異世界陸軍活動記

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侵入

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 高速で飛来してきた断罪者ネクターは、サーナから俺を離れさせるため、炎で俺を薙ぎ払うように攻撃をして来た。
 俺はそれを後方に飛ぶように避けた

「母上ぇぇぇ!」

 創造主が倒れた事でそれを察知し、駆け付けたのだろう

「しっかり! しっかりしてください母上!!」

 俺の事が眼中にないのか、既に魂の無い抜け殻になったサーナを腕に抱き、必死になっていた。
 サーナの体を揺らすたびに、その断罪者の奇麗で細い髪が揺れる。男性の姿ではなく女性の姿になっている断罪者と、既に器だけの存在になっているサーナを見ていると、美しい母と娘の悲しくも感動的な場面に見えてくる。その感動的な場面に水をさすのは悪いとは思ったが

「しっかりも何も、魂はもう入ってないただの器だから聞こえないよ」

 俺も別に言わなくても良かったのだが、何となく口から出てしまった。そうなると次に来るのは大体こうなる━━

「黙れ!!」

 ほらね、黙れって怒られちゃった

 そうしている間にも、サーナの抜け殻となった体は空気に溶けるように徐々に消えていく

「そんな! 母上、母上!」

 溶けていく部分を手で抑えそれ以上消えるのを止めようとする断罪者だが、それを抑えられる事は出来なかった。
 サーナの体は元々ユーサリーが作った物、自身の魂の一部を切り離し、それを器とし、更にその中に魂を入れ創造した。
 言って見れば別物だが召喚獣に近いだろう、人とは違い肉体ではなく精神体となっているサーナの体は、この世界の理に従い形を消して行く‥‥。
 魂を魔力としてエネルギーにしているこの世界では、人が死ぬとその魂は転生せず、魔力となって世界に散らばり、そしてこの星の住人の為のエネルギーへと変わる。
 サーナの体もこの世界の為のエネルギーとして変換されていった

 人の子の場合、世界に未練が残っている時は3年くらい魔力に変換されず残るが‥‥そう考えると、昔の俺、ネクターだった時の俺は相当未練があったのだろう。
 ヴァンギエル族に首を刎ねられ、放置された俺の体は、徐々に崩壊させながら東を目指した。その体の血や肉片が互いに喰い合い結果、一つの体を生成した。
 その体の集合体が、ソルセリー達と共に通過した大陸深部で戦った、あの民族衣装をまとった化物だった。
 何千年も消滅せず残っているという事は、よほど俺は執念深い奴なのだろう、我ながら気持ち悪い奴だと思う

 なんてことを、涙を流し母の名を呼ぶ断罪者を見ながら思っていた。そうしているうちにも、サーナの体は消えて行き、そして完全に世界に溶けていった。
 嗚咽する断罪者は、その手で既に無くなってしまった体をかき集めるような動きをしていたが、その手も止まる

「どうして‥‥」

 その手が強く握られ、その泣いた顔が俺に向けられる

「どうして、こんなことを‥‥」

「それはサーナ自身が望んだこと、そして俺がすべきこと、ただそれだけ」

「君は、自分が何をしたのか、分かっているのかい‥‥」

「もちろん、俺はサーナを殺した」

「何で‥‥僕は、僕は信じていたのに、君はグラースオルグの力を持っているけど、普通の人の子であって、あのグラースオルグじゃないって。マシェルや母上だって君の事は危ない者ではないって言ってたのに‥‥君は僕の母上を‥‥」

 震える声の断罪者

「ちょっとそれは違うな、俺がそのグラースオルグ本人であって、それでいて俺が天使ネクターだ」

「‥‥何を‥‥言っているの?」

 断罪者の顔には驚愕の表情に変わる

「聞こえなかったか? 俺は天使ネクターだよ」

「天使ネクターは僕だ! ハヤトは一体何を言っているんだ、君はグラースオルグの力を持ったただの人の子だろう!」

「いや、俺がネクターだ」

「違う! ネクターは僕だ!」

 断罪者は少し焦っているように感じた

「‥‥正直、自分でも気づいているんじゃないか? 目の前にいる者が自分と同じような波長を持っているって。だからお前は今冷静になれて無いんだろう? 今は気づいているんだろう?」

「ぼ、僕は今冷静だ! 僕こそサーナの子であり天使ネクターだ!」

 カネオンの名は出てこないのかと思ったが、それはカネオンの自業自得だろう。というかやっぱり俺と似ているな‥‥同じ兄妹と言ったところ‥‥弟? いや今は妹か?

