異世界陸軍活動記

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赤い柱~地平線

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『私の実家がブレドリアにありまして、代々そこで定食屋をしてるんです。周りに工場が多い場所ですから、そこの従業員相手の商売なんですが、祖父が今そこで商売して私は小さい時に手伝いとかしてたんですよね、祖父が引退したらその店を私が継ごうかと思ってるんです。
 父は店を継ぎたいと思って無いので、多分自分が後を継げると思います。祖父が引退したら私も軍を辞めて定食屋のオヤジをしたいと思ってるんですよね。
 もしよかったら少尉も一度食べに来てください、サービスしますよ』

 だから一刻も早くブレドリアを取り戻したい‥‥


 ブレドリアで生まれ育った一人の兵士が俺に言った




 ◆◇


「正面建物内、敵兵確認!」

 レンダルの言葉と同時にその建物三階部分の窓に向け、『氷』魔法を放った。
 魔法はそのまま窓から室内に入り、中にいた敵兵に直撃した。そしてその衝撃の余波で建物の外壁が崩れる。
 崩れた外壁の裏側に敵兵の影を二人確認、今度は建物の一階部分に向けて巨大な『土』魔法を放った。一階部分に直撃した魔法はそのまま外壁や柱を破壊、その破壊により重さに耐えられなくなった上階は崩れ出し、中にいた敵兵諸共崩れ落ちた

「た、隊長!?」

「追撃しろケンタ君」

「は、はい!」
 崩れ落ちた建物に向け、ケンタ君は更に魔法を放つ

「グース隊長!?」
 
 本来建物は個人の所有の為、兵士は建物に攻撃を加えることを極力抑えるようにとされていた。だが俺はそれを無視し建物に対し攻撃を加える。
 禁止では無いが、直接建物に攻撃を加える俺を見て、隊員達そして、今回俺は3つの小隊の指揮を預かっている、その小隊の部隊の人も驚き目を開く。
 その周囲にいた味方兵士に向け━━

「建造物の被害は無視しろ! 敵兵がいたらそこに攻撃を叩き込め、責任はこのウエタケ・ハヤトがすべて持つ!」

「りょ、了解しました‥‥」
 
 その言葉を聞き、周囲にいた兵士達はためらいながらも建物内にいる敵に向け攻撃を開始した。
 敵兵は建物に被害が出ぬよう立ち回っていたハルツール軍の立場を利用していたが、突如破壊を始めたハルツールにあぶり出されるように外に出て来た。
 これ以上中にいると建物ごと潰されると考えてだろう、建物から出て来る敵兵はまとまっては無く、各個で逃げ出て来ている。味方を待っていたら押しつぶされるからだろう、そこに我が部隊の攻撃が加わる事になる

「一兵も逃がすな!」
 マシェルモビア軍には簡易的な移転門がある可能性が多く、例え一兵でも逃がした場合、もし逃げた兵士がその装置を持っていた場合、後方を取られそこから一斉に敵兵が現れる可能性がある為、ここで全て討ち取る。
 捕虜は取らない、もし相手が武器を投げ捨て自分から捕虜になるというのならば仕方ないが、出来れば捕虜にならずここで全て死んでほしい

 何故そう思ったのだろうか? 捕虜を取らなければならなくなった場合、それに余計な人員を割くからだろうか? ‥‥多分別の思いがあると思う。
 この先、あの赤い光の柱の場所に急がなければならないような、そんな焦る気持ちがあった。
 あの場所を確かめなければと‥‥

 いや‥‥既に分かっている、上空に召喚獣を飛ばしその見た景色を俺も共有している。
 だからこの先に何が待っているのかは既に知っていた

 雲を突き抜け天を貫く程の赤い柱はその後、出来の悪いCGのようにゆっくりと崩れた。それはまるで雪崩のようにゆっくりと裾野へと広がるように‥‥。
 魔法に関してはかなり理解のある自分だが、あの赤い柱は一体どのような魔法を使っているのか全く理解できなかった。
 俺の知らない魔法なのか、それとも掛け合わせて出来た魔法なのか?。
 とにかくアレは普通ではなかった

「探知!」

「のこり前方2、右白い建物3!」

「3小隊右へ! 竜騎士隊前に!」

 右の白い建物は3個小隊に任せ、竜騎士隊の4人は前にいる敵を攻める。相手は既に逃げ腰であり前方の敵は背を見せていた

 前方にいる2人の敵兵の内、1人が別の建物の窓を割り侵入する。建物の構造上、反対側にも窓もしくは入り口があり、そこから抜けて逃げるつもりだろう。
 もう1人は3人に任せ、俺は敵が逃げ込んだ建物の中に侵入する

