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俺の彼氏は甘々です
しおりを挟む年が明けるまで、あと少し。
俺の部屋で、ふたり並んでこたつに潜り込み、テレビをぼんやり眺めていた。気づけば、瑛斗の肩がぴとっと寄り添ってきていた。
「なぁ、もうちょい、こっち来て」
そう言いながら、こたつの中で俺の足を探し、さりげなくくっついてくる。わざとらしいくらい甘えてくる瑛斗に、思わず笑ってしまう。
「そんなにくっついたら暑いだろ?」
「いいんだよ。蒼の近くにいたいから」
そう言って、ズルズルと体を滑らせてきたかと思えば、いつの間にか俺の腰に腕を回して抱きついてきた。
付き合い始めたあのクリスマスの日から、瑛斗はずっとこんな調子だ。とにかくベッタリで、ひとつひとつの仕草が、「俺たち、恋人なんだ」と実感させてくる。
俺は、膝の上にある瑛斗の頭に手を伸ばして、軽く撫でた。
「ん......」
嬉しそうに喉を鳴らして、瑛斗がグリグリと俺の腹に頭を押しつけてくる。その姿はまるで、懐いた大型犬みたいだ。
たぶん――いや、きっと。
こんな瑛斗の顔を知ってるのは、世界中で俺だけだ。
そんな小さな優越感が、胸の奥でじんわりとあたたかく広がった。
そのまま、こたつの中で瑛斗の髪を撫でていたら、下から大きな声が響いた。
「お兄ちゃーん、みかんいるー?」
妹の茜の声が階下から響いた瞬間、俺はビクッと体をこわばらせた。
「ちょ、待っ......!」
階段を駆け上がってくる足音が聞こえる。俺は慌てて瑛斗を押しのけようとするが、瑛斗はこたつの中で俺の足に絡みついたまま動こうとしない。
「瑛斗、離れろ!」
「やだ......」
「いや、今はそういうのいいから......っ!」
ドアの向こうでは、茜が何も気づかずに足音を立ててこっちに近づいてくる。
ドアのすぐ外から、妹の無邪気な声が続く。
「おばあちゃんが送ってくれたみかん、めっちゃ甘くてさ~!」
ガチャッと、ノックもせずに勢いよくドアが開いた。
なんとか体勢を立て直していた俺たちは、不自然さギリギリの距離感でテレビを見ている風を装う。俺は顔の火照りをごまかすように、画面を凝視した。
「はいこれ、みかん。瑛斗くんも食べていいからね!」
茜はみかんを差し出しながら、目をキラキラさせて瑛斗ににじり寄る。
「ありがとね、茜ちゃん」
「ほんとに瑛斗くんはかっこいいな~。お兄ちゃんとは大違い!」
「お前なぁ......」
「茜ちゃんも蒼に似てて可愛いよ」
「えっ、それって褒めてる?」
茜はほっぺをぷくっと膨らませて、わざとらしく拗ねたふり。だけどその目が、いたずらっぽくニヤニヤし始めた。
――なんか嫌な予感。
「ねぇ瑛斗くん、お兄ちゃんに彼女できたの知ってる?」
「......は?」
思わずそんな声が漏れ出た。瑛斗も動きを止める。ぽかんとした顔で、俺の方を見てくる。
「最近さ、ずっと携帯見つめてニヤニヤしてんの!元気ないと思ったら、いきなり機嫌よくなったし。ぜっっったい彼女でしょ!か・の・じょ!」
「ちょ、おまっ、何言ってんだよ!?」
「へぇ~蒼、そうだったんだ~?」
瑛斗がニヤッと笑う。その目が明らかに企んでる顔だとわかって、俺は真っ赤になった顔を誤魔化すために叫んだ。
「ちょっ、茜!もういいから出てけ!」
「えー?なんでー?せっかくみかん持ってきてあげたのに~」
「それはありがとう!でも、俺たち今からゲームするから!」
なんとか追い払おうと必死に言い訳する俺の横で、瑛斗は面白がるように小さく笑っている。
