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第一章 君に好きだと言えなかった日
第二話
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――おれ、サツキのこと好きだ。
新学期恒例となる初回のホームルームで、新しい担任の先生が自己紹介やら今後のスケジュールやらを話している最中、私はぼんやりと昔のことを思い出していた。
遼くんとは、小学校一年生の時に意気投合して仲良くなった。隣のクラスだった遼くんと、学校終わりに近くの公園でブランコや鉄棒をして遊んだり、時にはベンチに並んで座って二人とも好きだった児童文庫を読んで感想を言い合ったりしていた。ほかにも、二人で練習して乗れるようになった自転車で少し遠出したり、隣町にあった高台の芝生で日向ぼっこをしたり、図書館でお互いに好きそうな本を選んで読み合ったり、どちらかの家でテレビゲームをしたりと、とにかく私たちはいつも一緒だった。
そうして仲良くなってから二年後の小三の終わり頃に、彼は私に「好きだ」と言ってくれた。
まだ言葉に何の責任も持たない、幼子の告白ではあった。けれどそれは、私が今もお守りみたいに大事にしてきた言葉だった。
――わたしも、リョウくんのこと大好きだよ。
遼くんがくれた言葉に、その時の私も最大限の素直さでそう返した。
指切りをした。彼は、大人になったら私をお嫁さんにしてくれると言った。
桜が舞っていた。花吹雪が乱れ降る歩道で、私たちは向き合っていた。
青空の下で、これからもずっと仲良しでいようねと約束した。
その約束通り、それからも私たちはずっと仲良くしていた。小学校高学年になっても、中学に上がってからも、私たちは腐れ縁のごとく一緒にいた。
登下校をともにして、お互いの家や図書館で勉強して、近くのショッピングモールへ買い物をしに行った。
喧嘩なんて、ただの一度もしなかった。
あえて何か、心のしこりみたいなのを挙げるとするならば、あの小三の時の告白はどこまで本気だったのかとか、今は私のことをどう思っているのかとか、そんな淡い青春にありがちな悩みくらいのものだった。どこかではっきりさせないとな、なんて思いつつも、今の心地良い関係を壊したくなくて、距離は近くも付かず離れずの関係を楽しんでいた。
――悪い、彩月。実は俺、来週引っ越すんだ。
そんな充実した日々が突然終わりを告げたのは、桜がまだ咲き始める前の三月のことだった。中学二年生への進級を目前にして、遼くんは下校途中にいきなりそう言ってきた。
当然、私は狼狽えた。
どうしてもっと早く言ってくれなかったの。遼くんと離れたくない。そんなわがままや不満を散々に言った気がする。今にして思えば、あれが最初で最後の喧嘩みたいなものだった。
その時の遼くんは既に整理がついていたのかいやに大人で、寂しくなるから言えなかっただとか、また電話とかSNSで連絡するからだとか、私を安心させることをたくさん言ってくれた。だから私も、遼くんが引っ越す当日には涙を流しつつも、心はどうにか落ち着けていられた。それに、遼くんの家は父子家庭だったこともあり、遼くんのお父さんの転勤に伴って引っ越すのはどうしようもなかった。
そうして、彼は私の日常からいなくなった。
最初はあれこれと頻繁に連絡を取り合っていたものの、お約束というべきかテストやらイベント事やらで忙しくなった時を境に次第にその頻度は少なくなっていき、やがて自然消滅してしまった。時おり変わる彼のアイコンを眺めるばかりの状態になり、結局私は遼くんの気持ちを確かめなかったことを後悔したまま中学を卒業し、そして高校生になった。
高校一年生は、何事もなく過ぎた。私の通う高校は一学年四百人程度とそこそこに大きく、人並みの社交性や知名度しかない私は数人のクラスの友達とグループを作ってそれなりに楽しい毎日を過ごしていた。だから、私が高校内で遼くんを見かけることはなかった。
いや、というか、そもそも想像すらしていなかった。
遼くんがかつて話してくれた引っ越し先は遥か遠くにある都会で、彼が私と同じ高校に進学していることなんて考えもしていなかった。私の中では、遼くんは今も遠く離れた場所で、私の知らない生活を楽しんでいる……はずだった。
「……どうして」
右斜め前の席に座り、真面目に先生の話を聞いている幼馴染に目を向ける。よりにもよって出席番号順に並ぶ前期の前半は、私と遼くんの席はどうしても近くなる。もしグループ活動なんかで一緒になれば、気まずいことこの上ない。
なにより、このまま疎遠になるというのはどうしても納得がいかなかった。
遼くんが冷たく当たってくる真意を、私は知りたい。
また昔のように、遼くんの気持ちを確かめないで後悔することだけはしたくなかった。
けれど、怖い。
先ほど生徒玄関前で見せられた反応は、まさに見知らぬ赤の他人に向けるような冷たいものだった。
もしまたあの目で見られたら、もしまたあの声で突き放されたら。そんなことを思うと、心の奥底にどんよりと重く苦しいもやが立ち込める。
「はあ……」