「デュラ子援護しろ!」

「承知!」
 コトンの魔法陣の中にいた召喚獣のデュラハンの片割れ、デュラ子が魔法陣から飛び出してくる。敵が飛び込んだ窓とは別の窓に飛び込み室内に侵入、追ってデュラ子も同じ窓から飛び込んでくる
 目の前には破壊されたドアが開いており、その奥には敵の姿があった。
 こちらが敵を視認したのと同じく、敵もこちらを視認、次に敵が取った行動は俺らがやった事と同じ行動を取った。
 俺の姿を視認した敵は咄嗟に天井に向け魔法を放つ、魔法が直撃した天井は当たり所が良かったのか、一気に崩落。
 上からは天井が崩れ落ち、敵兵との間に敵を庇うように落ちてきたが━━

 風神乱舞!
 
 槍を中心にし螺旋状に『風』魔法が発動、崩落した天井諸共吹き飛ばし、そのまま敵の腹に槍を突き立てた

「お見事!」
 援護の為に俺の後ろに居たデュラ子が叫ぶ

 多分これで全部だろうか?
「外に出るぞ」

「はい、それにしても旧主。素晴らしいお手並みでした」

「まあね、色々経験したしね」

 デュラ子と共に建物の外に出ると、もう1人の敵兵を倒したのかレンダルがいた
「区画確保しました」

「そうか、そのまま上に報告を」

「了解」

 右の敵を叩き終えたのか、3つの小隊も集まってくる。その内の一人の小隊長が
「敵兵排除しました」

「ご苦労さま、一応『探知』持ちは辺りを警戒、解除の魔法も忘れずに。疲れてはいるだろうが後処理をしてくれ、敵の死体は一か所に、手の届かない死体は目印を、怪我をした者は手当てを‥‥死んだ者はいないよね?」

「はい、負傷者のみです」

「ならすぐに動いてくれ、戦闘が出来ない兵士はここに残して後続の部隊に全て任せる。俺達は直ぐに次の区画を攻める」

「了解しました」






「‥‥はぁ」
 戦闘での緊張感が解け、軽いため息が出る。
 竜騎士隊のケンタ君、そして3つの小隊の兵士達が後始末を始める。負傷した兵士の手当てや敵兵のの遺体の確認。そして他にも敵がいないか周囲の索敵。
 レンダルはブレドリア奪還本部への連絡をしている。

 ‥‥それで何故か何もせず俺の左隣にいるコトン。
 仕事してくれませんか?

「ねえハヤト」

「どうした?」
 みんなのお手伝いしてよ

「なんか怒ってる?」

「・・・・」
 怒って、る? 俺が?

「いつもと感じが違うけど?」

「別に‥‥怒っては‥‥」
 あーなるほど、コトンに言われてやっとわかった。なんだか焦る感じというか落ち着かない感じがすると思っていたが、どうやら俺は少し腹をたてているようだ。
 何に対して腹を立てているのか?

「‥‥コトンも、皆の手伝いをして来てくれる?」

「うん‥‥」
 いつもの俺と感じが違うせいか、コトンは素直に皆の元に向かった

 コトンが皆の元に向かいその後ろ姿を確認すると、俺はたった今破壊した建物に印をつける。中に敵兵の死体があるが瓦礫で少し埋まってしまい取り出すのに時間が掛かる。
 この敵兵は後続の部隊に任せる事にする

 印をつけた後、おもむろに小さな瓦礫の一つを手に取った。
 
 怒ってるか‥‥何に対して怒ってるのかな‥‥

 大量破壊兵器の事だろうか? もちろんあまりいい物ではないと思う。日本だって色々やられたし、いろんな写真も見た事がある。
 出来れば使って欲しくない兵器だが、最も効果的なのも同時に知っている。
 次に生まれてくる命を絶てば次の兵士は生まれないし、生活の地盤そのものを破壊すれば命を繋ぐことすら難しくなる。同時に破壊された場所で運よく生き残った者がいたとすれば、その者自体が足枷になる。生活する場所、働く場所を失った者はどうしたって他を頼るしかない。

 そして、一番大きいのが絶望感だろう。自分の住んでいた場所の変わる果てた姿を見たら余程の事が無い限り立ち直れないと思う。
 戦いの場が緩衝地帯から都市に変わった事で、都市への攻撃自体あるのは分かっていたが‥‥

