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大陸深部 ④
しおりを挟むガチガチガチ
強靭な顎が嫌な音を鳴らしながら、今日の食料を確保しようと迫る
「巣穴から離れるぞ! ソルセリー、オット走れ!」
「くっ!」
「ひぃぃぃい!」
召喚獣のデュラ子が大剣を振るう
ヒュン‥‥ザシュ! ザシュ!
一匹二匹と数を減らすが焼け石に水、武器を振るい、魔物を屠る側からまた新しい魔物が巣穴から這い出して来る。
「鬱陶しい!」
『雷』で魔物を薙ぎ払い『風』で吹き飛ばし『火』で焼き払う
運悪く死んでしまった仲間の体を乗り越え、逃げようとする俺達の行く手を阻むよう迂回し、挟み込み逃がさない、死んだ仲間の死体を回収することも忘れない、仲間の死体だって大事な食料になる、永遠に子を産み続ける女王に献上するために。
「ハヤト駄目だ! 前が完全に塞がれた」
人の全力疾走と同等の速さを持つアリ達によって、前も完全に塞がれた状態にある
「いつの間に」
後ろから追ってくるアリ達を一手に引き受けていたので、前方まで気が回っていなかった、『探知』魔法を使用していたものの、後ろから追ってくるアリ達があまりにも多いので、こちらもそれどころではなかった。
『土』よ、
人の大きさの形に土を盛り上げ
『幻惑』
人の大きさとなった土に魔法を掛けると、俺達の姿と誤認したアリ達が、一斉に土の塊に群がった。
アリ達が群がっている隙に、前方に向け今まで使ったことのない魔法を唱える
「『土』よ! 覆い隠せ!」
ドドドドドドドドド!!!!
前方に小高い丘を作り出し、その中にアリの魔物を生き埋めにする
アリは元々地面に穴を掘って巣を作っているが、巣を作るには掘り出した土を外に出さなければならない、しかし、完全に土に埋まってしまっては身動きが取れなくなる、それでも、もがきながら地上に出てくるだろうが、少しだけでも時間を稼げればそれでいい、今はここから早く逃げないと
激しい地面の揺れに戸惑い驚くベルフ達だが
「今だ、走れ!」
俺の言葉で一斉にその小さな丘の上を走り出す
とっさに思いつき、イメージして使って見たが中々に上手くいったようだ、このまま逃げ切るか?
ボコッ ボコッ
と思ったが、そこまでは上手くは行かないようだ。
せり上がった地面の上からアリ達が次々に顔を出してくる、土に押しつぶされてくれればいいなと思っていたが、流石土の中で生活しているアリ達、そして『幻惑』に騙されていた後方のアリ達も、土の塊が完全に崩れ、その効果も切れた瞬間からまた後を追ってくる
「ハヤトまだ追ってくるぞ!」
「今は気にするな、走れ!」
「ひぃ! ひぃ! ひぃ!」
普段から体を余り動かさないオットは、既に限界に達しており、今すぐにでも足がもつれて倒れそうになっている、ソルセリーはオット程ではないが、走る速さが急速に落ちていた
仕方ない‥‥
デュラハンを魔法陣に戻し、オルトロスを呼び出す
「オル、トロス! 咥えて走れ!」
「分かった!」
「分かりましたわ!」
オルトロスは自身の目の前に、何倍もある別の顔を浮かび上がらせ、それぞれソルセリーとオットを咥えて走り出した
「え! え! 何? キャー!」
「ギャー! 食われたー!」
いきなり後ろから咥えられた二人は半狂乱に陥っていた
それに比べオルトロスは少しだけ嬉しそうだった
あっと言う間に丘を駆け下り、咥えた二人をポイと捨てる
ドスッ
「きゃっ!」
「うわ‥‥ブベェ」
尻尾をフリフリしつつ、後方から後を追う俺達を待つ
俺とベルフも丘を降りきり、後方から来るアリ達を振り切る事が出来た。そして更に作った丘に細工をする。
「どうした! まさかここで迎え撃つつもりか!」
「違う、続きがあるんだ」
『幻惑』魔法を、魔法で作った丘全体にかける、アリ達がどう錯覚するかまで分からないが、これでちょっとは時間を稼げる、その間に逃げる
「オルトロス」
「「 わん 」」
二匹はまた二人を咥えて走り出す、どことなく嬉しそうな二匹
「えっ! また」
「ひえっ!」
