異世界陸軍活動記

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因縁と因縁

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 ライカ・ダーモンは召喚獣カーネロにまたがり、トンプソンの町を南に向かい駆けた

 自身の耳で聞いた、微かな爆発音が聞こえたと思われる場所に急ぎ向かっている。自分以外は誰にも聞こえなかった音だが、ライカは何かしらの問題が発覚したと考えていた。
 トンプソンからの撤退では、自分達の部隊が必ずしんがりになるはずであった為、南側で戦闘行為が行われているはずがない。
 しかしライカは聞いてしまった。本来ならば部隊と一緒に一刻も早く撤退すべきであったが、今作戦はトンプソンどころか、都市ロメの奪還が掛かっている為失敗は許されない。
 故に、どんな小さな不安材料も残しては置けないのだ

 自身が所属する小隊はもちろん、リクレク大隊の隊長であるオーバにも許可は取り、1人単独行動を取っていた

「もう始まったのか」

 ふと後方から聞こえる音、それは空気を伝いライカの背中に軽い振動が届く。
 ついに作戦が開始された合図でもあり、トンプソンの町の崩壊とマシェルモビアに直接攻撃をする音でもある。
 それと同時にライカの命を奪う可能性を秘めた音でもあった

 ライカは後方上空を見上げ、かすかに見える小さな砲弾を見つめる。高速で飛来する砲弾はトンプソンの中央に向け発射されており、その都度着弾の音が連続で響く。
 目標に反れた弾丸もあり、それは各所に散らばるように落ちている、後方はもちろんの事、前方にも着弾したと思われる音が響き渡る。
 その中で動いていない砲弾があるか注視する。
 動いていればそれは自分にとって問題ないが、もし止まって見えるのなら、それは自分の方に向かって飛んで来ているという事になる

「カーネロ、少しだけ右に逸れてくれ」

 少しだけ動きの怪しい飛翔物を見つけ、進路を右に取るよう指示すると、カーネロは少しだけ右に進路をとる


 もしこれで微かに聞こえた音が自分の聞き間違いだったらそれでいい、もしそうだったらそのまま南に抜けトンプソンへ降り注ぐ砲弾をやり過ごすはずであった。 
 だが、ライカが聞いた音は間違いでも気のせいでもなかった

 数発が着弾したと思われる荒れた地形が目に映る。
 建物は崩壊し、瓦礫が至る所に散乱。それとは別にどこから飛んできたのだろうと思うような巨木が横たわっている。
 そしてその場に立っている二人の兵士、一人はマシェルモビアの装備に身を包み、もう1人はハルツールの装備。
 双方ともかなりのダメージを負ったのか? その装備は破損だらけであった

 そして、ハルツールの装備に身を包んでいるのは元隊長であったウエタケ・ハヤトであった。
 何故この場にと思ったが、状況を見て直ぐに納得できた。
 ハヤトは横からハルツールを刺そうとしていた敵兵を食い止めていたのだと、軍全体が後方に後退する中、側面からの攻撃の事を考えての行動なのだろうと。
 二人の周囲にはその他に二人の倒れている兵士の姿があった。一人は足を負傷したらしく出血しており、もう1人は倒れたまま動かない。
 顔までは確認できないが、この場にいるのはハヤト率いる竜騎士隊の隊員達だろう。竜騎士隊には弟のレンダルもいるが‥‥倒れている兵士のどちらか━━

 召喚獣の足音で気づいていたのか

「後は頼んでもいいかな? ライカ」

 防具が破損し、砲弾の被害によるものなのか? 顔を黒く汚したハヤトは、少しばかりホッとしたような表情でライカに問いかける

「後は任せて下さい」

 ライカは召喚獣から飛び降り、少し下がっていろと召喚獣に手で合図をすると腰に差している二本の武器を抜いた

 それにしても‥‥ハヤトをここまで追い詰めた敵兵は一体何者なのだろう? 奇襲や罠を張ったとしても相手はハルツールで最強ともいえる人物。
 6万のマシェルモビア兵の内、2万人を葬り。2度の大陸深部の横断を果たした男なのだ。その内の1回はたった一人で、しかも新たな飛行可能な召喚獣が見つかるまで歩いて来たと聞いている。
 自分だったらそれが出来るだろうか? ‥‥いや、どう考えても無理だろう。
 サコナとタバル、そして自分が3人で深部を通過出来たのは奇跡に近い。運も味方してくれたのだろう。自分達の時は、恐らく味方が倒しただろう魔物の死骸が散らばっていた場所を通って行った

