異世界陸軍活動記

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敵兵の秘密

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 『アドレナリン』という体内で作られるホルモンがある。
 副腎で生成され、興奮状態にある時運動器官に血液が多く流れ、感覚器官が鋭くなる、それと同時に痛みを感じる感覚器、痛覚がマヒし痛みを感じなくなる

 なんて説明してみたけれど、何でまたこんな知識を知っているのか? ちなみに一度目にしたり聞いた物を鮮明に思い出し、同時に心の奥底に閉まってある黒歴史も同時に思い出してしまうという『回想』魔法は使っていない。
 話を戻すが、何故知っているのか? 
 以前、アドレナリンが出過ぎる、もしくはよく出ている人は禿げると聞き、怖くなって調べた事があるからだ

 『敵輸送部隊の壊滅任務』
 当初の作戦は失敗に終わる事になり、作戦を遂行した小隊、そして応援として加わった俺とエクレールそしてオーバだが誰一人欠けることなく帰還する事が出来た。
 ただ、五体満足なのはエクレール位で、その他全員負傷しての命からがらの帰還となった

 俺は肋骨の骨折、よく漫画なんかで
 「クッ! 骨が折れたか!」
 なんてシーンがある、その後何事もなく普通に戦ってたりするが、あれは嘘だ。
 まず息が出来ないし声を出す事すら難しい、まあ程度にもよるだろうが

 そして左腕の肘から先を失った。召喚者殺しによって手の平から貫かれた時、骨が砕かれる感覚と鈍い痛みが走ったが、肋骨が痛み出した時と比べると大したことは無かった。これもアドレナリンのおかげだろう、一説によると、手足が切断を伴う損傷を受けた際、アドレナリンが出ないとショック死するらしい、ならばこのアドレナリンに俺は何度命を救われたか‥‥‥

 それともう一か所、右手の指を損傷していた。
 辛うじて親指だけは残っていたが、オーバから回復薬を受け取る際に指摘されて気づいた位で、オーバに言われるまで全く分からなかった。
 フロルドに触れ、直接魔法を叩き込んだ時に負った負傷だった。鎧の『耐壁』魔法がまだ残っていたとはいえ、爆心地のど真ん中にいてノーダメでいる方がおかしいのだ。逆に良く指だけで済んだと思う。
 この時の痛みを感じさせなかったのもアドレナリンのおかげだろう

 俺を守ってくれるアドレナリンと、それを生んでくれた副腎に心から感謝を捧げる

 さて、これだけお世話になっているアドレナリンだが実は諸刃の剣、俺の毛髪は大丈夫なのだろうか? 無くなるのは仕方ないと覚悟して、出来れば‥‥本当に出来ればでいいので、なるべくずっと後にして欲しい


「━━てのがアドレナリンの役目ね」
 という話をタクティアに話してあげると

「へぇー」
 と言いつつ、視線は俺の頭に目を向けていた


 ◆◇

「お待たせしました」

 俺とタクティアがいる部屋に入ってくる熟練兵士こと、オーバ・パイルプス、先の作戦では熟練の技を次々と見せてくれた頼れる兵士である。
 斥候のような仕事も出来るし、接近戦もお手の物『地雷』の有効性を俺に示してくれた人物でもある




 地雷? そんなの使えないじゃん
 
 そんな考えだった俺は日本に居た時、テレビで戦争が終わった今でも地雷に苦しんでいる民間人がいる、という番組を何度か見て来た。
 そこには片足を失った少年や少女など、見るも悲惨な姿をしている子供達。その今でも子供達を苦しめる地雷を撤去する為、日本からも人材が派遣されているのを知っているので、地雷自体に良い思いは無かった。その為今まで使用をしていなかった

 それに味方が引っ掛かる可能性もあり、踏まなきゃ意味が無いという事で『使えない魔法の使い方』として俺の中にあった

 だが、地雷を設置する事で、敵を逆におびき寄せる事も出来るし、負傷はもちろん敵の魔力を減少させる事も出来る、先の輸送部隊の攻撃が失敗し、追手が付いた時、その有効性がはっきりとした

 召喚獣のポッポに追ってくる部隊を監視させ、敵部隊が進むであろう進路上に地雷を設置し、尚且つ少しずつ味方が逃げる進路からずらして行く、面白い位引っかかる敵兵に、途中から鍛冶仕事で使用する予定だった金属を地雷に設置した所、負傷率が格段に上がっていた。
 それには地雷の有効性を示してくれたオーバも「へぇー」と感心していたが、それとこの地雷には有効期限がある。『氷』魔法を使用している為、それが溶けると当然の事ながらその効果も失われる事となる
 