私は、どうしたらいいんだろうか。
こっそりとため息を吐き出したところで、教室内にチャイムが鳴り響いた。
新学期恒例となる初回のホームルームで、新しい担任の先生が自己紹介やら今後のスケジュールやらを話している最中、私はぼんやりと昔のことを思い出していた。
遼くんとは、小学校一年生の時に意気投合して仲良くなった。隣のクラスだった遼くんと、学校終わりに近くの公園でブランコや鉄棒をして遊んだり、時にはベンチに並んで座って二人とも好きだった児童文庫を読んで感想を言い合ったりしていた。ほかにも、二人で練習して乗れるようになった自転車で少し遠出したり、隣町にあった高台の芝生で日向ぼっこをしたり、図書館でお互いに好きそうな本を選んで読み合ったり、どちらかの家でテレビゲームをしたりと、とにかく私たちはいつも一緒だった。
そうして仲良くなってから二年後の小三の終わり頃に、彼は私に「好きだ」と言ってくれた。
まだ言葉に何の責任も持たない、幼子の告白ではあった。けれどそれは、私が今もお守りみたいに大事にしてきた言葉だった。
――わたしも、リョウくんのこと大好きだよ。
遼くんがくれた言葉に、その時の私も最大限の素直さでそう返した。
指切りをした。彼は、大人になったら私をお嫁さんにしてくれると言った。
桜が舞っていた。花吹雪が乱れ降る歩道で、私たちは向き合っていた。
青空の下で、これからもずっと仲良しでいようねと約束した。
その約束通り、それからも私たちはずっと仲良くしていた。小学校高学年になっても、中学に上がってからも、私たちは腐れ縁のごとく一緒にいた。
登下校をともにして、お互いの家や図書館で勉強して、近くのショッピングモールへ買い物をしに行った。
喧嘩なんて、ただの一度もしなかった。
あえて何か、心のしこりみたいなのを挙げるとするならば、あの小三の時の告白はどこまで本気だったのかとか、今は私のことをどう思っているのかとか、そんな淡い青春にありがちな悩みくらいのものだった。どこかではっきりさせないとな、なんて思いつつも、今の心地良い関係を壊したくなくて、距離は近くも付かず離れずの関係を楽しんでいた。
――悪い、彩月。実は俺、来週引っ越すんだ。
そんな充実した日々が突然終わりを告げたのは、桜がまだ咲き始める前の三月のことだった。中学二年生への進級を目前にして、遼くんは下校途中にいきなりそう言ってきた。
当然、私は狼狽えた。
どうしてもっと早く言ってくれなかったの。遼くんと離れたくない。そんなわがままや不満を散々に言った気がする。今にして思えば、あれが最初で最後の喧嘩みたいなものだった。
その時の遼くんは既に整理がついていたのかいやに大人で、寂しくなるから言えなかっただとか、また電話とかSNSで連絡するからだとか、私を安心させることをたくさん言ってくれた。だから私も、遼くんが引っ越す当日には涙を流しつつも、心はどうにか落ち着けていられた。それに、遼くんの家は父子家庭だったこともあり、遼くんのお父さんの転勤に伴って引っ越すのはどうしようもなかった。
そうして、彼は私の日常からいなくなった。
最初はあれこれと頻繁に連絡を取り合っていたものの、お約束というべきかテストやらイベント事やらで忙しくなった時を境に次第にその頻度は少なくなっていき、やがて自然消滅してしまった。時おり変わる彼のアイコンを眺めるばかりの状態になり、結局私は遼くんの気持ちを確かめなかったことを後悔したまま中学を卒業し、そして高校生になった。
高校一年生は、何事もなく過ぎた。私の通う高校は一学年四百人程度とそこそこに大きく、人並みの社交性や知名度しかない私は数人のクラスの友達とグループを作ってそれなりに楽しい毎日を過ごしていた。だから、私が高校内で遼くんを見かけることはなかった。
いや、というか、そもそも想像すらしていなかった。
遼くんがかつて話してくれた引っ越し先は遥か遠くにある都会で、彼が私と同じ高校に進学していることなんて考えもしていなかった。私の中では、遼くんは今も遠く離れた場所で、私の知らない生活を楽しんでいる……はずだった。
「……どうして」
右斜め前の席に座り、真面目に先生の話を聞いている幼馴染に目を向ける。よりにもよって出席番号順に並ぶ前期の前半は、私と遼くんの席はどうしても近くなる。もしグループ活動なんかで一緒になれば、気まずいことこの上ない。
なにより、このまま疎遠になるというのはどうしても納得がいかなかった。
遼くんが冷たく当たってくる真意を、私は知りたい。
また昔のように、遼くんの気持ちを確かめないで後悔することだけはしたくなかった。
けれど、怖い。
先ほど生徒玄関前で見せられた反応は、まさに見知らぬ赤の他人に向けるような冷たいものだった。
もしまたあの目で見られたら、もしまたあの声で突き放されたら。そんなことを思うと、心の奥底にどんよりと重く苦しいもやが立ち込める。
「はあ……」
私は、どうしたらいいんだろうか。
こっそりとため息を吐き出したところで、教室内にチャイムが鳴り響いた。
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