異世界陸軍活動記

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「お待ちしておりました」
 引きつった笑顔で言われましても、待っていたようには見えないのですが?
 待ってくれていたらしい。
 
 コンセ村からの要請なので、前回、前々回のような「何でグース一人‥‥」といったことは無かった、村長さんや他のまとめ役の人達は、来てくれるならグースでも‥‥といった考えなんだと思う。
 
 挨拶もそこそこに、まずは部隊宿舎に案内してもらう、もちろん付き添いはクジュの村まで来たマーク、宿舎にて鍋やコンロなど必要な物を回収し、村の北側に移動、途中子供と目が合い

「おがぁさ゛ーん、たべられる゛ー」

 と泣かれてしまったがスルーさせてもらう、何を言っても今は無理だし、俺だって少しは学習するんだよ、それでそこに走ってきたのが

「プリンちゃん!」
 ほら、母親登場
「う、うちの子に何をしたんですか!」
 青い顔してキッ! っと睨むお母さん

 そう来ましたか‥‥

 するとマークが俺の一歩前に出て来て

「い、いえ、この方は今日から村に駐留される方で、今から村の北側に移動していた最中だったんです、私が案内していましたが、この方は何もあなたのお子さんにはしていません」

 世の中のお母さんというのは、子供が泣いていたら、その近くにいた大人が家の子に何かした、と思い込むことがよくある。ただ側にいただけなのにも関わらずだ、このお母さんもその内の一人らしい、付き添いのマークが何を言っても信じず俺を睨んでいた。

 なるほど、では俺からも誠意をもって対応しようと思い、マークの前にスッと出て

「私はその子に何もしていませんよ」

 と、母親の目を見て真実を語った、右手に仮面を持ちながら。

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!」」
 女性とは思えないような悲鳴を上げ、親子は走り去っていった。

「す、すいません‥‥」
 マークが本当に申し訳なさそうな声で謝罪してくる、「いえいえ、いつもの事ですから」と、悲し気な声で言葉を返しておく

 一応マークに生顔を見られないように仮面をすぐ装着する、その仮面の下で俺はほくそ笑んでいた。
 ちょっと位は悪戯したっていいでしょ?

 ・・・・・・・・

「コンセを囲んでいる壁は、随分立派なんですね」

 村を一周、囲むように壁がそびえ立つコンセの村、昔コンセは村ではなく都市だったという、この壁の中は、元々は貴族が住む貴族街だったそうだ、この貴族街を中心にコンセの都市は、かなり遠くまで広がっていた。

 しかしグラースオルグ討伐後に出てきた魔物により、都市は壊滅、辛うじて壁に囲まれた貴族街に住む人達だけが残ることが出来た、このコンセに今現在住んでいる人達は、先祖が貴族か、その時衛兵だった人達の子孫だという。

「村の自慢なんですよ、この壁のおかげでこの村は今でも存続出来ていますからね」
 村のシンボルでもある壁を褒められて、マークは嬉しそうな顔をする。

 村を一周囲むこの壁の高さは約4メートルほど、東西南北にそれぞれ立派な門を持つ、ただ住居は壁の内側にあるが食料などを生産する畑などは壁の外にある。

 マークと話しながら移動していると、拠点の予定地に到着、壁から50メートルほど離れた場所、ここにコンセを守り俺の居住地になる拠点を作成しようと思う、拠点予定地と村の間にある畑も守らなくてはならないので、守る面積は結構なものになる、幸い畑は緩衝地帯につながる北側ではなく、南側に広く作られているので何とかなりそう?