「そんな隠したいならあの、緩んだ顔どうにかしなよー」
茜はそう一言おいて出ていった。
「蒼、ずっと携帯見ながらニヤニヤしてたんだぁ。俺の前ではしてくんないのに」
茜が去ったあと、こたつに戻るなり瑛斗が意地悪そうに笑ってそんなことを言ってくる。
「......今のは忘れろ」
顔が熱くなるのをごまかしながら言い捨てると、後ろからふわりと腕が回された。
「はぁ、まじ可愛すぎる」
低い声が耳元で囁かれる。
瑛斗が俺の背中にぴったりくっついて、あたたかい腕でぎゅっと抱きしめてきた。
「携帯じゃなくて、呼んでくれたらいつでも行くよ?」
「じゃあ......次からはそうする」
そう言いながらも、俺はその腕を自分の上にそっと重ねる。
心臓がどくどくとうるさい。でも、不思議と嫌じゃない。
テレビから流れる年末特番の笑い声が遠くに感じるくらい、俺の意識はすぐそばの瑛斗ばかり向いていた。
テレビ画面の端に映る時計が、23時30分を示していた。
「年越し、もうすぐだな」
俺の肩に顎を置きながら、瑛斗がぼそっと呟く。ゆるんだ表情で俺の方を見る。
「明日、七時集合だよな。初詣」
「うん。......俺、起きられるかな」
「俺が起こしてやるよ」
瑛斗が剥き終わったみかんを俺の口元に運ぶ。
「ん、これうまい」
これ完全に彼女枠だな。なんて思いながら俺は尋ねた。
「.......なぁ。俺たちのこと、あいつらに話すか?」
「俺はどっちでもいいよ。蒼は、どうしたい?」
俺は少しだけ考えて、こたつの中で瑛斗の手を握った。
「......話したい」
そう言った瞬間、瑛斗の顔がふっと明るくなった。
「そっか」
それだけ言って、瑛斗は俺の手を優しく握り返す。
こたつの中、あたたかい手と手が静かに重なり合う。
あと30分で、年が明ける。
瑛斗がふいにこたつから抜け出して、俺の部屋のベッドに腰をかけた。
「ん」
短く声を漏らして、両腕を広げる。
......なにその仕草。甘えたいのはお前じゃないのかよ。
思わず笑いそうになるのをこらえて立ち上がり、その腕の中にすっぽり収まるようにして、瑛斗の膝に向かい合って座った。
背中を抱きしめられて、そのままぐいっと引き寄せられる。
瑛斗が俺の胸に顔を埋めた。
「......ちょっ」
思わず声が出る。近すぎる。距離感とかじゃなくて、いろんな意味で近すぎる。
顔がどんどん熱くなるのが、自分でもわかった。
「蒼、顔赤いよ?」
瑛斗のくぐもった声が胸元から響いてくる。
「......だって、これ、普通に恥ずかしいだろ」
「じゃあさ」
瑛斗が顔を少し上げて、俺を見上げた。
「慣れないとな。毎日するから」
俺は照れ隠しに、話を変えた。
「瑛斗がこんなに甘えるなんて思わなかった」
俺がそう呟くと、瑛斗は少しだけ体を起こして、俺の目をまっすぐ見つめてきた。
「それはそうだろ?......ずっと我慢してたんだから」
まっすぐで、まるで責めるみたいでも、寂しそうでもないその声に、俺の胸がちくりとした。
「瑛斗って、俺のこと......いつから好きだったんだ?」
少しの間が空いて、瑛斗はふっと笑った。
「俺もわかんない。明確な日はないけど......中学上がる頃には、もう好きだったと思う」
その言葉が、やけにまっすぐで、冗談みたいな照れもなくて。思わず「......マジか」と声が漏れた。
「お前って、一途すぎ」
俺がぽつりとこぼすと、瑛斗はふにゃっと笑って、額を俺の肩にこすりつけた。
「蒼が初恋でこれで最後。だから逃がさないよ」
その一言に、思わずドキッとして、返す言葉を失った。気づけば、鼓動がさっきよりも早くなっていた。