「エクレールの回復魔法は素晴らしい物がありますね、軍本部の医者には及ばないが、それでもかなりの腕ですよ、隊長に教わったと聞きましたが?」
 オーバが負傷した肩を回しながら、用意していた椅子に腰かけた

「うん、俺が改良したのをエクレールに渡しているんだよ」
 自分も『癒し』は契約出来ているが、全く効果が無いので改良した物は全てエクレールに渡してある。『回想』魔法を使って知識を思い出し、その副産物に涙しながら改良したものだ。
 俺が改良し渡した物と、エクレールが今まで回復してきた怪我人の数から、彼女の『癒し』魔法の力は日に日に上がっており、このままだとハルツールで一番のの使い手になるのでは? と思っている。少し身内贔屓な考え方だが、そう遠くない将来はそうなるだろう、俺もその練習台として貢献しているし

「さて、集まった所で始めましょうか」
 タクティアが目の前にある魔道具を起動させる

 無事に自分達が受け持つ場所に帰って来れた俺と、同じく同行していたオーバとエクレールは、通常道りの仕事に就く事となる。
 以前はマシェルモビアの最前線だったこの場所も、この東地区の戦線の押し上げにより、今では補給物資の集積所になっている、1日に何機もの竜翼機が離着陸し、ここから竜翼機、もしくは軍用車で各拠点へと配送されてゆく

 この部屋いる俺とタクティア、オーバの3人以外は、この拠点で物資の管理や拠点の整備などに励んでいる
 
 タクティアが起動させた魔道具は映像を記録する物であり、俺がフロルドと戦う前に付けていた物だ

 魔道具から映し出された映像には、フロルドとの交戦の記録があった


 ◆◇

「‥‥‥分かりませんねー」
 いつも朗らかフェイスのタクティアだが、無表情で映像を見つめている

「何度見ても魔法を発動させた形跡がないな」
 経験の長いオーバですら、その状況は理解不可能

「‥‥‥」
 魔法には自信がある俺もお手上げ状態だった

 3人でこの戦闘記録を見ていた理由は、フロルドの魔法の事についてだった。『水』魔法は発動すらせず、その他の属性魔法『火』『土』『雷』『氷』『風』は発動と同時に爆発する。
 フロルドが『水』魔法を使えるのは知っている、ただその魔法が放たれた形跡が全くないのだ。
 魔法主体で戦っている俺には死活問題に近い物があり、もしこれがフロルドの魔法ではなく、『魔道具』の類だとしたら、俺だけではなく、ハルツールとしても困難な状況になってしまう

 ハルツールよりも魔道具の開発が進んでいると認めざるを得ない状況で、もしこの魔道具が大量に生産されるとしたら‥‥

 それとこのフロルド、後ろにも目があるのではと思う状況が何度もあった。『探知』持ちの可能性も無い訳ではないが、『元』探知持ちの俺からすると、少しばかり範囲が狭いような気がする。
 『探知』魔法の範囲は50メートル程、更に範囲を広めるためには魔石などを触媒とする。
 このフロルドが探知持ちだと仮定しても、その範囲は10から15メートル程、いや20はいっているだろうか? 通常の探知の約半分以下でしかない

「不可解ですね」
 オーバは目が疲れたのか、魔道具から目を離し瞼を触っている

 俺は昔取った杵柄と言ったらいいのか、ゲームで画面を見続けて鍛えて(?)いるからそうでもないし、タクティアは毎日のように書類整理で目を使っているのでそんなに疲れてはいない

 「うーん」と唸りながら瞼を触るオーバを見ていると、何だか老人みたいだ

 そんな俺とタクティアの視線に気が付いたのか
「今自分の事を年寄りとか思ってませんでしたか?」
 
「「思って無い」」

 二人同時に同じことを言ってしまった。どうやらタクティアも俺と同じことを思っていたようだ。

「年寄りとは思って無かったよ、老人だとは思ったけど」

「それは一緒ですよ‥‥」
 しょんぼりしてしまったオーバだが、流石に俺自身も何時間も映像を確認していては疲れる、コレを見終わったら少し休憩しようか?

