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四十七話〜招待状〜
しおりを挟むエレノラの元に、アンセイムからお茶会への招待状が届いた。
口止め料の代わりにお茶の誘いを受けたが、まさか夫婦揃って招待をされるとは思わなかったと驚く。
「ミルもお茶会に行く?」
シュウ?
しかも、ちゃんとミルの分の招待状まである。細やかな気遣いが嬉しい。だがーー
「すみれ色って……」
どうやら都会のお茶会ではドレスの色まで指定があるらしい。
フラヴィの時は違ったが、こういう場合もあるのだろうか?
散々ユーリウスからお茶の席でのマナーを教わったが、そんな事は聞いていない。
(まさか!)
ワザと教えないで恥を掻かせようと目論んでいたとか……あのクズ男の事だ、十分にあり得る。寧ろそれしかない! 腹が立つが今はそれどころではない。緊急事態だ。
「すみれ色のドレスなんて私、持っているの⁉︎」
エレノラは慌ててクローゼットを開けてドレスを探す。普段ほぼ正装などしないので、自分が何色のドレスを持っているかなど知らない。
以前夜会に出席した時やユーリウスとのお茶会の際は全てボニー達任せで、クローゼットを覗いたのはこの屋敷にきたばかりの時の一回きりだ。故にほぼ記憶にない。
「もしなかったら……買わなくちゃいけないの⁉︎」
それだけは絶対に避けたい。
ドレスにお金を掛ける余裕などエレノラにはない。
「ない、ない、ない! なんでないの~~⁉︎」
こんなに沢山あるにも拘らず、すみれ色のドレスはない。残酷な現実に絶望して力なく床に倒れ込む。
頭の中で、金貨や銀貨に羽が生えて飛んでいきそれを必死に追いかける光景が浮かんだ。だがーー
「ううん、諦めるには早いわ」
閃いた!
お茶会まで一週間しかないが、まだ間に合う。
「ないなら、作れば良いのよ」
エレノラは立ち上がると、クローゼットの中から白地のドレスを手に取った。
そしてお茶会当日ーー
「若奥様、本日は一段と素敵です!」
どうにか間に合った。
あれから白地のドレスを染料で染め、すみれ色にする事に成功した。
ボニー達には驚愕されたが、背に腹はかえられぬ……。
それに我ながら良い出来栄えだ。
昔、弟がどうしても青いシャツが着たいと駄々を捏ねたので仕方なく染めた事があったが、まさかこんな事で役に立つとは思わなかった。
「ミル様もお似合いですよ」
シュウ!
王太子からお茶会に招待された事を告げると、ボニー達はいつもより気合いを入れて支度をしてくれた。
頭のてっぺんからつま先まで磨き上げられた後、髪は綺麗にまとめ上げられ、最後にすみれ色に染め上げられたドレスに着替えた。
ミルの毛並みは櫛で整えられ首にはチョーネクタイをつけて貰えば完成だ。
「それにしても、ミル様までご招待して下さるなんて、王太子殿下は寛大なお方ですね」
「ふふ、本当にね」
王族など雲の上の人で想像すら出来なかったが、アンセイムは初めて会った時からエレノラみたいなど田舎貴族にも優しく丁寧に接してくれた。
まだ三回しか会った事はないが、色んな意味で良い人だと思う。
口止め料として調合道具一式買ってくれたし、お金に困っているエレノラを考慮して今回のお茶会も口止め料の代わりとして提案してくれた。
つくづく思う、何故アンセイムのような良い人がユーリウスみたいなクズ男を側近にしているのかと。
聞いた所、ユーリウスは有能らしいが、やはり人柄は大事だと思う。
(まさか、あのユーリウスに弱みでも握られているとか⁉︎)
大いにあり得る。
アンセイムに同情をするが、ただエレノラにどうこう出来る次元の話ではない。
なので心の中で彼がユーリウスから解放されますようにと祈っておく。
「本日はお招き頂き、ありがとうございます」
