きの侍従二人とケイと共に送り出した。執務室に残ったのは部屋の主であるハント代行官とフレドリックと侍従のケネスである。
「すべて公爵から事前にご連絡いただいた指示通りに終わらせています」
「ああ、既に騎士団の詰め所も出来ていたんだな。随分と急いでもらったようだ」
「銃撃の時は色々捜査が領内に入りましたし、リオ様が二ヶ月も留守にしてましたしね。領民も随分と心配してたみたいで……。顔見世の意味も込めて侍従の皆さんとフレドリック様はリオ様に案内してもら
ってカレッジ領内を一度見て回ったほうがいいかもしれませんね」
銃撃のあと、王都から大規模な調査団が入ったのだ。フレドリックとリオはウォルターズ領に移動してしまったので詳しくは知らないが、随分と町がざわめいていたらしい。しかも先日その事件の沙汰が出たが、よりにもよってヤーアク伯爵家がらみだったのも領民の怒りを倍増した。十年前のあの襲撃を、領民は忘れていないのだ。
「そうだな、そうしよう。前回は領内を見ることなくとんぼ返りになってしまった」
「リオ様の警備についてですが……」
「ああ、大丈夫。うちの侍従は侍従だけれどもその辺の騎士に勝てる程度には鍛錬しているから、コリーとミックのどちらかがついていれば基本問題ないだろう。念のためしばらくは私もリオと共に動くようにする。それなら騎士もついてくるし」
ウォルターズ公爵家の使用人は他の貴族家に比べ少々独特なのだ。侍従長であるマイルズは侍従長だけでなく領主邸における家令や執事のような仕事もするし、何よりウォルターズ公爵家の侍従は個人の執事でもあり、更に護衛も兼ねている。
今回の件を受けてリオの警護度を上げなければいけなくなってしまった。しかしリオに面と向かって護衛をつけるよう諭しても辞退されるだろう。そこでフレドリックが提案したのが、フレドリック自身がカレッジ領に入ることでリオの周りの人間を自然と増やす案だった。リオに教育を施すため、という名目をつければリオの周りにフレドリックが連れてきた侍従がいてもおかしくない。今回連れてきたコリーとミックは王都のウォルターズ邸において執事長お墨付きの期待の若手である。侍従としての本来の仕事だけでなく、警護の面でもだ。最終的にウォルターズ領の屋敷にいた二週間でさらに諸々を叩き込み、侍従長であるマイルズも及第点を出した。あとはケネスが実地で叩き込むことになっている。
「フレドリック様とリオ様を連れて歩く前に一度領内を確認したかったんですがね」
「それじゃあケイと一緒に一度見て回るといいですよ。今本当に余所者に警戒しているから屋敷の者と一緒に歩くのが無難かと」
「なるほど、そうさせてもらいます」
「私は知らないんだが、騎士団はそんなに大規模な捜査を?」
「ええ、王都直属の騎士団が三十人ほどで調査に来ました。現場検証から聞き込みまでまあみっちりと。領民もリオとウォルターズ家の若様が狙われたと憤慨していて、随分と調査に協力的だったと捜査責任者から教えてもらいました。調査に参加した王都の騎士も何人かこちらに先に赴任してきているはずです」
「うちに駐在している騎士だけじゃなくて王都組もいるのか」
「のんびりしているところで好評ですよ。私も知っている騎士がいましたが、食べ物がおいしいといろんな食堂を巡っているようです」
「へえ、楽しみ」
ケネスはかしこまっている時以外は大変気安い男なので、きっとそのうち街をふらつくのだろう。そうして情報を得てくるのだからすごいとフレドリックは思っている。
「リオと街歩きするときはぜひ騎士団へも顔を出してください」
「わかったそうしよう」
「今後の予定としては――」
そうしてその日は打ち合わせをして終わったのであった。
◇◇◇◇◇
「フレドリックは公爵家を継ぐんだよね?」
フレドリックに書類の書き方を教えてもらいながら、リオがポツリと呟いた。既に聞いてはいたが、扱っている書類に違和感を持ったのだろう。
「そうだね。そういうことになったね」
「――なんかさ、カレッジ領の跡を継ぐような勉強をしている気がするんだけれど」
「うーん、なんて言ったらいいのかな。公爵家を継ぐ前に、おそらくこのカレッジ領代行官としてしばらくいることになると思うんだ。ハント代行官も近々中央に戻らないといけないだろうし。――あの人、事務方ですごく有能な人でね、今回そろそろ返してくれないかって突かれたんだよ、父が」
「そうなの!?」
「うん、当時領地系の取りまとめをしている部署の若手精鋭だったから、カレッジ領の件で派遣された」
「うん、そういわれればわかる……ケビンさんめっちゃ仕事できる」
「だろう?さすがに十年貸すとは思っていませんでしたってそこの部署の長から言われたんだって。だから俺は早急に仕事を覚えないといけない。――まあ、ケイが全てを知っているから最悪何とかなるけれど、それでもね。おそらくハント代行官も半年後には離任してしまうからね」
「そっか、寂しくなっちゃうな。せっかくフレドリックたちが来て賑やかになったのに」
ハント代行官は戻って数年もすれば領地を管理する部署の長になる。実務を知っている人間は強いから期待されていた。本当は五年ほどで交代となる予定だったが、カレッジ領は特殊な事情があったので後任が見つからなかったのだ。今回フレドリックが名乗りを上げたことによってようやくハント代行官も中央に戻せることになった。本人は「えええ、フレドリック様が代行官になって私が代行官補佐でカレッジ領に残ってもいいんですけど~!!」と言っていたが、それは上が許さないだろう。ぜひ引退後はカレッジ領で隠居してほしいものである。
「ハント代行官が離任したら、公爵家からもう少し人員が補給されるだろう、父と母が選定に入っていた」
「公爵家から見たらこの屋敷じゃちょっと使用人足りてないか」
ここのところの仕事内容の変化について満足のいく回答を得られたからか、リオは手元の書類に意識を戻した。フレドリックに教わった通り清書している。
とにかくフレドリックはリオが成人するまでにこのカレッジ領を把握してリオを守る体制を整えなければならないのだ。リオに力をつけること、自分が盾となるように成長することを父であるウォルターズ公爵から言われている。
窓の外に望む旧カレッジ領主邸は静かにこちらを見守っているように見えた。
184
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜
侑
BL
僕は辺境伯家の嫡男レオン・グレイスフィールド。
婚約者・隣国カリスト王国の辺境伯家、リリアナの社交界デビューに付き添うため、隣国の王都に足を踏み入れた。
しかし、王家の祝賀の列に並んだその瞬間、僕の運命は思わぬ方向へ。
王族として番に敏感な王太子が、僕を一目で見抜き、容赦なく迫ってくる。
転生者で、元女子大生の僕にはまだ理解できない感覚。
リリアナの隣にいるはずなのに、僕は気づけば王太子殿下に手を握られて……
婚約者の目の前で、運命の番に奪われる夜。
仕事の関係上、あまり創作活動ができず、1話1話が短くなっています。
2日に1話ぐらいのペースで更新できたらいいなと思っています。
公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します
市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。
四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。
だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。
自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。
※性描写あり。他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる