異世界陸軍活動記

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消滅魔法 ①

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「『消滅』発動地点、到着しました!」
 今回、一緒に先発に抜擢された他の部隊の一人が声を上げる

「ソルセリー! 詠唱を」
 ベルフが叫ぶ

 ソルセリーが詠唱を始めたら、発動するまで守らなければならない、ただし本当に発動まで居るとこっちも巻き添えを食らう
 どれほどの威力があるのかは軍学校でも一応は習ったが、俺には縁遠い物と思っていたし、それに興味が無かったので覚える気も無かった。
 軍学校ではテストなども無いので聞き流していた。

 もうちょっと真面目に覚えておくべきだったかな‥‥

 とは思うがもう遅い、今まさに、この世界での最大級の魔法が発動される事になる

「どうしたソルセリー! 早く詠唱を始めるんだ!」
 ベルフの声でそちらを振り向くと、詠唱用の姿勢は取ってはいたがまだ初めてはいなかった。

「何をしているソルセリー! お前の姉達の仇を取るんだろ!」
 涙を流し震えるソルセリーを、ベルフは容赦なく肩を掴み揺すっていた。

「‥‥ごめんなさい、ごめんなさい‥‥」
 なおも詠唱を始めないソルセリーに、ベルフは怒鳴る様な口調で説得をする

 召喚獣のポッポを呼び出し、要塞の方に向かわせる、そして自分は杖を取り出し地下の『探知』をする

 丁度真上っすね、うーん‥‥今やるべきか‥‥でも今わらわらと来られたら、やっぱり救助後かな‥‥


 泣いている女性に対し怒鳴るベルフは、ぱっと見酷い事をしているように見えるけど、ベルフは間違ってはいない、ここ一番の作戦で皆が命を懸けている、もしここで作戦が中止することになろうものなら、兵士達の士気はがた落ちになるだろう、皆この作戦で終われると思っているんだ。

 破壊の一族の『消滅』魔法を使った作戦は、ここ200年以上まともに成功してはいない。発動前に殺される、発動はしたがその後救助が間に合わず殺される。
 父親や姉の遺体を見て、ソルセリーは多分こう思っているんだろう
 「『消滅』を使ったら自分もこうなる」と
 
 一見、気の強そうに見えるソルセリーだけど、それはソルセリー家としてのプライドがそのようにしているだけで、実際はかなり心が弱い女性だ、というのは大陸深部を一緒に通過して来た時に分かっている

 ‥‥まだ敵の反応は無いな
 ポッポを使った『探知』にまだ反応が無い事を確認しつつ、ソルセリーの側による

「どうする? ソルセリー、仇を打つのは諦めて帰る?」

「!?」

「おい! ハヤトお前は何を言ってるんだ!」
 ベルフを手で制し下がらせる

「今日は一旦帰ってまた今度にしようか? 別に今日じゃなくってもいいんだから、ほら、帰ろう」

 俺がソルセリーの手を掴み立ち上がらせようとすると、俺の手をソルセリーは弾いた

「駄目よ! 私がここで引いてしまったら姉さん達の仇が‥‥」

「そうか‥‥なら心配事でもあるの?」
 と聞いた時にポッポからの『探知』に反応が見えた
 もう来たのか‥‥

「叔父や叔母、父の時もミュール姉さんの時も‥‥助けが間に合わなかったし、誰も助けようとしなかった! だから‥‥私の時もきっと‥‥」
 
「そうかい? 俺一応この前間に合っただろ? あの時は『消滅』を使った後じゃなかったけど、あれは数に入って無かった?」

 ハッとソルセリーが顔を上げる、それに目線を合わせ

「前回上手くいったんだから今回も上手くいくよ、あの時いた俺とベルフもいるし、それとも‥‥オットとあのドジっ子が一緒じゃなきゃダメ?」

「あ‥‥」
 ソルセリーの左肩に軽く手を置き

「今回も俺が必ず助けてやる、後の事は心配するな、次に目が覚めたらキャンプ地に作ったあの家で、横になってるだろうから」

 暫くソルセリーは俺を見つめた後ゆっくりと頷いた。そして俺が肩から手を放すと‥‥‥

 ソルセリーは詠唱を始めた。

 

 一度詠唱が始まると本人でも中止することは出来ない、もう既に撤退をする事が不可能になる、ソルセリーの隣では、詠唱開始直後から時間を計る為に女性の兵士が付き添っている

