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第3章
第63話:拒絶
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翌朝、重厚な扉が軋む音を立てて開いた瞬間、僕は彼を迎え入れるために、いつものソファではなく部屋の真ん中に凛として立ち上がった。 入ってきたヨハンの顔は、今日も削り取られるような疲弊に満ちていた。その痛々しい姿を網膜に焼き付けるたび、僕の中に芽生えた「自己犠牲」という名の決意は、鋼のように強固なものへと鍛え上げられていく。
「……ヨハン」
初めて、敬称を捨てて彼の名を呼び捨てにした。 ヨハンは弾かれたように目を見開き、歩みを止めた。突然の無礼に激昂されることも覚悟していたけれど、彼はただ、信じられないものを見るように僕を見つめている。その困惑を含んだ穏やかな眼差しに、胸の奥が張り裂けそうなほど締め付けられる。
「どうした、レリル……? 呼び捨てにするなんて、珍しいこともあるものだな。何か、俺に言いたいことでもあるのか」
「……僕、見つけたんだ。この領地を、そして何より貴方を救う方法を」
精一杯の勇気を喉の奥から振り絞って告げると、ヨハンは不機嫌そうに眉をひそめた。 「どういうことだ。それは専門の魔導師たちが頭を抱えている問題だ。そんな簡単な話ではないと言ったはずだ。魔物の群れは刻一刻と、街の防壁を……」
「簡単なことだよ、ヨハン。……僕が、魔石化すればいいんだ」
僕が静かにその禁忌を告げた瞬間、ヨハンの顔から一切の感情が、色が、まるで魔法で消されたかのように失われた。そして次の瞬間、みるみるうちにその表情は険しく、これまで見たこともないような恐ろしいほどの「怒り」と「絶望」に塗り替えられていった。
「………………ダメだ。絶対に、認めない」
低く、けれど地を這うような重苦しい拒絶が、部屋の空気を凍てつかせる。
「……っ! なんで!? 僕だって、貴方が命懸けで守ろうとしているこの領地を守りたいんだ! ヨハンが血を流して戦場に行き、二度と戻ってこないかもしれないなんて、僕は耐えられない。だから……!」
「絶対に、ダメだと言っている!!!!」
塔の石壁がビリビリと震えるほどの、魂の底からの咆哮だった。 ヨハンは僕の細い肩を壊れんばかりの力で掴み、射抜くような鋭い視線で僕を睨みつけた。その強靭な手は、怒りなのか恐怖なのか、見たこともないほど微かに、けれど激しく震えている。
「貴殿は……自分が今、何を口にしたのか、その本当の意味が分かっているのか!? 自分の命を、心を、温かなその血を、冷たい石の中に閉じ込めて、ただの意志なき道具になれと言うのか。そんな血塗られた救いを、この俺が受け取るとでも本気で思ったのか!」
「でも、これしか……これしか、貴方を救う道は残されていないんだ……っ!」
「二度とその言葉を口にするな! 俺は貴殿を死なせるために、この塔へ訪れていたのではない! 俺の目の届く場所で、貴殿にただ穏やかに生きてもらいたいと願ってここに来ているんだ!」
それから、僕がどれほど涙ながらに説得しようとしても、ヨハンは頑なに首を縦には振らなかった。話し合いにすらならない。 彼は最後には、僕の顔を直視することすら苦痛であるかのように拒んで背を向け、まるで喧嘩別れのような、最悪の後味を残したまま塔を去っていった。
「…………ずるいよ、ヨハン」
バタン、と重い扉が閉まり、錠が下りる非情な音が響き渡る。
「僕は、この塔から出ることすら許されないんだ。……貴方がこうして出ていってしまったら、僕は追いかけることすら、謝ることさえできないのに……」
冷え切った部屋に、僕の震える独白だけが虚しく反響した。 自分の存在のすべてを投げ打とうとしても、それを受け取ってもらえない。 救いたいと願う相手に、救う権利さえも剥奪されたような、底知れない無力感と孤独に、僕は真っ逆さまに突き落とされていた。
「……ヨハン」
初めて、敬称を捨てて彼の名を呼び捨てにした。 ヨハンは弾かれたように目を見開き、歩みを止めた。突然の無礼に激昂されることも覚悟していたけれど、彼はただ、信じられないものを見るように僕を見つめている。その困惑を含んだ穏やかな眼差しに、胸の奥が張り裂けそうなほど締め付けられる。
「どうした、レリル……? 呼び捨てにするなんて、珍しいこともあるものだな。何か、俺に言いたいことでもあるのか」
「……僕、見つけたんだ。この領地を、そして何より貴方を救う方法を」
精一杯の勇気を喉の奥から振り絞って告げると、ヨハンは不機嫌そうに眉をひそめた。 「どういうことだ。それは専門の魔導師たちが頭を抱えている問題だ。そんな簡単な話ではないと言ったはずだ。魔物の群れは刻一刻と、街の防壁を……」
「簡単なことだよ、ヨハン。……僕が、魔石化すればいいんだ」
僕が静かにその禁忌を告げた瞬間、ヨハンの顔から一切の感情が、色が、まるで魔法で消されたかのように失われた。そして次の瞬間、みるみるうちにその表情は険しく、これまで見たこともないような恐ろしいほどの「怒り」と「絶望」に塗り替えられていった。
「………………ダメだ。絶対に、認めない」
低く、けれど地を這うような重苦しい拒絶が、部屋の空気を凍てつかせる。
「……っ! なんで!? 僕だって、貴方が命懸けで守ろうとしているこの領地を守りたいんだ! ヨハンが血を流して戦場に行き、二度と戻ってこないかもしれないなんて、僕は耐えられない。だから……!」
「絶対に、ダメだと言っている!!!!」
塔の石壁がビリビリと震えるほどの、魂の底からの咆哮だった。 ヨハンは僕の細い肩を壊れんばかりの力で掴み、射抜くような鋭い視線で僕を睨みつけた。その強靭な手は、怒りなのか恐怖なのか、見たこともないほど微かに、けれど激しく震えている。
「貴殿は……自分が今、何を口にしたのか、その本当の意味が分かっているのか!? 自分の命を、心を、温かなその血を、冷たい石の中に閉じ込めて、ただの意志なき道具になれと言うのか。そんな血塗られた救いを、この俺が受け取るとでも本気で思ったのか!」
「でも、これしか……これしか、貴方を救う道は残されていないんだ……っ!」
「二度とその言葉を口にするな! 俺は貴殿を死なせるために、この塔へ訪れていたのではない! 俺の目の届く場所で、貴殿にただ穏やかに生きてもらいたいと願ってここに来ているんだ!」
それから、僕がどれほど涙ながらに説得しようとしても、ヨハンは頑なに首を縦には振らなかった。話し合いにすらならない。 彼は最後には、僕の顔を直視することすら苦痛であるかのように拒んで背を向け、まるで喧嘩別れのような、最悪の後味を残したまま塔を去っていった。
「…………ずるいよ、ヨハン」
バタン、と重い扉が閉まり、錠が下りる非情な音が響き渡る。
「僕は、この塔から出ることすら許されないんだ。……貴方がこうして出ていってしまったら、僕は追いかけることすら、謝ることさえできないのに……」
冷え切った部屋に、僕の震える独白だけが虚しく反響した。 自分の存在のすべてを投げ打とうとしても、それを受け取ってもらえない。 救いたいと願う相手に、救う権利さえも剥奪されたような、底知れない無力感と孤独に、僕は真っ逆さまに突き落とされていた。
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