「......逃がさないって、お前なぁ」
恥ずかしさを紛らわせるように言い返してみたけど、腕の中の瑛斗はふわっと笑っただけで、ますますぎゅっと抱きしめてくる。
「だってさ、やっとこうして抱きしめられるようになったのに。今さら手、放せないだろ?」
「......俺だって、離さないから」
俺も小さく返事をして、瑛斗の背中にそっと手を回す。
昔からずっと一緒にいて、当たり前のようにそばにいたはずなのに、こんなにも近く感じるのは、きっと「恋人」になったからなんだろう。
静かに、部屋のテレビから年末特番の笑い声が流れてくる。
でも、それよりも、俺の心に残るのは、すぐ耳元で響く瑛斗の呼吸と、ゆっくり上下する胸の動き。
「なぁ......」
「ん?」
「蒼が俺のこと好きになってくれて、本当に嬉しい」
ぽつりと呟かれたその言葉に、俺は一瞬、胸が詰まって何も言えなかった。
気づけば自然と、瑛斗の背中をそっと撫でていた。
「......俺も、好きだよ。そう思ってるのお前だけじゃないからな」
そう言うと、瑛斗は黙って俺に顔を埋めたまま、ゆっくりと頷いた。
「.....﹣瑛斗」
俺がそっと名前を呼ぶと、瑛斗がふわっと笑って、顔を近づけてくる。
その仕草があまりにも優しくて、ドキドキする。
「キス、していい?」
そんなの、答えるまでもなかった。俺は返事の代わりに、目を閉じる。瑛斗がそっと手を伸ばして、俺の頬に触れる。ゆっくりと唇が重なった。
今まで何度かしてきたはずなのに、今回は――まるで別物だった。
あたたかくて、甘くて、瑛斗が俺を大切そうに抱き寄せる。
「んっ......」
舌がゆっくり絡んで、くちゅ、と甘い音が立つ。まだ慣れない俺は息をするのも忘れて、ただお互いの熱に夢中になっていく。
心が満たされていくのがわかる。
唇が何度もやさしく吸われ、少しずつ深くなる。舌先が触れた瞬間、びくんと肩が揺れた。くすぐったくて、気持ちよくて、自然と口が開いてしまう。
指先が頬から耳の後ろへ、やわらかく撫でられて――
「......蒼、気持ちいい?」
聞かれるのが恥ずかしくて、でも否定なんてできなくて、俺はそっと首を縦に振った。
「ほんとかわい......」
甘く囁かれて、また唇が塞がれる。今度はちょっとだけ強引で、でも優しくて、愛しさがあふれていた。
気づいたら、俺の腕は無意識のまま、瑛斗の背中にまわっていて――
ぎゅ、とそっと引き寄せるように、指が服をつかむ。
「瑛斗......好き」
ぼそっと漏れたその一言に、瑛斗の動きが止まる。
「......もう1回言って」
「......好き」
唇が離れても、瑛斗の温もりは消えなかった。ゆっくりと蒼の首筋へと降りていく唇に、思わず息が止まる。
「んっ......首くすぐったい」
軽く、柔らかく、首にキスを重ねるたび、身体が自然と震える。そのひとつひとつが甘くて、まるで心まで溶かされてしまいそうだった。
次は耳の後ろ、そして鎖骨。
瑛斗の手がそっと俺の背中を撫でながら、丁寧に触れていく。
「蒼、好き。大好きだよ」
低く囁かれて、蒼は顔を上げて見つめる。
その瞳が、まっすぐに愛を伝えてきて、胸がいっぱいになる。
「俺も、瑛斗が大好きだ」
声が震えても構わない。
この幸せを、言葉にして伝えたかった。
ふたりで見つめ合って、また笑って、またキスする。
気づけば、あと10分で年が明ける。
来年も、再来年も、ずっとこのままでいられたらいいな――そんな願いが、心の中でふわりと灯った。
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