 一度深部を通過した事のあるサコナが 
「前に深部を通った時、私達が倒した魔物の後を敵兵が辿り追いついて来たの。だからこの魔物の死骸を追うように進みましょう。このまま行けば仲間に追いつけるかもしれない」

 という一度体験した事からの判断だった。
 ただそれも完全に上手くいくとはいかない、死骸に群がる別の魔物との戦いもあり、武器もほぼ失い、魔物を喰らい、何とか生き残れたのだ。
 もしあの時一日でもハルツールの救助が遅れていたら‥‥自分はここにはいなかっただろう

 そこまで過酷な環境を生き抜くハヤトを追い詰めた兵士とは━━

 武器を両手に持ち相手とハヤトの間に割って入るように立ちはだかり、その兵士を確認する。
 手には穂先が光る武器、これは召喚者殺しだろう。そしてその男性兵士の顔は醜く化粧が施された不気味な顔だった

 もしかして‥‥とライカは一つの事を思い出す。
 以前タクティアからハヤトには天敵がいると聞いていた。どんなに策を練り、手数を増やしてもその兵士にだけは勝てないと‥‥
 
 なるほど、この目の前の兵士がその天敵なのかもしれない

「何よアンタ! 私たちの邪魔をしようとしてるの!?」

 ハヤトとの戦いを邪魔されたのが勘に触ったのか、化粧の男は醜く化粧の施された顔を更に醜く歪め声を荒げる

「━━ッ!」
 その時、ライカの頭には一つの電流のような感覚がよぎった

 その声

 そして、化粧をし変わり果てているがその‥‥顔

 あまりにもの変わりように気付かなかった。だが、ライカは覚えていた。 
 その兵士の声と顔が、あの時の敵兵と一致した

 あの時、同じ部隊員であったベルフ・ラーベを自分の判断ミスで戦死させてしまった。そのベルフを殺した召喚者の男だった

「お、お前は!」





 ◆◇




 なんかあの二人、面識があったみたい

 世界は狭い
 
 改めてそう感じる


 先ほどのフロルドの水流攻撃によって、呼び出していた召喚獣のハーメルンは消滅してしまっている。
 少しでもフロルドの意識をずらしてライカの手助けが出来ればいいのだが、ライカには必要ないだろう。
 フロルドの意識がライカに向いている隙に、俺は重傷を負っていると思われるレンダルの元へと移動する

「レンダル無事か?」

 もちろん無事ではなく、生きてはいるが意識が無い。横腹を貫通する攻撃を受けており、直ぐに回復薬を取り出しレンダルの横腹に振りかける。
 そして防具の留め具を外し脱がせ、止血の効果を上げる為、包帯で胴をグルグル巻きにし、更に回復薬を傷口に振りかける

「これで大丈夫か」

 傷を負ってから時間が経つことも無く、素早く処置できたので命に関わる事は無いだろう。
 ケンタ君の方は‥‥大丈夫だな自分で処置しているようだ。後はコトンだが━━

 コトンがいた場所に行こうとした時、瓦礫の中からボコッ! と腕が飛び出す。その腕は召喚獣のデュラハンの腕であり、どうやらコトンも無事だった様子。
 ガラガラと瓦礫を掻き分けるようにデュラハンの姿が出て来た

 後は‥‥フロルドを何とかすれば



 『勇者』フロルド

 その男の話はマシェルモビアに行った際、トルリ・シルベから聞いている。
 どうやら最後に俺に敗れた際、自ら再教育を志願したらしい。そして一月後には手練れの兵士3人に対し無傷で勝利するなど、急激な成長を遂げた。
 その成長速度から『天才』とも呼ばれるようになったと