「正直俺も疲れてるから、コレを見終わったら少し休憩しよう」

「そうですね、私も映像がチカチカ光って疲れていましたら」
 何となく気を利かせたタクティアが賛同する

 その会話の途中でも映像は続いていた。そして、最後の場面になる、俺が狂ったと見せかけてオーバを吹っ飛ばし、日本語で魔法の詠唱をしていた場面だ。
 大体の魔法なら詠唱無しで発動可能だが、ここまで大きな魔法だと、まず練習する場所が無い。ハルツール内ではもちろん不可能だし、例え緩衝地帯であったとしても、辺りの被害だとかを考えるとポンポン打てるものではない。
 なので大きな魔法を使用する時は、ぶっつけ本番になる事が多い、練習が出来ないという事は自ずと詠唱が必要となってくる。
 そのまま詠唱すると大きな魔法を使うとバレてしまうので、日本語で詠唱をしてみたが上手くいって何よりだ

 映像からは大きな爆発音がし、フロルドから離れていくところが映し出されていた。フロルドから離れる際、女兵士に攻撃され、レールガンで迎え撃ったのだが‥‥

「ちょっと止めます」
 
「どうしたタクティア、何か気づいたか?」

「いえ、この爆発の淵の方にある白い煙は何ですか? 『火』以外にも何か魔法を使ったんですか?」

 白い?

「確かにありますね、私は隊長に吹っ飛ばされてこの場に居ませんでしたから私では無いですね」
 オーバもその白い煙を確認する

 確かに爆発直後、煙の様な薄い白煙がゆっくりと爆心地から離れるように漂っていた。

「『火』以外は使ってないし‥‥、ただ単に水が蒸発しただけなんじゃない?」

「ふーん、そうですか」
 
「ま、何にせよ少し休憩しようか、オーバの目も限界のようだし」

「え、ええ‥‥助かりますよ」
 強く瞼を閉じたオーバの目からは涙が出て来ていた。そのまま背を伸ばすとボキボキと背骨を鳴らしている、爺臭い

「ラグナ、お茶を用意してくれる?」

「只今‥‥」
 見計らっていたかのようにテーブルにはお茶が用意された。
「お茶菓子はどういたしましょうか?」

「チョコレート! チョコレートでお願いします」
 キラキラした目のタクティアは主張し

「私はういろうでお願いします」
 甘い物が苦手なオーバはういろうを、とは言っても俺からしたら砂糖の塊にすぎない

「じゃあ俺は‥‥市販のチョコレートでも貰おうか」

「「えっ?」」
 ラグナとタクティアが驚くが、たまには食べたくなる時もある、黒い砂糖の塊ともいえる市販されているチョコレート、余りにも皆美味しそうに食べていると何となくそんな気分になる事もあるんだ。
 まぁ‥‥食べた後に後悔するんだけれど

「よ、よろしいのですか?」
 ラグナが確認を取るが、男は一度決めた事はそれを覆さない、それが男というもの
 それが俺の『男道』だ


 ・・・・

 ・・・・

「働いた後のチョコレートは本当に美味しいですね」
 幸せそうな顔のタクティアと

「まったく‥‥」
 静かにういろうを食べるオーバ

「やめとけばよかった‥‥」
 そして後悔している俺

「もしかして食べないんですか? 私が代わりに食べましょうか?」
 何て言ってきたタクティアに食べかけのチョコレートを渡し

「ラグナ、野草の塩漬け頂戴」
 口直しの為にクジュの村直送の塩漬けを頂く、口の中に残る邪悪な砂糖を、塩が全て浄化してくれた

「隊長はそれをよく食べてますが、美味しいんですか?」
 オーバが塩漬けを見てそんな事を言う、おっとぉ!

「ん? 気になった? 気になっちゃった? ラグナ、こちらの方に塩漬けを一つお出しして」

 オーバの目の前に出された一口分の塩漬け
「ほらほら食べてみて、最高に美味しいから」

 その横でタクティアが
「止めておいた方が‥‥」
 とか言ってくるが、オーバはそれを気にすることも無く

「ふむ」
 と言って野草の塩漬けを口の中に入れた‥‥が、途端に「ガッ!!」と痰でも吐きそうな音を出し、目の前のお茶を一気飲みする、そして喉を抑えながら残っていたういろうを一気に口に入れ、何となく口の中を洗う? ような食べ方をした

