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第1章 勇者視点
第1話 異端の子
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俺の瞳は透き通るような青だった。だが、その青の奥に時折走る淡い金色が、俺のすべてを歪めた。
それは、特に日が傾き、暖炉の火の光に当たるとき、あるいは、俺の感情が強いときに現れた。両親は、その光を見るたびに、顔を強張らせ、すぐに視線を逸らした。
最初、母さんはその光を「夜空の星のかけらみたい」と笑ってくれた。だが、俺が四歳になった頃、村で不作が続き、隣家の子供が病で倒れたとき、すべてが変わった。
「あの目、本当に不吉だ」
「化け物の子じゃあるまいし。あれは、魔を呼ぶ光ではないのか?」
「静かに!もし誰かに聞かれたら……」
夜、布団の中で交わされる両親の囁き声は、俺の耳に恐ろしい音となって響いた。彼らは俺を直接罵倒しなかった。それがかえって、俺が口に出すのも憚られる「何か」であるかのように扱われている証拠で、俺を深く傷つけた。
その光は、感情が昂ぶったとき、あるいは、暖炉の火や夕陽の光に当たるときに、鮮やかに現れた。村人や、ついには両親までもが、その光を「不吉」「悪魔の光」と呼び、俺を避けた。
俺は自分でも自分の目が気持ち悪くなった。鏡を見るたびに、その金色がまるで俺の魂を食い尽くす異物に見えた。俺さえいなければ、両親はこんなに怯えなくて済むのに。俺がこの家にいる限り、彼らは永遠に不安と隣り合わせだ。
俺が五歳の誕生日を迎えた頃には、家の中は氷のように冷たくなっていた。両親は俺を直接罵倒しなかったが、その無言の圧力こそが、何よりも俺を傷つけた。俺の存在が、彼らの幸せを蝕んでいる。それは、幼い俺にも痛いほどわかっていた。
俺は、自分がこの家にとって不要な重荷になったのだと、心の底で静かに悟っていた。
そして、その日が来た。夕暮れ時、夜の帳が下りる直前。
「セレ。散歩に行こう。お前の好きな、あの深い森の奥だ」
父さんの声は、久しぶりに聞く、優しく、穏やかな声だった。その優しさに、俺は一瞬、心臓が跳ね上がった。
「うん!行く!」
最近は、俺の瞳のせいで、俺は家から出ることを禁じられていた。久しぶりの外出。森の空気は冷たいけれど、それが嬉しかった。父さんの手は、少し震えていたけれど、俺を強く握り返してくれた。
父さんは俺を連れて、普段なら絶対に入らないような、木々が密集した場所まで歩き続けた。森は暗く、獣道さえも途絶えている。だが、俺は父さんの手の温もりと、久しぶりの外出の喜びに、ただ笑顔でいた。
しかし、歩くうちに、俺の胸に冷たい予感が走った。
父さんの足取りが、次第に重く、そして速くなっている。振り返ると、村の明かりは遥か遠く、木々の影が異様に長く伸びているだけだった。
父さんは、立ち止まった。振り返ると、そこには村の明かりも、家の温かい光も見えない、完全な闇が広がっていた。森の空気は重く、湿っていた。
「父さん?」
俺は笑顔で尋ねた。まだ、気づいていないふりをした。父さんの顔を、闇が覆い隠していた。
父さんは何も言わなかった。ただ、俺から手を離した。その手の温もりが失われた瞬間、俺の身体は急激に冷え込んだ。
「じゃあな、セレ」
父さんは、一言だけ、絞り出すように言った。その声は、俺の知っている父さんの声ではなかった。それは、重荷を捨てる者の、安堵と罪悪感の混ざった声だった。
そして、父さんは、一歩、また一歩と、来た道を早足で戻っていく。
「父さん!待って!どうしたの?早く帰らないと母さんが心配するよ!」
俺は追いかけようとした。まだ、知らないふりを続けた。けれど、父さんは決して振り返らなかった。遠ざかる背中は、どこか急いでいるようにも、大きな重荷を降ろした安堵に満ちているようにも見えた。
俺は、父さんが何をしようとしているのか、理解した。
久しぶりの外出で喜んでいた俺の心は、激しい裏切りによって、一瞬で砕け散った。だが、俺は走るのをやめた。父さんを追いかけても、彼はきっと俺を突き放す。そして、俺が不要な存在であるという事実を、彼の冷たい瞳で見せつけられるだけだ。
父さんの足音は、森の重い静寂の中に吸い込まれて消えていった。
