異世界陸軍活動記

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復讐の道具

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 人では視認する事すらできない神の世界。
 天使としての力を取り戻したその手で、壁をこじ開け侵入した。何千年も前に天使として過ごしたその空間は侵入を、ただでは許さなかった。
 削り取られるような感覚━━

 痛みはない‥‥だが、俺の体の半分は消失していた。だが消失した体は直ぐに天使としての力が発揮され、元道りに復元される

「いきなりかよ、久々の再会に会話も無いのかな? ユーサリーよ、お前の孫が帰って来たぞ」

 何千年ぶりに再会するユーサリーは、俺がいつも見ていた姿とは違い、本当の老人の姿になっていた

「その姿はどうした? まるで本当のお爺さんみたいだぞ」

 問いかけにもユーサリーは答えない。その代わりか俺のいる空間が歪む、危険を察知し回避するが、間に合わず右足が消失する。
 だが天使の力ですぐに再生する

 ユーサリーは世界の三分の一を失ったあの日から、自ら目と耳を塞いだ。地上の声を聞くことがないよう、
失敗した世界を見ることが無いようにと‥‥

「本当にだんまりなのか? そんな都合よく無かった事にしようとしても結末は変わらないぞ!? しかも自分が言い出した、『人の子には関わらない』と言い出した事をひっくり返して、人の子に直接介入するとはどうしてだ!。
 あれで何万という兵士が‥‥人の子が亡くなった。今も進行形で命が失われている。
 ユーサリー! お前が目指した星の結果がこれか!? 答えろ!」

 それでもユーサリーは口を開かない。俺の周りの空間が次々と歪み、その直後、空間自体が削り取られる。 
 触れれば体を失うその歪みは、止まる事無く俺を襲う。
 普通であれば、天使となったとはいえ本物の神に勝てるはずがない、現に手に持つ大剣がユーサリーに触れる事すら許されない。
 一方的に削られるだけの俺だが、それでも切り札は存在する。一度しか使えないサーナの核、ユーサリーに触れる為には、その魂から作り出された核以外にない、そしてこのまま削られ続ける訳にはいかない。
 ユーサリーをこの星から追い出し━━



 『倒せ』



 ━━そう、倒して消滅させる!


「召喚!━━」

 一度はサーナに抜かれた魂だが、断罪者を吸収する事により完全なものになった。
 最初から俺の切り札であり、何度もその力を頼った最高火力の召喚獣。その完全体になった姿を俺の前に現す

「━━ヤタ!」

 俺の前に現れたひと際大きく、まるで夜空に架かる天の川のように、透き通り輝くその神秘的な体を持つ召喚獣は、その輝く翼を広げ、ユーサリーに向け内蔵する全ての魔力を放出した。
 ヤタは元々5つの属性魔法を一度に放出する召喚獣だったが、完成体になったヤタの正面からは鱗粉のようなキラキラと輝く物が溢れ出る。一見攻撃力など無いように見えるが、それは紛れもなくヤタの高火力攻撃だった。
 魔法ではなく、魔力をそのまま放出する一撃必殺の技。天使となった俺でもこれだけの量の魔力を、この一瞬で吐き出すのは難しい。
 俺にとっての最も火力の高い攻撃方法だった

 だが‥‥相手は本物の神、いくら自分にとって最高の攻撃方法であっても、神の劣化版として生まれた俺がかなうはずがない。
 全てにおいて俺の上をゆく神ユーサリーには、そのヤタの攻撃すら届かない。ユーサリーはその場から動く事もせず、ただ頭の中で考えるだけでヤタ以上の魔力の放出を行う。
 空間を歪ませ、そこから大量の魔力を生み出し、相殺しようとする。元々俺だけの力ではユーサリーを倒せない、だから俺は女神サーナと戦った。
 ユーサリーを倒す為に、サーナは自らの命を俺に託した

 『収納』から取り出す一丁の長弓、実戦ではほとんど使われる事の無かった弓を握る。そして更にもう一つ取り出す、それはサーナの核を取り付けたソルセリー式の槍、その槍を弓の弦に掛け引く。
 ヤタの魔力とユーサリの圧倒的な魔力がぶつかる直前、ヤタの足元を潜り抜けるよう身を移動させ、サーナの核を取り付けた槍を放った

