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久しぶりの実家を前にしてフィオナは二の足を踏む。前回帰って来たのはヴィレームが婚姻の挨拶に来た時だ。
「何だか、禍々しい空気を感じますわね」
シャルロットの言葉にオリフェオは首を傾げるが、ヴィレーム達は同意を示す。フィオナにも何となく感じた……嫌な感じがする。
屋敷に入ると、人の気配がまるでない。普段なら使用人達が誰かしらいる筈だが、誰一人として姿はなかった。
フィオナ達は慎重に、屋敷内を見て回る。やはりおかしい。使用人どころか、家族の姿もない。
「お父様やお母様達は、一体何処に……」
家族揃って出掛けているとも考えられるが、やはり使用人の姿もないのが不自然過ぎる。怖くなり、無意識にヴィレームの袖を握った。すると彼は肩に手を回して「僕がいるよ」と言ってくれた。
「誰かいるぞ」
ブレソールの言葉に、彼の視線の先に目を遣る。一瞬だったが、確かに人影の様なものが部屋に入っていくのが見えた。
「フィオナ、あそこは何の部屋?」
「厨房です」
フィオナ達は、極力物音を立てない様にして厨房の出入り口まで近づいた。中を覗き見ると、数人の使用人達が調理をしている。だが、どうも様子がおかしい。
「何だか、不気味ですわね」
「顔が土色だ。……あれは多分、生きてないな」
シャルロットとブレソールの会話に、呆然とする。
生きてないとは一体……。
目を凝らしフィオナは、使用人等を見遣ると確かに顔色が悪く、血の気を感じられない。皆一様に黙り込み、視点も常に正面を向いていて、身体が勝手に作業をしている様に見える。その光景に、背筋がぞわりとした。
不意に使用人の一人が、作業が終わった様で皿を持ち出入り口へと向かって来た。思わず身構えるが、使用人はフィオナ達には目もくれず素通りして行ってしまった。
フィオナ達は顔を見合わせた。取り敢えず、使用人の後を追う事にする。暫く長い廊下を歩いていた使用人は、ある場所で右に曲った。更に右に左にと曲がる。
「フィオナ、こっちには何があるの?」
「多分、中庭へ向かっているのだと思います」
フィオナがまだ顔にアザが出来る前……たまに家族で中庭でお茶や食事をした事を思い出した。母はその頃から既にフィオナには厳しく当たってはいたが、今よりはまだマシだった気がする。姉や妹は我儘でどうしようもなかったが、一応フィオナを姉妹としては見ていた。父は寡黙な人で、会話をした記憶は殆どない。弟はあの頃から変わらずフィオナを姉として慕ってくれていた。
最後に家族揃って食事をしたのは、ある晴れた昼下がりだったと思う。黙り込む父の隣で、使用人にあれこれ文句を言っている母、それに姉も母の真似をして口を挟み、妹は相変わらず嫌いな物をフォークで皿の端に避けていて、弟は愉しそうに終始フィオナに話しかけていた。
「フィオナ、大丈夫?」
ヴィレームの声に我に返る。心配そうに見てくる彼に、フィオナは頷いた。
「大丈夫です」
何故今こんな事を思い出すのか……。これまで昔の事を思い出すなんて、一度たりともなかったというのに……。いや、思い出さない様にしていたという方が正しいかも知れない。思い出した所で、意味はないと分かっているから。あの日々は、二度と戻らない……。
中庭が近付くにつれて、心臓が速くなるのを感じた。足が勝手に速くなり、気が付けば一人先に行っていた。
「フィオナ?」
ヴィレームが後ろから自分を呼ぶ声が聞こえるが、足は止まらない。使用人が、通路から外れて外へ出た。フィオナは、心臓が早鐘の様に打つの感じながら、思わず駆け出していた。
「ヨハン……」
中庭へ出ると、そこにはやはりヨハンの姿があった。
「何だか、禍々しい空気を感じますわね」
シャルロットの言葉にオリフェオは首を傾げるが、ヴィレーム達は同意を示す。フィオナにも何となく感じた……嫌な感じがする。
屋敷に入ると、人の気配がまるでない。普段なら使用人達が誰かしらいる筈だが、誰一人として姿はなかった。
フィオナ達は慎重に、屋敷内を見て回る。やはりおかしい。使用人どころか、家族の姿もない。
「お父様やお母様達は、一体何処に……」
家族揃って出掛けているとも考えられるが、やはり使用人の姿もないのが不自然過ぎる。怖くなり、無意識にヴィレームの袖を握った。すると彼は肩に手を回して「僕がいるよ」と言ってくれた。
「誰かいるぞ」
ブレソールの言葉に、彼の視線の先に目を遣る。一瞬だったが、確かに人影の様なものが部屋に入っていくのが見えた。
「フィオナ、あそこは何の部屋?」
「厨房です」
フィオナ達は、極力物音を立てない様にして厨房の出入り口まで近づいた。中を覗き見ると、数人の使用人達が調理をしている。だが、どうも様子がおかしい。
「何だか、不気味ですわね」
「顔が土色だ。……あれは多分、生きてないな」
シャルロットとブレソールの会話に、呆然とする。
生きてないとは一体……。
目を凝らしフィオナは、使用人等を見遣ると確かに顔色が悪く、血の気を感じられない。皆一様に黙り込み、視点も常に正面を向いていて、身体が勝手に作業をしている様に見える。その光景に、背筋がぞわりとした。
不意に使用人の一人が、作業が終わった様で皿を持ち出入り口へと向かって来た。思わず身構えるが、使用人はフィオナ達には目もくれず素通りして行ってしまった。
フィオナ達は顔を見合わせた。取り敢えず、使用人の後を追う事にする。暫く長い廊下を歩いていた使用人は、ある場所で右に曲った。更に右に左にと曲がる。
「フィオナ、こっちには何があるの?」
「多分、中庭へ向かっているのだと思います」
フィオナがまだ顔にアザが出来る前……たまに家族で中庭でお茶や食事をした事を思い出した。母はその頃から既にフィオナには厳しく当たってはいたが、今よりはまだマシだった気がする。姉や妹は我儘でどうしようもなかったが、一応フィオナを姉妹としては見ていた。父は寡黙な人で、会話をした記憶は殆どない。弟はあの頃から変わらずフィオナを姉として慕ってくれていた。
最後に家族揃って食事をしたのは、ある晴れた昼下がりだったと思う。黙り込む父の隣で、使用人にあれこれ文句を言っている母、それに姉も母の真似をして口を挟み、妹は相変わらず嫌いな物をフォークで皿の端に避けていて、弟は愉しそうに終始フィオナに話しかけていた。
「フィオナ、大丈夫?」
ヴィレームの声に我に返る。心配そうに見てくる彼に、フィオナは頷いた。
「大丈夫です」
何故今こんな事を思い出すのか……。これまで昔の事を思い出すなんて、一度たりともなかったというのに……。いや、思い出さない様にしていたという方が正しいかも知れない。思い出した所で、意味はないと分かっているから。あの日々は、二度と戻らない……。
中庭が近付くにつれて、心臓が速くなるのを感じた。足が勝手に速くなり、気が付けば一人先に行っていた。
「フィオナ?」
ヴィレームが後ろから自分を呼ぶ声が聞こえるが、足は止まらない。使用人が、通路から外れて外へ出た。フィオナは、心臓が早鐘の様に打つの感じながら、思わず駆け出していた。
「ヨハン……」
中庭へ出ると、そこにはやはりヨハンの姿があった。
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