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第2章:献身と解凍
第37話:熱の鎖
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着替えを終え、寝台に横たわったものの、セシルの身体は一向に温まらなかった。
むしろ、湯浴みで一度上がった体温が冬の夜の冷気に奪われていくにつれ、心の奥底にある孤独が再び鎌首をもたげてくるようだった。
窓の外では、木々が風に揺れる音が低く響いている。王宮の結界の中にいた頃には決して聞こえなかった、野性の、そして無慈悲な世界の音だ。セシルは厚手の毛布を顎のあたりまで引き上げ、身体を丸めた。けれど、魔力を失ったこの器は、自力で熱を生み出すことすら忘れてしまったかのように、ただ凍えるばかりだった。
カチリ、と扉が閉まる音がした。
部屋の明かりは絞られ、暖炉の火だけが赤々と壁を照らしている。アルヴィスが、静かな足取りで寝台へ近づいてきた。アルヴィスはすでに騎士の正装を脱ぎ、寝衣に近い薄着になっていた。
「……セシル。まだ、震えていますね」
アルヴィスの声が、暗闇の中でいつもより低く、鼓膜を直接揺らすように響いた。
アルヴィスは迷うことなく、重い毛布の端を持ち上げた。
「あ……アルヴィス? 何を……」
「体温を分けるためです。今の貴方は、こうでもしなければ夜を越せないほど冷え切っている」
抗う間もなかった。アルヴィスは、当然のような顔をして、セシルが横たわる狭い寝台へと潜り込んできた。 途端に、圧倒的な熱量が押し寄せてくる。
冷たいシーツが、アルヴィスの体温によって瞬時に焼き尽くされていくようだった。セシルのすぐ背後に、アルヴィスの巨大な身体が横たわる。背中に触れるアルヴィスの胸板は、鋼のように硬く、そして恐ろしいほどに熱い。
「失礼だ……。貴方は、騎士だろう……? こんな、主と同じ寝台に……」
「主、ですか。……国という怪物に己の血肉を啜らせ、ボロボロになって捨てられた貴方を、まだそんな冷たい役割に縛り付けるつもりですか? 俺は、もう貴方をそんな風に敬いたくはない。貴方を、一人の人間として、生身の温もりのなかに引き戻したいのです」
アルヴィスの太い腕が、セシルの細い腰を回し、自分の身体の方へと強引に引き寄せた。
セシルの背中が、アルヴィスの腹部に密着する。
逃げ場はなかった。アルヴィスの腕は、守護の鎖であると同時に、セシルをこの寝台に繋ぎ止める拘束具そのものだった。
「……っ、……離してくれ……」
弱々しく肘でアルヴィスを押し返そうとしたが、アルヴィスは切なげに息を吐くと、さらに力を込めて抱きしめた。セシルの後頭部に、アルヴィスの顎が乗る。
「冷たい。……指先まで、氷のようだ。……貴方をこんな無残な姿になるまで放置した世界も、奴らも、俺は決して許さない。……俺が温めて差し上げますから、じっとしていてください。……いいですね?」
有無を言わせぬ囁き。それは命令のようでいて、その実、震えるセシルをこの世の全てから遮断しようとする、狂信的なまでの祈りでもあった。
セシルは、自分の呼吸が、背後のアルヴィスの鼓動と完全に同期していくのを感じていた。
屈辱的なはずなのに、アルヴィスが与えてくれるこの暴力的なほどの熱情に、セシルの心は少しずつ、抗いようのない安らぎを感じ始めていた。
むしろ、湯浴みで一度上がった体温が冬の夜の冷気に奪われていくにつれ、心の奥底にある孤独が再び鎌首をもたげてくるようだった。
窓の外では、木々が風に揺れる音が低く響いている。王宮の結界の中にいた頃には決して聞こえなかった、野性の、そして無慈悲な世界の音だ。セシルは厚手の毛布を顎のあたりまで引き上げ、身体を丸めた。けれど、魔力を失ったこの器は、自力で熱を生み出すことすら忘れてしまったかのように、ただ凍えるばかりだった。
カチリ、と扉が閉まる音がした。
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「あ……アルヴィス? 何を……」
「体温を分けるためです。今の貴方は、こうでもしなければ夜を越せないほど冷え切っている」
抗う間もなかった。アルヴィスは、当然のような顔をして、セシルが横たわる狭い寝台へと潜り込んできた。 途端に、圧倒的な熱量が押し寄せてくる。
冷たいシーツが、アルヴィスの体温によって瞬時に焼き尽くされていくようだった。セシルのすぐ背後に、アルヴィスの巨大な身体が横たわる。背中に触れるアルヴィスの胸板は、鋼のように硬く、そして恐ろしいほどに熱い。
「失礼だ……。貴方は、騎士だろう……? こんな、主と同じ寝台に……」
「主、ですか。……国という怪物に己の血肉を啜らせ、ボロボロになって捨てられた貴方を、まだそんな冷たい役割に縛り付けるつもりですか? 俺は、もう貴方をそんな風に敬いたくはない。貴方を、一人の人間として、生身の温もりのなかに引き戻したいのです」
アルヴィスの太い腕が、セシルの細い腰を回し、自分の身体の方へと強引に引き寄せた。
セシルの背中が、アルヴィスの腹部に密着する。
逃げ場はなかった。アルヴィスの腕は、守護の鎖であると同時に、セシルをこの寝台に繋ぎ止める拘束具そのものだった。
「……っ、……離してくれ……」
弱々しく肘でアルヴィスを押し返そうとしたが、アルヴィスは切なげに息を吐くと、さらに力を込めて抱きしめた。セシルの後頭部に、アルヴィスの顎が乗る。
「冷たい。……指先まで、氷のようだ。……貴方をこんな無残な姿になるまで放置した世界も、奴らも、俺は決して許さない。……俺が温めて差し上げますから、じっとしていてください。……いいですね?」
有無を言わせぬ囁き。それは命令のようでいて、その実、震えるセシルをこの世の全てから遮断しようとする、狂信的なまでの祈りでもあった。
セシルは、自分の呼吸が、背後のアルヴィスの鼓動と完全に同期していくのを感じていた。
屈辱的なはずなのに、アルヴィスが与えてくれるこの暴力的なほどの熱情に、セシルの心は少しずつ、抗いようのない安らぎを感じ始めていた。
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