「あとは大丈夫ですから、戻ってもらってもいいですよ」
 マークに向かってそう告げる、大粒の汗が頬を流れていたのでそろそろ限界だと思う

 ホッとした顔のマークはよろしくお願いします、と言って壁の中へ帰っていった

 ・・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・

「これは大変だな‥‥」
 一夜明け、朝を迎えていた。
 
 朝の『探知』を終えたポッポが帰ってくる
「お疲れさん」
 ポッポを返し、代わりにノームを召喚し配置する、『収納』から『探知』用のうさ耳天然魔石を被った時に後ろから声がした。

「一晩で作ったんですか‥‥」

 様子を見に来たマークは少し呆れた様子で驚いていた、この辺ではサイクロプスがよく出る、駐留部隊が記録している日誌にはそう書かれていた、大型の巨人で大体4メートルほど大きい物だと5メートルに達する、なのでクジュの村の柵よりも高い7メートル、厚さは1メートルの壁をを土魔法で作った、距離は両端1㎞ほどまで完成、状況に応じて伸ばす予定でいる。
 サイクロプス対策は多分これでいいだろう、足りないなら後々改良を加えていく。

 ライカンスロープも出るらしいが‥‥、出たら対策をしよう。

「ええ、とりあえずはこれで様子を見ます、ところで、今日はどうしました?」

「私は連絡係ということになっているんですが、いつまでも青い顔してなんかいられませんからね、長いこと一緒にいると慣れると聞いてますから、早めに慣れようかと思いまして」
 マークは俺の顔を見ないように少し視線をずらし返答する

「大変ですねー」

「ええ、まぁ‥‥」

「それで、昨日聞きそびれたんですが、前の駐留の部隊が帰ってから自分が来るまでの間に、魔物はこの村にはきましたか?」

「いえ、そういった報告は無いですね」

「そうですか‥‥、今マークが来る前に『探知』魔法で村の周囲と、北側10㎞を見たんですが8㎞付近にですね、わんさかいるんですよ」

「ええ‥‥」

「でね、正直いいますとあれだけの数が一度に来られると、対処不可能なんです」

 その言葉にマークは完全に押し黙った

「それで軍に部隊を要請出来ないようなら、畑は諦めるしかないですね、そうなると食料は自給出来なくなりますから、いっそのこと、この村を一時的に捨てる覚悟はしておいた方がいいですよ」

「す、捨てるだなんてできませんよ! 第一村には壁があるんです、絶対に中には入れないし、保存食だって一応は備えているんです」
 必死になり反論するマーク

「あの壁、そんなには持ちませんよ?」

「なっ‥‥」

「あの壁は本来、人から人を守るための物、魔物から人を守るものではないですよ」

 コンセの村は有名で、軍学校の教科書にも載っている、壁で周りを囲まれた都市というのは当時は珍しく、貴族制度があった時代、反乱を起こそうとする平民から貴族を守る為に作られた物、そして権力の象徴として本来は作られた。 
 なので壁の厚さは30㎝ほど、『硬化』も掛けられてはいるが、サイクロプスの前ではそうそう持たないだろう。
 
 では何故コンセの村は今まで存続出来たのか? それは魔物が出た当初は、命がけでこの都市の貴族達や衛兵が守り抜いたから。
 その後はコンセの村の後ろに控える村や、町を守るための盾として、国から優先的に兵力を借りることが出来たから、ハルツール国にこの土地が吸収されてからもそれは続いていた。

 しかし、現在はコンセの後方にある移転門が、軍により管理されるようになり要塞化した、更にその後方に当たる町や都市は発展し、産業も発達してきた。

 主だった産業が無く、魔物が出るために発展出来ず、要塞化された移転門のおかげで、後方の都市を守る盾でもなくなったコンセの村は、今や費用だけが掛かる国のお荷物的な土地になってしまった。


「マークも知っているはずだけど? あの壁がサイクロプス相手に持つと思う?」

「それは‥‥」

 普通の柵では持たない、だから今俺が作ったこの砦にあるのは、柵ではなく壁

「でも‥‥まぁ、可能性の話なんで一応は心の隅にでも覚えておいてください、『探知』魔法にかかった魔物が、「個」で動いている場合は問題ないと思いますが」

「‥‥分かりました」
 マークは俺の方を向いたまま、その後は何も言わなくなった。

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「あの、マーク? 具合が悪いなら無理しないで」

「‥‥あ、あ、はい」

「限界だったらあの建物の陰にいると楽になるよ、あとあんまり俺の事を直視しないようにして」

「す、すいません」
 がくがく震えながらマークは俺の宿泊用の建物の後ろに行った。

 村の事を憂えて口数が少ないと思っていたら、ただ単に俺の威圧に当てられすぎていただけのようでした、少しずつ慣らしていくしかないですね。

 その日の昼の『探知』そして夕方の『探知』では、村から8㎞以内には魔物達は入ってくることは無かった。
 魔物達が「個」で動いているなら大したことはない、しかし集落を作り「全体」で動いているならこの村はかなり危うい事になるだろう。

 ◇◆◇

 次の日もマークは来た、連絡係はいいんだけど‥‥仕事どうしてるんだろ?