一方、口に咥えられるということに、恐怖からか、少しだけストレスを感じている二人
南に向け逃げ続けていたのだが‥‥
・・・・・
・・・・・
「何てしつこいんだ‥‥」
ベルフが小声でぼやく
あれから既に1時間ほど逃げ続けている、アリの巣からもかなり距離を取れたはずだった、しかし追ってくる数はいまだに減らず、『幻惑』魔法で騙しながらも撃退しつつ、逃走を続けている。
2カ月以上も大陸深部を移動し続け、精神的に参っている時に、最後の最後で大量のアリ達に襲われ、オットは少しだけ諦めの表情が浮かぶ、先ほどからどうしてもこのアリ達の追撃が降り切れない。
ベルフも同じく最初の頃のようなハキハキした話し方をしなくなっていた、どことなく弱気になっている、執拗なまでのアリ達の攻撃で心が折れかかっているんだろう。
出している召喚獣はオルトロス、二匹が出す大きな顔を持つ口で、アリの顔ごと丸呑みにしてパクッっと噛みつくと、丁度アリの首に歯が当たり簡単に噛み千切れた。
デュラハンと違い、身長的にもアリに近く戦いやすいようだ、しかも2匹いるので格段に倒すスピードが速い、自身の召喚獣の事を知り尽くしていると思っていたが、まだまだ理解が足りてなかったようだ。
そしてソルセリー、ベルフが彼女とオットの守りについていたのだが、圧倒的な数にベルフも対応しきれず彼女は怪我をしてしまった。
右親指の損傷、彼女の槍に噛みついた時、一緒にソルセリーの指をアリの魔物は噛み切ってしまった。
今まで怪我という怪我はしたことが無い彼女は、それだけで戦意を喪失してしまう、先ほどから悲鳴を上げべフルの後ろを離れない。
そして俺も終わる事の無い戦いに憔悴しきっていた。
4人の内2人は戦力として当てにならず、ベルフはその二人の守りで手一杯、オルトロスも頑張ってはいてくれるが、接近戦が主な戦い方の二匹は、どうしても一対一の戦い方しかできない、なので向かってくるアリ達を魔法を駆使しほぼ俺一人で相手をしていた。
それだけならまだしも、周りは真っ黒な絨毯のように見渡す限りアリだらけであり、いつ終わるかも分からない状況だった。
‥‥そして俺はそこで大きなミスを犯すことになる
『探知』を使い常に周りの状況に気を配っていたが、冷静ではいられなかったせいで近づいてくる一匹のアリに気付くことが出来なかった
パリン ガキン!
真横から俺の胴に向かって噛みついてきた魔物は、装備に付与していた『耐壁』を破り防具にまで傷をつけてきた。
「くっ! このぉぉぉお!」
それまで耐えてきた思いが一気に崩壊した
「オラァ!」
肘を落としアリの脳天に叩き込む、それでも離れないアリに対しレールガンを打ち込んだ、打ち込まれたアリは頭を弾けさせ死骸を四方に飛び散らす
「こっちに来い!」
そう叫ぶと、ベルフ達は驚きながらも慌てて俺のそばに来る
そして俺達を持ち上げるように魔法で土を隆起させ、高低差を付ける
「うおっ!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
そして俺は『氷』魔法を使用した
「鬱陶しいんだよ!」
ビキン!!! パキ パキ
俺の全力の魔法を叩き込む、瞬間、辺り一面氷に覆われアリ達はその中に閉じ込められた。
そしてこれが俺の大きなミスだった。
・・・・
・・・・
「凄いな‥‥魔物が氷の中に埋まっているぞ‥‥」
「全く動かなくなりましたが‥‥」
先ほどまで元気に動いていたアリ達はピクリとも動かなくなった
「それにしても‥‥この魔力量は‥‥」
見渡す限り氷の大地の下には、百匹以上はいるだろうアリが埋まっている
「‥‥これで死んだ魔物もいるだろうけど、動けないだけの魔物もいる‥‥今のうちに逃げるんだ」
ふらりと眩暈がし、隆起した土の上から落ちそうになるのをオットに支えられた
「大丈夫ですか!」
「わるい‥‥魔力切れのようだ」
俺の大きなミス‥‥それは魔力切れ、これで戦闘は終わりではないハルツールに戻るまで続く、そして魔物を倒すのには絶対に俺の魔力が必要になる、その位分かっていたにも関わらず、ついカッっとなった俺はやらかしてしまった。