 弓から放たれた槍は一直線にユーサリーに向かう、ユーサリーも放たれた槍を確認したのか、自分に向かってくる物体に対し、その軌道上に空間の歪みを発生させた。
 並みの攻撃ならそれで防げただろうが、その物体に取り付けた物はサーナの核、つまりユーサリーが自ら魂を消費し創造した言わばユーサリーそのもの。
 槍は空間の歪みを突破し、ユーサリーの体に突き刺さった

 口を開かないユーサリーだったが、突き刺さった瞬間少しだけ声が漏れたような気がした

「今だ!」

 突き刺さった瞬間、一気にユーサリーとの距離を詰める。
 ユーサリーも俺の接近を拒もうと魔力の放出を行うが、体に走る痛みのせいなのか、俺の体をまともに捕えられない。
 それでもその攻撃は俺の体を削り消失させる。
 だが、俺の方が一歩早かった。
 急接近した俺は体が完全に消失する前に射程圏内へと潜り込む、少しでも近づこうと右手を伸ばし、俺だけが使える能力を発動させる。 
 それは人の子に対する恐怖と憎しみによって得た能力

「グラースオルグ!」

 伸ばした右手から赤黒い霧がユーサリーに向け噴出し、それが突き刺さった槍の隙間から体内に侵入して行く。
 奪うために、取り戻す為に得たその能力は、ユーサリーの内側からその膨大な力を奪っていく、苦痛で歪むユーサリーの顔、そして同じく歪む俺自身。
 ユーサリーを倒すのは、俺にはこの方法しかない。魔力、つまり魂を吸収し完全に消失させる以外他には無かった。
 この方法なら完全にユーサリーを消滅させることが出来る。だが、それは同時に俺の魂の崩壊につながる。
 理由は元々の魂の器が違うから、小さな入れ物にそれよりも大きな物を入れようとしても入らない、ならば無理やり入れるしか無いが、それでは器自体が壊れてしまう。
 サーナが俺に対し『復讐の道具』と最後に言ったが、まさに俺は『復讐の道具』だろう。その身を賭して母の復讐をなそうとしているのだから

「もうこうなったら後には引けないぞ! 最後に言い残す事はあるか!」

 無言を貫くユーサリーだが、その口を開く事は無かった。何を言わず、何も語らず

「ユーサリー!!」

 それでも口は最後まで開く事すらせず、ユーサリーの存在は全て吸収されていった。
 最後に、少しだけユーサリーの感情が流れてきた気がした。
 それが何なのか、今の俺には分からなかった

 ただ‥‥ユーサリーが完全に消えた後、それは幻聴なのか

 ━━たのむ

 声が聞こえた気がした‥‥

 万という月日と共にこの星を見守って来た神は、今この時を持って‥‥消滅した




「はっ‥‥はっ‥‥はっ‥‥た、倒した‥‥う、ウギィ!!!!」

 ユーサリーの消滅と共に俺の体を襲う苦しみ、体の中から破裂するような痛みが襲う。それはこの星に来る前に心臓が弱かった時、その心臓の痛みと同じような感覚だ

「ああああああ゛あ゛━━!!」

 ユーサリーの魂を吸収した結果、次に起こるのはその小さな容量しかない魂の器の崩壊、この結末だけは仕方がない。
 復讐の道具としてユーサリーを倒した俺は、このまま器の崩壊とともに存在自体を失うだろう。だがそれも受け入れよう、天使ネクターだった頃の俺は、サーナに構って欲しいというだけで、この星に対し人の子に対し、余計な事を散々してしまった。
 魔法さえ人の子に与えなければ、この星は良い方向に発展していただろう、人の子に対し恐怖や憎しみの感情を抱かなければ、この星は大地の三分の一を失う事は無かっただろう。
 これは贖罪である、余計な事をしてしまった神々の人の子に対する━━