「そうか? なら聞くけど、お前は今までサーナとマシェルに『ネクター』と名を呼ばれた事はあるか?」

「そんな事くらい━━!?」

「言われた事無いだろう? 『断罪者』としか呼ばれた事が無いはずだ。今まで一度も『ネクター』とは呼ばれていない。なぜなら俺がネクターであり、お前は俺の補充用の魂でしかない」

「違う! 僕はそんなんじゃない!!」

「随分焦っているようだけど、俺に今それを言われてそんな気がして来ただろ? 俺のある意味分体として生まれて来たんだから、俺の意思が伝わっているはずだよ? 俺が本体でお前が俺の分体だ」

「違う違う違う違う!!」

「違うくはないさ、事実だ。まあそれはいいとして取りあえずあの時の返事を聞いておこうか? 無理やり吸収するのもあれだし、かと言って断っても結果は同じだけども」

「何の事を言っている!」

「ほら、あの時だよ。随分前にお前の服をプレゼントした時だよ『お前と一つになりたい』って言ったじゃん?」

「うるさい!」
 
 断罪者はその手から炎を吐き出すが、それを横に飛び避けた

「おっとっと、危ない危ない、何? 俺振られた? 言い方が気持ち悪かったかな? もっと柔らかい言い方が良かったかな?。まあでも振られたんなら‥‥無理やり吸収するか」

 俺は背に『飛翔』の羽を広げ、一気に断罪者との差を詰めた

「寄るなぁぁぁぁぁ!」

 同じく断罪者は『飛翔』を使い上空に逃げる。
 俺も同じく上昇しネクターとの差を詰めようとする

「さあ、一つになろうよ‥‥身も、心も」

「僕に近づくな!!」

 断罪者は次々と魔法を放ち俺を近寄らせまいとするが、俺は全ての魔法の元である魔力で相殺する。その相殺された自身の魔法に驚く断罪者

「どうして相殺される!? 君は魔法全てを失っているはずなのに!」

「どうしてって‥‥魔法の元は魔力だし、そんな事も知らなかった? まあ知らないよね、魔法陣を敷いたのは俺だったし、お前じゃないからね」

「ッ!!」

「そんな事より大人しく捕まってよ」

 伸ばした手の先から赤黒い物が断罪者と捕まえようと伸びる

 ヒッ! と小さな悲鳴をあげた断罪者は、それに対し更に魔法を集中させ、速度を上げた

「そんな怯えないでよ、痛くしないから、ちょっと我慢すればすぐに『無』になって苦しさとか感じなくなるからさ」

 正直逃げられると困る、というか飛行する速度は同等なので、これだと一生終わらない追いかけっこになる。
 ちょっと煽るか‥‥

 逃げる断罪者の背に向け

「それにしてもお前は可哀そうだよな、俺の代用品として作られて最後は俺の餌になるんだからさあ、何の為に生まれて来たの?。
 俺の前で『母上が~』とか楽しそうに言ってたけど、その母親から邪険に扱われて名前さえ呼んでもらえないし、姉的存在のマシェルにも同じ対応されてたんだろう?。
 俺の時はサーナに抱っこをねだるといつでもしてくれたし、マシェルは俺が泣いていたらいつも来てくれたし。
 お前はどう? サーナは一度でもお前を抱っこしてくれたか? マシェルは困った時に側に居てくれたか?」

「黙れ!」

 魔法を俺に対して放つが、それを難なく相殺する

 何となく効いているかな? もう一押しするか

「なあ、自分が何のために存在しているか考えた方がいいよ? 俺に吸収されるために生きているんだからさ、大人しく吸収されな? どうせマシェルにもこの先『断罪者』とかしか思われないし、カネオンかだってこの先起こる出来事の為に、娯楽としてお前を作るのに協力しただけだし、ユーサリーだって俺がやらかした事を隠す為にお前を作っただけだし、どちらにせよお前はネクターにはなれないよ?。
 もう一度自分の存在を考えな? 今のお前は自分の事をネクターだと思い込んでいるただの『道化』だよ」