 フロルドは
「ふん」
 不機嫌そうに鼻で音を出したかと思うと、ライカに向け手を伸ばした。するとライカの顔を包むような大きな水球が現れる

「しまった!」
 俺は思わず声を出してしまう、それと同時に俺の周辺のに濃い湿気が漂う。
 フロルドは俺の周辺に湿気魔法を使い、『水』魔法の使用を阻んだのだろう。俺にはもう『水』魔法を使う力は無い、女神によって奪われたからである。
 それを知らないフロルドは湿気魔法を俺に使ったのだろう。だがそれがあったとしてもライカの顔にへばりつく水球を取り除く事は出来なかった。
 竜騎士隊には『水』魔法を使える者はいないし、『水』魔法を付与した人工魔石も持ってない。

 万事休す

 だが、ライカは慌てず左手に持っている『ガンブレード』の手元を指先でカチャカチャと弄ると、自分の右こめかみに当て、手元の引き金を引いた

 カチッ

 という軽い音を立て、顔に張り付いていた水球は消滅した

「チッ‥‥」
 鬱陶しそうにフロルドは舌打ちし、槍を構えに入った


 そうだった、ライカは属性魔法全てを付与された、魔法が放てる魔法剣を持っているんだった。
 ほっと胸を撫で下ろす、もしガンブレードを持っていなかったらこの状態で詰んでいただろう

 ライカは何事も無かったかのように少しだけ体制を落とす

 砲撃による爆発音が響く中、一瞬だけ二人の間には静寂が訪れる


 俺を退けた事で『勇者』の称号を得て、そして『天才』と言われるようになったフロルド。確かにフロルドは『天才』なのかもしれない。
 だが本当の『天才』というものをフロルドは知っているのだろうか?

 俺が知っている『天才』はお前ではない。魔法無しという条件であれば、一個小隊と戦っても一撃も攻撃を受けることなく全滅させることの出来る。
 それが俺の知っている『天才』だ。ハヤト隊の部隊員全員で掛かっても一度も勝つ事が出来なかった相手、それがライカ・ダーモンである
 
 お前も天才と呼ばれるなら薄々気付いているのではないか? だから俺から目を離しライカに対して槍を構えたのだろう?


 フロルドは召喚者殺しを構えた状態から動く。
 持ち手を変え、ライカに向けその槍を投げ放った

 放たれた槍はライカの胸を目掛け投げられたが、槍そのものに意思があるように軌道を変え、その狙いを胸から頭にへと向かった。
 だがライカは左手に持つガンブレードで、急に軌道を変えた槍をまるでそこに来るのが分かっていたかのように叩き落す。
 しかし、フロルドの本命はそれでは無かった。ライカが叩き落した直後には既にライカへの攻撃が通用する範囲までに潜り込んでいた。
 ライカによって叩き落された槍は直後に消えると同時、既にフロルドの手に再召喚されていた。これこそ『召喚者殺し』を最も有効に使った戦い方だろう、フロルドのその手の召喚者殺しは完全にライカの胴を捉えていた

 勝負は一瞬

 竜騎士隊4人がかりでも叶わなかった相手であったが、しっかりと大地に体と共に両足が付いていたのはライカだった。
 完全にライカの胴を捉えたはずのフロルドだったが、ライカが右手に持つもう一つの武器、俺の『雷雲』を参考にして作られた切れ味特化の武器により、フロルドの体は防具までも切断し上半身と下半身二つに分かれていた

 「ドサッ」という二つの音、下半身はその瞬間にはもう動く事は無く、上半身からは言葉にならない声が放たれる
「あッッあぁ゛」

 そしてそれがまるで合図かのように俺達がいた場所周辺に、ハルツール海軍の砲撃が集中する

「ライカ、撤退だ! デュラハン、コトンを連れて撤退しろ! ここはもう駄目だ!」

 一秒ごとに激しさが増す砲撃に、コトンをデュラハンが連れ駆け出し、ライカは弟のレンダルを乗って来た召喚獣カーネロに乗せ走り出す。
 俺は召喚獣ガルーダを呼び出し、足を怪我して動けないでいるケンタ君を無理やり背に乗せた

 その時

「ま、まって━━」

 上半身だけの状態になってしまったフロルドから声が聞こえたが、それを無視しガルーダで空に上った




 ・・・・

 ・・





「‥‥い、行かないで。どうせ‥‥死ぬのなら、貴方の‥‥手で━━」

 最後まで言い切る前に、フロルドを直撃するよう砲弾が落ち、後の言葉は続かなかった


 
 
 








 