 その日、朝の『探知』で魔物は8㎞地点にいたのだが、昼の探知では一匹だけ6㎞地点まで近づいていた、少しだけ気になったが‥‥まだまだ大丈夫だろう、ちなみに、今日もマークは大丈夫ではなかった。


 ◇◆◇

 コンセの村3日目、マークは俺のそばと建物の影を相変わらず行ったり来たりしていたが、最初と比べるとその頻度は少なくなっていた、

「それトロン茶ですよね、お年寄りがよく飲むやつ」
 もう少しで昼の『探知』の時間だが、その前に喉が渇いていたので、仮面の口の部分を外してお茶を飲んでいた

「俺みたいな若者も飲んでますよ」
 お年寄り扱いされたくないので、若者の所を強調しておく

「いやいや、若い人が飲んでいる所なんて見たこと無いですよ、ウチの高祖母が亡くなる2か月ぐらい前から飲み始めたぐらいですよ」

 そう言われると、飲み始めたら死ぬみたいに聞こえるんだけど、それにしても高祖母って、ひいひい婆さんとか、いったい何世代が一つの家で住むんだろうね。

「あっ! だったらあれも飲めるかもしれませんね、ちょっと取ってきます」

 何を飲ませようとしているのか? 飲むとは一言も言ってないんだけど

 大急ぎで取りに行ったマークはあっという間に戻ってきた

「クオルシって言うんです」

 粉末状の物を持ってきたマークは、俺の飲み干したトロン茶のカップに、勝手にそのクオルシを入れてしまった。

 あっ‥‥そのカップトロン茶専用なんだけど‥‥
 変な臭いとか付いちゃったら嫌だなぁ

 茶色で少しだけ香ばしいその液体、仕方なくカップに注がれたクオルシを飲んでみた

「えーっと、そのクオルシに砂糖と練乳を、って、あっ!」

 マークは他にも何か入れようとしていたのだが、俺が先にクオルシを飲んでしまい 
 カップに口を付けたまま固まっている俺をみて、あちゃーという顔をしていた。

「大丈夫ですか? 本当はそのクオルシに砂糖と練乳を‥‥」

「美味い!」

「は?」

「コーヒーだ‥‥コーヒーを見つけた」
 わなわなと感動で震える俺に、困惑するマーク

「こ、これは一体どこで手に入るのかな?」
 あまりの美味さに身を乗り出してマークに聞いてみた

「え、あの、この村にしか無い特産品なんですが、何分全く売れなくて、うちの高祖父が言うには、気付け薬に使うといいとかで‥‥あの、近いです‥‥近づかれるとちょっと辛い、というか欲しいんですか?」

「言い値で買います!」

 思わぬ所で素晴らしい飲み物に出会えた俺は、ホクホク顔でクオルシを受け取り、代金をマークに支払った。

 明日の朝が超楽しみだ。
 寝起きにコーヒーを‥‥あ、いや、クオルシだったな、クオルシを朝に一杯、本当に楽しみが出来た、それにしてもこの村にコーヒーがあったとは‥‥

 何が何でもこの村を守らなくてはいけない!