残されたのは、俺と、森の冷酷な闇だけ。俺は、泣くこともできなかった。ただ、自分が不要なものになったという事実と、父が俺を騙したという冷酷な裏切りを、冷たい空気と共に全身で受け入れた。俺の瞳の奥で、金色が、悲痛にきらめいた。
それは、特に日が傾き、暖炉の火の光に当たるとき、あるいは、俺の感情が強いときに現れた。両親は、その光を見るたびに、顔を強張らせ、すぐに視線を逸らした。
最初、母さんはその光を「夜空の星のかけらみたい」と笑ってくれた。だが、俺が四歳になった頃、村で不作が続き、隣家の子供が病で倒れたとき、すべてが変わった。
「あの目、本当に不吉だ」
「化け物の子じゃあるまいし。あれは、魔を呼ぶ光ではないのか?」
「静かに!もし誰かに聞かれたら……」
夜、布団の中で交わされる両親の囁き声は、俺の耳に恐ろしい音となって響いた。彼らは俺を直接罵倒しなかった。それがかえって、俺が口に出すのも憚られる「何か」であるかのように扱われている証拠で、俺を深く傷つけた。
その光は、感情が昂ぶったとき、あるいは、暖炉の火や夕陽の光に当たるときに、鮮やかに現れた。村人や、ついには両親までもが、その光を「不吉」「悪魔の光」と呼び、俺を避けた。
俺は自分でも自分の目が気持ち悪くなった。鏡を見るたびに、その金色がまるで俺の魂を食い尽くす異物に見えた。俺さえいなければ、両親はこんなに怯えなくて済むのに。俺がこの家にいる限り、彼らは永遠に不安と隣り合わせだ。
俺が五歳の誕生日を迎えた頃には、家の中は氷のように冷たくなっていた。両親は俺を直接罵倒しなかったが、その無言の圧力こそが、何よりも俺を傷つけた。俺の存在が、彼らの幸せを蝕んでいる。それは、幼い俺にも痛いほどわかっていた。
俺は、自分がこの家にとって不要な重荷になったのだと、心の底で静かに悟っていた。
そして、その日が来た。夕暮れ時、夜の帳が下りる直前。
「セレ。散歩に行こう。お前の好きな、あの深い森の奥だ」
父さんの声は、久しぶりに聞く、優しく、穏やかな声だった。その優しさに、俺は一瞬、心臓が跳ね上がった。
「うん!行く!」
最近は、俺の瞳のせいで、俺は家から出ることを禁じられていた。久しぶりの外出。森の空気は冷たいけれど、それが嬉しかった。父さんの手は、少し震えていたけれど、俺を強く握り返してくれた。
父さんは俺を連れて、普段なら絶対に入らないような、木々が密集した場所まで歩き続けた。森は暗く、獣道さえも途絶えている。だが、俺は父さんの手の温もりと、久しぶりの外出の喜びに、ただ笑顔でいた。
しかし、歩くうちに、俺の胸に冷たい予感が走った。
父さんの足取りが、次第に重く、そして速くなっている。振り返ると、村の明かりは遥か遠く、木々の影が異様に長く伸びているだけだった。
父さんは、立ち止まった。振り返ると、そこには村の明かりも、家の温かい光も見えない、完全な闇が広がっていた。森の空気は重く、湿っていた。
「父さん?」
俺は笑顔で尋ねた。まだ、気づいていないふりをした。父さんの顔を、闇が覆い隠していた。
父さんは何も言わなかった。ただ、俺から手を離した。その手の温もりが失われた瞬間、俺の身体は急激に冷え込んだ。
「じゃあな、セレ」
父さんは、一言だけ、絞り出すように言った。その声は、俺の知っている父さんの声ではなかった。それは、重荷を捨てる者の、安堵と罪悪感の混ざった声だった。
そして、父さんは、一歩、また一歩と、来た道を早足で戻っていく。
「父さん!待って!どうしたの?早く帰らないと母さんが心配するよ!」
俺は追いかけようとした。まだ、知らないふりを続けた。けれど、父さんは決して振り返らなかった。遠ざかる背中は、どこか急いでいるようにも、大きな重荷を降ろした安堵に満ちているようにも見えた。
俺は、父さんが何をしようとしているのか、理解した。
久しぶりの外出で喜んでいた俺の心は、激しい裏切りによって、一瞬で砕け散った。だが、俺は走るのをやめた。父さんを追いかけても、彼はきっと俺を突き放す。そして、俺が不要な存在であるという事実を、彼の冷たい瞳で見せつけられるだけだ。
父さんの足音は、森の重い静寂の中に吸い込まれて消えていった。
残されたのは、俺と、森の冷酷な闇だけ。俺は、泣くこともできなかった。ただ、自分が不要なものになったという事実と、父が俺を騙したという冷酷な裏切りを、冷たい空気と共に全身で受け入れた。俺の瞳の奥で、金色が、悲痛にきらめいた。
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