 そしてタクティアが何故か自分のチョコレートをオーバに差し出していた。そのチョコレートを口の中に頬張ったオーバは暫く飲み込む事をせず、口の中に暫く含んだままだった

 そう‥‥それは俺がさっきしたような、塩漬けを砂糖で浄化するような行為に似ていた

「な、なんてもん食べてんだ隊長は!」
 ゴックンと飲み込んだオーバが開口一番叫んだ言葉

「美味しかっただろ?」

「喉が焼けるかと思いましたよ! それにあの‥‥おえっ」

 今まさにその塩漬けを食べている最中なのに、「おえっ」とか言わないで欲しいこんなに美味しいのに‥‥‥

 一度掴んだら離さない程チョコレートが好きなタクティアが、人に分け与えるという珍しいものを見ながら、コーヒーに味が似ているクオルシに口を付ける
 
 この苦さが癖になるな、舌がおこちゃまなこの人達には一生かかっても辿り着けない境地だろうが‥‥‥

 ようやくオーバの口の中が砂糖一色になり落ち着いた時

「ところでハヤト隊長、この映像なんですがやはり軍本部の方に送った方がいいと思うんですが」

 自分達だけじゃもうどうしようもないし、俺もその方がいいと思っている、こんなの調べろと言われても無理だ。さっきから何時間見ても分からないんだから、面倒なのは他の人に任せる事に限る

「俺もそう思うよ、専門の人に任せよう、ハルツールに戻る竜翼機に渡そう」

「ええ、そう手配しておきます」

 さて、この話はもうお終い、あとは本部に任せよう、カップに少し残ったお茶を飲み干し
「ラグナ、お代わり頂戴」

「出来れば私にも」
 もう少し砂糖が足りないオーバもお代わりを所望、塩の浄化がまだできていないのか、その表情はすぐれない

 ラグナは俺とオーバのカップにそれぞれ別のお茶を注ぐと、オーバはそのお茶を口に含んで舌を動かしていた。何となく汚い飲み方だが、さっき俺もそうしたので何も言えない。
 そして俺もお茶を飲もうと自分のカップを見たが、そこからは白い湯気が立っている、少々猫舌な俺は少し冷まそうとカップを取らず、そのままお茶が注がれたカップを見ていたが‥‥‥

 ‥‥‥

 ‥‥‥湯気

 『白い煙は何ですか?』
 『水が蒸発しただけなんじゃない?』

 ‥‥‥水蒸気



 何となく頭の中にそれぞれのパーツが漂うが、それが何なのか分からず、何か掴みかけているような、逆にそうでもないような、そんな違和感が‥‥‥。
 それは頭の中で空回りし、結局掴むことは無かった













 何て事は無く、がっつりと一つの可能性にたどり着いた

「オーバ、直ぐに外に出てくれ、少し試したい事がある」


 ◆◇


「よしいいぞ、魔法を俺に向けて撃ってみてくれ、あ! いや、待って‥‥よし、いいよ」
 初めての事だから調整が難しい

「いいんですね? 行きますよ?」

「ああ、でもできるだけ威力の小さい魔法がいいな、小さいやつね」

「では、いきます」
 オーバは発動が分かりやすいよう右手を出し、そして━━
「うおっ!」
 発動と同時にオーバの右手で爆発を起こした

「あ、あの時と同じ‥‥」
 
「ハヤト隊長からは魔法を発動した気配がありませんでしたし‥‥一体どうやったんですか?」

 フロルドと同じ事をやってのけた俺にタクティアとオーバは驚いているが、種が分かってしまったらなんて事は無い

 フロルドは魔道具ではなく魔法を使っていた。しかも『水』魔法、カップから出る湯気で気づいたが、その種明かしをするとそれは
 『湿気』だった。
 分かり切った事だが空気中には水分が含まれている、フロルドは己の『水』魔法を限りなく小さくし、湿気のように自身の周りに発動していた。
 映像に写っていた白い煙、あれは俺の『火』魔法により蒸発したフロルドの魔法、それとフロルドの近くにいると何故か息苦しくなり、体力が奪われるのが速い気がした。
 戦闘により奪われていると思っていたが、そうでは無かった。俺もオーバも奴と戦っている時、大粒の汗をかいている、いくら激しい戦いをしていてもそんな短い時間に大粒の汗などかかない、湿度の高い夏などによくある現象に酷使しいる

 そして最もな証拠として、『水』魔法は相殺されるという事、つまりフロルドは『水』魔法を使い、魔法の効かない自分の領域を作っていたのだ

 更に、フロルドは探知魔法が使えるのかと思っていたが、実際は何かが近づいた場合、空気中の水分、つまり湿気が移動し、魔法を発動した人物がそれに気づく事が出来るという事だった 

 これによりフロルドの使う不思議な空間の秘密を暴いた事となる
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