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第3章
第61話:無力感
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ヨハンが去った後の部屋は、静寂が耳に痛いほどで、いつになく底冷えがして感じられた。 彼が、領主としての責に負われ、あんなにもボロボロになりながら、それでも剣を取って地獄のような戦場へ赴かなければならない。その冷酷な事実は、巨大な石のように僕の細い胸を圧迫し、呼吸をすることさえ困難にさせている。
「……何か、方法はないのかな。僕にできることが、もっと他にあるはずなのに。ただここで、彼の帰りを祈って待つことしか許されないの?」
窓の冷たい石枠に額を押し付け、夜の帳を見下ろすと、視界の先で街の灯りが頼りなく、小さく揺れているのが見えた。あそこには、ヨハンがその命を懸けて、誇りを懸けて守ろうとしている何千、何万という人たちが、平穏な眠りについている。
今の僕にできることといえば、月に一度、己の魂を削り取られるような思いをして、一つの魔石を産み落とすのが精一杯だ。けれど、そんな掌に収まる程度の小さな石ころ一つで、黒い波となって押し寄せる魔物の群れを、永遠に止められるわけがないのだ。
僕が、かつての「彼」のように強ければ。 あるいは、この塔に囚われている「大罪人」としての価値が、魔力を搾り取られる資源としてではなく、もっと別の、彼を直接助けられる形であれば。
「このままじゃ……ヨハンが、本当に死んじゃうかもしれない……っ」
その言葉を口にした瞬間、心臓を直接氷で撫でられたように指先が凍りついた。 彼がいなくなる世界なんて、色彩を失った灰色の地獄と同じだ。僕に人間としての温もりを教えてくれた、あの厚く逞しい掌が、誰にも看取られぬ戦場で泥にまみれ、冷たくなってしまうなんて、そんなこと、あっていいはずがない。
僕は半ば取り憑かれたような心持ちで、本物のレリルが遺した埃を被った小難しい魔導書を、指先を血に滲ませるような勢いで片っ端から捲り散らした。けれど、書かれているのは高度で複雑な呪法ばかりで、魔力を吸い尽くされ、衰えた今の僕の体で使える魔法なんて、どこを探しても見つからなかった。
僕の異変を察したレイブンが、取り乱した僕を落ち着かせるように、心配そうな鳴き声を上げて何度も周囲を旋回する。
「大丈夫だよ、レイブン。……大丈夫…。」
自分に言い聞かせる声は、情けないほどに震え、涙に濡れていた。 神様、もしあなたがこの世界のどこかで、僕のこの無様な姿を見ているのなら教えてほしい。僕のような、別の世界から迷い込んだ余所者が、この理不尽な世界でたった一人、僕を一人の人間として温かく接してくれた大切な人を救う方法は、本当に、本当にどこにも残されていないのだろうか。
「……何か、方法はないのかな。僕にできることが、もっと他にあるはずなのに。ただここで、彼の帰りを祈って待つことしか許されないの?」
窓の冷たい石枠に額を押し付け、夜の帳を見下ろすと、視界の先で街の灯りが頼りなく、小さく揺れているのが見えた。あそこには、ヨハンがその命を懸けて、誇りを懸けて守ろうとしている何千、何万という人たちが、平穏な眠りについている。
今の僕にできることといえば、月に一度、己の魂を削り取られるような思いをして、一つの魔石を産み落とすのが精一杯だ。けれど、そんな掌に収まる程度の小さな石ころ一つで、黒い波となって押し寄せる魔物の群れを、永遠に止められるわけがないのだ。
僕が、かつての「彼」のように強ければ。 あるいは、この塔に囚われている「大罪人」としての価値が、魔力を搾り取られる資源としてではなく、もっと別の、彼を直接助けられる形であれば。
「このままじゃ……ヨハンが、本当に死んじゃうかもしれない……っ」
その言葉を口にした瞬間、心臓を直接氷で撫でられたように指先が凍りついた。 彼がいなくなる世界なんて、色彩を失った灰色の地獄と同じだ。僕に人間としての温もりを教えてくれた、あの厚く逞しい掌が、誰にも看取られぬ戦場で泥にまみれ、冷たくなってしまうなんて、そんなこと、あっていいはずがない。
僕は半ば取り憑かれたような心持ちで、本物のレリルが遺した埃を被った小難しい魔導書を、指先を血に滲ませるような勢いで片っ端から捲り散らした。けれど、書かれているのは高度で複雑な呪法ばかりで、魔力を吸い尽くされ、衰えた今の僕の体で使える魔法なんて、どこを探しても見つからなかった。
僕の異変を察したレイブンが、取り乱した僕を落ち着かせるように、心配そうな鳴き声を上げて何度も周囲を旋回する。
「大丈夫だよ、レイブン。……大丈夫…。」
自分に言い聞かせる声は、情けないほどに震え、涙に濡れていた。 神様、もしあなたがこの世界のどこかで、僕のこの無様な姿を見ているのなら教えてほしい。僕のような、別の世界から迷い込んだ余所者が、この理不尽な世界でたった一人、僕を一人の人間として温かく接してくれた大切な人を救う方法は、本当に、本当にどこにも残されていないのだろうか。
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