「お帰りポッポ」
 戻ってきたポッポを黄色の魔法陣に帰す

「よし、ベルフ迎え撃つ準備だ」

 フッと笑ったあとベルフは
「ああ」と頷いた

 後は詠唱が終わるまでソルセリーを守る事が出来れば、それと分散させた敵兵を囮の小隊がどれだけ抑えられるかに掛かっている

「来ましたね‥‥」
 ライカが腰に差している刀を鞘から抜く

「結構こっちに来てるな‥‥」
 ベルフも刀を取り出す

「来てるというか、元々の数が多いんだろう、結局の所どの位いるんだろうね」
 俺も拡声器の魔道具を取り出した

「ハ、ハヤト? 何だそれ、新しく作った武器か?」

「ただの拡声器だけど」

「何でそんな物を‥‥」

「タクティアに用意してもらったんだ」

「いや、そう言う事じゃなくて‥‥」

「これから自己紹介しなきゃいけないからね」
 そう言って一番前に出る

「あーなるほど、グラースオルグって事を知らせるためですか‥‥だから分かりやすいように仮面をしてたんですね」
 ライカが納得する

「あ、あーなるほどな」
 ベルフはニヤリと笑った

 俺が前に出ると同時に相手側からの魔法が飛んでくる、数は6

「せっかちだな」

 それを難なく同じ魔法で相殺し、拡声器を使って自己紹介をする

『よく来た虫けらども!』

「は?」
「ん?」

『お前たちの来訪歓迎しよう!』

「お、おい、ハヤトいきなりなんだ?」
「来訪って、どっちかと言ったら自分達が来訪しているんですが」

『私はグラースオルグ、お前達の魂を頂きに来た』
 拡声器を右手で口に添えつつ、左手で仮面に軽く触る、目の前から迫って来ていたマシェルモビアの兵士達はその言葉を聞いて急停止した。

 はーい、注目してくださーい

「・・・・・・」
「二言前には歓迎するって言ってるのに、今度は来たとか言ってますよ、どっちなんですかね?」

 うっさいわ!
 ベルフは戸惑っているのに対し、ライカは確実に突っ込みを入れてくる、しかも本人は茶化しているのではなく本気で突っ込み‥‥訂正してくる、あまり真面目な性格なのも問題だと思う
 
 俺も一生懸命やってるんだからちょっと黙ってて

 ほんの少し魔王っぽい感じで言って見た。何となくこうした方が相手がビビると思ったし、タクティアも賛同してくれたから‥‥

『私の目の前には最高の食事が用意されている』
 魂的な意味合いで

『今からお前たちは私に食され、また更に、お前たちの仲間を食すための糧となる、このようにな!』

 人の形をした土人形を3体作り出し、ゾンビの様な動きで相手に向かわせる、今の所同時に3体までしか出せず迫力に少し欠けるが、敵兵たちはそれで完全に動きを止めた。

「タ  たすけ  て・・・」
 『土』と『風』魔法を駆使し、土人形から声に似たような音を発しさせた。
 ちなみに、未だに「たすけて」の4文字しか発声できない、最近別の事にハマっているもので‥‥

「「う、うわぁぁぁ!」」
「「きゃぁぁぁ」!!」」

 目の前にいるマシェルモビアの兵士達からは悲鳴が発せられる、これで相手の士気を挫く事が出来ればいいんだけど‥‥ただ、俺の後ろからも悲鳴が聞こえてきたのが気になった。

『さあ! 喜べ! 私の力の一部になれることをな!』

 その言葉を言うと同時に小型魔石砲を取り出し、相手に向かて閃光弾を放った。
 使った閃光弾は光が多めの目つぶし用で、大音量の爆発音と凄まじい光を放つ物。

 先発の隊の皆には、出発直後に閃光弾を使うかもしれないと話をしてある、そして同時にそれが戦闘の合図だと

 ドォォォン!
 閃光弾爆発と共に、魔法が使える者は一斉に魔法を放つ、数十、もしくはそれ以上の魔法が敵兵に襲い掛かる
 
 各魔法が相手側に届くと同時に、相手側からも魔法がコチラに飛んできた。
 
 爆発と音そして煙、色々な物が混じる中、ライカが敵兵に向かい突っ込んで行く、ライカに当たらぬよう、『探知』でライカの場所を確認しつつ敵兵に対し魔法を放つ、狙う相手は動いている者に限定する
 閃光弾の爆発で目を閉じることが出来、素早くその場所を離れようとしている者達に狙いをつけ、魔法を放ち足止めをする

