有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜

秘密 (秘翠ミツキ)

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五十二話〜芽生え〜

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 体調が回復してから数日後、ユーリウスは久々に登城した。


「ユーリウス、もう大丈夫なのかい?」

「お陰様で、死にかけましたが」

「そうか、それは良かった」

 あからさまな嫌味を言うが、アンセイムはまるで意に介す事はない。相変わらず図太い神経の持ち主だ。

「殿下、あのお茶に一体何を入れたんですか?」

 お腹を壊しそうだとは思ったが、まさか何日も寝込むとは思わなかった。
 とてもじゃないが、ただの虫を入れただけとは思えない。

「あー、どうだったかな?」

「正直に話して下さらないと、今回の件を陛下に報告する事なります」

 アンセイムが最も苦手とする人物、それは父親である国王だ。
 国王は厳格な人物でアンセイムとは真逆の性質といえる。親子ではあるが、とても相性が良いとは言えない。
 そして昔から国王は自由奔放なアンセイムに手を焼いていた。

「はは、そんなに睨まないで欲しい。ユーリウス、君らしくないよ」

 ユーリウスが自らお茶を飲んだとはいえ、彼は有力貴族であるブロンダン公爵家の嫡男である自分を危険に晒した。
 幾ら王太子といえど、理由も聞かず見過ごす事は出来ない。
 ただ安易な振る舞いをしたこちらにも非はあるので大事にするつもりはないが、牽制するくらいは必要だろう。

「殿下」

「ああ、そういえば、お茶に入っていた虫はちょっとした毒を持っているとかいないとか聞いたような気もする。でも命に関わるようなものではないらしいよ?」

 まるで他人事のように話す。
 ただ実行したのはアンセイムだが、用意したのは差し詰め侍従だろう。故に言い回しは間違ってはいないのかも知れない。

「何故、そのような事を?」

「以前エレノラ嬢にされた事への仕返しをしようと思っただけだ。彼女を喜ばせようと思ってね」

 開き直ったように不敵に笑う姿に呆れるほかない。
 お茶会にフラヴィを招きユーリウスとの仲を取り持つと言っていた事も所詮口実に過ぎず、その目的はただ自己満足を得たかっただけだろう。

「彼女は他人を貶めて喜ぶような人ではないですよ」

 そんな下らない事で、あの芋娘が喜ぶと本気で思っているのだろうか?
 書類上の夫とはいえその愛人を助けて、更には書類上の夫を本気で心配するような娘だ。

 馬車の中で膝枕をされた時は屈辱的ではあったが、存外悪くはなかった。
 身体が重く頭も腹も痛い。極め付けは吐き気に襲われていたが、あの瞬間不思議な事にスッと気分が良くなった。

 更にスチュアートから聞いた話では、ユーリウスが寝込んでいる数日、朝昼晩と毎日様子を見に来ていたという。
 医師から処方された薬が効かないと、自ら薬を調合したとも言っていた。
 正直、あんな芋娘が作った怪しげな薬を飲まされたと思うと怖くて仕方がないが、自分の為にしてくれたと考えると腹も立たない。
 ただ口移しをスチュアートに頼んだ事だけはどうしても未だに納得がいかないが……。
 因みに例の請求書にあった破廉恥料に膝枕は含まれていなかった。エレノラ曰く許可を出したのは自分なので今回は特別だそうだ。次からは有料ですと言われた。
 それならば、お金を出せばまた膝枕をして貰えるという事だろうか……。

 そういえばフラヴィからは、お茶会の翌日に一度花束と見舞い状が届けられていた。またアンセイムや医師から状況を知らされている筈の父からは何の反応もなかった。

 まあ全て予想の範囲内といえる。
 ただ自分の事を誰より心配していたのが芋娘だと考えると笑えて、何故か心が温かくなる気がした。
 

「そもそも何故わざわざ毒性のある虫を選んだのか分かり兼ねます」

「ああそんな事か、普通の虫だと緊迫感がなくて面白くないからだ。それにまさか虫入りのお茶を飲もうとするなんて誰も思わないだろう? だが、飲んだのがエレノラ嬢ではなく君で良かった」

 彼が王太子でなければ今頃、剣を抜いてその首につき付けていたに違いない。それくらい腹が立つ。

「それにしてもエレノラ嬢は本当に素敵な女性ひとだ。僕の計画の邪魔をするなんて可愛い事をする。益々気に入ってしまった。それにあの予想出来ない大胆不敵さが実に魅力的だ」

 机に頬杖を付き恍惚とした表情を浮かべるアンセイムに、あの時の彼の様子を思い出す。
 あれはバツが悪そうにしていたのではなく喜びに打ち震えていたのだと理解した。

「そういえば、例の件は考えてくれたかい? 以前急かすつもりはないと言ったが、どうにも待ちきれなくてね。実は彼女の為にアンソレイユ宮を改築しようと考えているんだ」

 まるでアンセイムはユーリウスが提案を受け入れると確信しているように話す。
 アンソレイユ宮殿は幾つかある離宮の中で、最も建造価値が高いとされており、アンセイムが保有している離宮だ。
 ただこれまで特定の人間以外立ち入りを禁止しており、王太子妃すら立ち入る事を許さないでいた。それをエレノラの為に改築までするというのだから驚く他ない。

「……申し訳ありませんが、もう少し考える時間を頂けませんか」

「まあ一度、破談になった間柄故フラヴィ嬢とのこれからの事が気掛かりなのは良く分かる。ただそんなに憂う必要はないと思うが、今は君も病み上がりの身だ。仕方がない、もう暫く待とう」

 何故躊躇っているのか分からない。
 アンセイムが言うように、フラヴィとの事が気掛かりなのだろうか? 
 確かに懸念はあるが、正直結婚さえしてしまえばどうとでもなると考えている。

(ならば何故だ……)
 
 不意にエレノラがアンセイムに寄り添う姿が頭の中に浮かび激しい胸の痛みと嫌悪感を覚えた。
 そしてアンセイム、いや他の男に彼女を奪われたくないと強く感じた。




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