嘘つき王と影の騎士

篠雨

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第3章:氷解のゆりかご

第62話:偶像が剥がれる夜※

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 解かれた寝衣の隙間から、セシルの白磁のような肌が露わになる。 
 暖炉の火に赤く照らされたその肉体は、過酷な呪術の痕跡を刻み込みながらも、どこか神聖な輝きを放っていた。だが、その肌に触れるアルヴィスの指先は、もはや聖者を敬う者のそれではない。獲物を、あるいは愛しい伴侶を我が物にしようとする、剥き出しの「雄」の熱を持っていた。

「……あ……、アル、ヴィス……」

 セシルの唇から溢れる吐息が、アルヴィスの耳元を熱く濡らす。 
 アルヴィスは、セシルの細い腰を大きな掌で掴み、逃げ場を塞ぐように自分の方へと引き寄せた。指が食い込むほどに強く、けれど決して傷つけないように。その矛盾した力加減には、彼の二十年分の葛藤と、今まさに決壊した独占欲が凝縮されていた。

「セシル……、貴方のすべてを、俺に刻ませてください」

 アルヴィスの低い声が、セシルの胸に深く共鳴する。 
 彼はセシルの鎖骨から胸元にかけて、丹念に、這わせるように唇を落としていった。吸い付くような接吻のたびに、青白い肌に鮮やかな紅色の痕が刻まれていく。それは、この男が「王」という共有物ではなく、自分の「番」であるという、消えない所有の刻印だった。

「っ……あ、は……っ」

 初めて受ける強烈な刺激に、セシルの身体が弓なりに跳ねる。 
 今まで「苦痛」しか与えてこなかった自分の肉体が、アルヴィスの舌先が触れるたび、痺れるような、蕩けるような「快楽」を紡ぎ出していく。その裏切りにも似た幸福な事実に、セシルは眩暈を覚えた。視界が熱く潤み、天井が揺れる。自分を繋ぎ止めているのは、アルヴィスの逞しい腕と、逃げ場のないほどに自分を覆う、重厚な体温だけだ。

「……怖いですか、セシル」

 アルヴィスがふと顔を上げ、セシルの瞳を覗き込んだ。 
 その瞳は、獲物を追い詰めた獣のように昏く、それでいて深海のような慈愛に満ちていた。セシルは震える手で、アルヴィスの濡れた髪を掬い上げた。

「……怖い、など……。君になら、私は……壊されてもいい。……いや、君の手で私を、壊してくれ……」

 その言葉が、アルヴィスの理性の最後の一線を焼き切った。

「……壊しません。……生かします。俺の腕の中で、貴方を、誰よりも幸せな男として、生かしてみせる……!」

 アルヴィスは再び、貪るようにセシルの唇を塞いだ。 
 慈しむような口づけではない。舌が深く侵入し、口内のすべてを奪い去ろうとする、略奪のような接吻。セシルは酸素を奪われ、鼻を鳴らしてアルヴィスの肩に爪を立てた。痛いほどに強い抱擁。けれど、その苦しささえも、今のセシルには「激しく求められている」という確かな充足感として、甘美に響く。

 アルヴィスの手はさらに下へと伸び、セシルの震える脚を割り、その最奥へと触れていく。

「ひっ、あ……っ! だ、め……そこは……っ」

 未開発の蕾が、容赦のない熱い指先に解されていく。 
 あまりの恥辱と快感に、セシルは首を振って逃れようとしたが、アルヴィスはその耳元で、愛おしげに、執拗に名前を呼び続けた。

「見てください、セシル。貴方はこんなにも熱い。……俺の指を、こんなに締め付けて。貴方の身体は、最初から俺を求めていたんだ」

「……あ、あぁ……っ! アル、ヴィス、……っ、あ……!!」

 自分でも聞いたことのない、淫らな声が喉から溢れる。 
 十二年間の虚飾が剥がされ、聖王という仮面が粉々に砕け散る。そこに残されたのは、愛しい男の指に翻弄され、快楽の波に溺れ、涙を流して縋り付く、ただの一人の「男」としての無防備な姿だった。

 アルヴィスの吐息が荒くなり、彼自身の欲情もまた、限界まで膨れ上がっていた。 
 彼はセシルの両足を高く抱え上げ、己の熱い楔(くさび)を、その入口へと力強く押し当てた。

「……セシル。……愛しています。死ぬまで、貴方を離さない」

 その呪いのような誓いとともに、アルヴィスはセシルのすべてを貫き、魂ごと一つになろうと突き進んだ。
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