 敵の数がそこそこ減ったな‥‥あ、やべ、ライカがどこにいるか分からなくなった。

 戦いが始まっている場所とソルセリーの丁度間に俺が経つ、タクティアの指示で俺の役割はソルセリーを守りつつ、固定砲台の役割を担うことになっている

 ソルセリーを一刻も討ち取りたい敵兵は、魔法同士が当たり爆発するその中からソルセリー向けて突っ込んでくる、そうなると刀と刀の接近戦になる

 召喚獣のノームを呼び出し敵兵へのけん制、他の先発の兵のサポートに当てさせる、そして俺は手に鎧をも貫く事が出来るランスを持つ

 煙が充満する中、『探知』を駆使して敵兵の動きを探り魔法を使いたいが、多分奥まで切り込んだであろうライカの姿が見えず魔法が放てないし、既に混戦になりだして手出しが出来ない

 せめてライカの頭の上にカーソルでもつけておきたい!

 ライカは多分煙の中を移動して相手を討ち取っているんだろう、考えたら魔法も使えないのによく戦えるなと感心する、そうしている内に完全に混戦になった。
 こうなるともう不用意に魔法は使えない

 やりにくい‥‥

 かなりの数の敵味方が入り混じるこの戦場は、俺には初めての戦いで戸惑う
 そこに一人の敵兵が煙の中から飛び出して来た。一瞬相手は俺の仮面を見て「あっ!」とした表情になったが、勢いを殺す事が出来ず、そのまま刀を振るってくる
 
 姿さえ確認できれば俺も手を出せる、刀を振るってくる瞬間『放出』を相手に向かって放つ、瞬間的に放つことで衝撃波に似た物が相手にぶつけられる、グラースオルグに対する一瞬の躊躇いもあったのか? それに押された相手の刀は俺の鼻先を掠めるだけにとどまり、空を切る

 すかさずランスで相手の顔めがけて突くが、相手はそれを顔を横に倒しギリギリの所でかわす、しかし、完全に避けきれなかった相手は、兜が破壊され耳が吹き飛ぶ、そして振り下ろし空を切った刀を、すかさず切り上げてきた。

 うっ!

 突き出したランスを引き、刀の軌道に合わせそれをいなすと同時に、がら空きになった腹に向かって魔法を叩き込む、あまりにも必死だったので何の魔法を使ったのかさえ自分でも分からない
 腹に重い一撃を食らった相手は前のめりになり、そこに再度ランスを突き刺した。

 ぴちゃ! 相手の血が少量飛んで俺の籠手に付着する

「はぁ はぁ‥‥」
 相手‥‥強いんだけど

 今倒したこのマシェルモビアの兵士は、かなり経験を積んでいた人物だったのだろう、かなりヒヤッとした、というか本気で危なかった。

 えぇぇ‥‥欧米ズの3人はこんなのといつも戦ってるの? えぇぇぇ‥‥

 すぐさま気持ちを切り替え、『探知』と目視で周りを探る、目で見ても『探知』で確認しても、兵士の数が結構減っているのが分かった、それは自軍なのか敵軍なのかは分からないが、辺りに充満していた煙は、ほぼ既に無くなっていた。
 周りでは敵味方が刀で、そして魔法で戦っている

「『消滅』魔法発動前です! 撤退準備を!」
 声を発した者はそう叫び、信号弾を空に向けて放った。信号弾の色は黄色。
 ソルセリーに付き添い発動時間を計っていた兵士の一人だ。
 この合図があると撤退を開始しなければならない

 これで敵兵も逃げてくれればいいが‥‥

「おい! もう無理だ撤退するぞ!」
「駄目だ! 一族の最後を消すことの出来る機会なんだ!」
「何言ってんだグースだって出て来てるんだ! 今は一旦引くんだよ!」
 
 敵兵も揺れているみたいだ。ならもう一押し。今殺したばかりの敵兵の顔を確認し、撤退すると言った敵兵の足元に向かって『火』魔法を連続で放つ

「う、うわっ!」
 迎撃しにくい足元への攻撃に飛び跳ねながら躱す、ただ当てる気はない、逃げてもらわないと困るから
 足元に倒れている先ほど殺した敵兵を『重力』魔法で軽くし、それを片手で持つ、何となく死体蹴りぽくて嫌だけれど‥‥

「逃がさん!逃がさんぞ! 貴様ら全て私の腹の中に入るのだ!」
 魔王口調で言って見るが恥ずかしいとは全く思わない、戦闘で興奮しているせいだろうか? こんな言い方が好きだったカナル隊のタウロンの気持ちが、少しだけ分かる気がする

 死亡した敵兵の死体を目の前に掲げながら、撤退すると言った兵士に歩み寄る

「うっ‥‥グース」
 俺に見られ、明らかにその兵士はたじろいだ、駄目押しで左手に持っている敵兵とそっくりな土人形を作り上げる、そしてそれをゾンビのような動きを‥‥