 ◆


「あっぶねぇー本当に間一髪だった」

 たった今俺達がいた場所に次々と砲弾が落ちてゆく

「ケンタ君大丈夫か?」
 足を負傷したケンタ君を気遣うが

「ええ、かなり痛みますが処置はしましたから大丈夫です、でも痛みよりも隊長の召喚獣に乗れて感動してますよ。そう考えると痛みとかどうでもいいですね」

 どうやら大丈夫そう、でも一度直に確認しておこう

「なるほど、どれどれ?」
 
 俺はケンタ君の負傷した足をぎゅっと握った

「いてぇぇぇぇぇぇぇええええ!」
 絶叫するケンタ君

「うん、骨に異常は無いようだね、良かったね骨がやられてたら完治までひと月コースだったからね」

「なぁ、なんで、ギュっっとおおおお!」
 悶絶するのを見て安心する

「うん、それだけ元気なら命に別状はないね」

「握られたせいで死にそうですよ! あっッッ!!」

 大きい声を出したせいで余計に痛むのか、また痛がる作業に戻るケンタ君

「まあ、命令違反の罰則とでも思ってよ、もしかしたらケンタ君は死んでたかもしれないんだからさ、この痛みはいい教訓だよ。さてと‥‥」

 三人は上手く撤退出来たかな? と確認する為、召喚獣で白い鷹の姿をしたポッポを呼び出し三人が撤退したであろう場所を確認する。
 ヴァンギエル族を喰らった後からポッポの視力は数倍になっており、その目で3人を探しそのポッポが見ている光景を自分の右目に移す

「三人共無事みたいだな、とりあえず一安心と」

「こっちは無事じゃ無いです‥‥」
 ボソッとケンタ君

 三人の無事が確認されたので、ポッポからの視界を遮断しケンタ君に次の行動を話す

「ケンタ君、これから竜騎士隊はロメ奪還の拠点である『ショショウ』の町まで後退するから」

 痛みが持続しているせいか、俺の話しかけに少し億劫そうに反応する
「これから砲撃したトンプソンを抑える為に動くのでは?」

「んー、もしかしてコトンから聞いてる? 作戦の事」

「ええ、聞いたから隊長の元に戻って来たんですよ」

「そうか、でも流石にこの状態じゃ無理だからね、竜騎士隊は撤退だ。レンダルの状態からすれば‥‥2週間ぐらいかな? 動けるようになるのは。それまではロメ奪還のお偉いさんに頼んで休暇にしてもらおう」

 ケンタ君も自分の足の状態からこれ以上の戦闘は不可能だと思ったのか
「了解しました」
 と答えた

「ケンタ君は今回が初めての負傷になるのかな?」

「はい、ここまで酷いのは初めてです、こんなに痛いとも思ってませんでした」

「まあ、これからもこういう怪我が━━」

 その時、地上から撤退する三人を確認するために呼び出していたポッポが、くちばしでツンツンと頭を突っつく

「えっ? どうしたポッポ」
 
 敵竜翼機でも飛んできたのかと思ったが、ポッポはあっちの方を見ろと促す。ここから北の方角を向いていたポッポが促した通りに見たが何も見えない。
 するとポッポは強制的に自分の見ている物を俺の目に写して来た。
 右目の視力が一気に上がり、その景色を見る

 そこには少しもやの掛かった様な‥‥何となくかすみ掛かっているような‥‥そう見える錯覚かなと思えるものが見えていた。
 トンプソンの町から遠く離れた場所からの煙‥‥艦砲射撃があんなところに飛ぶはずないし

「トンプソンからずっと北に行くと何があるの?」

「北側ですか? 北にはロメ渓谷があって、今はそれを挟むようにハルツールとマシェルモビアに別れていますけど」

 何となく地理でそんなのがあったな、でっかい谷があるとか何とか

「昔から女神の怒りによって引き裂かれたとか言われていて、近寄る人は少ないですが」

 女神の下りはいいとして‥‥何故そんな所から‥‥

 何となく気になった俺は

「これから三人の所に降りるから、ケンタクンはコトンの召喚獣に乗って撤退して欲しい」

「隊長はどうされるんですか?」

「気になる事があるからさ」
 そう言ってロメ渓谷のある北側を指さし

「ちょっとあっち側行ってくるね」

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