「よぉー! おつかれさん、見事にユーサリーを倒したな」

 こいつの‥‥存在は本当に腹が立つ、説明は出来ないがとにかく━━

「何しに‥‥来た‥‥」

「何しにって、息子をほめたたえてやろうと思って来ただけだよ」

 へらへらと笑うカネオン、もう1人の神だった

「クッ‥‥」

「おいおい辛そうだな? 大丈夫か?」

「この星から‥‥で、出て行け」

「えっ!? どうしてだよ、ここから出て行ったら俺はどこに行ったらいいんだよ?」

「出て行かないなら‥‥お前を、消滅させる」

「まてまてまて、俺何もしてないじゃん!」

「俺の魂はお前が創造した物‥‥それを核にして‥‥ユーサリーと同じように」

「ま、待てって、話聞いてよ!」

「お前を‥‥消す」

「ちょっと! 話通じないの!? 俺何もしてないから!」

 俺はカネオンに向け一歩踏み出す

「えっ! ええっ! 本気!? 分かった! 分かったから止めて、出て行くから!」

 そう言うカネオンに、俺は踏み出した足を止めた

「あ、じゃあさ、マシェルは置いて行くからな、な? あいつはこの星から出て行くことが出来ないから、それ位はいいだろ? な!?」

「分かった‥‥だから早く消えろ‥‥」

「うんうん! 直ぐいなくなるからな? ま、まあ‥‥お前も体を大事にな? うん、それじゃあな」

 カネオンは俺に背を向けるとその場所から消えていった



「はあ、はあ、はあ、はあ」

 腹の立つ奴と話をしたせいか、呼吸が荒くなる。いや‥‥これはもう既に器の崩壊が近いのかもしれない。
 カネオンはマシェルを残すと言っていたが、マシェルなら問題ないだろう‥‥。これでこの星には神はマシェルしかいなくなる。
 ユーサリーが消えて、カネオンが消え、サーナも消えた。
 ‥‥俺ももうすぐ消える‥‥、本当なら最後に一度だけ地上に干渉し、人の子が本当の意味で人として生きられるようにしたいのだが‥‥、もう体が動かない‥‥目の前が真っ白になっていく‥‥。
 思い残すのはそれだけだが‥‥いや、もう一つあったな、誰かと何か約束事をしていた気がする‥‥

 あれは‥‥誰と何の約束だったか‥‥
 
 
 
 














 (帰って来‥‥)















 ◆◇◆◇



「ほらデュラ子、いつまでソファーに寝そべってるの? もう行くよ」

「私の方はいつでも出発できるぞ」

 私が声を掛けると、デュラ子はソファーから立ち上がる。ソファーの前に置いてある自分の首を脇に抱えた。
 私とデュラ子は玄関を出て鍵を閉める

「ハン子出ておいで」

 デュラハンの片割れであるハン子を呼び出す、4本足のその召喚獣の背に私をデュラ子は乗る

「移転門まで連れて行ってね」

 私がそう言うとハン子はヒヒーンとひと鳴きし、道路をカッポカッポと軽快な音を鳴らし歩き出した。これから私達は、モレントの移転門に行き、そこからサーナタルエの移転門へ、そしてそこから先は都市条例で召喚獣であるハン子を使った移動は出来ないので公共機関で移動する。
 歩き出したハン子、私は動く視界の中に霊峰ケネイを捉えていた


 ケネイ


 ケネイ


 聖なるケネイ


 その頂から見えますか?


 その頂からは彼の姿が見えますか?


 教えてください


 知らせてください


 誰よりも先に


 私に伝えてください


 伝えてください


 私がここにいると伝えてください


 いつまでもここで待っていると

 

 霊峰ケネイを見るたびに、私はその悲しくも美しい話を思い出し、いつしか願うようになっていた



 ・・・・・

 ・・・


 モレントの移転門からサーナタルエの移転門へと飛ぶ、ここから先はハン子を使った移動が出来ないので、魔法陣にハン子を戻す

「ありがとうね」

 そう言うとブルブルと鼻を鳴らし、素直に魔法陣へと戻って行った。
 ハン子があんなに素直なのに、もう片割れのデュラ子はどうしてあんなにも我儘なのか? そんな思いでデュラ子を見ると、その視線に気づいたのか

「どうした? 腹でも空いたか? 食べたいなら私の分もあるのだろうな? それと主は少し食べる量を減らした方がいいと思うぞ」

 常日頃からこんなチクチクとした皮肉を挟んでくる、本当に腹の立つ召喚獣だ

「別に減ってないわよ、それよりも早くいくよ」

 実際はデュラ子本人が何か口にしたかったのだろうが、それに全く気付いてないふりをしてデュラ子の手を取り引っ張る。
 頭を腕に抱える召喚獣、それを始めて見た人達は皆ギョッとするが、私の方はギョッとする人達に馴れてしまったので気にせず進む。
 ひと月ぶりのサーナタルエは先月着た時よりも、かなり落ち着いているように見えた。マシェルモビアが国内に侵入し、都市を奪った為混乱していたハルツール国内も、徐々に回復している。