 多分‥‥その破壊兵器を自国内で使った事に少しもやもやとしたものがあると思う。何となくハルツール‥‥国に裏切られた感が多少はある。
 コトンが怒っていると感じたのはそれの事だろう

 それにしてもブレドリアに兵器を落とす事を、ブレドリアの代表はどう思ったのか? ハルツールは一つの国とはいえ、EUもしくは国連のような形をとっている。
 兵器を使うとなるとブレドリアの都市代表が許可をしなければならないが、国の為にと思いそれを許可したのか? 
 ブレドリアを早く取り戻さないとハルツールの内部に入り込まれる為、一刻の猶予も無かったのだが都市の代表も余程の覚悟を決めたのだろうか?
 
 もしかしたら、マシェルモビアに自国の領土を踏まれたという怒りと恨みが強いような感じがする




 俺とマイナがマシェルモビアに2度目の買い出しに行った時、俺は口座が消滅していたのでトルリにお金を払ってもらうために彼女に会いに行った。
 トルリはその時家族を紹介してくれたが、その時、俺もトルリ夫婦も軍人であったために話は自然と軍の話になった。
 その際、マシェルモビアは二か国の戦争についてどう思っているのかを少し聞いてみた

「う~ん、公共事業ですかね?」
 トルリはそう言った

「公共事業?」

「はい、マシェルモビアもかなりの人口を抱えているのでどうしても職が足りなくなってしまうんですよ、そうなると色々と不満や不安なんかも出てきますし、社会的に良くないんです。
 そんな人達が増えないための公共事業ですかね? 魔法の契約が出来ても入社試験に落ちて普通の会社に入れないとか、何かしら性格に難があってとか、そういう人達を軍っていう会社? に入れるんですよ。
 不満とか不安とかが増えれば、今ハルツールと戦争していますからそちらに目が向いてますけど、戦争が無くなったらその目が国に行きますからね。元々会話で一つの国になったハルツールとは違って、マシェルモビアは戦いで無理やり自国の領土にして大きくなったので、その所々でいろんな綻びがありますからね。私達が住んでる都市でもやっぱりそう言った話はちょくちょく聞いたりしますし」

「‥‥要は、落ちこぼれって事?」

「そうですね、頭と体がついていたら誰でも入れるとか言われてますから」

「へぇー‥‥落ちこぼれ」
 俺はトルリとその旦那を見た。特に意味は無いけど

 その妙な視線に気づいたトルリは
「わ、私は違いますからね! ちゃんと試験を受けて軍の大学に入りましたから! 別に落ちこぼれとかじゃないです」

「でも普通の会社に入れなかったから軍学校に行ったんでしょ?」

「そ、それはそうですけど‥‥で、でも最終的には大学に入りました! そういうハヤトはどうなんですか? 初等部しか出てないって情報が入ってますよ」

「そこまで知ってるのかよ‥‥マシェルモビアの諜報は優秀だね。でも俺は前にいた星では大学に行ってたし、その途中でこっちの星に来たから中退になるけれど、でも試験は一発だったよ? ちなみに軍大学は入学するとしたら、俺があまりにも優秀すぎるから試験はパス出来るってさ」

「試験をパス出来るていうのは優秀とは違いますよね? 要は経験の話でしょう? 経験で試験をパス出来るって事でしょう? 私は一から勉強をしてちゃんと試験を合格したんです、私は結構頭いいんです」

 俺とトルリの会話を聞いていた軍大学の試験を合格できなかったトルリの旦那は、その横で俯き何となくいたたまれない感じになっていた

 
 戦争は終わらない、終わったら困るというのがマシェルモビアだった。
 緩衝地帯でずっとおしくらまんじゅうをして、少し押したり下がったりするのが理想。
 それがマシェルモビアの考え方だった

 一方のハルツールは今思うと憎しみのほうが強いと思う、初等部を途中で止めてその後1年間、その当時お世話になったミャマーさんに特別勉強を受けたが、その時使った中等部の歴史の教科書にはマシェルモビアに対する恨みに近い内容が書かれていたと感じた。
 昔、ハルツールにも王はいたが平和協定が結ばれた直後、マシェルモビアによって王族全てが暗殺されそれに怒り狂ったハルツールは、緩衝地帯を越え無理やりマシェルモビアの首都に攻め入ったという。
 最終的には補給の事を考えず、ただマシェルモビアの王を殺すという目的だけで突き進んだため、途中で力尽きてしまったが。
 ハルツールはその時の恨みを今でも持っている、そしてハルツールは軍に入る事を『名誉』としている。軍に入る事でマシェルモビアを討ち倒すと‥‥。
 そのせいかハルツール軍に入る者は志が高い者が多い