「お前たちもこうなるんだ!」
 押しの一言、ちなみに土人形からは「タスケテ」の言葉付き

「うわぁぁぁぁぁ!」

 それを見た敵兵は叫んで逃げの体制に入る

「おい! 待て、逃げるんじゃない!」
 仲間が逃げ出そうとするのを捕まえようと、伸ばしたその手を‥‥
 
 ヒュン!
  風を切る音が聞こえると同時、いつの間にか接近していたライカに腕を切り飛ばされた。
 防具と防具の間を器用に狙う、腕を切り飛ばされた敵兵は声を上げようとするが、ライカは声が上がる前に喉に向けて刀を突き刺し、そのまま横に押すようにして喉を掻っ切る

 喉を切られた敵兵はまだ息があり苦しそうにしているが、ライカはもう戦闘が出来ないと判断し、悲鳴を上げ逃げようとしていた敵兵に向かって━━

「まて! ライカ!」
 俺の声でライカはピタリと動きを止める

 「うっ! はぁぁぁぁ!」
 完全に戦意を失った敵兵はその場から走る様に逃げ出した。声を出しながら逃げる兵士につられて他のマシェルモビアの兵士もつられて逃げ出す

「逃げようとする者は追うな!」
 自軍の誰かが叫ぶ、そう、逃げてくれればそれでいい、こっちも退避することが出来る

「撤退限界ラインです! 今すぐ退避を!!」
 ソルセリーに付き添い、時間を計っていた女性兵士が叫ぶ、同時に赤い色の信号弾が上空に打ち上げられた。
 これが空に上がった時、すぐさま退避しなければならない、これを過ぎるとソルセリーの『消滅』に巻き込まれてしまう

「退却しろ! 退却だ!」
 赤の信号弾が上がり、ソルセリーを討ち取るのに攻めあぐねていたマシェルモビア兵は、ソルセリーの殺害が不可能と判断し、一斉に退却を始めた

「退避だ! 先発隊、退避するぞ!」
 こちらも一斉に退避が始まる、俺が一応最後まで残るとして、敵も全部逃げてくれればいいんだけど‥‥

「おい! ティンパー撤退だ! 逃げるんだよ!」
「俺はここで破壊の一族を断つ、俺に構わず先に行け!」
「何を言って‥‥」
「必ず戻る、だからお前は先に行け!」
「クッ! お前の事は嫌な奴だと思っていたけど‥‥死ぬなよ」
「ああ」

 少年漫画にありそうな場面が、俺の目の前で行われていた。

「おいおい、なーにやってんだ」
「フロルド、何故いる お前も早く退却しろ」
「かかっ! 嫌だね、お前とは初等部から一緒だからな‥‥腐れ縁ってやつだ。俺っちも死ぬ気はないが‥‥最後まで付き合ってやるよ」
「フロルド‥‥‥‥ふっ、なら、最後まで付き合ってもらうぞ」
「早く終わらせて昼食にでもしようぜぇ!」



 なーんでこの敵兵二人は残ろうとするのかね?

 敵味方両軍が撤退する中、空気の読めないフロルドとテンパ? は、まるで主人公が言うような会話をし残ると言い出した。
 こいつらが残ってソルセリーを打つって言うなら、こっちも退避することは出来ない、ほんっとにいい迷惑、テンパは普通の兵士らしいが、フロルドは召喚者のようだ。

「隊長自分が残ります、退避してください」
 ライカがそう言ってくるが、俺はソルセリーに最後まで残ると約束したし

「ライカここは俺が一人でやる、後は全て退避しろ」

「しかし!」

「ライカ! ここは撤退だ後はハヤトに任せろ!」

「何を言って!‥‥」

「ハヤトには召喚獣がある、俺達がいても一緒には退避出来ない、逆に退避する時に邪魔になる」

「‥‥わかった、 隊長ご武運を」

 遠ざかるライカに、背を向けたまま片手をあげ、そしてそのままその手で仮面を外した。

「へぇ~映像で見たグラースオルグのご尊顔を生で見れるとは、ついてるねぇ~」
「ついてるか? まぁ、でも情報は本当だったみたいだな」
「威圧の消滅っと、な? ついてるだろ?」
「ああ、これで怯えることなく戦えるからな!」

 敵召喚者のフロルドは、黄色の魔法陣から双頭の獣が出現させる、オルトロスに似た召喚獣、オル&トロスの元の形  

 ミオロゼを呼び出した。


「さぁ‥‥やろうか? グラースオルグ」
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