 移転門を奪い返す為実行された作戦開始後から1年が過ぎている、作戦は見事成功し、今は緩衝地帯まで押し戻すことが出来た。
 こちらも犠牲が出ているが、それ以上にマシェルモビアの犠牲が多いと叔父から聞いている。そしてあの作戦からハヤトは帰って来てはいない‥‥。
 叔父にハヤトはどうなったかを聞いたことがあるが、叔父は「分からない」の一言だった。何かしらに巻き込まれたのか、叔父の言葉には何か隠してあるように思える‥‥

 1年前に軍を辞めている私は、ハヤトが残してくれた蓄えのおかげで生活が出来ている。ハヤトはかなりの蓄えを残してくれており、更にハヤトが発つ前に出版が決定している絵本の売り上げ金も、私の元に入って来ていた。
 それもこれも全てハヤトがそのように手配してくれたおかげだ。最後に発つ時デュラ子に渡した物がそうだったらしい、しかしハヤトのお金に手を付けたくなかった私は、働こうと思っていたのだが、デュラ子が━━

「別に働かなくても良いだろう、それよりも主が働いている間は私も後に付いて行かなければならないのだぞ? それに働く暇があったら私の食事を作れ」

 と言って来た。別に付いてこなくとも魔法陣に戻ればいいし、召喚獣なんだから食べなくともいいだろうと思うのだが‥‥。
 あまりにもデュラ子が止めてくるため、申し訳ないと思いながらもハヤトの残してくれた蓄えで生活している

 そして、今日サーナタルエに出かけたのは月に一度訪れる事にしている、軍が管理する兵士の墓地だった。ハヤトは戦地から帰ると必ず墓地に向かうと聞いている。
 ‥‥だからという訳は無いが、月に一度私とデュラ子は墓地に足を運ぶようになっていた。
 公共機関を乗りついで、私達は墓地の入り口へたどり着く

「主よ、帰りに何か食べてから帰らないか? 腹が減って仕方ないのだ」

「またそれ? 召喚獣がお腹減る訳ないでしょ、それにお店で食べるたびに『マズイマズイ』って文句ばかり言って‥‥、お店の人に毎回睨まれるのは嫌なの、その内ハルツールにあるお店全部出入り禁止になるかもしれないじゃん」

「仕方ないであろう、あんなまずい物を出すからだ。それにしてもどこに行ってもうまいと思う店は無いもんだな」

「まずい物しかないって思うんだったら、もう行かなければいいじゃない」

 やかましい召喚獣と墓地に入って行った。
 広い墓地の敷地内に入るとやはり人はほとんどいない、私達二人以外は二組くらいだろう、その二組も私達が入った時には墓地から出て行こうとしていた。
 今この広い墓地にいるのは私達だけになる

 まず私は最初に所属していた召喚隊の皆が眠る場所へ‥‥

 あの時本当は私達召喚隊はラベル島に駐留するはずであった、それがどいう訳かマシェルモビアとの戦闘になり、大陸深部を抜けなければならなくなる。
 そしてその殆どが帰らぬ人となった‥‥

 仲間の眠るお墓の前で目を閉じ、来世では幸せになれるように祈る

 そして次にハヤト隊の人達が眠る場所へ‥‥

 ハヤト隊として過ごした時間は少ないものだったが、一時的でも同じ部隊に所属した━━

「‥‥え」

 確かに私とデュラ子以外は今の今までいなかったはず、でもハヤト隊が眠るお墓の前には1人の男性が立っていた。
 ボロボロの服を着て、ぼーっとお墓の前に立っている

 それは‥‥毎日のように私が霊峰ケネイに帰る事を願っていた人だった

 霊峰ケネイのお話には、最後に登場人物の女性がお墓で言う言葉があり、それで話しが締めくくられる。
 なら‥‥その言葉を使おう

 お墓の前で立ち尽くすその男性に近づく、男性は気づいていないのか? お墓をずっと見ていた。そして私は‥‥

「お帰りなさい‥‥」

 その言葉を届ける、私の目からは一滴の涙が同時にこぼれた

 男性はその言葉で気づいたのか、ゆっくりと私に振り返り

「た、ただ‥‥い、ま‥‥」
 
 それは生気の無い顔であったが、間違いなく━━
「お帰りなさい‥‥ハヤト‥‥」

 間違いなくハヤトだった
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