 昼の広域『探知』の時間になり、ポッポを飛ばして『探知』を始めた、クオルシのことでニコニコ顔だった俺は、始めて数十秒でその顔から笑顔が消えた。

「マーク、魔物が1体もうすぐここに来るよ、どうやらこの村が見つかったらしいね」
 ポッポをすぐに呼び戻し、ノームを待機させる、暫くすると、ドスンドスンと大きな音を出しながらサイクロプスが視界に見えてきた。

「サイクロプスですね、ここ辺りに生息する魔物ですね」

「あの1体だけならノームだけで何とかして、とどめは俺が差して終わりかな」

 接近してくるサイクロプスに対して、ノームに攻撃準備を命令する。

 しかし‥‥

「あれ? ねぇマーク、よく見たら結構遠いところにいるよね」

「え、そうですか?‥‥あれ?‥‥あの、あれって何だと思いますか?」
 おかしな事を言い出すマーク

「何だと思うって、さっきマークが俺に説明してたでしょ?」

「いや、でも、あれって」

 ドスンドスンと近づいてくる魔物に対し俺とマークは言葉が被った

「「 デカい!! 」」

 通常サイクロプスは4メートル、しかしこちらに向かってくるサイクロプスはその倍、8メートルほどあった。

 あわあわと動揺しているマークを尻目に、射程圏内に入ったサイクロプスに対しノームに攻撃を命ずる

 パン パン パン

 銃声が鳴り響き、それが見事にサイクロプスに命中する、‥‥したはずだった。
 今までの魔物だったら、そこで絶命したり、そうでなくても一瞬足が止まるのが当たり前だった、しかし目の前のサイクロプスにはそういった気配がまるで無い、防具を着こんでいる兵士だったら分かるが、裸同然の魔物には考えられない。

 銃がダメなら魔法で 

 ノームを戻し魔法攻撃に切り替える、氷の槍を作り出しサイクロプスに飛ばし突き刺す

 『プスッ』

 もし擬音が出たとしたらこんな感じだったと思う

「あれ!?」

 いつもなら貫通するはずだった氷の槍が、先っぽの方だけ突き刺さっただけだった、それでも少しは痛かったのか、少しだけ唸る。

 『氷』との相性がいいのか? なら他の魔法で。

 『雷』の魔法で攻撃してみる、サイクロプスの真上から、きつめの一撃を与えてみた

「ドゴォォン!」
 
 一瞬よろけたサイクロプスのだが、何とか立て直し、物凄い勢いでこちらに向かって走ってきた、その目には怒りの炎が灯っていた。

「私も加勢します!」

 俺が放った特大の『雷』魔法でも耐えたサイクロプスに、マークは危機感を覚えたのか、『火』魔法を使い攻撃を始めた。
 拳ほどの火弾を連発して顔に命中させていたが、相手は気にも掛けず突っ込んでくるだけだった。

「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁ!」
 いくら当ててもダメージを受けず、すぐそこまで迫ったサイクロプスに、マークは等々発狂してしまった、「もう駄目だ!」なんて悲痛な叫びをあげている

 まぁまぁ待ちなさい慌てる時間ではない

 サイクロプスの真後ろに召喚獣を呼び出す、これで一応、方が付くだろう。

 確かに予想外だった、サイクロプスには間違いないだろうが、今近づいてくる魔物は少し変わっている、軍学校の授業で、魔物には稀に変種と言われる突然変異が現れることがあると習った。
 おそらく今見ている魔物がそうなのだろう、ただ‥‥気になることが一つ、変種はこいつだけなんだろうか? ということ、北の方角8キロメートル辺りにいた他の魔物達は‥‥

 いずれにせよこいつを始末してから、詳しく『探知』をし直す必要がありそうだ。
 もしこれ以外もそうだったら本当に自分一人では対処できないかもしれない、やり方を考えなおさないと‥‥

 そうこう考えている間に、いつの間にかサイクロプスもう直前に来ていた
 
 あれ? なんでまだ生きてるの?

 え? あの

 ちょっ!

「ちょっ! コス、ちょっ! あ、あぁぁぁぁぁ!」

 ドン!!  

 ほんの一歩手前で、サイクロプスは俺たちの頭の上を通り過ぎて行った、俺達の頭上を通過した物を詳しく言うと、サイクロプスのヘソ辺りから上と、右足と左足、これらがバラバラに通過していく

 ビチャビチャビチャ!

 そして頭上を通り過ぎなかった物が、俺たちの顔に降り注いだ、降り注いだ物を詳しく言うと、血と肉片、そしてボロボロになった小腸・大腸だ

 サイクロプスの腸がマフラーのように顔に纏わり付いた俺たちの前で、コスモが物凄く荒れ狂っていた。
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