「よくきたね、エレノラ嬢。今日は一段と素敵だ。それに、すみれ色のドレスを着てきてくれたんだね、嬉しいよ」
城に到着すると、門の前でアンセイムがわざわざ出迎えてくれた。
そして「可憐だ」「よく似合っている」と大袈裟なくらいに褒めちぎってくれる。
やはり紳士だ、お世辞が上手いと感心をした。
彼なら本物の芋を手渡してもきっと「この芋は素晴らしい!」と讃えてくれそうな気がする。
ただ流石に自力ですみれ色にしました! とは言えないので、黙って置く事にする。
ど田舎貴族のエレノラは城に来るのは当然生まれて初めてだ。
ブロンダン家の屋敷を初めて見た時もその大きさと豪華さに衝撃を受けたが比ではない。
巨人でも住んでいるのでは? と本気で思う程に大きく、今歩いている廊下の天井から壁、床の全てが光り輝いている。ついでにエレノラの目も輝く。
(この窓枠、何個か売ったら借金返せそう……お土産で貰えたりしないかしら)
「エレノラ嬢?」
「は、はい!」
アンセイムに手を引かれ歩いている事をすっかり忘れて、思わず妄想を膨らませてしまった。
疾しさから声が裏返る。
「城は気に入ったかい?」
「勿論です! とても素敵な所ですね」
素直な感想を述べると、アンセイムは「それは良かった」と嬉しそうに笑った。
物理的に素敵、いや魅力的だ。
正に宝の宝庫と言っても過言ではない。
廊下だけでこんなに凄いのだから、きっと広間などはエレノラの想像すら及ばない世界が広がっている事だろう。
「そういえばユーリウスは、フラヴィ嬢をエスコートしてきたみたいだね」
「あの、お茶会にはフラヴィ様も出席されるんですか?」
「ああ、そうだよ。もしかして、聞いていなかったのかい」
夫婦で招待され目的地も同じだが、ユーリウスは一人で先に城へ向かった。まあ前例があるので別段驚きも期待もしていなかったが、ただフラヴィを迎えに行っていたとは思わなかった。
そもそもフラヴィがお茶会に出席する事も今初めて知ったのだが……。
どこから指摘すればいいのかは分からないが、相変わらず自由なクズだと思った。
最後のお茶会で随分と元気がない様子だったので愛人と仲違いでもしたのかと思ったが、そのクズっぷりは健在みたいだ。
因みにあれ以降まともに顔を合わせていないが、未だに屋敷には毎日早く帰宅をしている。
「大丈夫かい?」
「え……」
「夫が他の女性をエスコートするなんて、気分が良いものではないだろう?」
「いえ、特には。前例もありますし」
「ああ、君と初めて出会った夜会での事だね」
不意に彼は足を止めると、手は繋がれたままに向き直った。
「アンセイム様?」
「君のような素敵な女性を、放って置くなんて僕には信じられない」
すみれ色の真っ直ぐな瞳とエレノラの同じ色の瞳が交差する。彼は流れるような仕草でエレノラの左頬に手を伸ばすがーー
シュウ!
右肩に張り付いていた筈のミルが、いつの間にか左肩へと移動しておりアンセイムの手をパシっと叩いた。
「ミル⁉︎ 申し訳ありません、アンセイム様、大丈夫ですか?」」
「いや、今のは僕が悪い。君が余りに愛らしいから、気が逸ってしまった」
どういう意味かは分からないが、取り敢えず怒っていないみたいなので胸を撫で下ろす。
アンセイムが寛大な人で助かった。
本来なら幾らモモンガでも不敬で首チョンされるかも知れない。ついでに飼い主であるエレノラも……。
想像しただけで怖過ぎる。
「ミル、君の好物も沢山用意してあるから、機嫌を損ねないで欲しい」
シュウ……
何故か怒っているミルに、アンセイムは困り顔で機嫌を取る。
そんな彼はエレノラより随分と年上ではあるが、可愛い一面があるのだと思わず笑ってしまった。
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