召喚していたオルトロスも維持できなくなり消えてしまい、今魔物に襲われたら打つ手なしだろう。
前に魔力切れを起こしたのはいつだったろうか? コンセで壁を作っていた時だったな‥‥
取りあえず隆起させた土を少しずつ解除し、降りれる高さまで戻す、大気に霧散する魔力を使えたらいいのだけど、自分の魔法で作った物は作った自分の魔力でしか解除できない、搾りかすのように残った自身の魔力で戻していく
「うっ‥‥」
眩暈がし頭がフラフラするが、何とか楽に降りられる高さまで土を下げ、無事に氷の上に降りることが出来た
「肩を貸そう」
「ありがとうベルフ」
遠慮していられないので素直に借りるが‥‥
「おっと‥‥」
ベルフも限界に近いようで一緒にふらついてしまった
「すまない」
「なら自分も貸しますよ」
オットが俺の反対側に来るが‥‥
ドン とソルセリーに突き飛ばされた
「いたぁー!」
「そんなにフラフラなのに出来るわけないでしょ‥‥私が肩を貸すわ、さっきから殆ど働いていないし‥‥」
ソルセリーが俺の腕を掴み、自身の肩に腕を回させる
「ありがとうソルセリー」
「‥‥別に‥‥貴方がいないと無事に帰れないからしているだけよ、それに、深部を通るって言いだしたのは貴方なんだから、責任を最後まで取ってもらわないと‥‥」
ムスッとした顔でそんなことを言ってくるソルセリー、この人は気性が荒いのか優しいのかサッパリ分からない
・・・・・
・・・・・
「ハヤトもういいのか?」
ベルフとソルセリーの肩から手を放す
「もう大丈夫、歩くことに問題は無いよ」
足に少し力が入るようになり、激しい眩暈も収まってきた、しかし魔力はもちろん完全ではない、今の状態では召喚は無理だろう、回復した魔力も『探知』に回さなくてはならない
「それにしても‥‥さっきから魔物がサッパリ出て来なくなったわね‥‥」
「そういえばそうですね‥‥」
「ワームの縄張りに入ったんじゃないのか?」
「いえ、それは無いと思いますよ、ここの地面は固いですからワームの生息域では無いとは思いますが‥‥」
‥‥確かに、さっきから『探知』にも全く引っかからない、それまではこちらの場所が分かっているかのように襲って来ていたのに
さっきのアリはどうなった? 氷漬けにしたとはいえ、あれから急に襲ってこなくなった、俺の魔法攻撃から外れたアリだっていたはずだ、それなのに‥‥
「もう数時間もすれば日が暮れる、そうすればどちらにせよ休めるだろう」
「そうですね、魔物が襲ってこないなら居ないに越したことは無いですから」
若干フラグに聞こえるからやめて欲しいが、オットが言った「地面は固い」は信用できると思う、ここはワームの生息域ではないのだろう、一応皆警戒はしているがワームは無いと思う、となると他の虫の魔物が気になるけど‥‥
「ねぇ‥‥あれ、何かしら‥‥」
「どうしたソルセリー」
ベルフに続き、オットもソルセリーが言った方向を見る、俺は『探知』に反応がないので特に気にしてはいなかったが‥‥
「ねぇアレは魔物なの?‥‥」
ソルセリーが俺の方を見ず、ソレから目を離さず聞いてくる
「人形?」
ソレはコチラを見ていた
「分からない‥‥『探知』には全く反応が無い‥‥死体‥‥‥‥?」
ソレはベルフと同等の身長で、人の形をしていた。
顔らしいものはあるが、目・鼻・口の部分がへこんでおりそこには皮膚だけがあった、上半身裸で無駄に大きなあばら骨が浮き出ており、下半身には民族衣装の様なスカートが巻かれている、夜中にこんなものを見てしまったら、間違いなく悲鳴を上げる位のゾッとする姿をしていた。
「人形ですかね」
「その割には何と言うか‥‥そうは見えないというか‥‥」
「誰がこんなのを置いて行ったの?何のために?」
ピクリ
少し指が動いたような気がした
「ん?‥‥っ!」
パリン
とっさに出した盾の最後の『耐壁が』破られる
「敵だ!」
ソレは両手を前に出しフワリと浮かび、俺に向かって来た
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