 武力で大陸の北部を統一したマシェルモビアは、正式名称マシェルモビア帝国と呼ばれている。帝国と聞くと何となく領土に対する野心とかが強く感じるが、実際今はそうでもない。
 逆に会話で大陸の南部を統一したハルツールの方が領土的に野心を抱いているようだった



「グース隊長、報告完了しました」
 レンダルが報告完了を伝えに来る

「うん」

「何処も凄い速さで区画確保しているようです、自分達もかなりの速さだと思っていたのですが、完全に確保した部隊もいるようです。凄いですねハルツール軍は!」
 嬉しそうにするレンダル

「そうだね」
 
 ブレドリアのマシェルモビア軍は既に《壊滅》状態にある。連絡網が寸断され情報が行き届いていない部隊もあるだろう。
 そういった部隊は俺達が戦った今のマシェルモビア軍の部隊のように、何が起こったかも分からず戦っていると思う。
 奇跡的に情報が伝わった部隊はもう既に逃げているだろう

「それで‥‥グース隊長、この進撃の速さにあの赤い柱は関係あるんですか?」
 レンダルの表情は一転して真面目なものへとなった

「さあ‥‥、区画確保をして進んで行けば分かるだろう」

 それは嫌でも分かると思う



 ◆◇

 俺が率いる部隊の割には珍しく連戦連勝を重ね、次々とブレドリアの区画を奪還していく。
 『楽勝』という言葉が部隊の中で聞こえてくるようになり、進めば進むほど敵の存在が無くなる

「あいつらきっと俺達に怯えて逃げたんだぜ!」
「大したことないよなマシェルモビアなんて」

 気のゆるみにも似た空気が流れるが、俺はあえてそれを戒めなかった。実際ブレドリアを占拠していたマシェルモビアは既に撤退している。空から召喚獣の目で探しても人の姿一つ見つからなかった。
 見つかるのは別の区画を確保しているハルツール軍の姿であった

 そして進むにつれ、風が少し強くなってくる。強いと言っても元々この世界は女神によって天候が管理されているので、大したことは無い。
 軍艦に乗った時感じた緩い風、それと同じような風が肌に触れるようになる

 そして進むにつれ、空が広く感じるようになる目に見える建物の奥には高い建物が見当たらなくなる。その目の前にある建物同士の間に空が見える、上を見上げなくても空は見えた

 そして進むにつれ部隊員の口数が少なくなる、その違和感に気付いたからだろう

 そして‥‥
 
 その先に進むと

 目の前には俺が始めて見る『地平線』が広がっていた

 その光景に誰もが口を開ける、口は開いているが言葉を発せずにいた。
 上空からの景色を見ていた俺は、こうなっているのは分かっていた。だが、自分の目でその光景を見た時には流石に声も出なかった。
 ただ、心の中で思った事は

 そりゃ、神様に怒られますわ

 そう思った

 
 ブレドリアに落とされたあの赤い柱は、都市の約7割を消滅させた







 誰もが声を出せずにその場に立ち尽くす、声を出せずにその光景を見つめていた。

 そして不意に気づくその違和感、空気が変わる瞬間。あたかも先ほどからいたかのように俺の目の前には━━

 女神サーナが立っていた

「女神‥‥」
 
 横に視線を移すと隣にいた兵士達は全て気を失い地面に倒れている。女神は直接人と立ち会う事は出来ず、ほとんどの人間は気を失う。
 前に大陸深部で俺の前に立った時も、ソルセリー達は全員気を失って倒れていた

 女神サーナはゆったりした歩調で俺に近づき、その手で俺の頬に触れようとしてくる。俺はその場から動かずその手が触れるのをただじっとしていた。
 どうせ抵抗しようとするものなら、女神は必ず『威圧』を使い俺の動きを止めるだろう。逃げても無駄、戦っても無駄。
 それはこの世界の神が決めたのだから、全てが無駄なのである

 女神サーナの手は俺の頬に触れ、優しく微笑んだ

 そして俺の中で何かが封じられた感覚、以前『探知』と『火』の魔法を封じられた時と同じ感覚が襲う。
 女神は俺の何かを封じた後、ゆっくりとほほ笑んだまま消えていった




 何度も‥‥何度も何度も邪魔しやがって

「クソババア‥‥」

 初めてその目で地平線を見たその日、俺は残り5つの属性魔法の全てを『封印』された
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