「黙れと言っているんだグース風情がぁぁ!!」

 断罪者は振り返り、その体全体から様々な魔法を放った。爆発ともいえるその現象に大気が震え暴風が吹き荒れる。
 それと同時に俺に何かしらの干渉が伝わる

「威圧‥‥ね」

 今の俺にそれは通用しない

「はあはあはあ」

 呼吸が荒い断罪者は肩で息をする、おそらくその魂の力、魔力を大量に消費したのだろう、それと断罪者の体からは赤黒い霧のような物が湧き始めていた

「ど、どうして威圧が通用していない」

 苦しまずケロっとしている俺を見て、そう言ってくるが‥‥

「今の俺とお前、一体どっちがグースなんだろうな」

 同じ兄妹だからなのか? 俺と同じ赤黒い霧が体から滲ませ、グラースオルグの力に目覚め始めている断罪者を見てそう思う。
 そして俺は断罪者に対し『威圧』を発動させた

「があ゛ぁっっ!!!!」

 その華奢な体が跳ね、のけ反る

「痛いか? だから大人しく吸収されろって言ったのに」

「ど、どうして‥‥くっ! 君が僕に、い、威圧を‥‥」
 痛みが走るのか、苦しそうだ

「それはな、創造主と創造された者の関係じゃなくて、俺とお前は表裏一体みたいなものなんだよ、『理性』と『本能』だな。理性は本能を抑える、前回は立場が逆だったが今は反転している、簡単に言うとそんな所だ。まあ難しい所はもうどうでもいいか」

 既に動けなくなった断罪者の首に手を当てる

「や、止めて!」

「さあ、『名』を返してくれ」

 俺はグラースオルグの力を解放した

「ギャ━━!!!」

 短い悲鳴を放ち、俺の手を首から剥がそうと俺の手に爪を立て、俺の体を遠避けようと何度も俺に対し蹴りつけるが、直ぐに力が無くなっていった

「大丈夫、少しも残さず取り込むから」

 赤黒いグラースオルグの力が断罪者の全身を包むと、完全にその体から力が抜け落ち、手と足がだらりとぶら下がる。
 赤黒い力はその体を溶かし、魂も溶かし吸収する。
 俺の体にはあの時の懐かしい感覚が蘇る、それは地上に魔法陣を敷く前の魂の感覚だった

 断罪者の体は既に存在せず、残るは魂の吸収のみ、徐々に自分の穴だらけの魂が満たされていくが、その時、断罪者の魂の一部が横からかっさらわれた。
 それはほんの少しの欠片、地面に落ちるパン屑ほどの僅かな欠片、別に取りこぼしても気にならないような本当に僅かな欠片だった。
 そしてその僅かな欠片をかっさらったのは━━

「くそっ‥‥カネオンか、余計な事を」

 カネオンだった。
 ほんの欠片だから別に良かったのだが、かっさらっていったのがカネオンという事に腹が立つ

「まあいい、あれくらい‥‥」

 さっきまでここに居た断罪者は既にいない、ほぼ全て俺の中に吸収されてしまっていた。もやっとしたものが胸に残るが

「後はユーサリーをこの星から追い出し━━」





 『倒すんだろ?』





「━━じゃなくて、倒せばこの星の人の子達も前に進める」

 そう考えると、もやっとしたものも晴れていく。
 人のままでは行くことの出来ない天界、もしくは精神世界、その場所に行く準備は出来た。あとは‥‥

 サーナによって奪われた魔法が、断罪者を取り込むことで全て復活した。その数ある魔法の中から『収納』魔法を使い、中にある物を取り出す

「魔法を抜かれても、取り戻したら入っていた物は消えるんじゃなくてちゃんと残ってるんだな、クラウドなんちゃらみたいな?」

 取り出したのはソルセリー式の一点突破の槍、その先にサーナの核を取り付ける。槍の先に核を触れると、核は槍先を包むように覆った

「ユーサリーにはこれしかまともに通らないだろうし‥‥」

 ハッキリ言って俺の攻撃がユーサリーに届くのかは難しい、だがユーサリー自身の魂から作られたサーナ、そのサーナの魂、つまり核を使った攻撃なら通るだろう。
 取り付けが終わった槍を戻し、背にある大剣を握った

「すう~~」

 深く息を吸い

「はあ~~~」

 大きく吐き出す

 俺の心は既に決まった
「‥‥天使ネクターとして、ユーサリー‥‥お前を倒す」


 目の前の何もない空間を手で払うと、パリンとガラスが弾けるような音がし、現世界と精神世界の壁が弾け、俺はその中に侵入した

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